第495話 何度も謝るレイア

リュー(ベアトリーチェのほうに視線を投げながら) 「しかし…… “頭を冷やした” くらいで済まされても困るんだがな?」


マグダレイア 「そ、その……ごめんなさい……私……」


リュー 「お前、さっき、本気で俺を殺しそうとしてたよな? 俺は、俺を殺そうとして、実際に行動した奴は、必ず殺す事にしているんだが……」


リューから僅かに殺気が漏れる。


ベアトリーチェ 「待って下さい、リュージーン様! 私からも謝ります、この通り」


ベアトリーチェは素早く膝を折り、両手を床について深く頭を下げた。伯爵令嬢まさかの土下座である。これにはちょっとリューも予想外で面食らった。横に居たヘレンも驚いて動けないでいる。


ベアトリーチェ 「マグダレイアは私が護衛として雇っている者です、レイアのしでかした事は、私に責任があります。どのような罰も受けますので、どうかレイアの命はお助け願えませんでしょうか?」


そもそも、貴族が頭を下げるだけでも大変珍しい事なのに、土下座である。それほど重大な事であると認識しているということなのだろう。


さすがにそれを見たマグダレイアも慌てたのであろう。リューとベアトリーチェの間に転がり込んできて、そのまま土下座の体制になった。


リュー 「おお? ジャンピング土下座、横回転バージョン?」


マグダレイア 「ごめんなさい! この通りです。私はどんな罰でも受けます。これは私が勝手にやった事なのだから、リーチェは関係ないんです! 責任は私一人で取ります!」


ベアトリーチェ 「いいえ、雇い主は私なのだから、私に責任があります」


マグダレイア 「いえ、リーチェ、伯爵令嬢のあなたがそんな事をしてはいけない! これは全部私の責任なのだから……」


リュー 「漫才はいい加減にしてくれるかね?」


ベアトリーチェ・マグダレイア 「あ……ごめんなさい……」


リュー 「とりあえず、話しにくいから立ち上がってくれるか?」


ベアトリーチェ 「許して頂けますか? いえ、罰は受けますし、賠償も致しますが、どうかレイアの命ばかりは…」


リューはベアトリーチェの正体を知っている。伯爵の養女となり、伯爵令嬢と言う事になっているが、本当はエド王の妹、王族の姫である。身分など気にしないリューでも(少しは)気にする。


いや、仮に、身分がなかったとしても、若い娘に土下座させている状況は、リューも居心地が悪い。


土下座は相手に赦しを強要する暴力である、という話をリューも思い出したが、なるほどと思った。立場・身分のある者にそうまでされれば、赦すしかないではないか。


リュー 「ああ、まぁいいさ。俺も、どうせ俺を傷つける事はできないだろうと踏んでの事だったし。学園の中で殺人はさすがにまずいだろうしな。ちょっと嫌味の一つ二つは言わせてもらいたかっただけだ」


ベアトリーチェ 「ありがとうございます! 本当に、申し訳ありませんでした」


マグダレイア 「すっ、すみませんデシタ…」


一度立ち上がったのに、再び頭を下げるベアトリーチェとマグダレイア。今回は、土下座ではなく、たったまま腰を折っているが。先程は動けなかったヘレンも、一歩下がった位置で頭を下げていた。


リュー 「ああもう分かったよ、話しにくいから頭をあげてくれ。ああ、それでいいよ」


ベアトリーチェ 「マグダレイアとアルバにはよく言っておきますので……


…というか、アルバもレイアも、普段はもっと聡明で冷静な人間だったはずなのですが……レイア、本当に、どうしてしまったの? あなたらしくもない」


マグダレイア 「…分かりません。アルバの話を聞いていたら、なんだかどんどん怒りが湧き上がってきて……私、本当に、どうしたのかしら……」


マグダレイアが、酷く落ち込んでいるのがその様子から分かる。沈黙が流れ、空気が重い。


ヘレン 「……そっ、それにしても! リューさんはやっぱり強いですね。レイア様が負けるなんて、信じられないです」


マグダレイア 「まさか、転移とはね…それでさっき、姿が消えたのね。確かに斬ったと思ったのに…」


リュー 「持っていたのが木剣だったので、真剣相手では、受け止めようとしても一緒に斬られてしまいそうだったからな、咄嗟に転移で逃げたのさ。


思わずスキルを使ってしまったのはちょっと卑怯だったか? だが、なかなか鋭い攻撃だったもんでな」


ベアトリーチェ 「さすが、お父様が推薦する探偵さん? ですね。リュージーン様だったから良かったものの、普通の人間だったら、レイア、あなたは殺人犯になっていたところですよ?」


マグダレイア 「その、ごめんなさい……私…本当に、どうかしていました」


そう言いながら、レイアは再び頭を下げた。リューがもういいってるのやめろと手を振る。


マグダレイア 「…アルバが泣きながら言うものだから、まさか、あの涙が嘘だったなんて……」


リュー 「女の涙は信じちゃいけないって、女なのに知らないのか?」


マグダレイア 「ごめんなさい、私は涙を武器に使った事なんてなかったから……あんな風に演技で泣く事ができるものなのね……」


ベアトリーチェ 「あなたは、時々、男性に強い敵意を示す事がありますよね、レイア」


マグダレイア 「リーチェ……確かに。私、男なんて所詮そんなモノだって思いがあって……私に近寄ってくる男は体目当てのクズばっかりだったから」


ベアトリーチェ 「レイアはモテますからね、男性にも、女性にも……。リュージーン様、ごめんなさいね、アルバはレイアの熱烈なファンで、レイアが絡むと少し暴走してしまうところがあるの」


リュー 「少し、じゃ済まないだろう。嘘をついて人をレイプ犯にしたてようとするとか、普通の男だったら人生終わってるぞ?」


マグダレイア 「その、ほんとにごめんなさい……」


リュー 「ああそう何度も謝らなくていい、もう分かったよ」


ベアトリーチェ 「アルバについては、後で厳重注意いたいます。落ち着いたらもう一度事情を聞いてみますが……このまま変わらないようなら、従者契約は解除、卒業後には実家に帰ってもらう事になると思います。


…それにしても、ヘレンから強いとは聞いていたけれど、驚いたわね。まさか、竜人の姫であるレイアに勝てる人間がいるなんてね」


リュー 「竜人?!」


ベアトリーチェ 「驚いた? そうよ、彼女は貴重な竜人族なのよ……」


リュー 「へぇ! 道理で……ってか、本当に居たんだ! 竜人はもう絶滅していないのかと思ってたんだが。まさか……


…お仲間が居たとはな」


ベアトリーチェ 「竜人は伝説の種族と言われていますが、レイアが言うには、故郷にはまだ……、え? 今、なんと?」


マグダレイア 「まさか……」


リュー 「ああ、俺も、種族は竜人らしい」


ベアトリーチェ 「あの…鑑定、させてもらってもよいですか?」


リュー 「ほう、【鑑定】が使えるのか、別に構わんよ」


ベアトリーチェ 「……確かに、種族名が竜人となっています」


マグダレイア 「そんな、驚いた……外の世界で生きてる竜人族が居るなんて……」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


レイアの事情


乞うご期待!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る