第603話 落ち着かない晩餐会

もう調べなくても結構ですよ、私の病気はヴェラさんのおかげで綺麗に治りましたから。ほら見て?」


ルチアは袖を捲りすっかり、綺麗になった腕を見せた。


カルツァ 「まさか……一体どうやって……」


ルチア 「ヴェラさんが調合してくれた薬を飲んだらすっかり…。この病気は治癒魔法を掛けると悪化するのですって」


カルツァ 「馬鹿な! 治癒魔法で悪化する病気など! ありえない…」


ルチア 「現に私の病気はあなた達の治癒魔法で悪化した。そしてヴェラさんの薬で治ったわ。世の中にはそういう病気もあるのねぇ…。勉強不足だったわね、カルツァ」


ヴェラ 「まぁこの病気は人間の街ではほとんどないものですから、知らなくても仕方がありませんわ」


カルツァ 「わっ、我々治癒魔法師は治癒魔法を使って治療するのが仕事です! 魔法を使わない治療など専門外、知識がなかったのは仕方がないでしょう!」


ヴェラ 「…魔法に頼り切りではなく、人間の身体の構造や薬についても知っておけば、役に立つ事も多いとは思いますけど…」


カルツァ 「はん、どこのド田舎から出てきたのか知らんが、たまたま知っていた薬が当たったからと言って!


伯爵! 今回は迷信のような民間療療法がたまたま・・・・当たったかもしれませんが、我々の治癒魔法を比較するようなモノではありませんぞ!」


ヴェラ 「迷信じゃなくて医学・薬学ですけどね。まぁ、今回の奥様のご病気は、治癒魔法では対応しにくい症状でしたから、それで治療師の魔法の腕が悪いというのは酷かもしれませんが…」


カルツァ 「ずべての病気が薬で治るなら、薬師だけで十分、治癒魔法など必要ないという事になりますな!」


ヴェラ 「そんな極端な事言ってないデスケド」


カルツァ 「だいたい、薬で治したのならどれだけ治癒魔法が使えるのかあやしいものだ。薬師や錬金術師は治療の現場に出しゃばらずポーションだけ作って居れば良いのだ」


ヴェラ 「魔法だけでなく、病気を治すための知識や薬の知識なども実力のうちだと思いますよ? “医者” ならば」


ルチア 「そうね。ただの治癒魔法師だというだけなら、伯爵家の “主治医” は任せられません。必要に応じて薬師やその他の方々の知識に頼る必要があるでしょう」


ヴェラ 「それは大事な事だと思いますよ。場合によっては特殊な毒物や呪いに対処する必要がある事も~」


カルツァ 「やはり!! 我々、カルツァ治療院を伯爵家の専属から外すという事ですか?!」


ルチア 「……場合によっては、そういう可能性もあるでしょう」


カルツァ 「それでそこの小娘を代わりに雇うおつもりですか?! たまたま今回は珍しい病気だったが、普通の怪我や病気の治療はどうするのです? 結局治癒魔法に頼る必要があるのではないですか? だいたい…これまで我々がどれだけ伯爵家のためn~」


さらに興奮して声が大きくなるカルツァであったが、しかしその声が突然聞こえなくなった。ルチアが音を遮断する魔法をカルツァに対して使ったのだ。


ルチア 「少し黙りなさい。別に今すぐにあなた方を専属から外すなどとは考えていなかったのに、馬鹿ね。


治療師としての腕はともかく、お客様との晩餐の場に闖入して喚き散らすなど、それだけでも十分、出入禁止に値する行為ですよ。


我が家としても治療師がいなくなってしまうのは困るけど……そうね、ヴェラさんが当家の専属治療師になってくれるというのなら、それは素晴らしい事ね。どうですか、ヴェラさん?」


ヴェラ 「…申し訳ありませんが、専属のお話はすべてお断りさせて頂いております。アレスコード様からも専属にとおっしゃって頂きましたが、断らせて頂きましたので…」


ルチア 「そう…辺境伯様の申し出を断ったのに伯爵家の申し出を受けるというわけにもいかないわよねぇ」


エゴーリ 「いや! 面白い! アレスコードが断られた治療師を我が家が雇うというのはなかなか痛快な話だ。どうだ? カルルの出した条件の倍、いや、三倍出そうじゃないか?」


それを聞いたカルツァがますます激昂する。周囲の者にカルツァの言葉は聞こえないが、カルツァには外の音が聞こえているのだ。


カルツァの顔が興奮して真っ赤になっていく。血管が切れないか心配になるくらいだが、その時、突然何かが弾けるような音がして、再びカルツァの声が聞こえるようになった。


ルチア 「あら、私の魔法を破るなんて、やるじゃないカルツァ」


カルツァ 「ハァハァ、興奮して、一時的に魔力が高まったようで……おかげで奥様の魔法を破る事ができました」


ルチア 「でも具合が悪そうね、大丈夫…?」


怒り爆発でルチアの音声封印(じつは風魔法)を破ったカルツァであったが……


どうやらその際に魔力を使い果たしてしまったようだ。急にカルツァに先程までの勢いはなく、すっかりしおれてしまった。


カルツァ 「はぁ……私の……、我々の力不足、知識不足は認めましょう…。これからはもう少し、治癒魔法以外の医学についても勉強しようと思います…」


ルチア 「そうね、そうして頂戴。私も少し意地悪を言い過ぎたわ。伯爵家としても、あなた達のような治療師が居なければ困るのだから。専属から外したりはしないから、今日は大人しく帰りなさい」


カルツァ 「…はい……


…お騒がせいたしました……」


それで少し冷静になったのか、カルツァは大人しく帰っていった。


ルチア 「ごめんなさいね、カルツァも、悪い人間じゃないんだけどね……」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


エゴーリ 「伯爵の命令に逆らったらどうなるか分かってるんだろうな?」


乞うご期待!



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