第402話 リュー「ダンジョンに拉致ってやろうか?」
ミィは、リズと別れてリュー達の泊まっている宿に戻った。
宿は、例によってこの街にもあるゼッタークロス商会チェーンの “木洩陽の宿” である。
リューは王都を出たらもっと安い宿に泊まるつもりだったのだが、高級宿に慣れてしまうとなかなかレベルを落とす気になかなかなれない。
やはり高級宿は、食事や部屋の質、さらにはセキュリテイ面など、安心感が高いのは事実なのだ。子供達もいるし、金はまぁあるので、子供達と居る間くらいは木洩陽の宿に泊まり続ける事にしたのであった。
ミィの部屋ももちろんある。ミィも既に、リューのパーティ “ホネホネ団” の仲間だからである。
* * * * *
宿に戻ったミィは、なんだか浮かない顔をしているのを心配したヴェラに事情を訊かれた。ミィは迷ったが、ヴェラ達には事情をある程度話していたので、今日あった事を素直に話した。
ヴェラ 「…そのデボラって女、極悪ね。ダンジョンの中での殺人は重罪じゃないの? 裁けないの?」
ミィ 「相手は代官の娘なので、よほど確たる証拠がないとダメだと言われました」
モリー 「酷いですね、そのせいでミィさんは奴隷落ちまでしたっていうのに」
リュー 「俺も過去に、ダンジョンの中で殺されかけた事があったから分かるよ。許せないよな。だが…ダンジョン内の殺人は証拠が残らない。結局俺も、まともに罪に問う事はできなかった」
ヴェラ 「この世界は科学捜査なんてないから、証言頼りになってしまうしね。そうなると、人間は嘘をつくから……」
モリー 「教会の神職の方の中には、嘘を見破るスキルを持っている人も居ます。裁判で、そういう人に頼めば…」
ヴェラ 「貴族とか、自白用の首輪を使うわけには行かない立場の人間の裁判ではそうする事もあるみたいね。平民の場合は自白用の隷属の首輪を使うけど、それも重大事件の時だけなのよね。でも、今回は無理かもねぇ…。相手は代官の娘でしょ? それだと、訴え出ても不起訴、裁判すらしてもらないかも」
リュー 「結局、裁くのは人間の為政者だからな。真実を明らかにする事に不都合があれば握りつぶされるってわけだ」
ヴェラ 「裁判を管轄しているのはその街の領主、領主が居ない街では代官が管理運営するものだからね。相手が代官の身内となると、不公正な処理をする可能性は高いわねえ、領主や代官にもよるだろうけど…」
ミィ 「代官が口出しできないほどの確たる証拠を出せないなら勝てる可能性は少ないから、忘れて未来の事を考えたほうがいいんじゃないか? ってギルマスも言ってました」
リュー 「ここのギルマスも腐ってるのか? まぁどこも変わらんか」
ヴェラ 「事なかれ主義で保身が大事。上に諂い下には威張る。会ったことないけど、よく居るタイプなんでしょうねきっと」
リュー 「しかしまぁ、この世界では、合法的な正義ってのはあまり成り立たないよなぁ、俺の時も結局、非合法な手段で復讐したし」
ヴェラ 「どうやったの?」
リュー (ニヤリと笑う)「相手と同じ方法を使ってさ。ダンジョンの中で殺そうとしてきたのだから、こちらも相手をダンジョンの中に転移で連れ込んでだな……」
ヴェラ 「殺したの?」
リュー 「さぁ? よく覚えてないなぁ」
ヴェラ 「白々しいわね」
リュー 「いや、本当にもうよく覚えていないんだが…謝って十分反省した奴は生かしておいてやった気がする。しっかり反省させるために、キツイお仕置きをした上でな」
ヴェラ 「お仕置きって?」
リュー 「例えば、骨を折っては治してやるとか。それを百回くらい繰り返して、さらにそれを、場所を変えて全身の骨で順番にやっていくとか……」
ヴェラ 「痛そう……聞くんじゃなかった」
リュー 「ヴェラだってやってたじゃないか、ミィに酷いことした奴隷ギルドのエージェントに」
ヴェラ 「まぁね…あの時は頭に来てたからね」
ランスロット 「さすが、リューサマ! 悪い奴はきっちり締めたわけですね。そこに痺れる、憧れるぅ!」
ヴェラ(ジト目で) 「また妙な言い回しを教えて…」
リュー目をそらす。
ランスロット 「リューそれでも反省しなかった連中はどうされたのですか?」
リュー 「そういう奴は、お仕置きの後、旅に出てもらった? いやよく覚えてないがな。なんならミィもやるか? 手伝ってやるぞ? そのデボラって女と冒険者達、ダンジョンに連れ込んで……」
ミィ 「いえ、私はもういいんです…。
デボラが私達を殺す気だったなんて、今日初めて聞いた事で実感ないですし。
私も、その後奴隷になってから色々あって汚れてしまいましたし…。ハンスが今幸せなら、それを壊したくない」
ヴェラ 「あなたは汚れてなんかいないわ。奴隷になる前まで肉体も巻き戻したんだから! そうでしょ、リュー?」
リュー 「ああそうだ」
ミィ 「いえ、気持ちの問題なんです…」
ヴェラ 「そう…気持ちは、自分で乗り越えるしかないわ。あるいは、リリィに頼んで記憶を消してもらおうか?」
ミィ 「いえ、記憶を消すのは……どんな事も、自分の人生ですから。全部背負って、前に進んでいきます」
モリー 「偉いです、ミィさん! 恨みや憎しみは何も生みませんから。大切なのは、これからどう生きるか、ですよね!」
ヴェラ 「忘れたほうがいい事も有ると思うんだけどねぇ……」
その時、ドアをノックする者がした。宿の人間が、ミィを訪ねてきた者が居ると伝えてくれたのだ。
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次回予告
酒場で狩風と遭遇
乞うご期待!
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