第453話 魔界へ

 問題が発生した箇所へ向かうと、そこには……


『ギャハハハハ! なんだよなんだよ! 脆いじゃねえかよォ!』

『んじゃあ、オレあっち!』

『じゃオレはあっちで暴れるぜ!』


 悪魔がいた。


 しかも、今回は今までとは違い一体だけ、というわけではなく、複数体いるみたい。


 口ぶりから察すると、さっきの爆発は悪魔が原因、ということだよね?


 …………イラッとする。


「そこの悪魔さんたち、ちょっといいですか?」


 メルの故郷であり、ジルミスさんたちトップの人たちが頑張って再建した街を壊されて、ここの住人の人たちにも危険が及んだことに対し、ボクは怒っています。


 あのボロボロだったこの街が、戦争なんてなかったかのように復興していたのを見た時は、本当にすごいと思ったのに、この始末。


 邪魔しかしない。


 だからか、ボクの体からは自然と殺気が漏れているみたい。


『おいおい、人間がいるじゃねーかよ!』

『魔族の国って聞いてたんだがなー』

『何の用だよ、嬢ちゃん。ここにいると、死んじまうぞ~?』

「……何してるんですか? ここで」

『あ? んなもん決まってんだろ。暴れてんだよ』

「……なんで、ここで暴れてるんですか?」

『ここが一番繋がりやすかったからなァ! いい国だぜぇ。ここの奴らは体が頑丈だしよ! 見ろよ、こーんな怪我をしているのにまだ生きてんだぜぇ~?』

『うぅっ……』


 ふざけたように話す悪魔の足元には、傷ついた魔族の人たちがいた。


 よく見れば、酷い怪我を負っている人もいるし、子供だって……。


 ……。


「……ぶち殺しますよ?」

『『『――ッ!?』』』


 言葉と共に強い殺気を放つと、悪魔たちは瞬時に下がる。


 ダメ。これは我慢できない。


 メルや、一応とはいえボクの国でもある場所でこんなことをするのは、本当に許せない。


 ボクが殺しに躊躇いのない人間だったら、間違いなくこれを見た瞬間に殺してる。


 でも、感情のままに動くはダメ。それは悪手だし、何より弱点を作りやすくなってしまう。


 師匠にはそう教わったから。


『な、何だよ、今の殺気……!』

『外見からは想像もつかないほど、強烈だったぞ……!?』

『何なんだ、あいつはァ!』


 悪魔たちがごちゃごちゃと何か言っているようだけど、関係ない。


 悪魔たちを倒すよりも、こちらが先。


 ここで悪魔を優先するようなら、女王失格以前に人間として失格だと思います。


「大丈夫ですか?」

『あ、足が……!』

『脇腹の辺りが……』

『痛い、よぉ……』


 怪我人が多い……!


