第412話 甘えん坊依桜ちゃん再び
「……まったく、いつまで怖がってるの?」
「だ、だってぇ……」
肝試しを終えて旅館に戻っても、相変わらず依桜は怖がり状態だった。
今にも泣きそうな顔をしている。
結局、依桜が泣きだした後は、みんなで交代しながらおんぶして戻っていったわけだけど……まあ、当然天国よね。
依桜、可愛いし。
未だに、あれが元男の娘って言うのが信じられないわよね……。
世の中、どうなるかわかったもんじゃないわ。
「ほら、お風呂行くわよ。さすがに、川に入ったとはいえ、肝試しでも汗かいたし、その状態で寝るのは気持ち悪いでしょ?」
「そ、そう、だけど……で、でも、か、おふろもこわぃ……」
「たしかに、依桜君ぐらいの歳だと、肝試しやった後って、お風呂に入るの怖いよねぇ。ついでに、しばらくは恐怖状態が続くし」
「そうねぇ……。でも、お風呂に入らないと、汚くなっちゃうわよ?」
「ぅぅ……それはやぁ……」
やぁって……なるほど、この状態の依桜が恐怖状態になると、本当に幼児退行を起こすのね。ただ、そこまで酷いって言うわけじゃないみたいだし、軽いみたいだけど。
「みかぁ、だっこ……」
泣きそうな表情で、両手を私に向けて広げながら、そうせがんできた。
前言撤回。全然軽くないわ。これ、若干重症化してるわ。
マジかー……依桜ってば、ここまで酷くなるのね……いや可愛いけど。
「はいはい、抱っこね。……よいしょっ、と」
「いやー、まさか、ここまで酷い状態になるとはねぇ……」
「抱っこをせがむんだね、あの状態の依桜ちゃんって」
「ほら、二人とも準備していくわよ。早く入れないと、色々とまずいし」
「「はーい」」
「依桜は、落ちないようにしっかり掴まっててね」
「ぅん……」
ほんと可愛いわね、この娘。
そんなこんなで、依桜を抱っこしながら温泉へ。
道中、ほんわかとした表情を依桜に向けている人たちが多かった。
まあ、十中八九、依桜のこの可愛さにやられたのでしょう。私も結構ヤバい。その内鼻血とか出すんじゃ? みたいなくらいに、ヤバい。
『あれ、依桜ちゃんどうしたん? 未果に抱っこされて』
「あー、さっきの肝試しでかなり怖がっちゃったのよ。依桜、お化け屋敷とか幽霊が苦手なの」
『え、以外! むしろ、怖くないのかと思った!』
『それな!』
『依桜ちゃんって、普段はすごく堂々としているから、てっきり怖いものなんてないのかと……』
「お、おめめがいっぱいのばけものとか、ゾンビとか、スケルトンならだいじょうぶなんだけど……ゆうれいだけはだめで……」
(((いやなぜ?)))
『依桜ちゃんの基準って面白いね』
「そ、そうかな……?」
『うんうん。普通、そっちの方に苦手意識を持つ人の方が多そうだもん』
やっぱり、普通はそう言う反応よね。
依桜が特殊すぎるのよ。
「さて、さっさと入りましょ。依桜、服、自分で脱げる?」
「……ぬ、ぬげるよぉ……」
「それじゃあ、一旦下ろすから、脱いで。もしあれだったら、抱っこして浴場に連れて行くから」
「ありがとぉ、みか」
「いいってことよ」
否定しないのね、依桜。
それはそれでなんかどうかと思うけど……まあいいでしょう。
役得よ、役得。
まあ、だとしても、裸の状態で抱っこを頼むかもしれないってわけね。
やっぱりこれ、幼児退行を起こしてるわね。
まあ、重度ではないでしょうし、大丈夫……だと思うわ。
服を脱ぎ終えると、やっぱり依桜が抱っこをせがんできた。
なるほど。甘えん坊にもなるのね、この姿は。
普通のロリ状態なら、ここまでじゃないんでしょうけど、その辺りは外見年齢にもよるのかもしれないわね。
小学四年生くらいだしね、向こうは。
だけど、こっちは小学一年生くらいの大きさということを考えると、ね。
人って、自分の体に変化が起きた場合、そっちに引っ張られるみたいだし。
だから、今回の場合を言うと、小学一年生くらいの精神状態に引っ張られてるんじゃないかしら?
