第448話 退屈な村の生活が刺激的に変わった

ラリオ 「誰だおめぇ?」


リュー 「この店のオーナーだが?」


騒ぎに気づいた店の奥に居た店員が、急いでリューを呼びに走ったのだ。こういう場合にはすぐにリューを呼ぶように命じられている。リューは店のすぐとなりにある家にいるのですぐに知らせられる。居ない時も、骸骨の面を着けた人に言えばすぐに呼んできてくれるそうだ。幸い、リューは在宅であったので、すぐに店に駆けつけてくれたのだった。


ワリオ 「おう、てめえがオーナーか! おうおう、この店は店員にぃ、おう、一体どういう教育をおぅ~」


だがいい終わる前にリューがワリオの額を掴んで握りしめていた。


ワリオ 「あいててててて!」


ギリギリとリューの握力で額を締め付けられ、激痛にワリオも堪らず悲鳴をあげる。


ワリオ 「いてえってっ! てめぇ離しやがれ!」


これでもリューは手加減しているのだが。リューの握力であれば、その気になればそのまま頭蓋骨を砕いてしまう事も可能であろう。


リュー 「店の中で騒ぐな、他の客の迷惑だ。話があるなら裏に行こうか?」


リューはワリオを掴んだまま、問答無用で店の奥へと引きずって行く。


ワリオ 「離せ、この、イテェって、お願い…」


ラリオ 「待ちやがれ!」


一瞬リューは振り返り、ラリオ達に向かって顎で来いと示す。


ラリオ達も慌てて後を追った。




  * * * * *




アタイはサリ。田舎の村娘だ。


今、アタイの目の前では、アタイの雇い主が、三人の破落戸ならずものに囲まれている。


雇い主オーナーは、見ようによっては少年にも見える、年齢不詳の華奢な男だ。商人ではなく冒険者だって話だけど、きっと、金を渡して解決する事になるんだろうと思った。三人の大男相手に抵抗できるわけがないのだから仕方ないだろう。


この店には先日雇われたばかりだ。


きっかけは、ある日、村長がイベントをやるとお触れを出した事だった。内容は、村に新しく来た新顔の冒険者が持ち込んだよく分からない料理の食べ比べをするらしい。


なんでもいい、とにかく参加する。娯楽も少ないこの村では、何かあれば皆、積極的に参加するのだ。


なんでも、イベントは先着五百人しか参加できないらしいから、急いで広場へと向かわなければならない。


だが結局、先着順というのはデマで、くじ引きだったらしい。しかも、前日にもうくじ引きは終わってるというじゃないか。しくった。


だけど、会場に居た幼馴染のキャサリンが当選した券を売ってくれたので参加できた。キャサリンは弟と一緒に申し込み、二人分当選したらしい。だが、弟が急病で寝込んでしまったんだとか。


チケット代に銀貨3枚と言われた。だが、高いと値切ったら銀貨1枚にしてくれた。キャサリンは友情価格だと言う。知らない奴だったら絶対負けてはやらなかったと。だが、もともと無料だったものに金を払わせるのはどうなんだ?


だが、背に腹は変えられないので払った。


イベントは、出された二種類の料理を食べ、どっちが美味かったか投票するだけだった。


その料理を食べて、アタイは衝撃を受けたんだ。


美味かった。今まで生きてきて、今まで食べた料理の中で一番と言っていいほどだった。


だが、量が少ない、もっと食べたい。思わずおかわりを貰えないか聞いたが、一人一杯分しかないと言われた。周りの連中もおかわりを欲しがっていたが、ないものはないらしい。大勢に食べてもらうために小さめの器にしてあるらしい。


どっちに投票したのかは憶えていない。正直、どっちも美味くて、どっちか決められなかったのだ。


そして数日後、この料理を出す店が村にオープンした。


なるほど、あのイベントは集客のための宣伝だったのか。


早速行ってみたが、既に長い行列ができていた。なんでアタイはいつも出遅れるんだ? てかみんなどこで情報を掴んでるだろう?


キャサリンがやってきてアタイの後ろに並んだ。どうやらキャサリンも出遅れたようだ。


アタイも列に並んで長時間待ち、ついにアタイの番になった。だが、用意していた料理が品切れで、あと一人分しかないという。つまり、アタイが最後の客ってことだ。


キャサリンは悔しがっていた。イベントの券を売ってやったんだから順番を替われとキャサリンが言い出したが、こればっかりは譲れない。イベントの券をタダでくれてたら、考えないでもなかったけどね?


