第449話 ザブジェの町でも……
クーナの先生が起きたらしく、みんなに呼ばれてそちらへ。
みんなの所に行くと、なぜか態徒が儚い笑みを浮かべていたのが気になった。
「態徒、何かあったの?」
「……なんか、大切な何かを失ったよ」
「え!? だ、大丈夫!?」
「……大丈夫だ。多分」
「そ、そう。大丈夫ならいいんだけど……」
ふっ、と遠い顔をしているのは、本当に大丈夫なのか心配だけどね。
ま、まあ、気を取り直して。
「えっと、あなたがクーナの先生、なんですよね?」
「あぁ、その通りさ。私はフェネラナ。ここの孤児院の責任者さ。そういうあなたは……イオ様、かな?」
「は、はい。えっと、ボクのことを御存じなんですね」
「そりゃあね。と言うか、お披露目の場所にいたからな」
「あ、なるほど……」
「しかし……これは、敬語で話した方が?」
「あ、いえいえお気になさらず。敬語を使われるのは、ちょっと苦手で……」
「そうか。それならばよかった。この国の女王相手に、変な態度を取れば首が飛びかねないからね」
「……大丈夫です。その辺りの法は、ある程度撤廃させますので」
「そうなのかい? それはありがたい。形式とは言え、あるのは問題だから」
「あ、あはは……」
本当に、とんでもない法律を作ったものだよ、先代の魔王。
悪い事しかしてないような気がしてならない。
だって、自分の居城を壊したり、すぐ死刑にしようとする法を制定したり、無理やり戦争をさせたりと、本当に酷い事しかしていないんだもん。
「それで、私何か用でも?」
「あ、はい。えと、今現在、ボクの妹――クーナたちが住んでいたという孤児院を回っているんです」
「それはまたどうして?」
「だって、みんなの意思でボクの妹になったと言えど、やっぱり、自分が暮らしていた場所には連れて行ってあげたかったものですから。あとは、ボクが姉となった以上、家族である孤児院の人と話すことはしなければいけないな、と」
「なるほど。そう言うことか。……クーナ、お前はいい人を姉にしたな」
「はいなのです!」
「私としては、安心さ。孤児の子供たちには、できれば義理とはいえ、一つの家族ができて欲しいからね。そう言う意味では、この娘は運がよかったと言える。イオ様のような方が、姉なのだから」
「あ、ありがとうございます……」
むず痒い……。
ボクって、そんなにすごい人でもないんだけど……まあ、この国の人からしたら、すごい人、みたいな印象らしいしね、ボクって。
それはそれでどうなのかと思うけど。
「しかし……驚いたな」
「えと、何がですか?」
「いやなに。あの時の予言通りだな、と」
「………よ、予言? 予言ってあの……九ヵ月後にここに来る、というセリフを言った人がいるんですか……?」
「あぁ、そうさ。よくわかったね」
「いやぁ、あははは……」
どうしよう。ここでも九ヶ月前に何かあったみたいんだけど……。
後ろを見れば、未果と態徒が、『あっちゃー……』みたいな表情を浮かべながら、手で顔を覆ってるんだもん。
だよね! そう言う反応になるよね!
「え、えーっと、出来ればその時のことを教えてくれませんか?」
「もちろんいいとも。あれは九ヶ月前。その時もいつも通りの日……になるはずだったのだけど、ちょっとした事件があったのさ」
「事件、ですか?」
「あぁ。簡単に言えば、戦争の残党、と言えばいいのかな」
「残党って……もしかして、先代魔王の?」
「そう。残念ながら、あのクソみたいな魔王の配下が少し残っていたらしくてね。その残党たちは、少しずつ力を蓄えようとしていたみたいだったのさ」
あの時、ボクが殺さなかったからこんなことになったのかな……?
