第451話 四日目終了

 孤児院巡りも全て終わり、時間もちょうどいいくらいになった頃、ボクたちは魔王城がある王都まで戻った。


 時間的にももうすぐ夜になるくらいになり、日も沈みかけている。


 一日で行くのはちょっと無理があったかな? でも、なるべく早めに済ませて、みんなと色々なところを回りたかったからね。


 まあ、謎は多くなっちゃったけど。


 ともあれ、師匠に相談、かな。



 魔王城に戻ると、ちょうど夕食時だった。


 みんなと合流して夕食を食べている時、ボクは晶に尋ねた。


「晶、女委は大丈夫だった?」

「あぁ、色々と問題は起きそうだったが……まあ、なんとか、な……」


 なんか、とてつもなく疲れたような表情を浮かべていた。


 晶、一体何があったんだろう……。


「美羽さんも大丈夫でしたか?」

「うん、大丈夫だったよ。ただ…………また即売会をしようとしてたけど――」

「め~い~?」


 にっこりと微笑みながら、女委の方を向くと、ビクッ! と肩を震わせて、ダラダラと冷や汗を流し始めた。


「あ、で、でも、私と晶君の二人で頑張って止めたから大丈夫だったよ!?」

「……本当ですか?」

「本当だぞ、依桜。かなりあれだったが、まあ……なんとかなった」

「……そっか。ならいいよ」

「ほっ……」


 本当に、晶と美羽さんが止めてくれて助かったよ。


 これ、もしも晶もこっちに来ていたら、確実に王都の二の舞になっていたような気がするよ、ボク。


 こう言うところがなければ、女委はすごくいい人なんだけどなぁ……。


「それで、女委は何か言うことは?」

「い、いやー……にゃはは……。何と言うか、そのぉ……クリエイターの性と言うか、こう、布教せねば! という使命感に駆られちゃいまして……すみません!」

「……はぁ、まったくもう。少なくとも、変なものじゃなければやってもいいから」

「え、マジ!?」


 ボクがため息交じりにそう言うと、バッ! と女委がすごくキラキラした表情でこっちを見ながら聞き返してきた。


「だって女委。結局ダメと言ってもこっそりやってる場合があるんだもん。それだったらいっそのこと、ある程度は許可しておいた方が楽なんじゃないかなって思ってね」

「い、いいんすか書いても!」

「……変なものじゃなければ、ね。少なくとも、普通の作品だったらいいから。それ以外を書いたらダメだけど。それでどう?」

「願ったり叶ったりだぜ! ありがとうございます! 女神様!」

「め、女神様はやめて!?」

「じゃあ、女王様!」

「間違ってないけど、友達にそう言われるのはなんか嫌だからやめて!」


 中学生の頃からとはいえ、それなりの付き合いになっている友達から、女王様と呼ばれるのはなんか嫌!


 本当のことだけど、それでもこっちと向こうは別だからさすがに……。


「イオとメイのあれこれはいいとして、だ。イオ、それでどうだったんだ? 孤児院巡りの方は」

「あ、そ、それなんですけど……色々とありまして……」


 あはは……と曖昧な笑みを浮かべながら、ボクは師匠に答える。


「……なるほど。その様子で理解した。よし、飯食べたら風呂入るぞ。そこで訊こう」

「え、お、お風呂ですか?」

「当たり前だろ? あたしも今日はちょいと動き回ってたんで、少し疲れていてな。できれば、早めに寝たいところなんだよ」

「そ、そうなんですね。じゃ、じゃあ……お風呂で……」


 ……少しは慣れたと思うんだけど、それでも恥ずかしいものは恥ずかしいんだよね……。


 まあ、師匠とは割とお風呂に入る機会が多いし、他のみんなに比べればマシなはず……!


