第161話 教官失格

イライラ 「領主様? リュージーンなら大丈b―――」

 

リュー 「残念だが、問題のある教官が見つかった」

 

一同 「???」

 

領主 「すまんなイライラ君。実はな、リュージーンは教官の適性を確認するために私が送り込んだ覆面調査員だったのだよ」

 

イライラ・アッシュ・研修生達 「ナンダッテ~?」

 

 

 

 

イライラ 「ネリナ! 知ってたのか?!」

 

ネリナ 「ごめん~、領主様がどうしてもというものだから。イライラなら大丈夫だと思ってたし、領主様がそれで納得してくれるならと思って」

 

イライラ 「俺達は、審査しているつもりで逆に審査されていたというわけか……」

 

領主 「私がこの街に来たのは、調査を終えたとリューから連絡を受けたからなのだよ。それで……(リューの方を見る)どうなのだ?」

 

リュー 「ああ、教官の中に、一人、相応しくない者が居るのが分かった」

 

ニヤリと笑うアッシュ。

 

当然、イライラの名前が上がると思った一同であったが……

 

リュー 「それは……

 

…アッシュ、お前だ」

 

驚くアッシュ。

 

アッシュ 「……へっ? なっ、何を言ってるんだ……?

 

僕のどこが失格だと言うんだ? 厳しすぎるイライラの代わりに、研修生を励まし、フォローしてきたんだぞ僕は!」

 

リュー 「だが、お前……


…影で研修生に金を要求していただろ?」

 

領主がジロリとアッシュを睨んだ。

 

イライラ 「どういう事だ?!」

 

リュー 「アッシュは、卒業間近と思われる研修生をターゲットにして、『卒業したければ金を出せ』と金を要求していたのだ。金を払えば自分がイライラに口添えしてやる、そうすれば合格の可能性は飛躍的に高くなると言ってな。『自分の口添えがなければ卒業させてもらえないかも知れない』と脅すような事も言ってたらしい」

 

イライラ 「アッシュ、お前……」

 

リュー 「金を払おうが払うまいが、イライラは十分実力がある者は卒業させていた、そうだろう?」

 

イライラ 「もちろんだ。そもそも俺はアッシュから口添えなど一度も聞いた覚えがない」

 

リュー 「卒業の見込みがある者を選んで声を掛けていたから、そのまま卒業になって終わりだったんだろう。卒業生はアッシュが本当に口添えをしたかどうかなど知る由もないが、卒業できたなら結果オーライ、後ろ暗い事ではあるので吹聴する者もいないだろうしな。良い小遣い稼ぎだったわけだ」

 

アッシュ 「し、証拠はあるのか?」 

 

リュー 「卒業生たちの何人かに聞き取り調査をすれば、証言を確保する事は簡単じゃないか?」

 

アッシュ 「…っ、だ、だが、別に法に触れるような事ではないだろ」

 

リュー 「犯罪行為を持ちかけて、乗ってきた相手を騙した形だな。相手も違法行為なので、たとえ騙されていると分かっても訴えられない。だが、訴える者がいなくても、“教官” がやっていい事じゃないだろう?」

 

それを聞いて頷くネリナ。

 

ネリナ 「残念ね。アッシュは面倒見も良くて後輩に慕われていた良い教官だと思ってたのに…」

 

アッシュ 「違う……俺は」

 

リュー 「違わないだろう? だがそんな事はどうでもいい。本題はここからだ」

 

アッシュ 「?」

 

リュー 「アッシュはさらに、自分が指導長トップになるために、イライラを引きずり降ろそうと画策していたようだ。

 

厳しいイライラへの不満の声を利用して、影でイライラの悪評を吹聴してまわり、憎しみを増幅するように立ち回っていたようだな?」


一同 「?!」

 

リュー 「街に来た初日から、イライラの不評は耳に入ってきた。だが、よくよく調べていくと、イライラに酷い事を言われたという声の大部分は、イライラがそう言ってたぞ、と『誰かに言われた』という又聞き話ばかりだったのだ。その誰かが誰なのか? 辿ってみれば、毎回同じ人間……アッシュ、お前に辿り着いた」


