第210話 勇者は……

セッタ村。村長が村人に詰められている。


村の男1「やはり、この村も冒険者を積極的に受け入れるようにして、魔物を狩ってもらったほうがいい」


村長「……」


村の男2「村長、あんたが冒険者嫌いなのは知ってるが、そんな事も言ってられんだろう、もう何人も村の男も死んでるんだぞ?」


村の男3「なぁ、村長、あんたはなんでそんなに冒険者を嫌ってるんだ?」


村長「…………わいの妻と娘は、冒険者に乱暴されて殺されたんや……」


村の男達「「「「「!」」」」」


村長「ワイが昔居た村にも魔獣が出てな……その時、ちょうど村の女達が川に洗濯に行っていたんや。その中には、ワイの妻と娘も居た。


女達は緊急避難小屋に立て籠もって凌いでいるらしいが、獲物の臭いを嗅ぎつけた魔物は小屋を執拗に攻撃しとって、貧相な小屋やさかい、危険な状態やった。


連絡を受け、村の男達が助けに行こうとしたんやが、その時、たまたま村に通りかかった冒険者の一行が、金を払えば助けに行ってくれると言ったんや。


要求された金額は決して安いものではなかったが、妻と娘の命には変えられないので、ワイラは全財産をその冒険者に渡した。冒険者達はすぐに片付けてくるから待ってろ言うたんやが……


助けに行ったはずの冒険者はいつまで経っても帰ってこんかった。


どうもおかしいと、村の男達で小屋を見に行ったら、女達は全員斬り殺されとった。


ただ、床下の収納庫に隠れとった小僧が一人助かってな。一部始終を見とった小僧が言うには、その冒険者達は小屋に取り付いとった魔物を追い払ったが、その後リーダーが小屋の中に入って、女達に乱暴しよったそうや。その後、全員斬り殺して逃げてったちゅう事やった。


しかも、魔獣は追い払っただけで退治しとらんかってん。追い払われた魔獣はそのまま村のほうに流れて、ワイの故郷の村は全滅してしまったんや。


生き残ったモンも散り散りになり、ワイも流れ流れてこんな村まで辿り着いたっちゅうわけや。


ワイはそれ以来、冒険者は信用せんと生きてきたんや。自分らも、冒険者なんぞ信用したら全財産取られるぞ。それだけやない、家族を皆殺しにされるかもしれんのやで。その覚悟があるんかい?


ワイの娘はまだ12歳やったんやで……」


村の男1「それは気の毒だが、冒険者が全員そんな悪い奴というわけじゃないだろう? それに、冒険者はギルドがしっかり管理してくれている。この村にもギルドの出張所を作ってくれるって話じゃないか」


村長「残されたわいらは、近くの街の冒険者ギルドに訴えたんやで。けど、そんな村のほうで活動していた冒険者はおらん、知らんと相手にされんかったんや。冒険者は組織ぐるみで庇いあっとんのや、信用でけん」


村の男2「だが、どちらにせよ、このままじゃ魔獣の襲撃でそのうち村は全滅しちまうだろうが。村の守りを強化してもらうか、村を捨ててバイマークへでも移住するしかないだろう」


村長「ふん、勝手にせぇ。ワイはもう知らん」


その時、村に旅の一行が通りがかった。それを見た村長の目の色が変わる。


村長「アイツや……ワイの故郷の村で妻と娘を殺したんはアイツや、あの軽薄そうな顔、絶対に忘れへんで」


通りがかったのは、勇者ユサークの一行であった。村長の村で狼藉を働いたのはユサークだったのだ。村長が冒険者ギルドに訴えても、そんな冒険者は居ないと言われたのは、ユサーク達勇者一行は冒険者ではないのだから当然であったのだ。


