第528話 失ったものと残ったもの

結局、子犬は一匹しか助けられなかった。


以前のリューなら殺された子犬達を時間を巻き戻し生き返らせる事もできた。だが、今は時空魔法の “スキル・・・” を失っている。


だが……


…そう、失ったのは “スキル” だけである。


“スキル” は、生まれつき備わっている能力で(稀に後天的に身につけるケースもあるが、基本的にはない)、使い方は自然に頭に浮かび、特にそれを使うための努力も勉強も必要ない。


一方、魔法は違う。この世界で魔法が使える者は、魔法に関連したスキルを持って生まれた者が圧倒的に多いが、実はスキルを持たなくとも、後天的に魔法が使えるようになる事も可能なのである。(もちろん簡単ではないが。)


実は……リューは、転生時の受付嬢が出てきた夢が、どうやら単なる夢ではなく現実である事を理解した後、不死王にどうすれば良いか相談していた。


不死王は、話を聞いた時、最初、リューの能力と引き換えにするなど、とても釣り合う話ではないだろうと言っていた。リューの能力が失われるなど、不死王としては許容できない事である。


ただ、受付嬢とのやりとりをリューから聞いた不死王は、抜け道がありそうな事に気づいた。


リューには魔力が生まれつきほとんどなかった。それは、膨大な魔力を必要とする時空魔法を使うために、オリジンから魔力を無限に生成できる能力を与えられていたためである。それを実現する代わり、魔力がほとんどない体質になっていたのだ。


だが、スキルを失うならば、その代わり、魔力がほとんどない体質についてどうにかできないか? とリューが問いかけたところ、その解答は保留(再度上司に相談)という事になった。


リューとしては、スキルを失う代わりに、魔力ほぼゼロ状態を改善、理想を言えば賢者並みに膨大な魔力があれば嬉しいが、それが無理ならせめて常人並みに戻してもらいたかった。それなしで、単にスキルを失うだけだったら、魔法の世界で魔法が使えない人になってしまう。いくら竜人の肉体は残るとしても、それでは面白くない。


だが、その話を聞いた不死王は、おそらくそれは無理だろうと予想した。


結局、不死王の読みは正解で、もしリューが世界の統合を望む場合、スキルは全て失われ、かつ魔力も戻らないという返答であったのである。


だが、それだとあまりに気の毒と言う事で、オリジン・魔力変換能力は特別に残してあげると転生受付嬢は言ったのであった。(実はそれは温情などではなく、そうできない裏事情があったのだが、受付嬢はわざと恩着せがましい言い方をして誤魔化したのである。リューも、言い方が何か奥歯にモノが挟まったようだったので、なんとなく裏がありそうだなとは思ったが、能力を残して貰えるという事なので、藪蛇にならないよう、あえてそれ以上はつっこまなかった。)


リューが与えられた能力は、そのどれもが神級である。空間を操り、時間を操る。時間を止めたり巻き戻したりさえ可能である。またそれに付随して与えられた神眼は、すべて・・・を見通す神の眼である。だが……


実は、リューが与えられた能力の中で、一番重要なのは、魔力の分解・生成能力なのである。なぜなら、魔力の問題さえどうにかなるならば、それ以外の魔法は、不死王ならば後からどうにかできるからである。なんなら、魔法を使うことを補助する道具を作っても良い。(というかそもそも、そのための魔道具である魔法制御用の仮面を既にリューは貰っている。)


つまり、不死王の助力があるのならば、スキルを失っても、リューはほとんど何も失わないで済むという事になるのだ。


さすがにリューもそこまでお人好しではなく、(ミムル復活のために)無敵の能力を失う事は、代償としては割が合わないと考えていた。なのでリューも、世界の統合は諦める方向に傾いていたのだ。


だがもし、“スキル” がなくなっても能力をほぼ維持できる事であれば……?


ただ、そうなると不死王であっても対応できない、失われてしまう能力も一部にはあるそうだ(例えば神眼)。しかし、多少の不便は生じるにせよ、その程度で済むのであれば、ミムルを復活させたいとリューは思ったのであった。


そうしてスキルを失ったリュー……


失ったのは、時空魔法の “スキル” とそれに付随する神眼の能力。


残ったのは竜人の肉体と竜人レベル上昇能力、そして、魔力分解生成能力である(※)。


※実はこの能力は、魔力を生成分解するだけではなく、あらゆるモノを分解・創造する能力があるのだが、リューはそこまでは使いこなせてはいない。特に、創造方向での使用の才能は、現時点では皆無に近い。そもそも神が行う『創造』とは、全てを見通す眼と、全ての人間の思考を同時に読んで処理できるようなとんでもない演算能力がなければできない事なのである。ただの人間の脳力しかないリューには無理な話なのである。


魔法に関しては、魔力ほぼゼロの弊害でセンスがまったくなかったが、不死王が作ってくれた魔法制御用の仮面があれば、全ての魔法を使う事ができる。


さらに、世界の統合とは関係ないが、竜人という種族が持つ生来の能力をも追加で身につける事ができたので、結果としては何も失っていないどころか、以前よりむしろ強くなっているとも言える。


魔法に関しては、不死王の仮面がないと使えない制約があるが、不死王が言うには、それも使っている内に体が覚えてしまえば、いずれは不要になるという事であった。


以前、不死王が作ってくれた仮面の中に、もちろん時空魔法の仮面もあった。時空魔法についてはリューにはスキルがあったのでその仮面は使った事がなかったのだが。


その仮面は、膨大な魔力を要求されるため、普通の人間が使うと魔力をすべて吸い付くされたあげく、生命力までも吸われて死んでしまう可能性があるという危険なシロモノであったが、魔力をほぼ無限に生成できるリューならば魔力についても問題ない。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


子犬達は全員生き返ったが

リューはお尋ね者に?


乞うご期待!



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