第549話 相手にならない

リューとエリザベータのクロウは明らかに質が違っていた。リューのドラゴンクロウは範囲が広く大雑把であったのに対し、エリザベータのそれは狭い範囲に鋭く集束されているのである。


至近距離からの本気のクロウ。無防備な状態で直撃すれば身体が裂けてしまうだろうが、リューも当然防御はするはずだから大丈夫だろうとエリザベータも見越しての攻撃である。


だが、リューの散漫な竜闘気などピンポイント集中で貫通できるとも思っていた。多少痛い目を見るだろうが、それで里の竜人を相手にするのは危険だと理解して諦めてくれる事を期待したのだ。


だが、次の瞬間、エリザベータは驚愕した。


だが、なんと、エリザベータのクロウはリューの放った竜闘気の奔流を貫けず、完全に弾かれてしまったのだ。


余波でエリザベータの髪が大きく靡く。


クロウではない、ただ、リューは竜闘気を力任せに放出して防いで見せたのである。


エリザベータ 「ばっ…、どんな馬鹿力しドラゴンフォースてんのよ!」


リューは時空を操るスキルは失ったが、そのスキルを駆動するための動力であった魔力生成能力は残されている。


人間達が使っていた魔力と竜神達の使う竜闘気は異なるモノだが、実は、仕様フォーマットが違うだけでオリジンから生成された魔力の一種である事には変わりないのである。


使っていくうち慣れて・・・きたリューは、竜気もまた分解・生成ができるようになったのだ。つまり、魔法と同じ、制御の粗さを量で押し切れるようになったのである。


それに、リューはこの里に来る前から緑色の仮面を装着したままである。不死王が作ってくれた竜闘気を完全制御するための仮面である。(だから竜人能力で戦っていたのであるが)つまり、その気になればリューはエリザベータにも負けない鋭いクロウを放つ事も可能なのである。