 内心、そう思いながら夜ご飯を食べ進めた。



 夕食を食べ終えて、お風呂へ。


 男女別でお風呂があるということで、それぞれ分かれてはいることに。


 相変わらず裸だけど……うぅ、恥ずかしぃ……。


 まだみんなの方を直視できない……。


 どうにも、こう言うのは慣れないよ。


「……ふぅ~。魔族の国の風呂と言うのも、なかなかにいいものだな」

「ですね。肩こりがとれそうですよ~」


 師匠と話をするため、ボクと師匠はみんなより少し離れたところでお湯に浸かることに。


 二人並んで入ると、お風呂の気持ちよさで思わず声が出る。


「……さて、話をするとしようか。何があった? 一応、あたしが知っているものだと、最初のリルの所しか知らんから、他の所も教えてもらえると助かる」

「あ、はい。えっとですね――」


 ボクは師匠に孤児院巡りで知った出来事を全て話した。


 師匠には包み隠さずに話せるからちょっと気楽。


 他の人だと、ちょっと難しいところがあるからね……。


「……なるほどな。『転移』に、全属性の上位魔法を使い、さらにはレアな魔法と言われる属性も、か。ふむ……」

「師匠、何かわかりませんか?」

「……さぁな。とりあえず、そいつが『未来視』のようなものを持っていることはほぼ確実かもしれないな」

「そう、ですか?」

「ああ。普通、あの能力、もしくはスキルはな、持つ奴が本当にいない。少なくとも、数百年に一人現れるか現れないかくらいじゃないか?」

「ほ、本当にいないんですね」

「ま、未来を視ることができるなんていう、ぶっ飛んだものだからな。持ってるだけで、引く手数多さ。それに、正直な話、あたしでも発現条件は知らない」

「え、そうなんですか?」


 師匠が知らないなんて……。


 やっぱり、この世界と向こうの世界を含めて謎って多いんだね。


「そりゃな。まぁ、強いて言うなら、神とかが持っていたりすることが多いな。特に上の位の奴とか」

「上と言うと、どういう神様なんですか?」

「んー、創造神とか破壊神、あとは上位神とかだな」

「上位神?」

「あれだ。神の位って奴だよ。上から順に、創造神・破壊神→最上神→上位神→中位神→下位神→従属神となる。ネーミングセンスがないのは、あいつらがめんどくさがりだ」

「そ、そうなんですね」


 もしかして、神様って適当なのかな……?


 でも、たまに師匠から神様についての話を聞くことがあるけど、その度に『クソ野郎』とか『うざい』とか言ってくるんだよね。


 それに、割と適当とか……。


 どうなんだろう……?


「でまあ、今言った神たちが持っている場合があるんだが……まあ、それでも稀だな。時間に関係する能力やスキルって言うのは、言ってしまえばチートだしな。ステータスという存在がバグだと言うのは説明したが、要はそこそこのバグの中にさらに天文学的確率で生じるバグが発生するようなものだ。つまり、まず発現することはない、ということだな」

「な、なるほど……」

「ちなみに、時間系の能力やスキルを手に入れるより、宝くじで一番上の賞を獲る方がまだ現実的だ」

「え!?」


 それを聞いて、いかに確率が低いか理解したよ。


 むしろ、宝くじを当てる方がまだ現実的という言葉が何と言うか……強い。


「しっかしあれだな。異世界旅行に来たというのに、楽しんだり休んだりするどころか、お前は謎ばかりが増えるな」

「ですね……。ボクも、どうしてこうなっているのかがわかりませんよ。そもそも、そのボクらしき人は、ボクなのかどうかもわかりませんし……」

「そこなんだよなぁ……。しかし、記憶を覗いた時は、間違いなく該当する者が存在していた。そこが一番不思議なところだ。何せ、お前には記憶がない。そうだろ?」

「はい……」

「記憶がないということは、無意識で動いていたか、もしくはお前が多重人格か、のどちらかなんだが……」

「でもボク、多重人格者じゃないですよ?」

「……だよな」


 難しい顔をして、考え込む師匠。


 ボクの方も、それに釣られるように考え込む。


 無意識の方がそれらしいような気もするけど……だとしても、上位魔法や『転移』が使えることがおかしいしなぁ……。


 どうなってるんだろう?


「お前は色々と不思議な点も多いしな。なんだったら、お前が異世界人の子孫だということもあれだし」

「……それ、本当に驚きましたよ。でも、本当なんですか?」

「本当だ。間違いない。少し調べるのに手間取ったらしいが、割とすぐ判明したし、何より、お前の母親がその証拠と言ってもいい」

「母さんが? どういうことですか?」

「たしか、お前の母親って、小学生になる前くらいに両親を失った、って言う話だったよな?」

「はい、そうですね」


 交通事故って聞いてる。


 写真とか残っていないから、どういう人なのかボクも知らないんだよね。


「そもそも、だ。お前の家系図について色々と調べた時にわかったんだが、お前の母親は天涯孤独だったんだよ」

「え、そ、そうなんですか?」

「ああ。両親を失ったことで、な。どうも、他の親戚たちもいなかったらしく、一人だったそうだ。普通なら、ここで野垂れ死んでいても不思議じゃないが……普通に生きている。しかも、健康的に」