 目算でも十数人はいる。


 人間だったらたしかに結構危なかったかもしれない。この辺りは、本当に魔族の人たちでよかったと言わざるを得ない。


 まあ、何も起こらないで平穏に暮らすのが一番なんだけど……。


 それにしても、怪我人が多いのはちょっとまずい。


 仕方ない。


「『分身体』」


 一人では手が回らないけど、分身体を出そう。


 他の分身体たちは、別の個所で動いているからこっちに呼び寄せるのは危険だし。


 それに、まだ出せるからね。それなら、そっちを使った方が何かと便利だし、手っ取り早い。


「みんな、怪我をしている人たちを安全な場所へ。その後治療をお願い」

『『『了解!』』』

「じゃあ、早速行動に移って!」


 そう言うと、ノータイムで動き出してくれた。


 さすがボク。


 考えていることは同じだね。


 まあ、『分身体』だから同じなのは当たり前なんだけどね。


 そんなボクの分身体たちは、ボクの指示通りに動いてくれて、怪我人を優しく移動させてくれた。本来なら、下手に動かさない方がいいんだけど、この場は危険だからね。


 魔法での治療が可能だから、申し訳ないけど我慢してもらうしかない。


 そして、周囲に人がいなくなったをの確認すると、ボクは悪魔たちに向き直る。


 にっこりと笑顔を浮かべて、ボクは悪魔の一人に瞬時に接近。


「じゃあ、まずは一発ですね♪」

『へ? ぐべぇッ!?』


 そしてそのまま顔に拳を叩きいれた。


 なんの防御も受け身もとらないで喰らったからか、悪魔の人はかなり吹き飛ばされていった。


『なっ、て、テメェ、いきなり攻撃するとか卑怯だろうが!』

「卑怯? 何を言ってるんですか? そちらが先にやり始めたことでしょう? それに、ボクは暗殺者です。必要とあらば、卑怯なこともしますよ? 手段は選ばないんです。師匠にそう教わりましたので♪」


 そもそも、暗殺者相手に卑怯という方が変だもん。


 暗殺者は、バレないように殺すのがお仕事なんだから。


 まあ、ボクはそこまでしてないんだけどね。


 でも、今は別。


 こればかりは、どんな手段を使ってでも倒しますとも。


 だって、悪魔って結構面倒くさい相手なんだもん。


 ショッピングモールで理解していますとも。


「それで? あなたたちの目的は何ですか? 正直に答えてください」

『ハッ! お前なんかに教えるかよ! おいお前ら! やっちまえ!』

「はぁ……。じゃあ、ボクが勝ったら、無理矢理にでも教えてもらいますよ」


 呆れつつもボクは太腿に着けているナイフポーチからナイフを二本取り出すと、そのまま構えた。



 そんなこんなで始まった戦闘。


 チンピラのようなセリフを吐き、悪魔たちが依桜に襲い掛かる。


『オラァ! これでも喰らいやがれ!』


 一人の悪魔が例の黒い靄を槍上に形成し、それを射出してくる。


 それに便乗するように、他の悪魔たちも様々な方向から槍を射出し、依桜に攻撃を仕掛けてくる。


 心臓やら首、頭を狙ったものも混じっている辺り、悪魔である。


 しかし、そんな攻撃は全て空振りに終わる。


「ふっ――!」


 人一人入れるかどうかのスペースに体をねじ込み、依桜は槍を回避していく。


 途中体に刺さりそうなものもあったが、そこはナイフで切り落とす。


『ハァッ!? なんでナイフで切れるんだよ!?』


 通常のナイフでは切断は不可能だが、依桜には『付与魔法』もあるし、なんだったら『神気』も持っている。


 それを手に持っているナイフに付与すれば、当たり前のように切れる、というわけだ。


 実際、ミオに操作の仕方を教えてもらってから、こっそり練習していたりするので、纏わせるくらいなできるようになっているのである。


 創造や攻撃に転換させることはまだできないが、近い将来出来るようになりそうである。


「はぁっ!」

『ごへ!?』


 一番最初に槍を放ってきた悪魔に肉薄すると、そのままナイフの峰で殴る。


 聖属性+神気が纏ってあるので悪魔には大ダメージ!


