第450話 ミファロ村にて

 クーナの故郷から出発し、今度はスイの故郷へ。


 ミファロ村という場所らしいけど、どういう場所なんだろう?


「スイ、ミファロ村ってどんなところか憶えてる?」

「……多種族が住む村」

「多種族……魔族の?」

「……そう。サキュバスもいるし、三つ目族もいる。後は、キメラのような人も」

「なるほど……」


 魔族って一括りにされてはいるけど、色々な種族があるみたいなんだよね。


 一応、ラミアとかアラクネも含まれてたり。


 ケンタウロスもかな?


「……でも、基本いい村。悪いことをする人、ほとんどいない」

「そうなんだ」

「……先生は怖い、けど」


 ……そう言えば、スイがいた孤児委の先生って、怖いとか言ってたっけ。


 どんな人なのか、ちょっと気になるけど……。


「……特産品は農作物。特に、果物は美味しい」

「あ、そうなんだ。それはちょっと楽しみかな」


 前に行った時に食べたけど、あれは美味しかった。

 もしあれだったら、買って帰ろうかな。


 父さんや母さんへのお土産、ということで。


「……ちなみに、あそこがそう」


 そう指差す先にあったのは、のどかな印象を受ける村だった。


 しかも、村の周り囲うように川が流れていて、なんだか綺麗な場所。


 田舎、みたいだね。


「それじゃ、行ってみようか」


 どんな場所かな。



 村に到着。


 少し遠くから見ていた時以上にのどかな場所だった。


 農作物を作るための畑が点在し、村の周りを流れている川を用いた水車などが利用されている。


 しかも、元は草原だったのか、緑が多くて気持ちがいい。


 あと、暖かいしね。


 過ごしやすい場所かも。


「スイ、孤児院はどこかな?」

「……この先の角を右に曲がったところにある」

「ありがとう」


 スイが教えてくれた道を進むと、大き目な一階建ての建物が見えて来た。


 中からは子供たちらしき気配と、なんだか大きな気配を感じる。


「ここ?」

「……そう。ここ」

「なるほど。……じゃあ、早速」


 コンコンとノックし、


「ごめんくださーい!」


 と声を出してみると、中から足音が聞こえて来て、ガチャリとドアが開いた。


「誰だい?」


 中から出てきたのは、キリっとした目が特徴の女の人だった。


 二十代前半くらいかな? なんだか、神経質そう。


「あ、初めまして。イオ・オトコメと言います」

「……い、イオ様!?」


 なんてことはなく、ボクが名乗った瞬間、一気に後ずさった。


 というか、後ずさりすぎて、遠いんですが……。


「あ、あの……そんなに離れなくて大丈夫ですよ?」

「いや、そうするとあたしがやらかしそうでね……。敬語とかは苦手なもんで」

「いえいえ、敬語とか気にしなくて大丈夫です」

「だが、法律が……」

「それは撤廃しておきますから、大丈夫です。いらないですよ、あんな法律」


 笑いかけながら言うと、何とか女の人はこっちに近づいてきてくれた。


 よかった……。


「そうかい。それはよかった。……それで、一体何の用で? こう言っちゃなんだが、この村は農作物意外になーんもないとこだが」

「それなんですけど……スイ。こっちにおいで」

「……スイだと?」


 ボクがスイを呼ぶと、一瞬怪訝そうな表情を浮かべた。

 そして、スイがボクの所に歩いてくると、女の人は目を大きく見開いた。


「す、スイ! スイじゃないか!」

「……久しぶり、先生」

「久しぶりじゃないよ! あんた、今の今までどこに行ってたんだい!? あたしゃ心配したんだからな!?」


 そう言うと、思いっきりスイを抱きしめだした。


「……先生、痛いし、苦しい」


 抱き着かれた方のスイはちょっと痛そうにしていたけど、微妙に嬉しそうに見える。まあ、育ての親に会えたわけだし、嬉しいよね。


「あぁ、ここで立たせたままってのも問題だね。イオ様にそちらの人たちも、中へ入りな」