「んぅ~」
……ま、そんなことよりも、今現在依桜が甘えて来てるわけなんだけどね!
抱っこしたら、私の首元や胸辺りに顔をうずめてくるのよ、この娘。
しかも、微妙に嬉しそうにしてるし……。
これ絶対、元に戻ったら恥ずかしがるでしょ。
まあいいわ。私はとっても天国だし。
「ほら、依桜。洗うわよ」
「あらってぇ……」
「はいはい。まったく、依桜は甘えん坊ね」
しょうがないなぁ、と言う風を装いながら依桜を椅子に座らせる。
正直、今にも顔がにやけそう。
可愛すぎて……。
「依桜ちゃん、甘えん坊だね!」
「そりゃあね。依桜の本質は、甘えん坊だもの」
「羨ましい限りだぜ、未果ちゃん。……まあ、未果ちゃんに甘えまくっているのは、単純に一番仲がいいから、と言うのもあるだろうけど、幼稚園の頃からの付き合いだから、甘えやすいって言うのもあるのかもねー」
「なるほどー」
よく見てるし、よくわかってるわよね、女委って。
ある意味では、私たちのグループの中で、一番考え方が大人かもしれないわ。
経営はするし、無駄にいいこと言うし、しかも大人びた発言もするしね。
ほんと、ある意味じゃ天才よね。……なのに微妙にあれっていうのもあるけど……。
「どう? 痒いところはない?」
「んぅ~、きもちぃ~……」
本当に気持ちよさそうにするわね、この娘。
それはそれとして、この髪ざわり……羨ましい!
さらさらだし、全然指に引っ掛からないし……長いのに、なんでこんなに綺麗なのかしら? ……謎だわ。
ただ、この状態の依桜は耳とか洗う時気を付けないと。
耳の中に泡が入らないようにね。
「……よし。依桜、お湯流すから耳はガードしてね」
「うん」
返事すると、依桜は自分の小さい手で耳をぺたんと抑えた。
いや、なぜにその方法?
可愛いからいいけど。
と言うか、萌えるわ。
「じゃあ、体の方洗うわね」
「んー」
依桜の体を洗い始める。
正直、いつもより小さな体のせいで、下手に洗ったら折れちゃいそうね。
まあ、見た目に反してものすごくが頑丈だけど。
ついでに、肌がすべすべ。
くっ、本当に羨ましい……!
「依桜、尻尾も洗うけど、大丈夫?」
「だ、だいじょーぶ」
「了解。じゃあ、何か変なことがあったら、何か言って」
「うん」
ここは手洗いの方がいい、わよね? 尻尾だし。
……というか、この尻尾は一体どこから生えてくるの? そして、元に戻った時、この尻尾はどこに行くのか……ある意味、依桜最大の謎。
不思議体質よね、本当に。
魔法ってすごいわー。
「んっ……ふぁ……」
あ、やっぱり尻尾は感じるのね。
それと、ものすごくもふもふしてて触り心地いい……。
依桜の髪と同じ、綺麗な銀色の毛並みだし。
正直、ずっと触っていたい尻尾よね。
「よし、と。依桜、洗い終わったわよ」
「ありがとぉ」
「いいのよ。さて、私も洗うとするわ」
「あ、みか、ボクがせなかをながそーか?」
「あら、いいの?」
「うん!」
「じゃあ、その時はお願いするわ」
「はーい」
……これ、本当に高校二年生なのかしら?
色々と問題がある気がするけど……まあいいわ。可愛いから。
可愛ければなんでもOKよね。
依桜のことを考えつつ髪を洗い終える。
「じゃあ依桜、お願い」
「はーい! んっしょ、んっしょ……!」
あぁぁぁぁぁぁぁ~~~……やばい! 癒し! 癒しすぎる!
ケモロリが私の背中を一生懸命に洗っているのが素晴らしすぎる!
なんという可愛さ。
「ど、どう、かな?」
「ええ、気持ちいいわ」
「よかったぁ」
うっ、その可愛らしい笑顔……!
やばい、ロリコンになりそう……依桜限定だけど!
可愛すぎるのよ、この娘!
「依桜、もう大丈夫よ。ありがとね」
「うん!」
最高でした。
「ふぅ~……」
「はふぅ~……」
「なんだか、姉妹みたいだねぇ、二人とも」
「うんうん!」
温泉に浸かると、女委とエナの二人のそう言われた。
まあ、今の状況を見ればね?
