第398話 温泉

 女委のしてきたとんでもない話を聞いた後、それぞれの思い出に関する藩士をしていると、気が付けばお風呂の時間。


「……」

「で? まーたあんたは行こうとしない、と」

「……だ、だってぇ」

「だってじゃないわよ、まったく。女委」

「ほいきた!」

「は、はーなーしーてー!」


 背後に回られた女委に羽交い締めにされた。


 あまり強い力で振りほどくわけにもいかず、じたばたともがく。


 でも、女委って何気に腕力があるので、なかなか振りほどけない……。


「えーっと、未果ちゃん、これってどういうこと? どうして依桜ちゃんはお風呂に入ろうとしないの? 嫌いなのかな?」

「き、嫌いと言うわけじゃなくて、えっと、そのぉ~……」

「なんだか歯切れが悪いね。どうしたの?」

「ほら、依桜君って、元々男の娘だからね。未だに恥ずかしがってるんだよ」

「あー、なーるほどー。男の娘だったんだもんね! 女の子の裸を見るのも、自分の裸を見せるのも恥ずかしいよね!」

「じ、実はそうで……」


 未だに慣れないというか……少なくとも去年よりは慣れてるけど、なんだか慣れなと言うか……。


 女の子であることには、ほとんど慣れてるんだけど、どうにもこの辺りだけは慣れないというか……。


 それに……


「それに、近所の銭湯とかに入ってると、その……視線がすごくて……」


 入る度に、じーっと見られるんだよね……。


「「「あー……その胸じゃあね(だもんね)」」」


 やっぱり、そうなのかなぁ……。


「というわけでさっさと行きましょ。女委は依桜を運んで。エナの方は、依桜のお風呂道具を持っていて。行くわよ」

「やーだー! はーなーしーてー!」

「むぅ! 依桜君! あんまりじたばた暴れると……こうだ! ふぅ~~」

「ふゃぁんっ!?」

「わ、色っぽい声!」

「あぅぅぅ~、力が抜けるよぉ~……」


 ボクの弱点である、耳に息を吹きかけられて力が抜けてへなへなとしてしまった。


「よーし、依桜ちゃんお風呂へGo!」

「いやぁぁぁぁぁぁ……!」


 ずるずるとボクは女委に引きずられて、お風呂に連れて行かれました。



「うぅぅ……」

「ほら依桜、早く脱ぎなさい。さっさと入るわよ」

「は、入らないと、ダメ……?」

「そんなに潤んだ目に、上目遣いしてもダメ。か、可愛いけど……」


 はぁ、入らないとダメ、だよね……。

 嫌だなぁ……。


「依桜ちゃん依桜ちゃん、恥ずかしいならうちが脱ぐの手伝ってあげよっか?」

「そ、それはそれで恥ずかしいような……」

「なるほど、強制的に脱がす、か……」

「み、未果? 今すっごく不穏なセリフが聞こえたような気がするんだけど……」


 強制的に脱がす、とか言ってなかった?


 しないよね? 幼馴染の未果がそんなことしないよね?


 ……スキー教室とか、プール開きの日とかに未果に強制的に脱がされたような気がするけど……。


「女委、エナ、手伝って」

「おうともさ!」

「楽しそう! 任せて!」

「え、ふ、二人とも? な、何を――って、きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 女委だけでなく、楽しそうと言う理由でエナちゃんにも襲われ、結果、ボクは三人に裸らにされていました。


 は、恥ずかしぃ……。



「はぅぅ~~~っ、恥ずかしいよぉ~……!」

「なーにが恥ずかしいよ。依桜のスタイルで、恥ずかしがる場所なんてないでしょうが」

「そうだぜ、依桜君! そんな完璧ボディで何を恥ずかしがる必要があるのさ!」

「うんうん! 依桜ちゃん、すっごく綺麗だよ!」

「うぅぅっ……」


 裸にされた後、未果に右腕を、女委に左腕をそれぞれ掴まれて、エナちゃんにはなぜか背中に抱き着きながら浴場に連行されました。


 エナちゃん、それ動きにくくないの? と思ったけど。


 でも、それ以上にこうしているのがすごく恥ずかしい……。


 しかも、なぜかボクが入った瞬間、すごく熱の籠った視線が送られてくるんだよ? 未果たちに向けてなのかな? とも思ったけど、明らかにボクに集中している気がするし……。