 悪魔には効果抜群である。


 それにより、一瞬で意識は落ち、再起不能に。


『クソッ! これでも喰らいやがれ!』


 悪魔が一体倒されたことに怒った別の悪魔が、依桜の背中目がけて銃弾のような黒い靄を撃ち放ってくる。


 弾は依桜の背中に当たるかに見えたが、依桜はその場で軽くしゃがみ、そのまま後方に飛ぶと、弾を撃った悪魔めがけて別のナイフを投擲。


『身体強化』も使用しているので、ものすごい勢いでナイフは飛ぶ。


 すんでのところで悪魔は体を捻じってナイフを回避。


 内心焦ったものの、嘲笑うかのように依桜を見るが……次の瞬間には依桜はいなかった。


 慌てて周囲を見回していると、


「こっちですよ、こっち」

『は――ごふっ』


 いつの間にか背後に立っていた悪魔にナイフをぶっ刺していた。


 急所は外しているので死ぬことはないが、先ほどの悪魔と同じように気絶する。


 この場にいた悪魔は合計で十体。


 ほぼ一瞬で悪魔を二体倒されたことにより、他の悪魔たちも様子を伺っている。


 しかし、そんなもの依桜には関係ない。


 おおよそ、ここにいる悪魔はそこまで強くないと判断した。


 仮に想定以上に強かったとしても、自分の手に余るような悪魔はいないと考える。


「次、誰が来ますか? もちろん、全員でかかってきてもいいですよ」


 にこっとした笑みを浮かべて、挑発するように言い放つ依桜。


 さすが悪魔と言うべきか、


『何だと……? おい、お前ら、この際もういい、こいつをぶっ殺せ!』

『『『オォ!』』』


 普通に挑発に乗って来た。


 悪魔は本来、人間よりも強い種族であるため、下であると思っていた者からの挑発には弱い。


 強い=偉い、みたいな構図が出来上がっているからだ。


 しかし、目の前の女――依桜は考えるまでもなく強かった。


 実際、ここにいる悪魔がリーゲル王国の王都に出現した場合、ヴェルガの手に余るどころか、下手をした勝てないくらいの力はあるのだ。


 それに、聖属性か神気を介した攻撃でなければ攻撃が通じないことから、人間で悪魔に勝てる者は少ないのだ。


 だからこそ、強者だと思っていた。


 そんな強者たちは、


「やぁっ!」

『『『ギャアアアアァァァァァァァァァァァァァァ!』』』


 可愛らしい外見に、可愛らしい声をした美少女にコテンパンにされているわけだが……。


 ある者は投擲されたナイフで倒され、ある者は蹴りで。ある者はナイフで刺され、ある者はハンドガンで倒された。


 なぜ、依桜がハンドガンを持っているかと言えば、まあ……『アイテムボックス』である。


 実は球技大会辺りから、銃は生成してあったりする。


 最初は上手く作れなかったが、銃の構造に関する知識を頭に入れ、それを思い浮かべながら生成したところ、見事に作成できた。


 弓矢も問題なく扱える依桜なので、射撃能力にはそこまで問題はなかった。


 しかし、ミオが、


『とりあえず、あたしが許可するまで絶対に実戦で使うな』


 と言っていたので、依桜は人目につかないところで練習していたのである。


 そして、つい最近許可が下りた、というわけだ。


 これにより、依桜の攻撃手段はかなり増えた。


 現在はハンドガンくらいしか作れないが、その内他の銃火器も作れそうである。


 何しろミオが、


『お前、なるべく全種類の銃火器は作っておけ。いつか使える日が来るかもしれない』


 と言っていたから。


 要は師匠命令である。


 ちなみに、現在の依桜の射撃能力はとんでもないことになっており、百発百中である。


 的を設置し、二百メートルほど離れていても中心に当てることが可能である。


 動く的の方の狙撃も問題なく行えることから、相当な射撃能力を持っていることになる。


 まあ、球技大会でその異常な射撃能力を見せていたことから、その片鱗はあったが。


 これにより、依桜は長距離からの攻撃を可能となった。


 一体、どこへ向かっているのだろうか、このTS娘は。


『くっ、逃げるしかねぇ!』


 ここで、悪魔のうち一体が逃げ出した。


 他の九体は全て依桜に倒されており、全員気絶中。


 どんな時でも無駄な殺生はしない依桜である。


 誰かを殺していたら、確実に殺されていたと思うが。


