第241話 学園へ
というわけで、夜。
「( ゚д゚)」
「正直、説明するのも面倒だから省略するけど……もう一人の僕だ。名前が同じでややこしいから、桜、と呼んでくれ」
ボクの姿を見て、こっちの父さんがポカーンとした表情を見せた。
こっちの父さんも、こんな顔するんだね……間抜け顔、って奴だよね?
「父さん。あほ面を晒すのは、やめてくれ」
「ほんと、依桜は酷いな!?」
「きっと、お母さんに似たのね~」
な、なるほど、こっちではこういう感じなのね、父さんって。
なんというか……立場が一番低い、って言う部分は変わらない気がするけど、ボクにすら冷たい言葉を受けるんだ。
「それで、桜、だったかな? えーっと、君は、依桜本人なのかい?」
「そ、そうです。といっても、この世界の依桜じゃなくて、何と言うか……こことそっくりな世界に住んでる、こちらの人たちから見た、もう一人の依桜と思っていただければ……」
「なるほど。……わからん」
「……父さんは馬鹿だからな」
「……最近、息子が冷たいと思うんだ」
息子、か。
ボクも去年の九月までは、一応そう呼ばれていたんだけどなぁ……。
呪いのせいで、性別が変わっちゃって、今は娘、だもんね。
しかも、ノックもなしに、部屋に入って来られて、裸を見られた時は本当に恥ずかしかったんだから。
「まあまあ、とりあえず、ご飯にしましょう。さ、食べて食べて」
「あ、ありがとうございます」
「敬語なんていいのよ。世界は違うけど、一応親なんでしょ?」
「う、うーん、微妙に違うような……」
「というか、DNA鑑定とかしたら、普通に同じなんじゃないかしら? そっくりな世界なわけなんだし」
「たしかに、それはあり得るかもなー」
と、依桜が母さんの言うことに、賛同する。
言われてみれば、そうかもしれない。
だって、この世界って向こうと限りなく一緒に近い。
だから、ボクとボクがDNA鑑定したら、まったく同じものになるっていうことだよね?
色々と問題になりそうだからやらないけど。
「まあ、そういうわけだし、自分のお父さんとお母さんと思って、接してね」
「う、うん」
一応、父さんと母さんなんだけど、正確に言えば、ボクの父さんと母さんじゃないんだよね……。
でも、外見と性格もほとんど同じだから、何と言うか、父さん、母さん、って呼ぶのに違和感も抵抗もない。
並行世界ってわかってるからかな。
「さあさ、冷めちゃうし、ご飯にしましょ!」
「そうだな」
「「「「「「いただきます」」」」」」
賑やかな夜ご飯になった。
それから、お風呂に入ったりだなんだをして、就寝。
とりあえず、並行世界での暮らしの一日目は、なんとか無事に過ぎていった。
翌朝。
「ふぁあぁぁ……んぅ……あさ……」
いつも通り、とはいかないけど、目が覚めた。
いつもなら、ベッドの上で目が覚めるんだろうけど、今日は敷布団で目が覚めた。
一応、ベッドを使ってほしい、なんて言われたけど、さすがに断った。
メルがいるからね。
さすがに、床で寝かせるのは可哀そうだったので、ボクが床で寝た。
それに、一応ボクは元男だからね。そこまで気にかけられるような人じゃないから。
どこでも寝れますとも。
師匠が原因だけど……。
「ふぁあ~あ……ああ、おはよう、桜」
「うん、おはよう、依桜」
「……目が覚めて、少し前までの自分と同じ姿の人間に挨拶するって言うのは、変な感じだ」
「あはは、そうだね。ボクも不思議だよ」
二人して苦笑いする。
ボクだって、目が覚めて、同じ姿の人がいたらびっくりするもん。
「今日は普通に平日だしな。学園に行かないと」
「あ、うん。いってらっしゃい」
「いや、桜も行くんだぞ?」
「ふぇ?」
ボクはこっちの世界の住人じゃないし、一応設定は考えたけど、それは依桜が学園の方の人に説明するための設定なわけで、ボクは行かないんじゃ……。
