第106話 バット引退宣言

バット 「あ、そう言えば、リュージーンに、誰に依頼されたのか訊かれたんで知らないって答えたんだが、そしたらギルマスに直接訊きに行くって言ってたような……」


バンクス 「リュージーンがそう言ってたのか?! って、依頼主について話せるわけないだろうが」


バット 「無理矢理にでも聞き出すつもりなんじゃないか?」


雷王 「奴ならそれも可能か」


青くなるバンクス。


祥王 「ご愁傷さま」


雷王 「俺達はもう知らんよ、依頼は失敗でいい。違約金も払う。後は、奴との対応はギルマスに任せる。」


祥王 「ギルマスがリューを捕らえたらいいんじゃないか? ギルマスも元Sランク冒険者だろ?」


バンクス 「お前たちが束になって勝てなかった相手に、引退した俺が勝てるわけなかろうが!」


頭を抱えてしまったバンクス。


どうするも何も、リューを捕らえる事が可能な者はもう居ないのだから、依頼主に失敗の報告をするしかないのだが。


頭を抱えているバンクスを残し、雷王達はいそいそと席を立とうとしたが、そこで慌ててバットがもう一つ報告があると言い出した。雷王達も残って欲しいという。


雷王 「俺達も関係ある事か?」


バット 「ああ……無関係な話でもない、一緒に聞いてくれるか」


バンクス 「一体何なんだ? まだ何かあるのか?」


バット 「ああ……今日を最後にバットという冒険者は居なくなる。後はよろしく頼む」


バンクス 「どこかに行くのか?」


バット 「違うよ、居なくなる。というか、元から居なかったんだ……」


バットの変装の魔術が解けていく。身体は少し華奢になり、顔は少女のそれに変わった。


「「「「!?」」」」


リーン 「騙していてごめんなさい。アタシはリーンと言います、バットの双子の妹です。兄は、数年前に死んだの。それからずっと、アタシがバットのフリをしていたというわけ」


「「「「なんだってぇ~~~~」」」」


雷王 「まったく気づかなかった……」


リーン 「ここに居る全員、出会ったのはバットが死んでからだから、知るわけがないわね」


バンクス 「……でも、なんで、今、それをカミングアウトしたんだ???」


リーン 「……リュージーンに負けたから」


バンクス 「奴にそうしろと言われたのか?」


リーン 「違うの。誰かに負けたら、バットのフリはやめようと決めてたの。もともと兄のフリを続けるのにも無理があったしね」


祥王 「べつに……リーンと言ったか? お前が変装して誰かのフリをしていたからと言って、何も問題はないんじゃないか? ランク詐称なら重罪だが」


バンクス 「バットがSランクになったのは二年前だ。その時点では既にバットは、リーン?が化けていたんだよな?」


リーン 「そうよ。アタシが兄に成り代わったのはまだBランクの時だから、それからA、Sとランクアップした時、ずっとバットはアタシだった。兄の夢だったのよ、Sランク冒険者になるのは。それを叶えてあげたかったの」


祥王 「と言う事は、Sランクは、リーンの実力という事だよな?」


リーン 「まぁ、ね。そういう事になるわね。兄の遺してくれたあの弓の力も大きいけど」


雷王 「なら何も問題ないんじゃないか? バットが実は女だったというのは驚きだが、そんなのはよくある話だ」


バンクス 「そ、そうか……で、今後はリーンとして活動すると言う事か?」


リーン 「いえ、故郷に帰ろうかと思ってます」


バンクス 「なんだって? それは困る! 王都のSランク冒険者が居なくなってしまうじゃないか」


リーン 「だから、皆に聞いてもらいたかったのよ。これからは、王都の冒険者ギルドのトップは陽炎の烈傑と闇夜の風になるって事だからね」


バンクス 「冒険者もやめてしまうのか?」


リーン 「それは分からない。ただ、一度故郷に帰って兄の墓参りをしたい。ずっと帰ってなかったしね。少しのんびりしながら今後のことを考えてみるわ」


バンクス 「……すぐに発つのか?」


リーン 「そうね。まだ2~3日は王都に居るつもりだけど」


バンクス 「そうか……」


雷王 「あ~、話が終わりなら帰らせてもらうぞ。」


バンクスから返事ないので了承という事にして、再び席を立った雷王であったが、立ち止まって言った。


雷王 「バンクス、リュージーンの事を依頼主に報告する前に、一度リュージーンに会ったほうがいいかもしれんぞ。奴は、敵に回さないほうがいい」


バンクス 「そう思うか?」


雷王 「依頼主が誰かは知らんが、たとえ相手が王族であっても……むしろ、王族などより奴のほうがやっかいな相手かも知れん」


祥王 「そうだな、おそらく、奴が本気になったら王都が壊滅するかも知れん……」


バンクス 「そんなにか!」


祥王 「冗談だ。いくらなんでもそこまではな。だが、下手に手を出せば、冒険者ギルドは壊滅するかも知れんぞ? 悪いが奴と戦争をするなら俺たちは巻き込まないでくれよな」


バンクス「……」


雷王 「しかし……奴が王都に現れたとなると、いろんな意味でトラブルが起きそうな気はするな」


笑いながら部屋を出ていく雷王達。


リーンも頭を下げて出ていく。


一人残されたバンクスは、呟いた。


「今日一日だけで、情報量が多すぎるぞ……」


― ― ― ― ― ― ― ― 


次回予告


王都でのんびり ~ 再び冒険者ギルドへ


乞うご期待!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る