食った料理はやっぱり美味かった。これを毎日食べたい。それほど高い値段ではないが、毎日の食費にくらべたら少し割高ではある。毎日食ってたら金が続かないかも。よし、稼ごう! 村で金を使うこともあまりないので、今までは週半分くらいしか働いてなかったが、この料理を食べるためなら毎日頑張れる!


仕事を探していると、なんとちょうど、この店が従業員を募集しているという情報が入った。例によって出遅れてしまった。凄い倍率だった。だが、応募者は先着順というわけではなかったので助かった。誰を雇うかは、店主オーナーが全員と面接して決めるらしい。


この人数では合格は難しいかも知れないとは思ったが、面接でこの料理に対する情熱、そして食べる事への情熱を熱く語ったら、なんと採用された。食い意地の勝利だ。


最初はホールの接客からだった。客にオーダーを聞き、料理を運び、皿を片付ける。簡単簡単。いずれ慣れてきたら、徐々に調理場の仕事なども教えてもらえるらしい。


そして、なんと言っても “まかない” だ。店のメニューはカツとカレーしかないのだが、初めての時は食い放題だと言われて大量のカレーに何枚もカツを乗せて食いまくった。その後、張り裂けそうな腹を抱えての業務はなかなかしんどかったが。


さらに、時々違う料理も出してくれる。見たことない料理が多かったが、これがまた美味い! 店の料理をタダで食わせてもらえて、給料までくれる。最高の職場じゃないか。


だが、そんな時、アイツラがやってきたんだ。ちょっと荒っぽい態度の連中だなとは思ったけど、あまり気にしてなかった。この街は冒険者が多いから、そんなもんかと思ったんだ。


だけど、食い終わった途端、料理に虫が入ってたとか言い出しやがった。


見れば、皿からはみ出るようなデカイ虫を持ってる。


そんなん入ってたら出す前に気がつくっつーの!


アタイはお前らが入れたんだろって言ってやった。だけど、そいつらに証拠を出せと言われて答えられなくなってしまった。


証拠がないなら謝れと言われた。お前の酷い言いがかりは店のオーナーに報告するとも言ってた。まずい、せっかくいい仕事に就けたのに、クビになるかも?


謝るだけならタダだ。悔しかったけど、それで済むならと、アタイは謝った。


だけど、それじゃ済まなかった。そいつら、金を要求してやがった。やっぱり、最初からそれが目的か? コイツラ~


そんな金、アタイは持ってない。店の金をどうこうできる立場でもない。どうしよう、店の先輩に相談しようか、そう思っていた時、オーナーが現れて、ソイツらを店の裏に引きずって行ってしまった。


アタイは慌てて後を追った。来なくていいとオーナーは言ってたけど、そうはいかないでしょ。


だけど、店の裏庭で見た光景は、信じられないものだった。オーナーが大男三人をボコってる。それはもう、ケチョンケチョンに。


最初、男達は「虫なんか食わせやがって」と難癖つけてたが、オーナーは「お前が入れたんだろ?」と言った。「証拠を出せ」という男達に、「真実は、俺と、お前達がよく知ってる。俺達の間に証拠なんか必要ないだろ?」とよく分からない理屈を言って、聞く耳持たないのだった。


「正直に認めて謝るなら許してやるが?」と言いながら、オーナーは延々、男三人をボコリ続ける。最初、抵抗していた男達だったけど、三人がかりでもオーナーにまったく歯が立たない。


数分後には、土下座で謝るボロボロの三人と仁王立ちしているオーナーの図ができあがっていた。


なんか、無理やり暴力で認めさせているだけにも見えるんだけど……。


でも、オーナーは男達に、どうしてこの店に来たのか、どういうつもりだったのか、洗いざらい喋らせていた。それを聞いていると、どうやらやっぱり、最初から強請り目的で店に来たっぽい。


話を聞き終えると、オーナーと男三人の下に魔法陣が浮かんだ。そして四人とも消えてしまったが、すぐにオーナーだけが戻ってきた。


それって何? 魔法?


オーナーは、どうやら只者ではなかったみたい……


後で知ったんだけど、オーナー、Sランクだった。Sランクってのは、国内でも2~3人しか居ない、冒険者の中で最も実力がある人間が与えられるランクなんだそうだ。そんなランクをオーナーが持ってるって…


人は見かけによらないもんだね。


正直、ちょっと憧れる。


退屈だった村、退屈だったアタイの人生だったが、ちょっぴり刺激的になってきたみたいだ。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


『お前達、誰にやられた?!』


長男登場


乞うご期待!



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