「考えてもみるんだ。並行世界ということは、こっちで過ごした分の時間が、帰った時に、そっちの世界でも進んでいるかもしれないだろう? そうなれば、授業の遅れが出る可能性がある」
「あ、そっか」
言われてみればそうかも。
異世界なら向こうでの七日が元の世界での一日だけど、ここは異世界ではあるけど、正確に言えば並行世界。
だから多分、時間の流れも同じになってる可能性がある、ってことだよね。
そうなると、依桜が言ったように、ボクの世界で時間が経過してるってことになるんだ。
「それに、この件に関して、学園長からすでに許可は得ている。一応、桜が風呂に入っている間、僕の方で連絡をしておいた。一応、こっちの世界にいる間は、こっちの二年三組の生徒として通えるそうだ。設定も、双子、ってことになっている。ちなみに、姉と妹、どっちがいい?」
「ど、どっちでもいいよ。双子だからあんまり変わらないし……そもそも、生まれた時間、日にちだって同じでしょ? どっちが上か下かなんて、わからないよ」
同じような道のりを辿って来たってことだからね。
きっと、日にちと時間も同じのはずだし。
「それもそうか。……まあ、一応僕が兄、ってことにしておこう」
「わかったよ。じゃあ、ボクが一応妹、ってことだね」
「そうなる。といっても、何かが変わるってわけじゃないし、問題はないだろ」
「そうだね」
「よし。じゃあ、朝ご飯食べて、さっさと学園に行くか」
「うん」
それから、メルを起こして、ボクと依桜は学園に登校。
「やっぱり、視線は来るな」
「そうだね」
三人で歩いていると、かなりの視線がボクたちに集中していた。
『え、あれ、依桜君と……依桜、ちゃん?』
『ふ、二人いる?』
『ど、どうなってるんだろう?』
ボクという存在が二人いることに周囲の人たちも驚いているようだった。
まあ、同じ姿の人が二人いるわけだからね……。
「にーさまとねーさまは、注目の的じゃなぁ」
「あんまり嬉しくないけどな……」
「そうだね……」
じろじろ見られる、って言うのはだいぶ慣れてはいるけど、そこまで気持ちのいいものじゃないしね……。
むしろ、ちょっと嫌だなー、くらいの。
メルはメルで、なんだか嬉しそうだけど。
「でもこれ、こっちの未果たちはどう思うのかなぁ」
「割と、女委と態徒辺りは喜びそうな気はする」
「……あー、うん。なんかわかる」
特に女委の方。
一応、アニメやゲームが大好きだからね、女委。
こういう、いかにもな状況となると、かなり喜びそう。
「まあ、詳しい話は昼休みでいいだろう。一応並行世界から来てる、というのは言うが」
「そうだね」
「……できれば、早く帰してやりたいところだ」
「あ、あはは……」
本当に、いい人だね、こっちのボク。
どこかの学園長先生とは大違いだよ……。
というわけで、学園に到着。
やっぱり、周囲からの視線はかなり来る。
もう気にしてもしょうがないので、ボクたちはなるべく無視して教室へ向かう。
途中で、初等部の校舎の方にメルが行き、別れた。
そして、教室に辿り着くと、ボクたちは教室に入る。
「おはよう」
「お、おはよー」
ボクたちが入って来た瞬間、かなりびっくりしたような表情を浮かべるクラスメートのみんな。
未果たちも、やっぱり驚いている。
「とりあえず、桜の席は、僕の隣になった。一応、席をずれてもらったよ」
「う、うん。わかった」
それならありがたいよ。
やっぱり、知ってる人がいるって言うのはすごく落ち着くからね。
『や、やっぱりあれ、依桜君、だよね……?』
『うん……しかも、女の子の時の』
『でも何と言うか、可愛い、よね』
『わかる。なんかこう、女の子っぽいオーラがある』
ぼ、ボクって、そんなに女の子っぽいオーラを放ってるの……?