『うっわぁ、依桜ちゃんの裸って、ほんっとうに綺麗……』

『色白だし、シミ一つないし……』

『しかも、あの胸にくびれ! 羨ましぃ!』


 あと、なぜか胸に視線が行っているような気がしてならない。


「さ、早く体洗って、入るわよ。時間も限られてるし」

「う、うん……」


 未果たち引かれるまま、ボクは比較的空いている場所に腰を下ろした。



「はふぅ~~……」


 じーっと見られつつも、体を洗い終えたボクたちは温泉に入る。

 ちなみに、露天風呂の方です。


 前回入った時、なかなかに肩こりが解消されたので、ちょっと気に入ってたからね。


「さっきまであんなに恥ずかしそうにしていたのに、いざ温泉に入ったら気持ちよさそうにするのね、依桜は」

「あ、あはは……これだけは、ね」


 まあ、それでも目のやり場に困るんだけど……。

 ここの温泉は透明度がそれなりに高いから、見えちゃってるし……。


「ふぅ~~、ここの温泉、気持ちいいね~」

「でしょ、ここって、肩凝りや冷え性、筋肉痛などにいいらしいからね。結構有名人の人とかも来るっぽいよ。ほら、旅館に入ってすぐの所にサインとかあったじゃん? あれあれ」

「なるほどー。学園長さんってすごいんだね~。せっかくだし、うちもサイン書こうかな~」

「いいんじゃないかしら? 人気アイドルのエナが訪れたとあったら、色んな人が来そうだもの」


 まあ、有名人が来た、って言うだけでアドバンテージになるからね、こういうのは。


「おーっす、しっかり浸かってるか?」

「あ、師匠」


 と、ここで師匠がお風呂に入ってきた。

 いつもと変わらない調子で入ってきたけど……うん? なんだかちょっと、お酒の匂いがするような……。


「師匠、お酒飲みました?」

「ん? ああ、軽くな。まあ、問題ない。すぐに消える」

「……そうですか」


 そもそも、勤務中に飲むってどうなんだろう?

 でも、こういう行事だったらあり、なのかな?


「ミオさん、こんばんは」

「こんばんは、ミオさん!」

「こんばんは、ミオ先生」

「ああ。ここは本当にいい場所だな。日頃の疲れが取れる」


 温泉に浸かり、肩をぐるぐると回しながらそう言葉を零す。


「師匠って、そんなに疲れてるんですか?」

「そりゃ、あたしだって人間だ。疲れないわけないだろ? それに、色々とセーブするっていうのも、神経を使って疲れるんだよ。それに、こんな重いもんをぶら下げてれば、肩も凝る。お前と、メイだってそうだろ?」

「まあ……はい」

「そりゃあね」


 むしろ、凝らないわけがないというか……。


 女の子になって、一番困ってる部分って言ったら、ある意味胸だもん。


 せめて、もう少し小さい状態に変わって欲しかったよね……。


「むぅ~、依桜ちゃんと女委ちゃんだけでなく、ミオ先生も、おっきい……」


 ふと、エナちゃんが羨ましそうに(?)ボクと女委、師匠の胸を見てきた。


「何言ってるの。エナも十分大きいじゃない。というか、あれだけ歌って踊ってるのに、胸が大きくなるって、なかなかすごいんじゃないの?」

「そーかな? たしかに、うちが所属している事務所の中では、おっきい方だけど」

「そうなのね。……でも、エナってサイズはどれくらいなの?」

「えっと、Dくらいかな? 今もちょっとずつおっきくなってるけど」

「なんだ、私と同じくらいなのね」

「あ、未果ちゃんもD?」

「そうよ。というか、普通に考えて、高校二年生でDは普通に大きい方なんだけどね。そこの二人が異常なだけで」

「いやー、照れますなー」

「い、異常って……」


 た、たしかに、ちょっと同年代よりは大きいのかもしれないけど……。

 それでも、異常、と言われるほどじゃない……と思いたい……。


「じゃあじゃあ、依桜ちゃんたちってどれくらいなの? 大きさ」

「わたしはFだねー」

「あたしは、Eだったはずだぞ」


 え、即答!?

