第452話 事件発生
翌朝。
孤児院巡りや王都からの移動などで思ったよりも疲れていたボクたちは、ぐっすりと眠ることができ、すっきりとした目覚めになりました。
みんなで朝食を食べた後は、みんなで観光することに。
師匠だけは、調べものがあると言って個別行動をとったけど……。
一応、ボクのことも調べてくれるみたいだし、その辺りは本当にありがたい。
いい師匠を持ったよ、本当に。
「うーん……」
早速観光に繰り出したボクたち。
なんだけど、ボクはみんなと歩きながら少し唸っていた。
「ねーさま、どうしたのじゃ?」
「お腹が痛いんですか?」
「あ、ううん。違うよ。ちょっと考え事……というか、気になることがあってね」
メルたちが唸るボクを心配してか、声をかけて来た。
別に体が不調というわけではないので、問題はないけど……。
「依桜、何が気になるの?」
「えーっとね、昨日スイが過ごしていた孤児院に寄った時に、黒い翼を生やした人影が多く目撃されているらしくてね。まあ、何と言うか……その人影の人たちが心配でね」
「その人たちが危険な目に遭うかもしれない、って意味か?」
「ううん、そうじゃなくて、その人たちが何か問題を起こさないかどうかをね。ちょっと、色々と問題のある人たちだから」
まあ、人ではないんだけどね。悪魔だし。
だからこそ、色々と問題があるわけで……。
それに何をするかわからないんだよね。
ちらほらとこっちの世界での目撃情報があるみたいだし、被害が出ている村や町もあるようだからその辺りが心配。
クナルラルの方にも出現しているみたいだから、その辺りも心配なんだよね。
これでもし、みんなに危害が及ぶようだったら、ボクは何をするかわからないもん。
もしかすると、悪魔王って言う人の所に直接出向いて、色々やっちゃうかも……。
「その人たちが何かしたの? 依桜ちゃん?」
「はい。向こうの世界で、色々とやらかしてくれまして……。あと、こっちの世界でもちょこちょこやらかしてます」
「ねね、それって何をしたの?」
「ショッピングモールで暴れてたよ。こっちの世界では落書きとか畑に水を必要以上に上げていたりとか、その他にも色々と……」
「前半と後半でなんかスケール違くね? って言うか、ショッピングモールで何したんだよ」
「えーっと……まあ、その、文字通り暴れてたよ。人を殺そうとしていた……かな。あれは」
「うっへー、あっちの世界にそんな危険な人がいるんだ……。こっちだけが危険じゃないんだねぇ」
「いや、あの時は結構特殊な例だと思うけど……」
師匠が言うには、悪魔は呼び出さない限り出て来ることはないらしいし……。
ただ、学園長先生の研究によって、『空間歪曲』がそこそこ発生しているため、悪魔が着やすくなっているかもしれないらしいけど。
でも、こっちの世界は向こうとは違って、悪魔を呼びやすいみたいだけどね。
あれかな。こっちはステータスとかが常識として認知されているからかな?
「それで、その悪魔はどうしたの?」
「えっと、心臓の辺りをぷすってしたんだけど、逃げられちゃって」
「「「「「「……え?」」」」」」
「え?」
あれ、ボク変なこと言った……って、あ。普通に考えたら心臓を刺すのって、相当よくないことだった!
「さ、さすが元暗殺者。ためらいがねえ」
「なるほど……暗殺者として過ごしていると、自然に急所を狙うんだね。それも、なにもおかしいとは思わないような、自然な口調で。……これは、演技に使えそう」
「依桜ちゃんすごいね! でも、ちょっと怖いかな?」
「はぅっ! だ、だってその時、周囲のお客さんにも被害が出そうだった上に、メルたちを生贄にする、みたいなことを言いだしたから、怒ってつい……」
「「「「「「あぁ、それなら納得」」」」」」
メルたちのことを言ったら、なぜか納得された。
なんで?
「今の依桜に、それは悪手すぎんだろ。命知らずにもほどがあるぜ」
「……メルちゃんたちを傷つけられることを、極端に嫌うからな、依桜は」
「さっすがドシスコン!」
「そこまでじゃないよ!?」
「でも依桜ちゃん、プールでの騒動の時も本気で起こってなかったかな? うち、あれはすごいと思ったよ」
「うっ、だ、だってリルを人質に取るんだもん、あの人。あれくらいは許してほしいです」「そこがシスコンだと言われる所以だと思うんだけどね、私は」
ボク、シスコンじゃないもん……。
みんなが可愛いから、つい構っちゃうだけだもん。
「イオねぇ! 今日はどこ行くの?」
「うーん、そうだね……ボクもこの辺りは詳しいわけじゃないし、この辺りを回ってみよっか。みんなもそれでいい?」
と、ボクがみんなに尋ねると、程度の差はあれど笑顔で頷いてくれた。
よかった。
「じゃあ、出発!」
残りの旅行は、楽しむだけだね!