……絶対そうだろうね。ボクは甘いもん。
師匠にだって、その甘えは危険だ、とか言われていたわけだし……。
でも、どうにも殺すことができなかった。
はぁ……自分が嫌になるよ……。
「あぁ、勘違いしないで欲しい。別に、イオ様が悪いわけではないさ。だから、そんな自分を責めるような表情はしないでくれないか?」
「ですが……」
「もともと、これは私たち魔族が解決するべき問題だったんだ。イオ様が気に病む必要はない」
「フェネラナさん……」
すごくいい人だ、この人。
やっぱり、魔族っていい人が多いのかな……?
「じゃあ、続きを話そう。その残党たちがまあ、やらかしてくれてね。この町で騒ぎを起こしたのさ。簡単に言えば、『我々に賛同しない者は、問答無用で殺してやる!』みたいな感じかな」
「それは何と言うか……先代の魔王の配下らしいセリフですね……」
色々と、頭が悪そうな人だったからなぁ……あの魔王。
決して知能的に頭が悪かったわけじゃなくて、その……言動とかが、ね。
だって『ブラッド・フェスティバル』だよ? 名前。
さすがに、その……カッコ悪いよ、あれは。
「ああ、先代のクソ魔王らしいだろう? だが、問題だったのはこの町の住人がサキュバスだったことさ」
「サキュバスって、そこまで強い種族、というわけではないですからね……」
「その通り。サキュバスはいわば、男性特攻と呼べる存在だし、能力もそう言う方面だ。だが、聞きにくい者もいる。それに、多対一で使えるような能力でもなかったから、余計に相性が悪かったのさ」
「なるほど……」
「このままでは、従うしかない、というところで、不思議な人物が現れたのさ」
来た。
多分、その不思議な人物、と言うのがボクらしき人なんだと思う。
「ふらりとこの町に入ってくると、その人物は数々の魔法を駆使して、騒ぎを起こしていた魔族たちを次々と薙ぎ倒して行ったんだ」
「えっと、その時の相手の魔族の人数って……」
「たしか……数百人、だったかな」
「お、多いですね……」
そんなにいたの? 残党。
もしかすると、それ以上いたのかも。
「何がすごいかと言えば、その時薙ぎ倒していた人物は、聖属性魔法だけでなく、他の属性の魔法も使用していたことだね。しかも、どれも上位魔法だった」
「……上位魔法、ですか」
「ああ」
やっぱり、身に覚えのない魔法……。
そもそも、その時のボクって聖属性魔法は使えないはずなんだよね。教えてもらう前だもん。
ボクが聖属性魔法を使えるようになったのは、その約一ヶ月先の体育祭の時。
その時は、師匠と再会しただけで、何も教わっていなかったはず。
「あれはすごかったね。魔族を薙ぎ倒しながら、同時にサキュバスたちを守るように結界も張っていたんだから」
「き、器用なんですね、その人は」
「あぁ。魔法使いどころか、あれは《賢者》のレベルだろうな」
「け、賢者、ですか」
「そう、賢者だ。魔法系だと上位に位置する職業で、なれるのはほんの一部の者だけだな。賢者ばりの活躍には、私たちサキュバスも唖然としたものさ。世界には、こんな強者がいるんだ、とね」
う、うーん……いよいよもってわからなくなってきた。
本当にそれは、ボクだったのかな?
ボクに似た誰かとかじゃないのかな?
「その人物に助けられたのさ、私たちは」
「えっと、その人ってどんな人だったんですか?」
「そうだな……。全身をすっぽりと覆うローブを着ていたからわからなかったが、女性で間違いないだろう。体つきが女性だったからな。胸が大きかったし」
「む、胸ですか」
「胸だ。多分あれは……イオ様と同レベルの大きさだろう」
ボクと同じレベルの大きさの胸……それってやっぱり、ボク、だったのかな?