村の男4「村長~、勇者様御一行がやっと到着したそうですよ~」


村長・村の男達「…なんやて?」


村長「アイツら、冒険者やなかったんかい……いや、確かにあの時、冒険者だって名乗っとった。嘘やったんか……」


(ユサークは、悪い事をした時には、勇者の評判が悪くなる事を気にして、自分は冒険者だと名乗り勇者である事を隠していたのだ。村長の村を訪れた時も、その前に訪れた街でやらかしてコソコソと移動している時だったのである。)


    ・

    ・

    ・

 

村長は勇者一行の前に飛び出した。


村長「お前らっ!」


ユサーク「? なんだ? お前は?」


村長「この村の村長や! お前が勇者か? 間違いないか?」


ユサーク「そうだよ、僕が世界を救う勇者ユサーク様だ」


村長 (そうや、思い出した、確かあの時もユサークと名乗っとった)


村の男「……随分遅いじゃないか? 何をしてたんだ? 魔獣はもう冒険者達が退治してしまったぞ?」


村長「そんなんはどうでもええ! お前ぇっ! ワイの顔を覚えとるか?! ショコ村のボザや! ショコ村でお前が犯して殺したんはワイの妻と娘や!」


ユサーク「え? ちょ、何? ちょと何言ってるかワカンナイんデスケドー?」


村長「娘はまだ12やったんやぞ!」


ユサーク「いや、知らんよ、人違いジャナイノー? だって僕は勇者だよ? ショコ村で悪さした奴は冒険者って名乗ってたでしょー?」


村長「……殺してやる」


村長は短剣を抜いたが、村人たちがそれを止めた。剣を抜いた村長を見て、勇者も剣を抜いていた。そのまま飛びかかっていれば村長は斬られていたであろう。


だが、勇者パーティを村人達が取り囲んだ。先程の村長との会話を聞いていたからである。


勇者「なんだい?」


村人1「12歳の少女を犯して殺したって?」


勇者「だっ、だからぁ、それは人違いだって言ってるだろ!」


村人2「じゃぁなんで、その村で乱暴を働いた者が冒険者と名乗ってた事を知ってたんだ?」


勇者「……あれ? 口が滑ったか?」


魔女シャル「ちょっと、勇者はん、まずいんちゃいますん? いくら勇者無罪言うたかて、さすがに12歳の少女犯して殺すとか。勇者の評判ガタ落ちやでぇ」


勇者「うるさいなぁ、じゃぁこうすれば?」


勇者が突然村長を剣で貫いた。


勇者「ほら、これで証人ももう居ないし」


聖女アガタ「何してるんですか!!」


アガタは即座に村長に駆け寄り治癒魔法を掛けた。村長は心臓を貫かれていたが、即治療を行ったおかげで間一髪、一命を取り留めた。


聖盾騎士ジョディ「ちょ! 勇者様! マズイですよ!」


勇者「さて、この村、皆殺しにしちゃおうか。そうすれば、今の出来事も見た人間は誰も居なくなるから、問題ないよね?」


その時、ジョディが勇者の前に飛び出した。


勇者「ジョディ、邪魔をするな」


その言葉でジョディの体が動かなくなる。勇者の権能である。


ジョディ「邪魔は……しません」


すると再びジョディの体が動くようになった。

だが、意を決した表情のジョディは、村長を治療していたアガタの腕を掴んで引き戻すと、精霊の羽根を取り出したのだった。


勇者によるこれ以上の暴虐を見過ごせなかったジョディは、残っていた精霊の羽根を使って、村から立ち去る事にしたのであった。



   *  *  *  *



勇者「あれ? ここは……」


ジョディ「王宮です、勇者様」


勇者「あ、ジョディ、精霊の羽根を使ったのか! あれ、最後の一個だったのに! 何を勝手なことを」


ジョディ「いえ、小さな村の雑魚など、後でどうとでもなります。それより、魔王の事を王に報告する必要があるのではないですか?」


勇者「ち。そうだった、あの街の冒険者共を〆てやらないと気が済まないな。じゃぁ王に会いに行こう!」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リューとヴェラ、セッタ村へ


乞うご期待!



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