いつもなら、そう思うと何らかの事件に巻き込まれたりするんだけど、今日は運がいいのか、何事も起きることなく観光ができてます。
今だって、
「ん、これ美味しいわ」
「スイーツってあるんだね!」
「むぐむぐ……おー、この味いいね! 頑張って、向こうのお店で再現してみようかな?」
「不思議な味……。甘みと酸味が交互に来る。これが異世界のスイーツ……!」
女性陣がスイーツを食べ歩いているしね。
ちなみに、メルたちも美味しそうに食べています。
「やっぱり、ここの果物は美味しいのじゃ!」
「はい! 甘くてとっても美味しいです!」
「すっぱさも、あって、おいしい……!」
「はむはむ。こっちも美味しいよ!」
「私も食べてみたいのです!」
「……うまし」
うん、はしゃいでるね。
元気が一番だね、やっぱり。
反対に、晶と態徒の方はと言えば……。
「うぷっ、俺はもう無理……」
「き、奇遇だな。オレもだぜ……」
先ほどから強制的にスイーツを食べさせられているおかげで、二人ともグロッキー状態。
少し青い顔をしているし、口元を手で押さえているところを見ると……本当にきついんだね。
まあ、結構食べたもんね。
少なくとも、お昼ご飯いらないんじゃないの? って言うくらいには。
ボクは……まだまだ食べられます。
「んっ~~! 美味しい!」
はぁ、甘いものを食べるのって幸せ……。
「……依桜の胃袋も割と底なしな気がするぜ、オレ」
「……まあ、あの細い体のどこに食べ物が収まるんだ? と昔から気にはなっていたが……今の依桜を見れば納得だろう。どう見ても、胸に行っているな、あれ」
うん? 晶と態徒がボクを見てる……? しかも、呆れたような、それでいて戦慄したような表情を浮かべているんだけど……ボク、何かおかしなことした、かな?
してないよね? ただ、スイーツを食べているだけだし……。
「それにしても、平和な国だねぇ」
「そうだね。ボクも最初は魔族の国と聞いた時は、どんな暴言が飛んでくるか冷や冷やしていたけど、想像以上にいい国だと知った時は本当に驚いたよ。だって、こんなに綺麗な国なんだよ? 正直な話、ここ以上にその……汚い国とか、人間の国にあったからね……」
「魔族の方がいい人が多いっていうことだね!」
「ボクとしてはそう思ってるかな」
なんと言うか、下手に騙そうとするような感じが見られないんだよね。
人だとこう……騙そうとする人が多いから。
商売だったり、ギルドへの虚偽申告だったりと、その他にも色々。
だけど、魔族の人たちってあまり嘘を吐かない。
この辺りは戦争中にうっすらと感じていたよ。そして、魔族の国で女王になってからそれが確信に変わったかな。
だって、本当にいい人ばかりなんだもん。
ある意味では、こっちの国の方が居心地がよかったり……。
まあ、昨日のクーナが住んでいた町のように、なんかボクを神様のように敬ってくる人もいるんだけどね。
一応人間なんだけどなぁ……。
「でもよ、依桜がいるのにここまで何も起きないってのも不思議な感じだよなー」
「それどういう意味!?」
まるでボクがトラブルメーカーみたいだよ!
「いやだってよ、依桜がいるといつもなんか事件に遭遇するだろ? 実際、今までだってそうだったし」
「うぐっ……」
「まあ、そうよね。私もここまで順調に観光が進んでいる時点で、なんか違和感を感じるわ。あれじゃない? 今は一時的に何も事件が起こっていないけど、その内起こるんじゃない? 例えば……あの辺が爆発するとか」
街の一角を指さして、冗談めかしながら言う未果。
「あはは。さすがにないよ。戦争はとっくに終わってるんだし、今更そんなことをする人たちなんて――」
ドゴォォォォォォォォォンッッッ!
「……さすがに、何?」
「え、えぇぇぇぇぇぇぇ?」
急に街の一角が爆発した。
『きゃああああああああああああああっっ!』
『うわああああああああああああああっっ!』
「え、な、何々!? 何が起こってるの!?」
突然の出来事に、エナちゃんがパニックを引き起こす。
それに釣られるように、他のみんなも一様に不安な表情を見せている。
――っ!
「みんな、一旦ボクの方に集まって!」
数瞬遅れだけど、パニックになりかけているみんなに急いで指示を出す。
すると、すぐに理解したみんながボクの所に固まる。
これでよし。
「様子を見てこないと……!」
ボクは急いで分身体を二十人ほど創り出す。
「わっ、依桜君が増えた!」
「いい? 一番~十二番のボク。それぞれ散開して、街の人たちを助けて回って! 十三番~二十番のボクはここに残ってみんなを守って!」
『了解!』
分身体に指示を出し、行動に移る。
「みんな、ボクはちょっと様子を見てくるから、なるべく分身体のボクを頼って! 少しは力が弱くなるけど、大抵のことはどうにかしてくれるから!」
「ねーさまは……?」
「ボクは一応女王だからね。行かないと」
「な、ならば魔王である儂も……!」
「だめ。メルはまだまだ子供なんだから。無理しなくてもいいよ。それに、こう言うのはお姉ちゃんであるボクがやるって、相場は決まってるからね」
「……そんな相場なくね?」
「いいの。……みんな、出来る事ならメルたちのことを気にかけてあげて」
「もちろんよ。そもそも、何かあったら依桜がなにするかわかったもんじゃないし。何が何でも死守するわ」
そう言う未果のセリフに賛同するように、他のみんなも頷いてくれた。
よかった……。
この中でメルたちが一番小さいからね。その辺りが心配。
一応、分身体のボクを置いていくとは言え、危険があることに変わりはないし。
「それじゃあ、行ってくるね!」
ボクはそう言って、その場を離れた。
ああもう! 平穏な観光はどこへ行っちゃったの!?
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