第494話 よくもまぁ、嘘八百を

ベアトリーチェとヘレンが訓練場に入ってきた。


ベアトリーチェ 「レイア! アルバも? あなた達、一体何をしているの……!?」


アルバ 「リーチェ様……」


リュー 「ん? あんたは…」


ヘレン 「あ、あなたは!」


リュー 「お? お前はたしか…名前なんだっけ?」


ヘレン 「ヘレンですよ! …昨日はありがとうございました。というか、これは一体……?」


リュー 「さぁな。何なのか、俺が教えて欲しいくらいだ」


肩を竦めて見せるリュー。


リュー 「で、察するに君がベアトリーチェかい?」


ベアトリーチェ 「あなたがリュージーン様ですね? 父上が行かせると言っていた探偵さん? はじめまして、私がベアトリーチェです」


リュー 「ああ、リュージーンだ。学園に行けば会えると聞いたんだが、なかなか会えず、こんな事になっているよ…」


ベアトリーチェ 「申し訳有りません、実は風邪を引いて寝込んでおりまして」


リュー 「この学校には治癒魔法が使える者は居ないのか?」


ベアトリーチェ 「いえ、怪我は別ですが、病気はなるべく魔法に頼らず、自然に治すというのがこの学校の方針でして。そのほうが自然治癒力が高まるとか」


リュー 「なるほどね。で、コイツラは?」


ベアトリーチェ 「こちらのヘレンとアルバは私の従者で、そちらのマグダレイアは私の護衛を依頼している者です。


リュージーン様には昨日、ヘレンが危ないところを助けて頂いたとか、ありがとうございました」


リュー 「別に礼なんかいい、たまたま通りかかったら火の粉が降ってきたんで払っただけだ。


それより、俺は身に覚えのない婦女暴行の罪を着せられて問答無用で襲われたんだが?」


ベアトリーチェ 「そうだったんですか……どういう事なんですか? アルバ?」


アルバ 「レイア様が負けるなんて、そんな事、ありえない……一体、何者なの……?」


ベアトリーチェ 「…マグダレイア?」


マグダレイア 「…その…、アルバから、その男に暴行されたって相談されて、その犯人を懲らしめようと…」


ベアトリーチェ 「それは確かな話なの? 証拠があっての事なのですね?」


マグダレイア 「いえ、それは、その、アルバが、泣きながらそう言ったので……つい感情的になって…私……」


ベアトリーチェ 「レイア、アナタらしくない。普段のあなたはもっと思慮のある行動ができていたのに……」


リュー 「言っとくが、俺はレイプなどしていないぞ? 証拠などあるわけもない」


アルバ 「嘘よ! コイツに襲われたんです!」


リュー 「それが嘘だよ。何のつもりか知らんが?」


ベアトリーチェ 「アルバ! …それは、本当に、確かな事なのですか?」


アルバ 「はい! 本当です!」


ベアトリーチェ 「昨日、私の部屋を出た後に?」


アルバ 「そうです! 昨日! やっぱり怪しいヤツをベアトリーチェ様に近づけてはいけないと思って! どんな人間か確認してやろうと訪ねたんです!