向こうでも、性別が変わる前に、未果たちによく言われてたけど。
ちょっとそれを気にしつつ、ボクたちの席に。
「あー、依桜。これはどういうことかしら?」
「……昼休みに説明する」
「了解よ。えっと、そっちの女の子の依桜はなんて呼べば……」
「とりあえず、桜、って呼んでくれればいいよ」
「わかったわ」
ボクたちのところに来た未果が、そう納得すると、そのまま戻っていった。
それと同時に、
「おらー、席着け―。HRするぞー」
戸隠先生が入って来た。
「まあ、お前らも気付いての通り、女男そっくりな奴がいると思うが、しばらくこの学園に通うことになった。あー、一応自己紹介をしてもらえるか?」
「あ、はい。えっと、少し複雑な事情があって、しばらくここに通うことになりました、男女桜です。よろしくお願いします」
『え、何あの依桜君……すごく柔らかい口調なんだけど』
『女男って、あんなに女子っぽかったか?』
『い、いや……』
『というか、本当に何者なんだろう?』
と、ボクの存在について、ひそひそと話し合っているのが目につく。
あ、あー、うん。まあ、気にはなるよね……。
「一応、お前たちに言うが、そこにいる男女は、女男の双子の妹だそうだ」
『ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?』
「どうやら、生まれてすぐに、ちょっとした手違いがあって、別の家で育てられてきたが、最近になって本当は、女男の双子の妹であることが判明してな。もちろん、血のつながりはある。だからまあ、仲良くしてやってくれ」
お、おー、本当にそれっぽい理由になってる。
まあでも、これで取り合えず、対外的な説明は何とかなった、かな。
……非現実的な話に、クラスメートのみんなは驚きで固まっているけど。
血のつながりがある、って言っても、そもそも本人だから、何もかもが同じなんだけどね……。
HRが終わり、ボクの周りには人が集まっていた。
『な、なあ、男女って、マジで女男の双子の妹なのか?』
「う、うん。ボクも最近知ったんだけどね。びっくりしちゃったよ」
ほんとは、双子じゃなくて、本人なんだけど……。
『道理で、女の子の時の依桜君にそっくりだと思ったよー。双子なら、納得』
「あ、あはは、そうなんだ」
そっくりって言うか、ボクからしたら、こっちのボクが、元の性別の時のボクにそっくりなんだけどね……。
『桜ちゃんって、何が好きなの?』
「す、好きなもの?」
『うん!』
「え、えっと、料理とか、甘いものとか、あとは、可愛いぬいぐるみとか」
『料理するの?』
「うん。家事もよくやってたから、一応一通りこなせるよ」
『すごーい! 兄妹そろって家事万能なんだ!』
『というか、好きなものが依桜君と同じなんだね』
「ま、まあ、双子だからね」
双子だから同じなんじゃなくて、そもそも、別世界のボクだから趣味嗜好が同じなんだけど……。
「あー、そろそろ質問攻めにするのはやめてやってくれ。桜だって、戸惑っているしな」
『あ、そっか。ごめんね、桜ちゃん』
「ううん、別にいいよ」
『それじゃあ、またあとでお話聞かせてね!』
「うん」
そう言って、クラスメートのみんなは離れていった。
「……僕も、男になった時は、ああいう風に質問攻めになったよ」
「ボクもだよ。しかも、いきなり胸のサイズ聞かれたし……」
「……そうなのか。一応訊くが、サイズっていくつなんだ?」
「……じ、実は、HよりのGなんだよ」
「あー……そう言えば、僕は発育よかったからな……それくらいになっても不思議じゃない、か」
ボクの胸のサイズを聞いた依桜が、苦笑いを浮かべながらそう言ってきた。
ふと思うけど、最初から女の子だったこっちのボクの方が、実は大変なんじゃないか、と思えるようになって来た。
男になってから楽になったとは言ってるけど。
まあ、うん。その気持ちはよくわかるよ……。
だって、生理って本当に辛いし、胸が大きいと、揺れて付け根が痛いし……。
それから解放されたのなら、女の子に戻りたい、なんて思わないよね……辛いだけだもん。
「大変だったね、依桜」
「いやいや、それを言うなら、桜こそ」
お互いでお互いを労った。
本当に、こっちのボクは優しいと思いました……。
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