 そんな悪魔は急いで逃げ出すと、未果たちがいる方向へと逃げる。


「させないっ!」


 悪魔の後を追って、急いで走る依桜。


 悪魔の方は建物を破壊しながら進んでいく、幸いだったのは、分身体に魔族たちを非難させていたり、守らせていたことだろう。


 そうでなければ、かなり被害が出ていそうだ。


『おっ! いい人間ども見っけ! 魔族もいるが、まあいい! ストレス発散に使ってやるぜ!』


 そんな悪魔は、未果たちを見つけてしまった。


 しかし、


『『『やらせません!』』』


 依桜×8によってそれは阻まれた。


『ぎぃやああああああああああああ!?』


 八人の依桜による連携攻撃で悪魔は倒された。


「さ、さすがボク。みんなの危機にはかなり早い対応」


 未果たちもあると思うが、一番はメルたちに危害が及ぶと考えたからではないだろうか。


 重度のシスコンは強いのである。


「まったく、みんなに危害を加えようとして……。とりあえず、この人でいいかな。みんな、ちょっとだけ待っててね。すぐに終わらせてくるから。尋問を」

「「「「「「あ、ハイ」」」」」」


 底知れぬ恐怖を感じたのか、未果たちは引き攣った笑みを浮かべながらそう返した。



「それで? なんでこんなことをしたんですか?」

『お、教えられるか! 悪魔にだってな、守秘義務ってもんがあ――』


 ドゴンッ!


 縛り上げた悪魔の顔の横を、依桜の拳が通過し、後ろの壁に穴を開けた。


 依桜はにっこにこ顔である。


 依桜、割と本気で切れている。


「言わないと、この手があなたの顔に行きますけど……それでも、いいんですか?」

『お、脅しには屈しねぇ! オレは悪魔だ! 約束事だけは守るんだ!』

「へぇ~、そうですかぁ……。じゃあ、次は当てますね」

『や、やるならやれ! し、知ってるぞ! お前は甘い奴だってことを! その魂を見れば――』

「うるさいですよ」

『ぎゃぶっ!?』


 躊躇うことなく、依桜は悪魔の顔面に拳を叩き込んだ。


 やる時はやる女。それが依桜である。


「ボクが……なんですか?」

『い、いでぇ……いでぇよぉ……』

「何を言ってるんですか。あなたたちだって、ここの人たちに怪我を負わせましたよね? それなら、自分たちもそれに見合った報いを受けないとダメですよね?」

『し、知るか! オレたちは自由気ままに生きてんだよ! やりたいようにやる! それだけだ!』

「……ふーん。そんなこと言っちゃうんですか。じゃあ、死んでもいい、ということでしょうか?」

『し、死……?』


 ものすごく威圧感のある笑顔を向けられて、悪魔は思わず呆然となる。


「はい、死です。この世からいなくなる、ということですね」


 そして、無慈悲にも依桜は笑顔で丁寧に説明する。


 なんと言うか、さすがあれの弟子である。


『お、お前にやれんのかよ』

「やれますよ? たしかにボクはあまり殺したりとかしませんし、そもそもやりたいとも思いません。ですが、反省をしない、もしくは更生の余地なしと判断すれば、躊躇いはするものの、殺しますよ?」

『え……』


 実際、依桜の暗殺者としての考えはこれである。


 更生の余地ありと判断すれば殺しはしないが、更生の余地がないと判断すれば殺すのである。


 ミオが言うには、


『身体能力やステータス的なことで言えば、暗殺者としての才能は随一。だが、暗殺者として活動する上では絶対に向かない』


 とのこと。


 まあ、身体的な才能と、精神的な才能が真逆なのだ。


 しかし、だからと言って絶対に殺さないわけではなく、自分の大切な人たちが傷ついたり死んでしまうような状況になるかもしれないと判断したら、殺しはするのである。


 ある意味では、日本人としての感覚を持ったまま暗殺者になった、とも言える。


「たしか、聖属性や神気が苦手なんですよね? じゃあ、それで心臓をぷすってしますけど、いいですか?」

『や、やれんのかよ』

「やれますよ。あ、でも、ボクって意地悪なので、聖属性や神気だけでなく、回復魔法も付与しちゃいますけど、我慢してくださいね?」

『……は?』

「でも、そうですねぇ……貴女から情報を引き出せるとは思えませんし、選ばせてあげます。一つは、情報を話すこと。もう一つは……悪魔王という人の所に連れて行ってください」

