第484話 魔法の授業

エラ 「力づく? そんな事はしない。貴族の力というのはもっとスマートなものだよ」


リュー 「ならばどうする?」


エラ 「そうだな、お前にだって家族がいるだろう? 侯爵家の力を持ってすれば、平民の生活を壊してしまう事など容易いのだぞ?」


リュー 「言ってる事がまるで低俗な悪人だな。まぁ、貴族なんてそんなもんか。そもそも、親の権力ちから頼みってのはなぁ……、自分の力でなんとかできるわけじゃないんだな」


ちょっとムッとした顔をするエラ。


エラ 「家を誇って何が悪い? 家の力が貴族の力だ」


リュー 「自身には何の力もないと言ってるのと同じだろそれ」


エラ 「なんだと!」


リュー 「それに残念だったな、俺には貴族の力でどうこうできるような家族は居ない」


ビィ 「何? おまえ、テンガイコドクって奴なのか……? それは、大変だなぁ…」


リュー 「別に、そうでもないさ。自由気ままに生きられる」


エラ 「自由気ままはいいが、貴族に対する態度は考えておいたほうがいい。今日の態度の事は忘れないぞ、いずれ思い知らせてやる」


そう言い捨てて、エラは行ってしまった。慌てて取り巻きの三つ子もついていく。


ぞろぞろと教室内の生徒たちも移動していく。教室を出ていく最後の女生徒がリューに教えてくれた。次の授業は教室ではなく演習場で行われるらしい。


リュー 「ん? そうか、次の授業は魔法の実技だって言ってたな」




  * * * * *




次の授業は、魔法による攻撃を防御する実習であった。二人一組になって、お互いに魔法を打ち合い、それを防ぐという。生徒同士で撃ち合わせるなんて危険じゃないかと思うが、この訓練場は特殊で、古代遺物の魔道具が使われているため、怪我をしても部屋を出ればすべてなかった事になるらしい。そのため、実際に魔法を実践形式で受ける体験もカリキュラムの内なのだとか。


教師が説明を続ける。


教師 「魔法を防ぐ方法は色々あるが、一番メジャーなのは障壁を張る事だ。だが、障壁は張ったものの魔法の腕と魔力量に比例する。攻撃を受けると障壁は消耗し、限界を超えると壊れてしまう。宮廷魔道士長のドロテア様は、城の城壁全体に障壁を展開し、それを何日も維持できるそうだぞ」


おおおと生徒達から小さく声が挙がる。


教師 「障壁以外にも魔法を防ぐ方法はある。例えば、魔法攻撃に対して受け側も魔法攻撃をぶつけて相殺するとかだな。ぶつけ合う魔法の相性というのはあるが、例えば同質の魔法であれば、単純に強いほうが勝つ」


生徒A 「相手が呪文を唱えている間に殴り倒してしまうのは有りですか?」


教師 「そういう方法もあるが、今回はそれは禁止だ。あくまで魔法を使って防ぐ方法をそれぞれが工夫するんだ」


生徒達は攻撃側と防御側の二組に別れ、円周上の両端に移動した。双方から一人ずつ順番に中央に出てきて、魔法を放ち、それを防ぐ事を繰り返す。


終わったら攻撃側は防御組の最後に、防御側だった生徒は攻撃組の最後に回って次の順番を待つ。


教師 「攻撃側は、まずは弱い攻撃魔法からだ。防がれたら、徐々に威力を上げていけ。防ぎきれなくなったらそこで終了だ。大丈夫、この演習場内は特殊な古代の魔道具アーティファクトで保護されている。場内で怪我をしても部屋を出れば怪我はすべてなかった事になるから安心しろ」


最初の生徒は火球を放ち、受け側も火球を放ち相殺した。


次の生徒は、相手の放った火球を土魔法により壁を作って防ごうとした。瞬時に丈夫な土壁を作り出したのは見事だと褒められていたが、攻撃側が徐々に威力を強めていった結果、耐えきれず、最後は崩壊してしまった。


次の生徒は魔法障壁を張って攻撃を防いで見せた。攻撃側の生徒が無数に攻撃を放つが、障壁にすべて防がれてしまい、魔力が切れて終了となった。


そしてついに、リューの順番が来た。リューは最初は防御側であったが、攻撃側の相手は、よりによって先程絡んだエラであった。


どうやらエラが意図的にそうなるように順番を動かしたらしい。エラの実家は侯爵家なので、教室内ではカーストトップにいて、他の生徒達は逆らえないらしい。


エラ 「さっそく、貴族と平民の力の差を思い知らせる事ができるな。先程は親の力で俺には力がないなどと言っていたが、本当にそうか身をもって味わうがいい」


貴族は皆、強い魔力を持っている。平民は弱い魔法しか使えないゆえに平民なのだ。貴族の血を引くエラも当然、それなりに強い魔力を持っているようで、自信がかなりあるようだ。


エラ 「しょせん平民、大した魔法は使えないのだろう?」


リュー 「ああ、正直に言うと、俺は魔法が苦手だな」


エラ 「やはりな! そうだろうよ! 平民だものな! だが、だからと言って手加減はせんがな。痛みをたっぷりと味わって、貴族と平民の違いを思い知るがいい!」


エラが格好をつけて手をリューに向け、呪文詠唱を始めると、手の前に火球が発生した。そしてそれは、どんどん大きくなり、熱量を増していく。


リュー 「やれやれ、最初は弱い攻撃からってセンセイも言ってたろうに…」


どうやらエラは最初から全力で攻撃するつもりらしい。ヤバイ雰囲気を察した生徒達が被害を恐れてできるだけリューから遠ざかろうとする。


教師は黙って見ているだけで、止める気配はない。


やがて火球は直径1mにもなった。エラの取り巻き達が凄い凄いと褒め称えている。生徒の中でも上位の攻撃力なのだ。


そしてついに、火球がリューに向かって放たれた。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


痛い目を見せてやる! と言ってる奴が痛い目を見る系のやつ


乞うご期待!


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