第81話 ソフィの謝罪と指名依頼

翌日、リューに指名依頼が入ったと聞き、リューは冒険者ギルドにやってきていた。

 

だが、ギルドに着いてみるとソフィ達が待ち受けていた。

 

リュー「わざわざ挨拶に来てくれたのか、律儀だな。」

 

ソフィ「無論じゃ、謝罪をさせてほしいのじゃ。あの時、気が動転して、リューに酷い事を言ったような気がする、申し訳ないのじゃ」

 

リュー「俺はソフィの肉親を殺そうとしたんだ、気持ちは分からんでもない」

 

ソフィ「いや、頭を冷やして考えてみれば、兄上は一度痛い目を見て反省すべきであった。兄上が平民を簡単に無礼討ちにして殺してしまう事があるという噂は聞いておった。そんな事をしていれば、恨みを買って、いずれどこかで殺されてもおかしくはなかったじゃろう。殺さずに懲らしめてくれたリューには感謝しておるのじゃ」

 

リュー「そ、そうか……」

 

ソフィ「それに、転移の事も黙っていて欲しいと言われたのに言ってしまった。というか、兄上に転移を見られた。あの兄上の性格じゃからな、転移を使える魔法使いが居ると知ったらどんな扱いをするか……どうにかしなければと思って、妾の婚約者となれば兄上も無茶はすまいと咄嗟に言ってしまったのじゃ、すまぬ、リュー」

 

ソフィは頭を下げた。(王女が頭を下げるという行為にマリー達はピクリと反応したが、何も言わなかった。)

 

リュー「まぁ俺もよく考えてみたら、ソフィに言われたとおり、転移を隠しもせずに使っていたからな。遅かれ早かれ話が広まるのは時間の問題だったんだろう。」

 

リューが気にしていない様子なので、ソフィはホッとした顔をした。

 

リュー「で、王都に帰る前にわざわざ謝りに来てくれたというわけか」

 

ソフィ「…? 王都には帰らんぞ?」

 

てっきり別れを言いに来たのかと思ったリューだが、ソフィは不思議そうな顔でそれを否定した。

 

もともと、初心者研修用に組んだパーティである。ダンジョン研修まで終わった今、続ける理由もない。ダンジョンから戻れば自動的に解散、その後はもう遭う事もないだろうと思っていたのだ。

 

それに、リューがハリスと決闘した時、リューはソフィの兄に向かって躊躇なく剣をふるい、腕を斬り飛ばし胸を貫いて殺しかけたのである。最終的にはハリスは生き返り無傷で済んだとは言え、そのリューの残虐な振る舞いを見て、ソフィはショックを受けてドン引きしていた様に見えた。

 

その様子から、そのままソフィは自分を見限り王都に帰るだろうとリューは思っていたし、それで良いと思っていた。

 

そもそもリューはソフィの研修が終わったらソロに戻り、ギルドの新人研修からも手を引くつもりであった。協調性のないリューにパーティは向いていないと思っている。

 

ところが、話を聞くと、ソフィは研修用の臨時のパーティという認識はなく、これからもリューとパーティを組んで依頼を受けるつもり満々であったらしい。

 

今日も、指名依頼の件でリューを待っていたと言う。

 

指名依頼はリュー個人にだったのだが、依頼主は領主であり、ソフィは領主の別荘に厄介になっている関係で、領主からリューの“パーティ”に指名依頼が出るという話を聞き、出番じゃとやって来たらしい。

 

とりあえず、領主の代理として警備隊長のゴランが来ているというので、待たせては悪いので、先にゴランから話を聞く事にした。

 

ギルマスの執務室に入っていくリュー。ソフィ達もパーティなのだから当然と言う顔で続く。後でパーティ解消についてちゃんと話さないといけないなと思ったが、まずはゴランの話を聞いてからと言う事にしたのが失敗であった。話を聞いてしまえば、自然、その件は一緒にやるという流れになってしまうものである。

 

 

 

 

ゴランの話では、なんでも最近、ミムルの街の中で若い女性が姿を消す事件が増えているとの事。最初は主にスラムおよびその周辺で起こっており、警備隊が訴えを聞き、捜査していたという。 

※以前は、街の警備隊はスラムの住人の訴えなど無視していたのだが、ゴランが警備隊長になってからは、差別する事なくスラムの住民の救援要請にも力を注ぐようになったのだ。

 

警備隊はスラムの中の犯罪組織が怪しいと睨んでいたが、なかなか尻尾を掴む事ができないでいた。


そのうち、最近ではスラムではなく一般の住宅街でも女性が失踪する事件が起き始めたのだとか。解決が急がれる中、スラムにも詳しく実力もあるリュージーンに助力を求めるべきとゴランが領主に進言したのだそうだ。

 

リュー「別に俺はスラムに詳しいわけではないんだが……」

 

ゴラン「貴族街に住む者達よりはよほど詳しいだろう」

 

リュー「まぁ、そりゃそうかもしれないが……」

 

だが、スラム街の犯罪組織と言えば、先日、リューが壊滅させてしまったはず。残っているのはゾーンが率いる「銀狼」だけである。銀狼もスラムの犯罪組織の一つであるので悪い事もしないわけではないが、基本的には“悪い奴”をターゲットにした義賊的活動がメインで、一般市民に手を出したりはしないはず。

 

リューもかつて助けられた事があるゾーンがそんな悪どい事をするとは思えないのだった。ところがゴランは、そのゾーンが怪しいと言うのだ。

 

指名依頼など引き受ける気はなかったリューであったが―――そもそもリューはFランクである。Fランク冒険者は指名依頼を受ける義務はない。Fランク冒険者に指名依頼が出る事自体が普通はない―――だがゾーンが怪しいと聞き、気になったのでリューは引き受ける事にした。リューも過去にゾーンに恩があるのだ。

 

そうなると、スラムに行ってゾーンに直接事情を聞いてみるのが手っ取り早い。会って話せば、神眼で相手の心が読めるリューであれば、真相はすぐに分かるはずである。

 

だが、困った事に、ソフィ達が一緒に依頼を受けると言い出した。

 

リューはパーティで活動する気はない、ソフィも王都に帰ったほうがいいと説得しようとしたのだが、ソフィは帰る気など毛頭ないと言う。リューと組んだのも、研修用の臨時パーティとは説明されていなかった、今後もパーティとして活動すると聞いていると言うのだ。

 

リューがキャサリンの方を見ると、キャサリンはソフィに見えない角度ですまなそうに手を合わせていた。本当に、一回キャサリンを締めないといかんなと思うリュー。少なくとも、これ以上リューがギルドに手を貸す義理はないだろう。

 

それはともかく、ソフィとしては、自分達はパーティなのだから指名依頼も当然一緒に受けると言い、ゴランとしても、別にリュー個人で受けてもパーティで受けてもどちらでも問題はない、というか、領主の客である王女の希望を無下に断る事などできようもないので、王女がそう言うならそうしてくれとリューに頼む始末であった。

 

結局、スラムに5人で向かう事になってしまったのであった。

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

ゾーンに会いにスラムに行くがゾーンは……?

 

乞うご期待!

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る