第476話 実技試験 ドロテア様もびっくり

訓練場に移動した私と少年。既にそこにはもう一人の試験官のゴッホがウォーミングアップしていた。


待ちくたびれた、早速始めようなどとゴッホが言うが、まずは魔法の試技が先だとピシャリと言って黙らせる。


私は少年に、的に向かって攻撃魔法を撃って見せるよう言った。


するとその少年は、攻撃魔法と言っても色々ある、何を見せればいいのか? などと生意気な事を言い出したのだ。


何? その言い方は? まるで複数属性を持ってるみたいな言い方じゃないの。あまり見栄を張らないほうがいい、普通は一種類、二種類持ってれば優秀と言われるのだから。


何の属性が使えるのか、試験なんだから見栄を張らずに正直に言いなさいと厳し目に言ったが、それに対する返答がまた酷かった。


「何でも? まぁ素で一番得意なのは時空属性だが」


「減点100! いい加減にしなさい! 時空属性なんておとぎ話の世界だけの話よ。もういいわ、あなたは魔法の実技は零点にします」


「まだ何もやって見せてないが?」


「もう分かったわ、あなた、本当は魔法、何もできないんでしょう?」


薄々分かっていた。私も魔術師の端くれだ。魔力を感じる能力がある。優秀な生徒なら、見ただけでその体に内在する魔力を感じるものなのだ。


だが、この少年からは、最初から、魔力をまったく感じなかったのだから……。


「できないのに、口からでまかせを言って誤魔化そうとする。居るのよね、時々、そういう生徒が。でも無駄よ。実技試験は実際に魔法の実力を示さない限り評価はなしよ」


「嘘だと決めつけてないで、やらせてみたらいいだろうが? 言葉だけで誤魔化そうとしてるのはお前のほうじゃないのか?」


「お前? お前って何?! 教師にむかって! 言葉遣いも減点よ!」


「悪いな、俺は敬語が使えない呪いに掛かってるんだ、言葉使いは気にしないでくれ」


「はぁ? そんな呪い聞いたこと……て……え?」


なんと、その少年は、的に向かって手を翳すと、突然強力な魔力が溢れ出してきた。直後、ファイアーボールが飛び、的を破壊してしまったのだ。


「とりあえず、魔法が使える事は分かってもらえたかな?」


「で……できるんだったら最初から素直にやりなさいよ! 火属性の魔法が得意なのね? でも、全属性とか時空属性とか嘘をついた事は減点扱いにしますからね……って……え?」


訓練場には、複数の生徒が同時に魔法を打てるように的は複数立っている。それを、少年が次々と破壊し始めた。



― ― ― ― ― ― ―

※筆記試験のほうがいまひとつ自信のなかったリューは、それを補うために実技のほうでバッチリ点数を稼ぐ必要があると判断し、自重をやめることにしたのだ。


あまり派手にやって目立つのも良くないかと最初は思っていたのだが、どうせ仕事が終わったら学園は辞めるつもりなので、隠す必要もないかと思い直したのである。


魔法制御の仮面を瞬時に付け替えているのだが、収納魔法が使えるリューにとっては造作もない事である。本当はリューの魔法の腕も上達してきており、仮面がなくともほとんどの魔法が使えるようになっていたのだが、やはり精度が粗い部分があるのは否めない。不死王に貰った制御用の仮面を使うと繊細にコントロールできて楽なのである。

― ― ― ― ― ― ―



「まずは、ウィンドカッター、アイスランス、アースジャベリン、風、氷、土属性だな。的がなくなってしまったな、次の的用意してもらえるか?」


「嘘……本当に、複数属性が使えるの……? そんな…信じられない……」


「まだ終わってないぞ、属性は他にもあるだろう? 次の的を用意してくれれば披露するが?」


「…おい、フウワ、ちょっと待て! 何かおかしいと思わないか?」


ゴッホが横から声を掛けてきた。


「おかしい? ええ、確かに、複数属性使えるなんて、おかしいわよね…」


「そうじゃない、的だよ的! 全部壊れてるじゃないか! 的は絶対壊れないように防御魔法が掛けられているはずだろう?」


「あ! 言われてみれば! いや、きっと、故障して防御魔法がかかってなかったのよ、でなければありえないわ」


私は壊れた的を確認した後、新しい的を設置した。


「ほら、これなら大丈夫、防御も完璧よ。これで破壊できたら宮廷魔道士長のドロテア様もビックリでしょう」


だが、少年は再びそれらの的を破壊してしまう。


「闇属性、光属性、そして……時空属性だ!」


シャドウランス、ホーリーアロー、いや、ホーリージャベリンか、そこまでは分かる。だが最後のはなんだ? 少年は時空属性と言ったが…



― ― ― ― ― ― ―

※そもそも時空属性には直接的な攻撃魔法はないはずなのだが、リューは次元断裂を使って的を1cm刻みで細切れにしてみせたのである。

― ― ― ― ― ― ―



それに、よく考えたら、光属性(聖属性)の攻撃魔法はアンデッド系の魔物等には極めて有効だが、物理的な破壊力はあまりないはず。それなのに、防御魔法の掛かった的をあっさりと破壊している。それもおかしい……。


私はあまりに驚きすぎて、外れてしまった顎をゴッホに嵌めてもらわなければならなかった。


「イタタタた……あ~ビックリした、酷い目にあった……。


…アナタ、一体何者???


あの的は、この学園用に耐久性を高めて調整してもらったものなのよ。あれを破壊できるって事は、ドロテア様の絶対障壁をも破壊できるってことになりかねない、本当だとしたらこれは問題よ?」


だが、少年はまたも耳を疑う言葉を吐いた。


「ああ、ドロテアの魔法障壁なら昔、破壊してみせた事があるぞ?」


「はぁああああ?!」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


嘘だと思うならドロテアに聞いてみろ

『もしもし? ドロテアですがなにか?』


乞うご期待!



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