第497話 勢力を拡大させる依桜ちゃん

「あー、そういうわけで……付き合うことになりました」

「ま、ました……」

「「「「「おめでとう!」」」」」


 告白大会終了後、ボクたちは態徒に呼ばれて、生徒会室へ来ていた。


 なんで生徒会室かと言えば……まあ、態徒が良くも悪くもそこそこの知名度がある上に、鈴音ちゃんの方もかなり人気があったらしく、ちょっとした騒ぎになったから、こうして生徒会室に来た、というわけです。


 最初は屋上の案もあったけど、あそこはバレやすいからね。


 その点、生徒会室なら、鍵を持っている人しか入れないから、隠れて話すのにはぴったりというわけです。


 そして、生徒会室に入り、態徒と鈴音ちゃんの二人は並んで立って、ボクたちに付き合いだしたことを報告。


 それを聞いたボクたちは、素直に祝福しました。


「まったく……いつ付き合うのかとやきもきしてたけど、まさか高校二年生とはね」

「中学時代からの付き合いなのに、随分と遅かったな」

「だねぇ。やっぱり、態徒君もかなりの鈍感だよね」

「うちも、色々と昔のお話を聞いたけど、態徒君すっごく鈍感なんだね」

「ほんとだよ。ボクも二人の関係性を見てて、いつ付き合うのかなぁ、ってもやもやしてたもん。鈍感だね、態徒は」

「それお前が言うか!?」

「ボク、態徒ほど鈍感じゃないつもりです」

「「「「「「……」」」」」」

「あ、あれ!? なんで誰も何も言わないの? しかも、鈴音ちゃんまで!」

「だ、だって、依桜君、鈍感さん、だったんだもん……」

「……違うもん」


 鈴音ちゃんにまで鈍感って言われるボクって……。


「まあ、気を取り直して……おめでとう、鈴音ちゃん」

「う、うん、ありがとう、未果ちゃん」

「態徒、お前絶対に浮気とかするんじゃないぞ?」

「誰がするか!? ってか、鈴音と付き合ってる状態で浮気とかしたら……オレ絶対消されるからな!?」


 晶のからかい交じりの注意に、態徒は本気でそう反論した。


 まあ……鈴音ちゃんの家って、ヤクザさん、だもんね。


「消される? 消されるってどういうことなんだい?」

「あ、そっか。未果たちは知らないんだっけ。……えーっと、鈴音ちゃん。言っても大丈夫? もちろん、みんなはそれを聞いて引くような人じゃないから」

「……うん。大丈夫。態徒君、にも、言われた、から。話して」

「ありがとう。えーっと、鈴音ちゃんの家なんだけど――」


 そう前振りをして、ボクは簡単に鈴音の家のことについて話した。


「「「「なるほど……極道の娘か」」」」


 話を聞き終えるなり、みんなは何とも言えないような表情を浮かべた。


 気持ちはわかるかな。


「え、えっと……や、やっぱり、怖い……?」


 そんなみんなの反応を見て、鈴音ちゃんは不安そうな表情を浮かべる。


 鈴音ちゃんの心配した声に、未果たちは首を振り否定する。


「あー、いえね? 別に今更極道の娘、なんて肩書が出ても、ねぇ?」

「そうだな。……驚いたり怖がったりするのが普通なんだろうけど、俺たちは一般的な高校生とは比べ物にならないくらい、普通じゃない人たちと会ってきてるからな……」

「まあ、やーばい人しかいないもんね。わたしたちの身内って」

「それを言ったら、依桜ちゃんの妹さんとか、異世界人だし、ミオさんもそうだし……もっと言うなら、依桜ちゃんの存在そのものが普通じゃないし」

「……否定できないところが辛いけど、まあ、そういうことなわけです。あと、今学園内には、天使とか悪魔もいるかよ」

「そう、なの……!?」

「うん。だから、ヤクザの家とは言っても、ボクたちからすれば、全然可愛い部類に入るから。安心して」

「うん……!」


 ボクたち全員が受け入れてくれたとわかるなり、鈴音ちゃんは目に見えて嬉しそうな表情を浮かべた。