アッシュ 「う…それは……」


リュー 「確かに、研修について行けず、脱落していった者は居たのだろう。それに、イライラは魔法使いはワイラゴ攻略には向かないと思っていて、身体能力の低い魔法使いは不合格としていた、それは事実のようだ…」

 

イライラのほうを見るリュー

 

イライラ 「……コカトリスには魔法が一切通用しないからな…」

 

リュー 「ワイラゴ攻略に魔法使いは不向きという考えには異議を唱える者も居るだろう、が、その是非については後回しとして…

 

アッシュは、『イライラは魔法使いを嫌っている』『魔法使いはみんなイジメ抜かれて追い出された』『卒業するにはイライラに取り入る必要がある』『イライラの機嫌を損ねると絶対卒業させてもらえなくなる』などと、色々悪い噂をまことしやかに流していたようだ」

 

ネリナ 「ねぇアッシュ、あなたには脱落した子達のフォローもお願いしておいたはずだけど…? まさか…?」

 

リュー 「脱落者のフォローとは、どんな…?」

 

ネリナ 「ワイラゴは特殊なダンジョンであるという事の説明よ……

 

以前、ワイラゴ攻略に何人も魔法使いが挑んだけど、誰も帰ってこなかった、それ以来、この街に古くから居る者の間では魔法使いはワイラゴ攻略には向かないというのが定説になっていたの。

 

だから、魔法使いとして冒険者になりたいなら、ワイラゴよりもっと安全なダンジョンで経験を積むほうがいい。ワイラゴで冒険者をしたいなら、身体能力をある程度以上鍛える必要がある、そういう事を教えていたわ。

 

残念ながら他の街に行くという子達には、ワイラゴの攻略を計画している事も伝えて、攻略に成功して安全になったら、またこの街にも来てくれと行って送り出した。

 

前は私が直接指導していたんだけど、色々忙しくしくね。そうしたらアッシュが自分から任せてくれって言い出して……」

 

リュー 「隣町まで行って、研修で脱落したという魔法職の人間を探し出して話を聞いたよ。アッシュからは、ひたすらイライラの悪口だけしか聞いた覚えはないそうだよ。自分がイライラを追い出して見せるなどとも言ってたそうだな」

 

アッシュ 「だ……だが、直接イライラに酷い事を言われた人間だって居るだろう?」 

 

リュー 「そう言えば、レオノアとアナも、冒険者を辞めろって言われたと言ってたな?」

 

レオノア 「それが……今にして思えば、イライラ教官はそこまではっきりとは言ってなかったような……」

 

リュー 「なんて言われたんだ?」

 

アナ 「イライラさんは、『魔法職で冒険者をやりたいなら、他のもっと安全なダンジョンで活動する道もあるぞ』って言われたと思います。ただ…」

 

リュー 「ただ?」

 

アナ 「その後、アッシュさんが来て……」

 

レオノア 「…そうだった! そして、イライラは『魔法職なんて必要ない』『冒険者の足を引っ張るクズだ』って影でいつも言ってるとか、色々言われたのよ!」

 

リュー 「というわけだ…」

 

アッシュ 「それは……、君だって、そうだ、リュージーン、君だって随分酷い扱いを受けていたじゃないか?!」

 

リュー 「ああ、それについては確かにそうだ。だが、俺が来る前はあそこまで酷くはなかったと言う話も聞いてる……

 

…どうやら、俺は個人的にイライラにマークされていたらしい。さしずめ、どこかの国のスパイだとでも疑っていたんだろう?」

 

イライラ 「……スタンピードもお前が起こしたんじゃないかと疑っていた」

 

一同 「?!」

 

イライラ 「安定していたはずのダンジョンが突然、だからな……

 

だが、お前のおかげでコカトリスは殲滅できたし、ラアルも帰ってきた。すまない、誤解だったようだな」

 

リュー 「コカトリスを倒したのもラアルを助けてきたのも銀仮面とか言う謎の人物デス、俺ジャアリマセンガ?」

 

イライラ 「ふん……そうだな、そういう事にしておいてやろう」

 

リュー 「話を誤魔化す、もとい、話を戻すが……

 

スタンピードが人為的なものだったというのは、どうやら当たっていたようだぞ?」

 

一同 「!?」

 

 

― ― ― ― ― ― ―


次回予告


犯人はお前だー!


乞うご期待!




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