『は、ハァ!?』

「じゃあ、三つ数えますね。はい、いーち。にーい。さー」


 ナイフを構えながら、にこにことした笑みを浮かべてカウントする様を見た悪魔は、本気だと悟る。


 このままでは、本当に地獄のような苦しみを味わわなければならない、そう考えた悪魔は……


『わ、わかった! あ、悪魔王様の所に連れて行く! だ、だから、命だけはどうか!』


 普通に命乞いをした。


 ちなみに、依桜は本気で刺そうとしていたりする。


 ピタッ! と胸から数ミリほどの距離でナイフが制止。


「それならよかったです。無駄に殺したくはありませんから。……さ、案内してください。悪魔王さんはどこですか?」

『……そ、その前に訊く。一体何の用で悪魔王様に会いに行くんだ?』

「決まってるじゃないですか。下の人がダメなら、上の人に聞くまでですよ。トップの人なら教えてくれそうですし」

『し、死ぬぞ』

「大丈夫ですよ。こう見えて、結構強いので」


 傍から聞いていると、死亡フラグにしか聞こえないが、異世界から帰還して以降の依桜は、たしかに帰還前――魔王討伐時よりも強くなっている。ステータスとしてはそこまででもないが、それ以外の部分においては強くなっているのである。


 ちなみに、今の依桜があの時の魔王と戦えば多少は苦戦するかもしれないが、それでも余裕で倒せるほどにはなっていたりする。


 ミオがほぼ原因ではあるが。


「早く連れて行ってください。さもないと、ぷすってしちゃいますよ?」

『わ、わかった! わかったからその物騒なもんはしまってくれ! く、クソッ、こんな奴に負けるなんて……』

「早くしてくださいよ」

『急かすなよ! ったく……。……ほれ、ここを通れば魔界だ。悪魔王様は一人そこにいるから、本人に聞いてこい』


 悪魔は空間に黒い穴を出現させた。


 これは、空間歪曲を利用したもので、それなりの肉体強度を持っていなければ通ることはできないが、依桜は余裕で通ることが可能である。


 この悪魔、実は偽の穴を作ろうかと考えたが、なぜか作ったら死ぬ気がして作らなかった。


 まあ、仮にそんなことをしていたら、本当に殺されていたのだが。


「ありがとうございます。では……っと、そうだった」


 穴に入る直前で、依桜は思い出したようにスマホを取り出す。


「あ、もしもし、師匠ですか?」

『ああ、どうした? 今忙しいんだが……』

「それはすみません。えっとですね、魔族の国が悪魔たちに襲撃されたので、魔界に行ってきます」

『……ちょっと待て。どうしたらそうなる』


 電話の向こうで呆れたような気配がする。


「え? だって、みんなを襲うとしたり、魔族の人たちを酷い目に遭わせたりしたので。直接トップの人に直談判しに行こうかな、と」

『……お前、なかなかすごいな。まあ了解だ。となると、あたしは引き続き動いた方がいいか』

「どういうことですか?」


 ミオがなにをしているのか気になる依桜。


『いや、どうも各地で悪魔が出ていてな。あたしは今、そいつらをぶっ飛ばして回っているんだよ』


 そんなミオからは、こんな答えが返って来た。


「あ、そうなんですね。……となると、魔族の国が少し手薄になっちゃうかも……」


 依桜の心配は最もである。


 分身体を残して行くとは言え、手薄になる可能性がある。


 分身体は基本、身体能力が低下するので、倒される可能性があるからだ。


 まあ、依桜くらいだったらそこまで問題はなさそうではあるが……。


『安心しな。そっちに分身体もよこすから。あたしが二人くらいいればいいか?』

「全然大丈夫です。一応、ボクも分身体を残して行くつもりなので」

『了解だ。気を付けて行って来いよ。まあ、今のお前なら、悪魔王は余裕だと思うがな』

「だといいんですけどね。それでは、行ってきます」

『ああ、いってらっしゃい』


 心配事がなくなると、依桜は穴に向き合う。


「じゃ、早速出発!」


 まるで、遠足にでも行くかのような、軽いノリで依桜は穴に飛び込んでいった。

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