「お邪魔します」


 軽くそう言ってから、ボクたちは中に入った。



 ここでも、メルたちは子供たちを遊ぶことに。


 こっちの話はつまらないからね。


 奥の部屋に行くと、ボクはスイを連れてきた経緯を女の人――ヘルナさんに話した。


「なるほどねぇ。捕まっていたところを、イオ様が……。本当に、ありがとうございました。うちのスイを助けてくれて」

「いえ、ボクとしても見過ごせなかったものですから」

「そうかいそうかい。やっぱり、今の魔王様と女王様は性格がいいねぇ。以前の魔王はクソだったからな!」


 ハハハハ! と豪快に笑うヘルナさん。


 神経質な外見からは想像もつかないほど豪快な人で、ちょっと驚いていたり。


 未果と態徒、エナちゃんも同じ事を思ったのか、ちょっと苦笑い気味。


「しっかし、まさかスイがイオ様の妹とはねぇ。その上、魔王様とも姉妹とは。世の中わからないもんさね。それで、どうだい? スイはちゃんとやってるかい?」

「はい、いい娘にしてますよ。向こうでは、友達もちゃんとできています」

「そうかそうか。それは安心だ。あの娘は、表情が薄いからねぇ。ちょっと心配だったんだよ」

「薄くはありますけど、よく見ればちゃんとわかりますからね、表情は」

「そうだなぁ」


 スイだけじゃなくて、みんな優しくていい娘だからね。友達ができている今の状況は、ボクとしてもすごく嬉しいところ。


 やっぱり、友達は大事だからね。


「それで? 何か聞きたいことでもあるんじゃないかい?」

「え、どうしてわかったんですか?」


 不意に、笑みを浮かべながら尋ねて来て、ちょっと驚く。


「いやなに。なんとなくさ。世間話とか、スイに関する話をするだけなら、さっきので済んでるだろうしなぁ。それで、何が聞きたいんだい?」

「えっと、九ヶ月前のことを訊きたくて」

「九ヶ月前? またえらく中途半端時期だねぇ」

「ちょ、ちょっと調べていることがありまして……。もし、九ヶ月前に変わったことがあったら教えてくれませんか?」

「九ヶ月前ねぇ……。九ヶ月前……九ヶ月前か……」


 うーんと腕を組みながら唸るヘルナさん。


 しばらくうんうん唸っていると、


「あぁ、そういやあったあった!」

「本当ですか?」

「あぁ。たしかありゃ、九ヶ月前だねぇ」

「お、教えてくれませんか? その時のこと」


 もしかすると、ここの村にも来ていたのかも……。


「もちろんさね。その時は、何て言うのかね、戦後間もない時期だったもんで、男手……というより、戦力が足りていなかった時期でね。まあ、困ってたのさ」

「どうして、ですか?」

「そりゃあ、この近くには森や沼があるからさ。そこからは、そこそこ狂暴な魔物が現れる場所で、たまーに大発生するのさ。そして、その大発生した魔物って言うのがこの村に食料を求めてやってくるんだよ」

「なるほど……」


 そう言えば、遠くから見た時に森らしき場所があった気がする。


 あの辺りは、魔物とかがいるんだ。


「で、男手が足りないということは、退治する手も足りないわけでねぇ。一応、あたしらは魔族だからそれなりには戦える。だが、多勢に無勢。いつもなら追い返せるくらいの数だったんだが、如何せんこちら側の数が足りなくてねぇ。かなり困ったもんさ」

「……その時に、ローブを着込んだ女の人が現れた、ですか?」

「ん? 知ってるのかい?」

「い、いえ、他の娘たちの孤児院に寄った時も、同じようなことがあったらしくて……それで、もしかしたらここにも来ていたんじゃないかな、って」

「へぇ、そうなのかい」

「それで、その後はどうなったんですか?」

「イオ様の言う通り、ローブを来た不思議な女性がふらりと現れると、魔法を使って魔物たちを退治したのさ。何がすごいと言えば、ほぼ全ての魔法を使っていたね、ありゃ。あとは、レアな魔法もね」


 レアな魔法と言うと、基本的な、火・水・風・雷・土・聖・闇属性以外の魔法のことだから……重力魔法とか、呪術魔法だよね?