 もしかしなくても、過去にそれが原因で離れて行っちゃった人とかいたのかもね。


 でもまあ、ボクたちはちょっと経験知的なものが違うから、幸いにも受け入れられたわけで。


 ……とはいえ、仮に経験していなかったとしても、何の問題もなく受け入れていた気がするけど。


「にしても、私たちの中で、一番速く恋人を作るのが態徒とは……世の中わからないものだわ」

「それはオレも思ってる。しかもさ、こんなに可愛い彼女ができるなんて、予想できねーって」

「か、かわっ……!?」

「おう、鈴音は可愛いぜ。ってか、鈴音以上に可愛い奴なんていないと思ってる」

「……わ、わたし、も、態徒君よりも、カッコいい人はいない、と思ってる、よ?」

「お、おう。そうか。……はは、なんか照れるな」

「そ、そう、だね」


 と、不意に二人だけの世界になってしまった。


 あー……。


「アニメとかマンガ、ラノベで、身内に恋人ができると遠慮しがちになってるシーンとかあるけど……今、そのキャラたちの気持ちがわかった気がしたわー」

「そう、だな。あと、甘ったるい空気で胸焼けしそうだ」

「しれっとイチャコラするって言うのも、付き合いたてのカップルの通過儀礼敵な物だよねぇ。うんうん、実に初々しくて、いいネタだぜぃ!」

「おー、うち、お友達に恋人ができた時の気持ち、初めて知ったけど……気恥ずかしいね」

「あ、あはは……これは、ボクたちはお邪魔虫かな?」


 二人の甘々な世界を見て、ボクたちは思わず苦笑い。


 まあ、女委だけは面白がっているみたいだけど……それでも、どこか遠慮がちに見える。


「っと、すまんすまん。なんか、つい浮かれちまって……って! そうだ、お邪魔虫で思い出したんだけどよ……お前ら、鈴音がオレに告白した直後、指輪で冷やかしたろ!? アレ、マジで腹立つからやめてくんね!?」


 ボクのお邪魔虫、という単語に反応した態徒は、告白大会中、ボクたちが指輪型魔道具で発破をかけたことに対して、猛抗議してきた。


「いえ、せっかく、指輪型の連絡装置的な面白いものがあるんだし、友人が告白されてなかなか答えを出さない姿を見て、何もしないわけにはいかないじゃない? ねぇ?」

「そうだな。あれはさすがに、見ていられない」

「まあ、態徒君が悪いよねぇ」

「うちも面白そうだったから乗ってみたよ!」

「ボクはストレートに思ったことを言っただけです」


 ボク含めた全員、特に悪びれる様子もなく、いけしゃあしゃあとのたまった。


「未果たちはまだいいけどよ、依桜だけはマジで怖いからな!? ってか、お前の職業的にマジでシャレになんねぇから!」

「あはは!」

「あはは、じゃねえよ!?」


 態徒、今日はよく喋るなぁ。


 でも、こうして彼女ができる結果になってくれたことは、素直に喜ばしいかな。


「指輪……?」


 ふと、ボクたちの会話を聞いていた鈴音ちゃんが、指輪、という部分に反応した。


 あ、そっか。


「えーっとね、実はボクたちと、あともう何人か、こんな指輪を持ってるの」

「これ、は?」

「簡単に言えば、魔法の道具だよ」

「魔法……? これ、魔法の、道具、なの?」

「うん。異世界の物でね。これを持っていれば、どんな場所にいようと会話ができるの。まあ、これを持っている人同士でしか会話は成立しないから、スマホみたいなものかな?」

「ま、スマホより圧倒的に便利だけどね、会話をする分には」

「そうだね。だってこれ、大気中の魔力を使用して話せるし、それに、相手の脳内に直接言葉……というより、思念を送ることで、簡単に会話ができちゃうしね。だからもし、誘拐されたとしても、会話は心の中ですることになるから、絶対にバレないで助けを呼べるから、本当に便利だったり」