でも、来た覚えはないし、そもそも魔族の国へ行った覚えはなかったし……。
「あとは、雰囲気がなんだか特殊だったかな」
「雰囲気?」
「なんと言うか……近くにいる者を安心させるような、独特の雰囲気を放っていたんだ。あとは、魔力量が半端じゃなかった」
「どれくらいかわかりますか?」
「そうだね……ステータスで言うと、低く見積もっても十万」
「じゅ、十万!?」
「そう、十万」
それ、ボクの十倍なんですが……。
その人、絶対ボクじゃないよ。断言できるよ。
「……そ、それで、その魔族の人たちはどうなったんですか?」
「問題の魔族たちは、その不思議な人物によって更生されたよ。人が変わったように、国の復興に力を貸し始めたんだ。と言うかあれは、本当に人が変わったみたいだったね」
「……なんか、依桜が説教した相手みたいね」
「……そういやいたな。あれだろ? プールの時の……」
後ろでこそこそと、二人が何か話してる。
……やめて。言わないで。
「まあ、おかげでこっちは大助かりだったけどね。向こうが勝手に更生してくれたから、この国の復興が早まったのだから」
「なるほど……」
やっぱり、色々な所で動いているみたいだね、ボクっぽい人。
ただ、動いている目的がわからない……。
一体、どういう目的で動いているんだろう?
「そして、この町を去る際に『九ヵ月後に、攫われた女の子を連れてくる人が来ますので、その時は、受け入れてあげてください』と言い残して去って行ったんだ」
「えぇぇぇ……」
本当に、何なの? その人は……。
「その時は、眉唾だと思っていたんだが……まさか、本当にクーナを連れた人がこの町にやってくるとはね。正直、かなり驚いているよ」
「そう、なんですね」
「どうしたんだい? 浮かない顔をして」
「それが……今の所、そこにいるスイっていう娘以外の村や町で、同じようなことがあったという話をされているんですよ」
「おや。ということは、その人物は他の場所にもいたと?」
「みたいです……」
「なるほど……。不思議な話もあるものだ」
ボクとしては、不思議通り越して、ちょっと怖いんですが……。
だって、ボクらしき人が、知らないところで人助けをしているんだよ? それで、ボクが感謝されるのって怖いし……。
目的が、本当にわからない。
「まあでも、悪い人ではなさそうだったから、いいんじゃないかな?」
軽く微笑みながらそう言ってくれたフェネラナさん。
「……そう、ですね」
「だろう? 悪いことをしていたのなら問題でも、いいことをしているのなら、何も問題はないさ」
たしかに、フェネラナさんの言う通りかも。
ボクに似ているのは仕方ないとして……その人がしていることは、人助け、なんだもんね。
これがもし、破壊活動を行っているのだったら大問題だったけど、そうじゃないわけで……。
まあ、それでも気になるものは気になるんだけどね。
「さて、話は以上さ。他に何か聞きたいことはあるかい? 私に答えられることならなんでも答えるが……」
「いえ、大丈夫です。聞きたいことも聞けましたので」
「それはよかった。じゃあ、そろそろ出発するのかな?」
「はい。次の場所に行かないといけないので……」
「そうか。……クーナ。イオ様の言うことをちゃんと聞くんだぞ?」
「大丈夫なのです! イオお姉さまはとってもいいお姉ちゃんなのですから!」
「そうか。それはよかった。……イオ様、今後も、クーナをよろしくお願いします。この娘は、しっかり者ですが、たまに行き過ぎることがあるかもしれませんので」
「はい。任せてください。たまにこっちに来て、顔を見せますので」
「それはよかった。私は基本寝てばかりだが、やはり自分の孤児院で育った子供の成長を見るのは、何よりの楽しみでもあるからな」
「そうですね。ボクも、この娘たちが将来、どんな大人に成長するのか楽しみです」
「そうか」
やっぱり、いい人なんだね、この人は。
寝てばかりなのはちょっと気になるけど……。
「それじゃあみんな、そろそろ行こっか」
「ええ」
「おうよ」
「フェネラナさん、これで失礼しますね」
「あぁ、いつでも来てくれ。その時はもてなそう」
「あはは、さすがにそこまではしなくていいですよ。……それじゃあ、行こう」
「先生、また来るのです!」
「ああ、元気でな」
最後に二人がそう交わして、ボクたちはこの孤児院を後にした。
最後は、スイの孤児院だね。
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