「そう、ですね。むしろ、すごく元気ですし……」

「だろ? そうなってくると、どうやってお前の母親が生き延びたのかが不明だ。あっちの世界には、能力とかスキルなんてもんは、本当に無意識でしか働かないし、そもそも習得すらしていない可能性があったからな」

「なるほど……。つまり、母さんが異世界人の子孫だったから、どこかで死んでしまうこともなく、今日まで生きてこられた、ということですか?」

「その通りだ」


 たしかに、師匠の言う通りかも。


 詳しく聞いたことがないから知らないけど、母さん曰く『運が良かった』だそう。


 運だけで乗り切れるような状況じゃないと思うんだけど。天涯孤独の状態って。


 そうなってくると、やっぱり特殊な何かが働いていたから、なのかな……?


 うーん、不思議。


「まあ、異世界人の子孫と言っても、戦国時代にまで遡るんだけどな」

「そんなに前なんですか!?」

「そんなに前なんだ。ざっと四百年以上前か。すごいよな、本当。あたしもびっくりだ。つまり、こっちの世界から向こうに渡った奴がいるってことだ」

「な、なるほど……」


 そんなに前の時代からの人なんだ……。


 ……うん?


「師匠、だとしたら、その……ボクの隔世遺伝、おかしくないですか?」

「……何がだ?」

「いえ、異世界人の子孫だと知らされた時は、あまりにも衝撃的すぎる事実に驚いてそこまで頭が回らなかったんですけど、よくよく考えたらこっちの世界に銀髪碧眼の人っていないじゃないですか」

「…………いや、お前が知らないだけで、いるかもしれないだろ?」

「でも、教会の人が『この世で、白銀の紙と翡翠の瞳を持つ者は、この世界を創りし創造神のみ』って言っていたんですけど。それに、こっちの世界にはそう言う人はいないって……」

「なぁイオ。突然変異って、知ってるか?」

「それはもちろん知ってますけど……」

「こっちの世界でそう言う人間現れても不思議じゃないだろ? そう言うことだ」

「……師匠、適当なことを言ってはぐらかそうとしてませんか?」

「気のせいだ」

「……本当ですか?」

「もちろんさ。あたしが嘘を吐いたことがあるか?」

「いっぱいあります」

「……そ、それはそれだ。別にいいだろ? 異世界人の子孫であることには変わらないんだし」

「むぅ……」


 これはこれ以上何を言っても無駄なパターンだね。


 こうなっちゃうと、師匠絶対に言わないんだよね……。口が堅いから。


「……まぁ、いいですけど。でも、いつかは教えてくださいよ?」

「何を言う。隠していることなんざないぞ? なんだ、あたしを信じることができないのか?」

「いえ、基本的には信用していますよ。理由があってのことだと思いますからね」

「……そうか。ま、それでいいよ。今は言う気はないしな」

「やっぱり、何かあったんですね」

「…………お前、カマかけたな?」

「ふふっ、引っ掛かる師匠が悪いんですよ~」

「お前、言うようになったな」


 ふっと気の抜けた笑みを浮かべる師匠。


 なんだか、子供の成長を見守る親のような表情だね。


 こんな顔するんだ、師匠って。


「……ま、ともあれお前の謎については、あたしの方でも調べておこう」

「ありがとうございます、師匠」

「いやなに。あたしも気になっていることは多いからな。ついでだ」

「そうですか。……さて、みんなの所に行きましょうか」

「だな。あー、こんだけ広いと、風呂に入りながら酒とか飲みたいもんだな。冷酒とかいいな」

「そんなものは無いですよ」

「じゃあ、出してくれよ、お前の『アイテムボックス』で」

「……仕方ないですね。せっかくの旅行ですし、特別ですよ?」

「よっしゃ!」


 本当、お酒好きだね、師匠。


 何のかんの言って、ボクも師匠に甘いような気がしてきた……。


 ……その内、大量のお酒をせびられそうだよ。


 この後、師匠がもっと酒を出せ! とか言ってきたけど、さすがに止めました。一升瓶で十本はやりすぎだと思うんです。


 お酒は、ほどほどに。

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