第448話 態徒、色々危機一髪

 サキュバスさんたちの崇拝? を振り切って、孤児院に戻って来た。


 中には、サキュバスの娘たちがいて、無邪気に遊んでいた。


 多分、おままごと、かな? あれは。


「zzz……zzz……」


 ちなみに、クーナの先生は未だにぐっすりと眠っています。


 一度宙に放り投げられたのに、なんで寝ていられるんだろう、この人。


 さすがに、入ってすぐの場所で寝かせるのはあれだったので、孤児院の奥の部屋に行き、ベッドに寝かせてます。


「ねえ、クーナ。この人って、どうやったら起きるの?」

「いつも寝てばかりの先生だったのです……」

「つまり、知らない、と?」

「……えと、一応一つだけならあるのです……」


 どうしたんだろう、ちょっと顔が赤い?


 恥ずかしい事なのかな。


 ただ、少し気になるのはチラチラと態徒を見ていること。


 なぜ、態徒?


「とりあえず、言ってみて?」

「……わかったのです。とりあえず、イオお姉さまは目を閉じて耳を塞いでいて欲しいのです」

「えと、もしかしてボクに見せたくない事、とか?」

「は、はいなのです……」

「……そっか。うん、わかったよ。じゃあ、ちょっと目と耳を塞いでいるね」

「ありがとうなのです、イオお姉さま!」

「うん」


 とりあえず、どういうことなのかは気になるけど、他ならないクーナの頼みだからね。お姉ちゃんとして、聞いてあげますとも。


 でも、何をするんだろう?



「えーっと、クーナちゃん。それで、依桜を遠ざけた理由って……」

「……イオお姉さま、純粋すぎるのです」


 未果がクーナちゃんに依桜を遠ざけた理由を訊いたら、顔を赤くさせながら俯き気味にそう返してきた。


 ……あいつ、妹にすらそう思われてんのな。どんだけピュアなんだよ、マジで。


「ということはもしかして、性にまつわること、なのかしら?」

「……そうなのです」

「でもそれならよ、メルちゃんやニアちゃんたちもいるだろ? スイちゃんはクーナなちゃんと同じサキュバスだからわかるけどよ、まだピュアだよな?」

「……全員、性の知識ある」

「「なぜ!?」」


 おい、とんでもねぇ爆弾発言が飛び出たぞ!?


 マジで!? この小学生たち、知識あんの!?


「うっそでしょ……。でも、なんで知ってるのよ?」

「私たち、誘拐されていたので、その……ちょっとだけ、教えられていました、ので……」

「あっちゃぁ……そう言う理由かぁ……そりゃ、たしかに知識あるわ……」

「あと、普通に村に住んでいた時、とか、えと、ご近所さんが、夜運動していた、ので……」

「……いつの時代の田舎よ」


 マジか……この世界の子供、色々と強すぎんだろ。


 てか、大人しくて内気気味なリルちゃんですら知ってるとか……どうなってんだ、この世界の幼女。


「でも、メルちゃんは違くね? 魔王だろ?」

「儂はすべての魔族の能力が一部使えるからのう。それの使い方を知るべく、城の書庫に行って調べたことがあったのじゃ。その時、サキュバスの能力について知っての。そこで、知ったのじゃ!」

「あー……なんて、アグレッシブな幼女なのかしら……」


 未果もメルちゃんのアグレッシブっぷりに苦笑い気味だ。


 かく言うオレもちょっとなぁ……。


 いやまあ、向こうとこっちは違うとは思っていただけど、こう言う場所でもそう言う違いが出て来るとか、マジですげえな、異世界。


 ……ってか、王国で下着泥棒とかがそこそこいるって聞いてるし、ある意味当然っちゃぁ当然なのかもな、これ。


「んで、依桜を遠ざけたってことはよ、起こす手段はある。だけど、依桜には見せられない。というような方法なんだよな? どうするんだ?」

「え、えと……た、タイトさん、なのですよね?」

「おう、そうだぞ」


 幼女に名前を呼ばれるのって、ちょいむず痒いな。あと、さん付けってのも。


「えと、あの……ちょっと、と言うかかなり無茶なお願いなのかもしれないのですけど……大丈夫、ですか?」

「何を頼むか知らんが、オレにできる事なら何でもするぜ! というか、依桜の妹だしな! 親友のオレが断るとかないない! どんとこい!」

「……私、ちょっと嫌な予感がしているんだけど……まあ、態徒だし、いいか」

「ちょっ、それどういう意味だよ!?」

「言葉通りよ」


 くそう、こいつぜってーオレを小馬鹿にしてるだろ。


 まあいい。今はそれよりも、クーナちゃんの頼みだよな!


 さて、どんな頼みがくるのやら。


「…………えーっと、フェネラナ先生の近くに行ってほしいのです」

 最初の間は気になるが……

「そんなんでいいなら、お安い御用だぜ」

「ありがとうなのです。それじゃあ、近くへどうぞ」

「おうよ!」


 オレが近くに行くだけでいいとか、マジで気楽なもんだぜ。


 クーナちゃんの言う通りに、フェネラナさんに近づく。


 すっげー、金髪美女だよ。しかも、ボンキュッボンだし。


 それに、なんというか、むちゃくちゃ色気があるな、この人。


 ……これはあれだ。童貞にはちょっと刺激が強くね?


 だってこの人、童貞を殺す服みたいなの着てるんだぜ? やっぱこう、男的に来るわけよ。


 いや、ここで手を出すとかしないけどな? オレ、チキンだからな!


 彼女とかできたことないしな! 変態とか言われて、遠ざけられるだけだから!


