第202話 勇者、殺した娘の父親に刺される

娘が殺された事を悟った父親は、街を出ようとする勇者に無害な村人のフリをして近づき、短剣を突き立てた。

 

アサシンの能力で完全に不意を突かれた勇者。奇襲は成功、勇者の鎧を装着していなかったユサークの体には短剣が突き刺さっていた。

 

男 「娘の敵だ! 地獄へ落ちろ!」

 

ユサーク 「ぐげぇ、なんだ?! いてぇ! なんじゃこりゃあ?! うわ、血が!」

 

一撃で確実に標的の心臓を貫くアサシンのスキルによる攻撃であった。当然、男は仕留めたと思った。だが、ユサーク自身の防御力なのか、あるいは勇者の権能の為せるわざなのか、剣は心臓にまで到達せず、致命傷とはならなかったのだった。

 

ユサーク 「痛え! アガタ! さっさと治療しろ!」

 

慌てて聖女がユサークを治療する。傷はそれほど深くなく、すぐに回復したユサークは、刺した男を睨みつけた。

 

ユサーク 「てんめぇ、殺す!」

 

仕留めそこなった事に気づいた男は慌ててもう一度攻撃しようとしたが、たとえアサシンのスキルを持つ元冒険者であっても、本気になった勇者に敵うわけもなく……

 

男はユサークに瞬殺されてしまったのだった。

 

 

 

 

気がつけば、事情を知っている村人達が遠巻きに冷たい視線を向けていた。

 

ユサーク 「ムカつくな、こいつら。皆殺しにしてやろうか?」

 

勇者の言葉に、村人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 

アガタ 「勇者様、罪もない人の命を奪うのはやめください……」

 

ユサーク 「何ぃ?! コイツらは俺を刺した奴の仲間だろ? 勇者を刺した男の村なんて、皆殺しは当然だろう!」

 

アガタ 「あ、あまり無体な事を繰り返すと、勇者としての評判が落ちますので……」

 

ユサーク 「全部殺してしまえばバレないだろ」

 

アガタ 「いいえ、例え村人を皆殺しにしても、悪事はどこかしらから漏れるものなのです。やがて噂は広まっていくでしょう」

 

シャル 「実際、結構勇者の悪い評判は流れてるしな」

 

ココも頷く。

 

ユサーク 「何、マジか?! そうか、そうだな。あまり評判が落ちるのも良くないな。どうしよう……そうだ、どこかダンジョンでも潰してやろう。そうすれば、やっぱり勇者は凄い! と評判も一気に回復するだろう?」

 

以前、ダンジョン破壊を依頼されて実行し、とても喜ばれた成功体験をユサークは覚えていたのだ。

 

ユサーク 「どこか近くにダンジョンはないか?」

 

ジョディ 「この近くだと、隣のシンドラル領のバイマークという街の近くにダンジョンがあったと思います。非常に難易度の高いダンジョンで、攻略に手こずっていると聞いています」

 

ユサーク 「そうか! じゃぁそのダンジョンを破壊してやれば、さぞや喜ばれるだろうな! 僕の勇名がまたさらに世に響き渡るってわけだ」

 

シャル (既に悪評が響き渡りつつあるんやけどな)

 

こうして、勇者はバイマークの街へと移動してきたのであった。

 

バイマークの街に入ってからも、食堂で大量に高級料理を食べまくったあげく料金を踏み倒したり、街の娘にちょっかいだしたり、冒険者と喧嘩して重傷を負わせたりと、散々トラブルを起こした挙げ句に、勇者は勝手にダンジョンへ向かったのであった。

 

そして、その圧倒的な勇者の力で見事ダンジョンを攻略してみせ、コアを破壊しようとしてリューが呼び出される事になったのであった……。



   *  *  *  *

 

 

時は戻って、ダンジョンから一人逃げ出した勇者。

 

森を抜け、街道まで戻ったところでようやく一息ついた。

 

ちょうどそのあたりで、遅れてダンジョンから出たアガタ達も追いつき、合流した。

 

ユサーク 「まったく、なんなんだよアイツ! あんな奴が居るなんて聞いてないぞ? どうなってるんだよ?」

 

ココ 「ダンジョンの、管理者? 冒険者、かな? おそらく」

 

ユサーク 「それ、そのダンジョン管理者ってなんなんだよ!」

 

アガタ 「これまでずっと、勇者様はコアを見つけ次第破壊してきたのでご存知ないかも知れませんが、コアを破壊せずにダンジョンの所有者・管理者になる事もできるのです。そのようなダンジョンは、冒険者ギルドに登録・管理され、資源として保護されるのです」

 

ユサーク 「その、ダンジョン管理者ってのはみんなあんなに強いのか?」

 

シャル 「そらなぁ、ダンジョンを踏破する実力があるから管理者になっとるわけで、冒険者の中でもトップクラスの強さやろな」

 

ユサーク 「冒険者? 冒険者なわけないだろ、あれは魔王だ。だって、冒険者に勇者がやられるなんてありえないだろ!」

 

シャル 「勇者はんが負けるなんてなぁ、勇者より強い冒険者がいるなんて、世の中広いもんやなあ?」

 

ユサーク 「負け…? 僕は負けてない! ちょっと準備不足だったから一旦引いただけだ! 魔王が居るって最初から分かっていれば、負ける事はなかった!」 

 

アガタ 「勇者様、あの人は多分、魔王ではないと思いますが……」

 

ユサーク 「なにぃ?! 僕が冒険者ごときに負け……一旦引かざるを得なかったって言うのか? 僕は勇者だぞ? 勇者と “互角” に戦えるなんて、魔王じゃなかったらありえないだろ!」

 

シャル 「互角て。けちょんけちょんにやられてましたやん」

 

ユサーク 「準備不足だっただけだって言ってるだろ! いきなりだったから……

 

体制を整えたら、もう一度討伐に行くぞ! まずは冒険者ギルドで魔王についての情報収集だ!

 

やつら、魔王が居るって知ってて僕に黙ってやがったんだ。魔王とグルだな、きっと」

 

シャル 「魔王ちゃうやろ・・・」

 

アガタ 「勇者様、もうコレ以上は…」

 

ユサーク 「うるさい、黙れ!」

 

勇者に黙れと言われたら、勇者のスキルで隷属させられているパーティメンバーは黙るしかないのであった。

 

 

― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

リューはセッタ村に戻ります

 

乞うご期待!

 

 

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