 そっち方面の魔法も使えていたとなると、本当に謎だらけ。


「しかも、魔物の群れを手なずけてもいたなぁ。あん時は。今でも、その魔物たちは村を守ってくれていたりするのさ」

「な、なるほど……」


 そんなこともしていたんだ、ボクっぽい人。


 ボクも師匠の家があるあの森に棲んでいる魔物たちとは仲良しだけど、普通はできないらしいんだよね。


 師匠は手なずけることができるみたいだけど。


 まあ、師匠怖いもん。


 ドラゴンですら逃げ出すんじゃないかな、っていうレベルで。


「やっぱ、あの人の安心させる雰囲気って言うのが、そうさせたのかもねぇ」

「それはもしかして、一緒にいると安心する、みたいな感じですか?」

「ああ、そうさ。あんな気持ちは初めてさね。できればもう一度会ってみたいところだが、あれ以来会えていない。それどころか、そんな人物を見た覚えはないと言うんだよ」

「つまり、他の村や町には行っていない、ということですか?」

「さぁね。ただ、その村や町に手が負えないような事件が発生した場合は、さっきの人物らしき存在が助けていた、って話だ。ま、二日間しか現れなかったそうだけどね」

「……二日」


 それは、ボクの記憶がない期間と同じなんじゃ……。


 たしか、五日目と六日目の記憶がなかったはず。


 でも、ボクは魔法をそんなに使えなかった。


 使えても、風属性とか回復魔法、武器生成魔法くらい。


 それ以外は全く使えなかったはずなのに、そのボクらしき人物は全属性どころか、それ以外の魔法も使っていたみたい。


 そこがそもそもおかしい。


 だから多分、ボクじゃないはず……。


「そして、この村を去る直前に『九ヵ月後に攫われた女のことを連れた少女が来ます。その時は、迎え入れて上げてください』と言っていたよ。だから、さっきは驚いたねぇ。まさか、本当にスイが帰ってくるとは」

「やっぱり、ここでも……」

「ん? やっぱり、と言うのはどういうことだい?」

「他の町や村でも同じことがあった、って言いましたよね?」

「ああ、言ったね」

「その際、どこへ行っても今の言葉が出てくるんですよ。九ヵ月後にって」

「へぇ、そいつは不思議な話だねぇ。未来視でも使えたのかね」

「どうでしょう? 未来視を持っている人は、まずいないって言う話ですし……」


 師匠からの受け売りだけど、師匠の言うことって大体正しいからね。


 しかも、数百年生きた人らしいから余計に。


「ま、それもそうだねぇ。……話はこんなとこさね。他に何か聞きたいこととかあるかい? なんでも答えるが」

「いえ、今のお話が聞けただけで十分です。この村の特産品を買って、戻ることにします」

「そうかい。まぁ、イオ様にも予定ってもんがあるんだろう」

「あはは、そこまで予定という予定はないんですが、他の友達も待たせているので」

「なるほどね」

「では、ボクたちは失礼しますね。あ、たまにこっちに来て、スイの顔を店に来ますので」

「ほう? イオ様はたしか、異世界出身と聞いたが?」

「こっちと向こうを行き来する術がありますから。それで自由に来れるんです」

「へぇ、向こうは進んでいるんだねぇ」


 興味深そうに言うヘルナさん。


 進んでいるのは向こうの技術というより、学園長先生の技術じゃないかな。


 あの人の頭の中、一度見てみたいよ。


「みんなー、帰るよー」

「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」


 ボクがみんなを呼ぶと、元気に返事をして集まって来た。


「スイ、イオ様の言うこと、しっかり聞いて、元気に過ごすんだよ? 病気なんかになったら、承知しないからね」

「……もちろん。イオおねーちゃん、すごいから」

「ハハハハ! そうかいそうかい。イオ様、こいつのこと、よろしくお願いします」

「任せてください。それでは」


 そう言って、孤児院を後にしようとしたら、


「おっと、一つ忘れていた。イオ様」


 呼び止められた。


「はい、なんでしょうか?」

「実はここの所、変な噂があってねぇ。と言っても、噂が発生したのは、ほんの数日前なんだがね? 黒い翼を生やした人影の目撃情報が多いんだよ」


 ……それ、悪魔じゃない?


「なんで、イオ様も気を付けなよ」

「忠告、ありがとうございます」

「いいってことさ」

「はい。では」


 そう言って、ボクたちは孤児院を後にした。


 悪魔らしき目撃情報かぁ……。


 そう言えば、王国の方でも悪魔がいたよね……?


 天使の人たちもいたし、何か起こってるのかな?


 ちょっと心配かも。

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