これがあるから、リューは竜人能力合戦でも負ける心配などしていなかったのだ。


エリザベータ 「前には見た事のない色の仮面……もしかして? 不死王様ね! ずるいわよ!」


リュー 「ああ、竜闘気を完全に制御できる。まぁ、視力を補うメガネみたいなものだな」


エリザベータが再び攻撃を始めた。ドラゴンクロウの連撃。今度は手加減なしでリューの首を狙っている。


以前から、連射能力に関してもエリザベータのほうがリューに勝っていた。力で勝てないなら手数で勝つ。


だが、リューが正確に、エリザベータと同等、否、それ以上に鋭く集束させたクロウを放ち、エリザベータの爪撃を全て迎撃してみせる。


しかも、連射性能に関してもエリザベータを上回っている。後手であったはずのリューの爪撃の数が、エリザベータのそれより多かったのだ。


すべての爪撃が打ち消された後、残った爪撃がエリザベータの髪を斬りながら通過していく…


エリザベータ 「…わざとはずした?」


リュー 「ああ、エライザの母親を殺すわけにもいかんからな」


エリザベータ 「…またしても負けたわね。ほんと、バケモノよね、あなた・・・……」


リュー 「とりあえず、エライザと話をさせ…」


だがその時、後ろで見ていた竜人の男達が飛び出してきてリューを取り囲んだ。


エリザベータ 「ちょ、あなた達?」


エリザベータも男達に肩腕を掴まれて引きずられて下がっていく。


ダダ 「悪いが…、余所者に舐められるわけにはいかんのだ」


竜人2 「竜人の里の生え抜きの俺たちが、下賤な人間の里で育った雑種まがいの奴に負けるわけにはいかないんだよ!」


リュー 「竜人の里ってのは、随分排他的で好戦的なんだな。人間をやたら下賤だと言うが、やたら好戦的な竜人も、ロクでもない種族だって証明じゃないのか?」


竜人3 「なんだと、貴様!」


竜人2 「余裕ぶってるが、この人数相手に勝てると思ってるのか?」


リュー 「大勢で一人をやるとか、やっぱり下劣だよな、竜人ってのは」


竜人3 「はん、お前は魔物に襲われた時、一対一でないのは卑怯だとか言うつもりなのか?」


リュー 「ダダと言ったか? お前は一対一でやりたがるタイプかと思ったんだがな」


ダダ 「そのつもりだったが…、さっきの戦いを見て気が変わった。


前情報と違い、半人前どころか、竜人の能力を完全に使いこなせているようなんでな。それは認めてやろう。


まぁエリザベータも元亭主相手に手加減してたんだろうがな?


だが、万が一にも負けたら竜人の沽券に関わるからな。悪いが、安全策を取らせてもらう事にした」


リュー 「まぁ別に、全員同時でも俺は構わんが…」


ただ、リューは少し引っかかる事があった。それは何かと思い返してみると…


先程、男の一人が「魔物に襲われた時」と口にした事だ。単なる比喩にしても、魔物が出る事が前提でない世界では出て来ない表現ではないかと思ったのだ。


リュー (…この里は異界にあるのだから、魔物は居ないんじゃないかと思ったんだが……)


単に、人間の世界の事をよく知っているのかとも思ったが、考えてみれば、竜人の里は随分立派な塀と壁に囲われている。


人間達の街であれば、魔物が襲ってくるので城郭都市となっているのは必然なのだが…


リュー (つまり、竜人の里にも、襲ってくる外敵が居るということか…?)


竜人4 「どうした、黙りこくって?」


竜人5 「ビビったんじゃねぇのか?」


竜人6 「もういい、やっちまおうぜ!」


竜人6の言葉で、一斉に周囲の竜人が一斉に手を振った。


リューを囲んでいた12人から一斉に竜闘気の爪撃ドラゴンクロウがリューに殺到する。


が、その爪撃は、リューに到達する前にすべて霧散してしまった。


ダダ 「なっ? 何が起きた?!」


慌てて周囲の竜人達が何度も爪撃を繰り返すが、全て、リューに到達する前に霧散してしまう。それどころか、そのうち、いくら腕を振っても爪撃が出なくなり、しまいには全員の竜装ドラゴンスケイルが解除されてしまった。


リューの魔力生成能力、それは、裏を返すと分解能力でもある。その力を本気で使えば、リューはこの世界のあらゆるモノを分解してオリジンに帰してしまう事が可能なのである。もちろん、竜闘気ですらも例外ではない。


竜人達は、体の内外にある竜闘気が霧散してしまい、竜闘気を使った技が一切使えなくなったのだ。


(※リューは現在竜闘気制御用の緑の仮面を着けているが、スキルとして備わっている魔力分解生成能力は、仮面などなくとも自在に使えるのである。)


ダダ 「これは……


お前の能力ちからなのか?」


リュー 「俺の切り札だが」


ダダ 「おいエリザベータ! こんな能力を持っているとか、話が違うぞ?!」


リュー 「エリザベータには言ってなかったか? いや、言ったはずだが…。まぁ、一度も使って見せる機会はなかったからな。忘れてしまったんだろう」


ダダ 「くそっ、くそっ、くそっ、……こんな、ありえねぇ…」


ダダは必死で竜気闘法の技を発動しようとするが、一向に使うことができない。


竜気を集めようとしても周囲にまったくない。自分の体内にあった竜闘気を吐き出すにしても、身体の外に出た瞬間に霧散してしまう。


ダダ 「貴様! 卑怯だぞ!」


リュー 「普通に戦っても負けはしないんだが、ちょっと気になる事があってな。悪いが、簡単に終わらせてもらった」


そう言うと、リューは街に背を向け、彼方の空を見た。


リュー 「何か来るな……」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


霊剣はどこじゃ?

折ったじゃと?!

くぉのばっかもんがぁ~!


乞うご期待!



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