第341話 幼女の母

衛兵2 「この先はスラムだぞ? 道にでも迷ったのか?」


モリー 「いえ、この子の家に、水を届けに行くところです」


衛兵1 「ん、なんだスラムのガキじゃないか、いつのまにに出たんだ?」


衛兵2 「お前達は旅行者か? いや、冒険者か。行くのは構わんが、この区画の中に入ったら、もう外には出られんぞ?」


リュー 「何故だ?」


衛兵1 「いや、実はな、スラム街でたちの悪い疫病が流行してしまっていてな。外に感染を広げないように封鎖しているのだ」


ミィ 「疫病?」


リュー 「それで閉鎖か……それは仕方がないとしても、治療はどうしているのだ? 治癒魔法を掛ければ治るのでは?」


衛兵2 「スラムに住んでいるような貧乏人が、高額な治療費を必要とする治癒魔法を受けられるわけがないだろう?」


ミィ 「でも、それほど質の悪い疫病なら、領主が無料で治療してしまったほうが結果的には安上がりに済むと思うんだけど…?」


衛兵1 「領主様、グリンガル侯爵様は、そんな事はせず、スラムを閉鎖せよとのご命令だ。まぁ、本人は隣の街に居て顔を見せることはないのだがな。


衛兵2 「領主様は必要であればスラム街をすべて焼き払っても良いと言っていたらしい」


リュー 「スラムの人間は皆殺しにして構わんと? 酷い領主も居たもんだな。ああ、例の評判の悪い侯爵か、なら当然か」


衛兵2 「おい、滅多なことを言うな、貴族の関係者に聞かれたら命がなくなるぞ?」


その時、後ろから衛兵が数人、馬に乗ってやってきた。先頭は先程ジャスティンと呼ばれていた若者である。さらに、彼らの後方には馬車も来ていた。馬車は人が乗るタイプではなく荷車を牽かせてたタイプで、上には大きな鍋が何個も積まれていた。


衛兵は、先頭の馬上の若者ジャスティンに声を掛けた。


衛兵1 「おい、ここから先は立ち入り禁……これはジャスティン様でしたか。スラム街に何の御用で?」


ジャスティン 「炊き出しだよ。それでなくとも貧しいのに、出入りを禁止されて、スラム街の者達は困窮しているだろう」


リュー 「ほう?」


ジャスティン 「おや、先程の青年ではないか。お前達もスラムに行くのか?」


衛兵2 「スラム街は現在出入禁止です、たとえジャスティン様と言えども……」


だが、ジャスティンに睨まれて衛兵が萎縮する。


衛兵1 「…よろしいのですか?」


ジャスティン 「良い、私が許可する。責めは私が負うから気にするな」


衛兵1 「ですが……」


ジャスティン 「お前達のせいには絶対にならんようにするから安心して見逃せ。お前達は何も見なかった、それだけだ」


ジャスティンは金貨を数枚、渋る衛兵の足元に投げた。


衛兵2 「そ、そうまでおっしゃるなら、まぁ……


…おい」


衛兵1と2がスラムへ続く道を閉鎖していたバリケードをどけていく。


ジャスティン 「では行くぞ! みな待っているだろう」


ジャスティンは炊き出しの馬車を走らせスラムの中に入っていった。


リュー 「俺達も行こうか」


衛兵1 「おい、お前達! お前達は別だ! 入ったら出る事はできんぞ? 良いのだな?」


リュー 「まぁ出たくなったら勝手に出るから気にしないでくれ」


衛兵2 「通すと思うのか?」


リュー 「安心しろ、邪魔をしないなら俺達もお前達に迷惑は掛けんさ」


リュー達もバリケードの隙間を抜け、スラム街へと進んで行った。



   ** ** **



アイシャの家についたリュー達。アイシャの家は、ボロボロで扉も半分欠けていて隙間風が吹きこんでしまうような状態であった。


一歩入ると部屋の中には異臭が漂っていたため、即座にリューが【クリーン】を掛けて浄化した。


どんどん中に入っていくミィとリュー。だが、一応、中に寝ているのは女性なので、ミィに任せてリューは部屋には入らず廊下で待つ事にした。


ミィ 「酷い熱……!」


部屋の中に居たアイシャの母親は意識がない状態であった。地球で言う肺炎の状態のようだ、このままでは危ない。


すぐさま呼ばれたリューが、白の仮面を装着して【ヒール】を発動した。


健康な状態まで時間を巻き戻してやろうとリューは最初思ったのだが、どれだけ巻き戻せばいいのかが分からなかったのでヒールを選択したのだ。生まれつき病弱だったりすると、いくら巻き戻しても治らない事になってしまうからである。


だが、ヒール一発では、アイシャの母親は少し状態を持ち直したものの、完全には治らなかった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


幼女 「カレーライスだぁっ!」


乞うご期待!


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