なにせ、
「きもち~……」
依桜が私の膝の上に座っているんだもの。
まあ、より正確に言えば、足と足の間に入り込んでいるんだけど。
すっぽりと収まっていて、私の体に寄り掛かっている。
いやー、何この天国みたいな状況。素晴らしすぎて、私の魂が昇天しそうよ。
「でも依桜君、未果ちゃんがほんと好きだよね~」
「うん、ボク、みかすきだよ?」
「――っけほっ、けほっ」
むせた。
いきなり好きとか言われたので、思いっきりむせた。
くっ、この辺の羞恥心も薄れてるのね、さては……!
「それに、めいもすきだし、エナちゃんもすきだよ!」
(((あ~、可愛すぎる……それと、この純粋無垢な笑顔……癒し!)))
ケモロリ依桜の破壊力、半端ないわ……。
通常時は、可愛いとカッコいいでバランスがとれた形態で、ケモロリは可愛さの権化ね。反対に、大人モードは綺麗でカッコいい、と言った感じかしら? あの状態は、いつもより大人っぽい。
やっぱり、依桜は最高よね!
所変わって、隣――男湯。
「……はぁ。まーたやるのか? 態徒」
「当然だぜ! なあ、お前たち!」
『『『応ッ!』』』
「……どうなっても知らないからな」
隣の男湯では、例によって覗こうとする馬鹿たちが現れていた。
まあ、こう言った行事では定番と言えるだろう。
「ヘタレは置いておいて、オレたちは行くぞ!」
『もちろんだ!』
「まったく……」
付き合いきれないとばかりに、晶は温泉に深く浸かった。
その反面、他の男達は、一ヵ所に集まってどう覗くか、ということを話し合う。
「で、下準備は済ませて来たか?」
『任せろ。ルートは既に確認済みだ』
『でかした』
『実はそっち側にちょっとした道があってな。そこの先に行くと、柵の隙間があるんだ。そこから覗ける』
『『『おおぉ……!』』』
「じゃあ、そこから行くか! んで、問題はどうバレないように進むか、だな」
『喜べ。さらに言えばそこは、割と道があってだな。音が立ちにくい場所のはずだ』
『マジかよ。さすがだな、お前』
『ふっ……女子の入浴姿を見るためならば、これくらい当然』
「んじゃ、後は実行するだけ、か?」
『そうだな』
『んじゃあ、順番に行こうぜ』
『『『それで行こう』』』
話し合い終了。
中身を聞く限り、本当に酷い。
あと、その無駄な労力を別のことに使った方が圧倒的にいいはずなのだが……ここにいる馬鹿たちは、こんなにくだらないことにしか使っていない。
なぜ、馬鹿な方向性に使うのだろうか、その行動力を。
晶だけは唯一、まともな思考回路で、一人温泉を楽しんでいた。
普通に、リラックスしている。
そして、変態たちは……
「よっしゃい、行くぞー!」
『『『YEAHHHHHHHHHHHHHHHHHッッッ!!!』』』
ガサガサッ!
「ひぅっ!? な、なにっ!?」
ビュビュビュビュンッ!
ドスドスドスドス――!
「ちょっ、依桜何してんの!?」
いきなり、依桜が針を投げだした。しかも、怖がりながら。
そんな、私のツッコミの直後。
『『『ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!』』』
そんな汚い悲鳴が柵の向こうから聞こえてきた。
……さては。
「依桜。あの柵の向こう、誰がいるかわかる?」
「ぇ、ぇっと……た、たいととか、あと、あきらいがいの、く、クラスのだんし、とか……」
「OK。みんな聞いた?」
私が周囲の女子にそう尋ねると、全員こくりと、こわーい笑顔で頷いた。
「よし。――殺れ」
『『『Yes!!』』』
男子、終了のお知らせ。
その後、女子たちの行動により、男子全員(晶を除く)が全員もれなくお説教コースとなった。
首謀者は案の定と言うか……態徒だった。
何してんのよ、あの馬鹿。
後日、奉仕活動があるそうよ。ま、当然ね。
ちなみに依桜なんだけど、
「んゅ……ねむぃ……」
疲れてしまったのか、すごく眠そうにしていた。
さすがにそのまま温泉に入っているのはあれだったので、依桜を連れて温泉から上がり、依桜を寝かせた。
ほんと、酷かったわ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます