第485話 モブエラ君達の出番は終了です

リューに向かって放たれた巨大な火球。


しかし、火球はリューに近づくにつれ見る見る小さくなっていき、リューに到達する頃には小指の先程の大きさにまで縮小してしまっていた。


リューはその小さな火球をデコピンの要領で弾いて見せた。


エラ 「なっ! 馬鹿な!」


リュー 「しょぼいな、障壁で防御する必要もない」


エラ 「何が起きた? 一体何をしたんだ?」


もちろん、魔力を分解したのであるが。一気に魔力を分解してしまわず、込められた魔力を少しずつ削って徐々に威力を小さくしてみる、という事を思いついてやってみたらできたのだ。この技は後々応用できる事があるかも知れないと思うリューであった。(すぐには思いつかなかったのだが。)


リュー 「やれやれ、エラソーな事言ってた割に、大した事はないな?」


エラ 「馬鹿な」


慌てて第二弾を放とうとするエラ。呪文を詠唱するエラを待ってやるリュー。再びエラの前に火球が浮かび、どんどん大きくなっていき、直径1mほどになったところでリューに向かって放たれたが、先程と同じ、飛んでいる間にどんどん小さくなっていく。結局、リューの居る場所に到達する頃には小さな火の粉になってしまい、リューが手を振る風圧だけで消えてしまうのであった。


エラ 「くそっ、くそっ、どうなってるんだ!」


さらにもう一度やろうとするエラ。ところが今度は火球が大きくならない。いくら魔力を込めても前に浮かんだ火球が大きくならない。それどころか徐々に小さくなっていく。


もちろん、リューが魔力を分解してしまっているからである。だが、完全には消さないで小さな火球が残る程度に留めている。そこに必死で魔力を込め続けていたエラは、やがてついに魔力切れになり、膝をついてしまった。


リュー 「なかなか良い練習になったぞ」


リューにとっては本当に魔力分解のコントロールの練習になっていた部分はあったのだが、周囲の生徒達には嫌味にしか聞こえない。


教師 「どうした、エラ?」


エラ 「な、何か、調子が悪いみたいで……」


教師 「体調が悪いなら下がって休んでいろ」


教師の指示で次の生徒に変わる。リューはそのまま残留で、次の生徒の攻撃をもう一度受けることになった。


リューは、今度はあえて障壁を張って防いで見せた。不死王に貰った魔法制御用の仮面を着けていないので制御は粗いが、無属性の魔力を力任せに注ぐ事であらゆる魔法攻撃を防ぐ事が可能である。


※魔法制御用の仮面を着けていないのは、単に学校の授業程度では必要ないだろうと思ったからである。それに、属性ごとに分かれている仮面を付け替えるのが面倒なのもあった。(収納魔法を使えば一瞬で可能なのであるが。)全属性制御用の仮面ならひとつで済むのだが、鬼の全顔マスクとなり、また認識阻害の効果も付与されていないので、生徒達の前で着けるのは躊躇われたのだ。


リュー (今度、普通のマスクで全属性対応のを作ってもらいたいな……)


魔力は無限に生成が可能なリューである。生徒の攻撃には大した威力もないため、制御が多少粗くとも特に問題はない。のだが、教師に指摘されてしまった。


教師 「攻撃は確かに防ぎきったが、障壁の精度が粗いな。そんな力任せだとすぐに魔力切れを起こしてしまうぞ。もっと制御力を磨いて、無駄のないように障壁を操れるよう練習するといい」


意外と的を射たアドバイスであった。リューは魔力切れとは縁がないが、そんな事は知らないのだから仕方がないだろう。


リューは素直に助言に頷き、次の生徒と交代した。今度はリューは攻撃サイドに並ぶ。


そして順番が進み、やがてまたリューの番が来る。


リュー 「またお前か」


防御側の相手はまたしてもエラであった。一人ズレたのだから、仮にエラが順番通りに並んでいたとしても、リューはその前の生徒と当たるはずなのだが、またしてもエラが順番を交代させたらしい。先程魔力切れを起こしていたはずだが、魔力回復ポーションを飲んで来たようだ。魔力回復用のポーションは非常に高価なのだが、そこは上位貴族のお坊ちゃまである。


教師 「おい、エラ? 大丈夫なのか? 休んでいてもいいぞ?」


エラ 「大丈夫です!」


リュー 「懲りない奴だな」


エラ 「さっきは調子悪かっただけだ。今度こそ、格の違いを見せてやる」


リュー 「確か、演習場内なら怪我をしても大丈夫って言ってったよな? じゃぁ遠慮なく」


エラが魔法障壁を張ったのを確認したリューが手を前に出し、エラを指差すと、一筋の熱線ビームがエラに向かって走る。転入試験の時には力任せに放射した火炎の奔流を、収束させて細く一本に絞ったのだ。これは以前から時々やっていたので結構上手である。


一瞬走っただけの一筋の光。だがその光によりエラの魔法障壁は砕け散る。熱線はそれで止まらず、そのままエラの左肩を貫いたが、壁に当たる前に消失した。(リューが壁の前で分解するようにしていたためである。)


肩を貫かれたエラは、一瞬何が起こったのか分からなかったようだが、数秒後に生じた肩の痛みに叫び声を上げた。


熱線が一瞬であったのもあり、教師も周囲の生徒達も何が起きたのか分からないようだ。


リューがさらに熱線を繰り返し照射し、エラの腕や足を数度刺し貫いていく。


そこで何が起きているのかさすがに気づいた教師が止めに入った。


教師 「おい、やめろ! そこまでだ! 大丈夫かエラ?! 具合が悪いなら休んでいろと言っただろう! おい、早くエラを演習場の外に運んでやれ!」


両腕両足を穴だらけにされたエラであったが、熱によって傷は瞬時に焼灼されるため、血はほとんど流れていない。服には小さな穴が開いているだけである。だが、焼かれた痛みは激しく、エラはずっと呻き続けていた。


頭や胴体を狙わなかったのは念の為である。いくら怪我がなかった事になると言っても、死んでしまったら治らないかも知れないからである。まぁその場合もリューなら生き返らせることはできなくはないのだが。


生徒達によって場外に運び出されたエラは、無事回復したようだ。


教師 「おい、一体何をしたんだ?」


リュー 「俺は魔法の制御が下手なんで、初級の炎の魔法も、球状に維持できないんだ。そこで、炎をそのまま放出した、ごく細く絞ってな。もし絞らなかったら跡形も残さず消し飛ばしてるところだ」


教師 「お前は一体……


…さすが、学園長が途中入学を認めた生徒というところか。だが今後は、もう少し手加減を覚えなさい」


リュー 「ハイセンセイ、モウシワケアリマセン」


防御魔法を展開していなかったエラを攻撃し続けた事を咎められるかと思ったが、教師は何も言わなかった。


だが、次からはリューの攻撃を受けてくれる生徒は誰も居なくなり、仕方なく、リューは防御側のみでローテーションする事になってしまったのだが。


やがて授業を終え演習場を出ると、エラがリューを待っていた。


エラ 「お前……」


リュー 「?」


エラ 「一体何者だ…?」


リュー 「ただの平民の冒険者だよ」


エラ 「何? もう冒険者登録しているのか?」


リュー 「オットイケナイ口を滑らせてしまった、かな? もしかして、生徒の冒険者登録は禁止だったか?」


エラ 「いや、禁止されてはいないが…」


貴族や王族は、後継ぎのために子供を多く作ろうとする。子供は簡単に死んでしまうので、子供が一人二人では家の存続が危うくなるためである。だが、子供をたくさんつくっても、爵位を継げるのは一人だけである。跡継ぎになれない子女は、別の道を探さなければならない。


多くは他の貴族に仕えたり、王宮などで仕事を得たりするのだが、ひとつの道として、冒険者になるという選択もあるのだ。実際、貴族でありながら冒険者になって活躍している者も多くはないが居るのである。そのため、早い段階で冒険者に登録する生徒も多くはないが珍しいわけでもない。


エラ 「ランクは?」


リュー 「言う必要あるか?」


エラ 「登録したばかりなら末端のFランクに決まっているか」


リューはそのままエラを無視して食堂へと向かった。午前の部の授業は終わり、もう昼食の時間である。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


公爵令嬢と遭遇


乞うご期待!



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