第650話 待ってる……

チェザレがやらかしたせいで、ジャッキーは少々困った立場に追い込まれてしまう事になった。


ユサークは、『もし自分が居なくなった時はジャッキーを頼む』と、必死に稼いだ金をマルタに渡して頼んでいた。


マルタにも子供が居なかったため、ジャッキーを引き取る話には乗り気であったのだが…


そのマルタがジャッキーの面倒を見る事を拒否したのだ。


冒険者で魔物退治に行っていたマルタの夫も仕事から戻ってきたのだが、顛末を聞き、ジャッキーを引き取る事は反対だと言い出した。


ユサークの過去の悪行がどうやら本当の事であったと衛兵隊と冒険者ギルドによって証明されてしまった事も大きい。


聞けば、ユサークに娘を犯され殺された者が二桁も居るという。その恨みは深そうである。


今回のチェザレのように、その者達が、ユサークに同じ苦しみを味あわせてやりたいと、矛先を娘であるジャッキーに向けるかも知れないのだ…。


ジャッキーを引き取れば、復讐に来た者にまた襲われる可能性がある。それでもしまた妻のマルタが刺されたら? と考えたら、夫が反対するのも仕方がない事だろう。(マルタは子供を欲しがっていたが、夫のほうはマルタが居れば子供は居なくても良いと元々思っていのだ。)


マルタ自身も、生き返り傷は治ったとは言え、刺されて一度は死んだのである。その体験は心にトラウマを残してしまった。彼女が及び腰になったとしても責められはしないだろう。


マルタは、預かっていた金もすべて返すと言ったが、これから連行されていくユサークに金を返されてもどうにもならない。そこで、リューが金を預かる事になった。ユサークはリューにジャッキーの保護を頼んだのだ。


リューはトナリ村の孤児院のオーナーであるので、ジャッキーも、トナリ村に連れて行こうとしたのだが……


ジャッキー本人が頑なにそれを拒否した。


最初、ジャッキーは父と一緒に行くと言った。だが、それはユサークが拒否。それはそうだろう、これからユサークは処刑されるのだ。そんな姿を娘に見せたくはない。


ジャッキー 「じゃぁ……待ってる」


ユサーク 「…え?」


ジャッキー 「この街で、パパが帰ってくるのを待ってる」


ユサーク 「ジャッキー……


……パパは、もう帰ってこない。パパは処刑されに行くんだから……」


ジャッキー 「パパは…悪い人なんかじゃない」


ユサーク 「ジャッキー……。パパはね、昔、悪い事をしたんだ。とっても悪い事をね。だから、その罰として、死刑になるんだよ」


はっきり言い切ったユサークの言にはリューも驚いたが、どうやらユサークは、中途半端な希望を残しては行けないと覚悟を決めたようだ。


ユサーク 「だから、パパは死んだと思って、これからは一人で強く生きるんだ。だけどいいかい、決して悪い事はしてはいけないよ? 悪い事をした者は、必ず罰を受けるんだ…パパのようにね……これがパパがお前に教えてやれる最後の事だ。


お前はまっすぐに強く生きろ…!


おまえはパパの子だ、大丈夫! 


ジャッキー、愛しているよ、心から……」


ジャッキー 「……パパ……


……信じない。


パパが悪人だなんて私は信じない。


私にとってはパパは、優しくて、街の皆のために一生懸命働いた、立派なパパだもん」


急にジャッキーはリューの前に来てリューを睨んだ。


リュー 「……?」


ジャッキー 「…パパは死刑になるって決まっているの?」


リュー 「…さぁな。どんな刑になるのかは俺が決める事じゃない」


ジャッキー 「じゃぁ、まだ分からないよね」


ジャッキーはユサークのところに戻って言った。


ジャッキー 「悪い事をしたのは本当かも知れないけど、罪を償って、そして、生きて帰ってきて…!


私は信じてこの街で待ってる。いつまでも……」


ユサークは何も言えなかった。







リューは、ジャッキーを問答無用でトナリ村に連れて行ってしまう事もできたのだが、そうする気にはなれなかった。子供とは言え、明確な意志を示した以上、リューはそれを尊重してやりたいと思ったのだ。


とは言え、九歳の子供を街で一人暮らしさせるわけにも行かない。悪い奴はこの街にも居るだろう。子供が一人で暮らしていたなら、攫われて奴隷商に売り飛ばされるのが落ちである。


それにマルタも、隣にジャッキーが住んで居たら巻き添えになる可能性があるから出て行ってほしいと言う。もともとマルタ達はジャッキーとは赤の他人。冷たいとはリューも言う気はなかった。






仕方なく、リューはジャッキーをこの街の孤児院に連れて行く事にした。


孤児院の子供達はかなり貧しい生活をしていた。孤児院が裕福な生活をしているというのは普通はない話なので当然ではあるが。


話してみたところ、管理を任されているシスターは信頼できそうな人物であった。リューはシスターに預かった金を渡し、さらに追加で多額の寄付をした。


時々様子を見に来る、今後も金銭面でも支援するつもりなので、金の心配はしなくていいと約束して、リューはユサークを連れて街を出たのであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


悪人の子?


乞うご期待!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る