 ………………やべぇ、自分で言ってて悲しくなってきた。


 くそう、オレにもモテ期とか来ねーかなー……。


「タイトさん、もうちょっと近づいて欲しいのです。できれば、間がないくらいに……」


 なんだ、結構近づくんだな。


 マジでどうやって起こすんだ?


 サキュバスと言えば、エロいことをしてくる存在で有名だけどよ、オレが近くにいるくらいじゃ起きないんじゃね?


 童貞だし。


 まあ、近づいて起きるんなら、万々歳だしな!


 いやー、にしても前々起きる気配がな――」


「男の……匂い……!」

「へ?」


 フェネラナさんから声が発されたと思った次の瞬間。


「……いただきますっ!」

「え、あ、ちょっ――んん―――――っ!!??」

『『『!?』』』


 オレの口が塞がれた。


 ……フェネラナさんの唇によって。


 って!


「んっ、んんんっっ!?」


 き、きききききききききキスだとぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?


 ちょっ、ちょっと待て!? これは一体どういうことだ!?


 あ、甘い……じゃねぇ! 柔らかい……でもなくて!


 どうなってんだこれは!?


 どうして、『絶対に彼氏にしたくない男子ランキング』で一位を獲っているこのオレが、こんなとんでもねぇ状況に遭遇しているんだ!?


「れる……んっ、ふぅ……ん」

「んんっ!?」


 し、舌!? おいちょっと待て! なんか、舌入れて来たんだけど!?


 にゅるんって! にゅるんって!


 や、やべえ、なんだこれ!? 初めてのキスが、ディープな奴とか、どうなってんだよ!?


 さっきから、じゅる、だとか、ちゅぱ、だとか、エロゲで見るような効果音が見えそうなくらい、音が聞こえてくるんだが!?


 な、なんてエロいんだ、ディープキス!


 というか……ちょっ、なんか頭がクラクラしてきた……。


 こ、これが、大人のキス、だというのかッ……! き、気持ちよすぎる!


 緩急をつけてしてくる上に、クッソ上手いし! やっぱサキュバスなのな!? 人間みたいな姿してるけどよ!


 ……あ、ヤバい。い、息が……息がそろそろヤバい……!


「んっ、んむむむっ…………ん、むぐ……」


 そうして、オレが意識を手放しそうになる寸前、


「……ぷはっ。ふぅ、堪能した……」


 ようやく解放された。


 ……ってか、唾で糸を引いてるのが……なんかエロい。


「――はぁっ、はぁっ……し、死ぬかと思ったッ……」


 だが、そんなことよりも空気だ! 空気を吸うんだ、オレ!


 ………あぁ、新鮮な空気が美味い……。


 まさか、エロいことで死にかけるとは思わなかった……。


「……では、本番に」

「ほ、本番!?」


 思わず声が上ずってしまった。


 ほ、本番ってことは……や、やっぱあれか? こう、男と女がする、あれ、だよな……?


「……大丈夫。私に任せたまえ。君は見たところ、童貞君みたいだし……ふふっ、楽しいことになりそうだ。童貞は、美味いからな」


 貞操の危機!?


 ちょっ、オレの貞操が狙われているんですが!?


 や、やべえよ! ファーストキスだけでなく、童貞まで奪われるとか、マジでシャレになんねえんだけど!?

「ほら、こっちに来たまえ」

「力強ッ!?」


 ぐいっと腕を引っ張られ、ベッドに押し倒された。


 いや待て! こう言うのって普通逆じゃね!?


 なんでオレが押し倒される側なんだよ!? こう言うのは普通、依桜みたいな純情な奴のシチュエーションだろうが!?


 なんで、オレなんだ!


「安心したまえ。君のような童貞をリードするのは慣れているからな」

「なんでっすか!?」

「そりゃ、サキュバスだからな。さて、そろそろ……」

「ちょっ、ストップストーップ!」


 オレの全力の制止を聞いて、何とか止まってくれた。


 ……ただ、オレのズボンのベルトに手をかけるのはやめて欲しい。


「なんだ。いいとこなのだぞ? 本番、したくないのか? 今なら、なんでもしてやるぞ?」

「え、マジで? ……じゃなくて! お、オレたちはあなたに会いに来たんっすよ!」


 一瞬、したいと言いかけたが、何とかこらえて当初の目的を告げた。


「た、態徒が欲望に勝った、だとっ……? 明日は天変地異かもね……」


 うるさいぞ未果!


 ってか、どんだけ意外だと思ってんだよ!? いや、オレの普段の行いが悪いのがいけないんだけどよ!


「ん? 私に? それは一体どういう……」


 と、不思議そうにした時、


「フェネラナ先生!」

「ん? ……お前、まさかクーナか?」

「そうなのです! ただいまなのです、フェネラナ先生!」

「おぉ! クーナ! お前、一体いつ帰って来たんだ!? ある日突然行方不明になって、心配したんだぞ?」

「あそこにいるイオお姉さまに助けてもらったのです!」

「イオお姉さま? ……ん? あの人はもしや……いや、まあいい。とりあえず、お帰り、クーナ」

「ただいまなのです!」


 と、目の前で感動の再会が繰り広げられているんだが……


「あの、オレのズボンを脱がそうとすんのやめてくれませんかねぇ!?」

「おっと、忘れていた。まあ、ギャラリーが多い中やるのも、また一興だと思うんだが……」

「やらねぇよ!?」

「そうか……残念だ。いい思いをさせてやれると思ったんだがな」


 そういうのやめてくれませんかねぇ? オレ今、心が揺れたぜ?


 サキュバスお姉さんは……マジでヤバい、心の底からそう思った。


 ってかこれ、晶だったらもっとヤバかったんじゃないだろうかと思い、オレでよかったと安堵した。


 ……まあ、オレのファーストキスは奪われたんだが。


 やべぇ、地味にダメージでけぇ……。

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