「すごい、ね。……お話で、しか知らない、けど、異世界があるんだもん、ね」


 そう言いながら、鈴音ちゃんはボクの手の平にある指輪型魔道具をまじまじと見つめる。


「鈴音ちゃん。よかったら、この指輪貰ってほしいんだけど……」

「え、い、いいの……? これ、高価な物、なんじゃない、の?」

「うーん……まあ、こっちの世界で換算すると、一個数十万円くらいするけど、いくらでも創れるから、遠慮しないでもらってほしいかな」

「す、数十万……」


 指輪の金額を聞いて、鈴音ちゃんは目に見えて警戒した。


 ど、どうしよう。


 別にこれ、ボクが『アイテムボックス』で生成したものだから、タダなんだけどなぁ。


「あー、鈴音ちゃんの言いたいことはわかるけど、昔に比べて、依桜は異常になったから気にしないで受け取っておいて」


 どうしたものかと悩んでいると、未果が助け舟を出してくれた。


 言っていることは酷いけど。


「そうそう! 貰っておいて損はないぜー、鈴音ちゃんや。だってこれがあれば、態徒君とだけで、秘密の会話もできちゃうからね!」

「……! も、もら、う!」


 ……鈴音ちゃん、それでいいの……?


 まあ、本人がすごく欲しがり出したし、別にいいけど……。


「はい、失くさないでね」

「うんっ。大事に、する、ね」

「とはいえ、仮に失くしちゃっても、新しく創るから、もしもの時は言ってね」

「うんっ……!」


 さて、と。


「あー、じゃあ、ボクは一旦行くところがあるから、そこに行くね。鍵は置いておくから、出るときは鍵を閉めて、ボクの下駄箱の所に入れておいて」

「依桜ちゃん、どこ行くの?」

「えーっと、ちょっとしたお礼かな」

「大変だな、生徒会長も」

「まあ、今回のことに関しては生徒会室というよりも、ボク個人として、だけどね。……それじゃ!」


 軽く挨拶をしてから、ボクは生徒会室を出て行った。



「お待たせしました」

「おォ、来たか、嬢ちゃん」


 ボクの行く所、というのは、鈴音ちゃんのお父さん、百目鬼さんの所です。


 告白大会終了直後に連絡が来て、こうして一度会うことになった、というわけです。


 場所は学園長室。


 学園長先生に、ここを使っていいと言われたので、ここで話すことに。


 相手が相手だから、その方がいいし、ちょうどよかったよ。


「すみません、わざわざ来てもらってしまって……」

「いや、いいってことよ。今回は、嬢ちゃんにかなり助けられちまったからなァ。特に鈴音の件でよ」

「いえいえ。鈴音ちゃんに関しては、態徒が頑張ってくれただけですから、できれば、態徒にお礼を言って上げてください。何が何でも守る気概で、鈴音ちゃんを連れて逃げ回っていたみたいですから」

