第643話 馬車完成、隣国へ

ランスロット 「ところで、街の領主が居なくなってしまったわけですが、放っておいて良いのですか?」


リュー 「別に構わんだろ。街には衛兵達も居るし」


ランスロット 「いつぞやの、ダヤンの街ではかなり手厚いフォローをしてましたが…」


リュー 「あの時は街の警備兵達も居なくなってしまったからな。ただ、後になって思うと、あそこまで面倒みてやる必要もなかったかなと…。別に、貴族など居なくても、街は回っていくものだしな」


結局のところ、領主が行方不明になってしまい、街の支配層の人間達はそれなりにゴタゴタしたようだが、トップが居なくとも配下の人間達や衛兵達はこれまで通りの仕事を続けるだけであり、平民達も何が変わるわけでもなく、これまで通りの生活を続けるだけなのだ。


そして、いよいよ領主不在が確定となれば、王宮に報告が行き新たな貴族が代官として街に派遣されて来るだろう。


新しい領主が来れば、前任者との違いを出したくて色々と変えようとするだろうから、その後のほうが街の人間は大変かもしれないが…。







さて、注文している馬車であるが、納期はまだ大分先の予定である。それが完成するまで、リュー達は薬草採りの常設依頼でもこなしながらのんびり待つ事にした。


薬草採集は、ある意味リューの専門分野である。薬草を見つけ、品質を損なわないように採集する技術は、特殊チート能力ではない。普通の冒険者として、ミムルの街で三年間、努力して培ってきたものなのだ。リューはその知識と技術も、できればエライザにも伝授してやりたいと思っていた。


薬草の種類を教え、どんな場所にどんな薬草が生える傾向があるのかを教える。【鑑定】系の魔法を使えば、薬草をすばやく見つける裏技もあるのだが、それではエライザの勉強にならないので、足と目と勘で探させる。駆け出しの冒険者なら皆やっている事だ。そして、効率よく薬草が採取できるようになる頃には、実力も少しは身につき、ランクアップしていくのだ。


リュー 「しかし、随分楽になったなぁ」


振り返って思う。薬草採集。あの頃とやっている事は同じはずなのだが、あの頃とは雲泥の差がある。


なにせ、ミムルの街で冒険者をやっていた頃は、りゅーは最低ランクのFのそのまた下のGランク冒険者だった。しかも、魔法が一切使えず。冒険者としての実力もGランク相応だった。あの頃は、魔物に怯えながらの薬草採集だったのである。


あの頃のリューの実力では、ゴブリン相手でも一対一で勝てるかどうかというところであった。ゴブリンが複数現れたら、必死で逃げなければ殺されてしまう。スライムさえもできれば避けているような有様だったのだから。


しかし今は、薬草採集をしていても魔物を一切気にしない。周囲を警戒すらしていない。仮に危険度高ランクの魔物が出たとしても瞬殺してしまえる。以前は入れなかった森の奥深くで採集できる。以前よりはるかに収穫も多い。


エライザの勉強のために薬草採集をさせているが、竜人であるエライザも、リューほどではないにせよ、戦闘力は人間よりはずっと高い。Aランクの魔物が出てもおそらく対処できるだろう。最悪、空を飛んで逃げるという手もある。


それに、過保護ではあるがエイラザにはスケルトン兵士が亜空間から護衛をしている。冒険者としての勉強の意味もあるので、護衛についてはエライザには言わず、ちゃんと周囲を警戒するようには言ってあるが。







そんな生活を二週間ほどしていると、馬車が完成したと連絡があった。


納車予定は一ヶ月先だったはずなので、かなり早い。どうやらサム爺さん、夢中になって寝食を忘れて没頭してしまったらしい。予算制限なしで最上級の馬車を作れるなど滅多にない事なので仕方がない。二週間ぶりに見たサム爺さんの目の下にはクマがあったが、目だけはランランと輝いていた。


リュー 「へぇ、この世界にも空気を封入したタイヤがあるんだな」


馬車はサム爺さんの自信作。上モノは、極普通の馬車であった。だが、足回りが違う。車軸には最高級の硬度・強度を持つベアリングが使われており、ゴム(のような)タイヤとサスペンションも装備されている。


かなりの重量のはずだが、人力でも押せるくらい動きは軽い。


サム爺さんは、リューとエライザに馬車を引き渡した後、ひっくり返ってしまったのだが、満足そうな顔をしていた。


さすがに歳だし心配だったので、リューが回復魔法を掛けてやろうとすると、エライザがやってみたいと言うので任せてみた。だが、エライザの回復魔法は今ひとつ効果が薄く、結局リューが追加で力任せに回復させたのであった。


ちなみに、エライザは、基本的な生活魔法以外はほとんど魔法が使えなかった。だが、魔力はあるのだ。竜気技法ドラゴンアーツはマスター級なのである。いわゆる魔法で使う魔力と、ドラゴンアーツで使う竜気/竜闘気は、構造が違うが、質的には同じ魔力なのである。つまり、魔法を使うための魔力に組み替える事ができれば、豊富な竜気を魔法として使う事ができるはずなのだ。


そこで、生活魔法から少しずつ、エライザにも魔法を使う練習をさせていたのである。使っていくうちに上達するはずである。数を熟すしかない。


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新しい馬車の乗り心地は快適であった。さすが、足回りだけは最高級の性能をつぎ込んだだけある。時折、石などに乗り上げても、柔らかく衝撃を吸収するので、揺れはするものの、それほどキツイ衝撃は来ない。少し馬車の速度を遅めにしているのもあったが、それでも他の馬車よりはかなり速い。


そして半日ほど走ると、やがて、リュー達の馬車は国境に到達した。


国境には検問所があったが、簡易なもので、特にチェックも厳しくなかった。この先にある小国は、魔法王国ガレリアとは友好的な国であり、特に警戒は必要ないので国境も緩いのであった。



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次回予告


リュー、刺される


乞うご期待!



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