 なんでそんなに堂々と言えるの!?


『くっ、やっぱりあの二人もすごい……!』

『ミオ先生なんて、体育教師をしているのに、どうしてあんなに大きいんだろう……?』

『やっぱり、美人? 美人だから!?』

「依桜ちゃんは?」

「え、う、あの……その……じ、G、だよ……」

「わ、やっぱりおっきい!」

「ちなみに言うと、依桜は今現在も成長中で、もうすぐHよ」

「え、そうなの!? 依桜ちゃんって、すっごく成長してるんだね!」

「あ、あはははは……ボクとしては、胸よりも、身長が欲しいんだけどね……」

「あー、依桜ちゃん、背が低いもんね」

「うん……」


 むしろ、なんで胸ばかりが成長して、身長の方が伸びないんだろう?


 たしかに、ライトノベルやマンガには、背が低いのに、胸が大きいキャラクターとかいるよ? でも、そういうのは二次元の中だからだと思ってたんだよ、ボク。


 なのに、現実ではまさか自分自身がそうなるなんて……。


 お願いします、神様。


 ボクに身長を……身長を!


「そうそう、依桜君のおっぱいって、大きいだけじゃなくて、すっごく揉み心地がいいんだよ!」

「め、女委!? 余計なこと言わないで!?」

「も、揉み心地……」

「え、エナちゃん? どうして、その……ちょっと怪しい目をしているの? ねえ、聞いてる? それと、なんでそんなににじり寄ってくるの……?」

「大丈夫だよ、依桜ちゃん」

「ほ、本当に?」

「うん! 一瞬……一瞬で終わるから!」

「どういうこと!?」

「隙あり!」

「ひゃぁんっ!」


 ボクがツッコミを入れた直後、エナちゃんが飛びついてきて、そのままボクの胸を揉み始めた。


「わ、ほんとだ! すっごく張りがあるのに、ふわふわもちもちだ! や、病みつきになりそう……!」

「ゃっ、ぁんっ! え、エナ、ちゃんっ、そ、それ、は、だめぇっ……! んっ、ふぅっ……ぁっ!」

「……相変わらず、依桜はエロいな。あいつ、あれで何の知識もないんだろ?」

「みたいですね。なんで、ああなったのか……よくわかりません」

「……そうだな」

「は、話してない、でっ、た、たすけっ……んぁんっ!」


 あぁっ、だめっ……! あ、頭の中、が……。

 こ、これ以上、先に行ったら危ない、気が……。


「はいはい。そこまでよ、エナ。これやったら、依桜がとんでもないことになるわ」

「あ、うん。堪能しました。依桜ちゃん、ありがとうございました」

「な、なんでお礼っ……? はぁっ、はぁっ……」


 途中で止めてくれた未果のおかげで、なんとか無事に抜け出せた。

 ありがとう、未果……。


「……もっとも、周囲の人たちは手遅れみたいだけどね」

「手遅れ? ……え! な、なにこれ!?」

『『『ぶくぶくぶく……』』』


 背後を見たら、なぜか温泉を赤く染めながら、うつぶせ状態で浮いている女の子たちが。

 何があったの!?


「依桜、急いで温泉から出すわよ! 女委とエナ、ミオさんも手伝って!」

「う、うん!」

「了解!」

「わかったよ!」

「あいよ」


 ボクたちは急いでお風呂に浮かんじゃっている女の子たちを引き上げて、先生を呼んだ。


 ある意味、この日一番のアクシデントでした。


 ……でも、どうして血を出していたんだろう?

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