「その話なんだがよ……鈴音が、その、態徒、とかいう男に惚れた上、しかも鈴音が告白して、恋人同士になってんだがよ……ありゃぁ、本気でいいのか?」


 ……その話が来るかぁ。


 百目鬼さん、すっごく怖い笑顔を浮かべてるんだけど……。


 とは言っても、ボクは態徒を信用しているし、心配はいらないわけだけど。


「はい、本気で大丈夫ですよ。ちょっと、バカで鈍感で変態ですけど、決して悪い人じゃないです」

「鈍感はいいとしても、バカと変態の部分はさすがに擁護できてなくねェかい?」

「大丈夫です。ああ見えて、かなり友達想いの優しい人なので。それに、鈴音ちゃん本人は、自分の家がヤクザの家であることを伝えた上で告白しましたしね」

「ほォ。つまり、何かい? あのあんちゃんは、鈴音の肩書を知った上で、告白を受けたってことかい」

「そうなりますね。……それに、ボクたちのグループ全員、その事実を知りましたけど、誰一人として怖がっていませんしね」

「……嬢ちゃんらのとこは、どういう神経してるんだい?」

「これに関しては、経験としか言えませんね」


 さすがに、異世界のことをおいそれと言えるわけじゃないし。


 ボクが女の子になっちゃったことに関しては、体質だから、で済ませられるけど(苦し紛れではあると思うけどね)、さすがに異世界の話は誤魔化せない。


「そうかい。まァ、嬢ちゃんからは、とんでもなく強ぇ雰囲気があるし、疑わねェが。……そうかい。あのあんちゃんは信用できんのかい」

「はい。浮気もしないと思いますよ。態徒自身、そういう不誠実なことは嫌いですから」

「……なるほどな。まァ、身近な奴が言うんだ。まちげェねェだろうな。……だが、できればこの目でたしかめてェんで、今週の土曜日に家に来るよう伝えてもらえねェかい?」

「……わかりました。態徒には伝えておきますね」

「ありがとうよ、嬢ちゃん」


 ふっと笑みを浮かべながら、お礼を口にする百目鬼さん。


 顔はちょっと怖いけど、かなりいい人そうで何よりかな。


「……しっかしまァ、今回は嬢ちゃんにかなり世話んなっちまったなァ。うちの若頭の命も救われた上に、長年抗争状態にあった、神崎組を潰してもらっちまったわけだしよ。何か礼をしてェんだが……何かあるかい?」

「お礼なんていいですよ。むしろ、したいのはこっちで……」

「どういうことだ?」

「今回の一件、百目鬼さんたちがいたからこそ、そこまでの被害が出なかったんです。一応、ボクの伝も使って、応援を八十人ほど呼びましたけど、それでも百目鬼さんたちの働きもあって、最小限に済みました。ですので、こちらとしても何かお礼がしたいと思っていたんですけど……」

「……嬢ちゃん、本当に何もんだ? そういや、異常に強い集団と、やけに治療に手慣れている奴らがいたと部下たちに訊いたが……ありゃ、嬢ちゃんの知り合いか?」

「知り合いと言いますか、何と言いますか……」

「煮え切らねェ返事だなァ。なんだ、言えないような奴らなのかい?」

「……とりあえず、そういう知り合いが大勢いる、とだけ」

「……ふっ、そうか。まァ、詮索するのは悪ィか。すまねェな」

「いえ、お気になさらず」


 さすがに、天使と悪魔です、なんて馬鹿正直に言えないもんね……。


 話の分かる人で助かったぁ。


「しかし、礼と言われてもなァ……。むしろ、俺たちの方がしてェくれェだからな……」


 顎に手を当てながら、困ったように漏らす百目鬼さん。


 やっぱり、あれかな。


 義理人情に厚い人だから、こうしてお礼を考えているのかな?


 ……うーん、困った。


「お、そうだ。こんなのはどうだ?」

「どんなのですか?」

「今回の一件、嬢ちゃんのおかげで、長年の問題が解決した。奴らは、ヤクを撒いてやがってたからよ。本当に助かったんだわ」


 ……もしかして、田中さんが言っていた、薬の売買をしている人たちって、今回襲撃して来たヤクザの人たちの事!?


 うわぁ、なんという偶然……。


 なんかもう、ボクの幸運値がわざと問題を引き寄せてるんじゃないのかなぁ、これ。


「そこで、だ。うちら『百目鬼組』は、嬢ちゃんが困っていたら、助けになろうと思うんだが、どうだい?」

「それは、えーっと……どういう意味ですか?」

「なに、簡単なこった。要は、俺たちが嬢ちゃんの下に付くってことだよ」

「……え!?」


 何をどうしたらそんなお礼になるの!?