そしたら案の定、本性を表して、いきなり襲ってきて…」


リュー 「よくもそう嘘八百を並べられるなぁ、ある意味すごいぞ」


アルバ 「嘘じゃありません! レイプされたなんて、貴族の女にとっては破滅に繋がるような事、嘘をつくわけないでしょう!」


リュー 「ならば言ってみろ、一体どこに訪ねたんだ? 俺が夜、どこに寝泊まりしているのか知っているのか?」


アルバ 「それは、もちろん、学園の男子寮に…」


リュー 「言っておくが、俺は学園の寮には住んでいないぞ?」


アルバ 「……え?」


リュー 「どうした、俺の家がどこか言ってみろ? 訪ねたんだろう?」


アルバ 「う、うそよ……本当は寮に居たのに、嘘をついているんです! 息を吐くようにでまかせが口から出てくるようね!」


ヘレン 「でも、寮なら隣に他の生徒も居たはずでしょう? そんな中でレイプなんてできるものなの?」


アルバ 「それは…部屋の中に引き込まれて口を塞がれたので…」


リュー 「寮には俺の部屋はない、そんな事は確認すればすぐに分かる事だ。そもそも俺は夜の間は、この街の中にすら居ないんだが?」


ベアトリーチェ 「リュージーン様は、夜はどちらにいらっしゃるのですか?」


リュー 「トナリ村に家を買ったのでな、夜はそこに帰って家族と過ごしているよ」


アルバ 「トナリ村って、辺境にある、あのトナリ村?」


リュー 「ああ、そのトナリ村だな」


アルバ 「ほら! ベアトリーチェ様、聞きましたか? コイツは嘘つきです。トナリ村まで馬車で何日も掛かる距離ですよ! 昼間学園に居たものが、夜そこに帰るな、ん、て……!?」


アルバが急に言い淀んだのは、リューが瞬時にアルバの横に転移で移動してみせたからである。


リュー 「俺は転移が使えるからな。距離など関係ない」


ベアトリーチェ 「これは…!」


ヘレン 「転移魔法…? 嘘、転移は伝説の魔法で、今は使える人間は居ないって…」


リュー 「今、存在するのを見たろ?」


アルバ 「嘘よ、嘘よ、嘘よ~! みんな騙されているのよ! 転移なんてできるわけがない、何かのトリックを使ったんだわ!」


ベアトリーチェ 「いいえ、アルバ。いい加減にしなさい。彼は悪い人間ではないわ。アルバも私のスキルの事を知っているはずでしょう? 私には、相手が善人か悪人か判別できる能力がある。彼は、嘘はついていない。彼は悪人ではないわ」


※ベアトリーチェのスキルは、王家のスキルの派生能力である。つまり、ベアトリーチェには王家のスキルが受け継がれ、発現しつつあったのである。


アルバ 「それは…」


マグダレイア 「そ、そんな…まさか、アルバ、嘘をついたの?」


アルバ 「だっ、その……だって、そいつは悪い奴です、間違いない! レイア様だって初めて会った時、そいつに手を握られていたじゃないですか! きっと、魅了の能力スキル持ちなんです! その力で女を食い物にしてきたに違いないわっ!」


マグダレイア 「確かに、いつの間にか、手を握っていた……あれは不思議な感覚だったわね…」


リュー 「俺には魅了のスキルなんてないぞ…」


ベアトリーチェ 「彼は、私の父が遣わせてくれた探偵なのよ? 悪い人間のわけがないでしょう……


…本当に、一体どうしてしまったの? 最近のあなたはおかしいわよ? 以前とは別人みたいに変わってしまって」


アルバ 「う…うるさい、うるさい! なんで誰も信じてくれないのよ~~~!!」


ヘレン 「あ、アルバ!」


ベアトリーチェ 「放っておきましょう、少し頭を冷やしたほうがいいでしょう」


走って部屋を飛び出してしまったアルバをヘレンが追いかけようとしたが、ベアトリーチェがそれを引き止めたのであった。


アルバが部屋を飛び出す直前、リューは神眼を使ってアルバの心の中を覗いてみた。人の心を覗くというのは精神的に疲れる。ましてや頭がおかしい人間の心など覗きたくはないが……さすがに何かおかしい、裏があるのではないかと思ったからである。


リュー (知能が低い……と言うほどでもないか? だが、感情的過ぎるな。激しい感情が溢れかえっていて、冷静な判断ができない状態なのか?)


結論としては、意外にもアルバに何か裏の企みがある、という事はなく、単純にヒステリーを起こしているだけのようであった。


アルバが走って逃げてしまったので、読んだのは表層だけで、それ以上深くは読まなかった。そもそも人の心の深層まで探ろうとすると、かなりの労力と時間が掛かるので、立ち話をしながらという気にはリューもなれないのであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リュー 「おおこれが前世でも見た事がなかったリアルジャンピング土下座か!」


乞うご期待!



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