「正直、俺たちだけじゃ、今回の一件はどうにもならなかった。それどころか、下手すりゃ鈴音が殺されていたかもしれねェ。そうならなかったのも、嬢ちゃんと嬢ちゃんの伝のおかげだ。しかも、俺が見た限りじゃ、うちの組のもん全員が束になってかかっても、勝てやしねェだろうしな」

「……だ、だとしても、ボクみたいな女の子の言うことを聞かないと思うんですけど……」

「安心しな。ヤクザってのは、上下関係にうるせェ。俺が従えって言や、従うんだよ、あいつらは」

「……そ、そうなんですか」


 ……どうしよう、明らかにこれ、いつもの流れだよね!?


 で、でも、鈴音ちゃんのお父さんだし……うーん……。


「あァ。だからまァ、この話を受けてもらえると、俺たちとしちゃァ嬉しいんだがね」

「……受けない場合は?」

「特に何もねェさ。俺たちの気がすまねェってだけだ」


 それはそれで問題じゃない?


 何をするのかわからない恐怖があるんだけど!


 少なくとも、学園生を守ってくれていたから、変なことはしないと思うけど……。


「……はぁ。わかりました、それでいいですよ」


 結局、受けることにした。


 だって、断ってもなんらかの理由で受けることになりそうだしね……メルの時や、セルマさん、フィルメリアさんの時も、似た様な感じだったしね……。


「おォ、そうか! 受けてくれるか! 嬢ちゃんはまだ未成年だし……とりあえず、ジュースでいいか」


 そう言いながら、百目鬼はどこからともなく、二つの盃とお酒、あとサイダーをテーブルの上に乗せた。


「何を……?」

「親子盃だよ」

「……それ本気の奴じゃないですか!?」


 というか、そんなものがあると言うことはもしかして、最初からこうするつもりだったんじゃ……。


「あァ、本気だからな。ヤクザだからな、こう言うのはしっかりしておくんだよ。……とは言っても、口上はかたっくるしくて苦手だし、今は正装をしてねェんで、その辺は堪忍な。本当は、色々とあるんだが……ま、うちは義賊みてェなもんなんでな」

「いや、そう言うわけじゃないんですが……って、はぁ。まあ、いいですけど。えっと、とりあえず、飲めばいいんですか?」

「あァ。嬢ちゃんが俺の盃に酒を注ぎ、俺がそれを飲むってェわけだ。本当は、色々と違うんだがな。うちはほとんどこう言う風にしてるんで、気にしないでくれ」

「そ、そうですか」


 元々の作法とか知らないけど、とりあえず……うん、いいよね。


 気にした負け、ということで……。


「……んじゃ、ささっと済ませてしまうぞ。俺はこの後も色々あるんでなァ」

「わ、わかりました」


 ボクはお酒の栓を開けると、百目鬼さんの盃にお酒を注ぐ。


 ボクの方には、サイダーを。


 ……一応、お酒が飲めないわけじゃないけど、法律的にダメだからね。


 いくら毒無効があるからと言って、傍から見たら未成年飲酒になっちゃうもん。


「おし、簡単に。……今日から、あー、依桜の姉御の盃を頂くんで、今後ともよろしく頼むぜ」

「姉御!?」


 ボクのツッコミを無視して、百目鬼さんはお酒を一気に呷った。


 あぁ、飲んじゃったよ……。


 まあ、ボクも飲みますけど……。


「……えっと、これでその、いいんですか?」

「問題ねェ。そんじゃ、これで百目鬼組は姉御のもんだ。遠慮なく命令してくれよ」

「え、えーっと……困った時は頼りにします……」

「あァ、それでいい。……さて、俺はそろそろお暇しようかね。色々とやなきゃいけねェこともあるし、何より姉御のことも言わなけりゃいけねェからな」

「……あはは」

「それじゃ、俺は行くぜ。姉御も気ぃ付けてな」

「あ、はい。今日はありがとうございました」

「いいってことよ」


 そう言いながら、百目鬼さんは学園長室を去って行った。


「……はぁ。今度はまさか、ヤクザの親玉ポジションになるなんて……なんかもう、色々疲れたよ……」


 お礼をしに行くはずが、まさかのお礼をされた上に、しかもそのお礼が子分になるという、とんでもないものだったことに対し、ボクはただただ溜息を吐くだけでした。

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