第269話 イベント終了。打ち上げの後……

 イベント終了後、ボクとメルは【転移の羽】を使って、ギルドホームに戻っていた。


 みんなは、こっちに向かっている途中とのことで、しばらく待機。


 ……あれ? 普通に考えたら、ボクが迎えに行けばいいような……?


 それに、行ったことがある場所なら、ボクが途中までついて行った場所まで行けばいいわけだしね。


 うん。そうしよう。


 とりあえず、マップを……えーっと、あ、ここならボクも行ったところだね。


 それじゃあ早速。


「メル、ボクはちょっとみんなを迎えに行ってくるから、ちょっと待っててくれる?」

「わかったのじゃ。でも、できれば早く帰ってきてほしいのじゃ……」

「あはは、もちろん。メルを悲しませるようなことはしないよ」

「なら安心じゃ!」


 なんだか、並行世界に行ってからというもの、今まで以上にメルがボクに懐いている気がする。


 夜なんて、前よりもぴったりくっついて寝てるし、朝も、腕を抱き抱えるようにしてくるし……まあ、ボクからすれば、かなり嬉しいし、可愛い妹が甘えているようなものなので、全然いいんだけどね。


 メルは可愛いからね。


「それじゃあ……転移!」



 パッと視点が切り替わり、目の前は草原になった。


 さすがに、堂々と転移なんてしたら、大騒ぎになってしまうので、少し離れたところに転移するようにしてみた。


 そのおかげで、周囲に人はいなかった。


 それを確認してから【気配感知】を使ってみんなを探る。

 すぐ近くにいるのがわかったので、ボクはそこへ向かって走る。


 ちょっと走ると、前方にみんなの姿見えた。


「みんなー!」


 と、声をかけると、みんながボクを見てかなり驚いた表情を浮かべて、


「「「「「「ユキ(君)(ちゃん)!?」」」」」」


 と大きな声を出していました。


「え、あれ? イベントが終わったとはいえ、まだ国のはずよね……? なのに、どうしてこんなところに……?」

「実は、【転移の羽】っていうアイテムをもらってね。それを使って一度ギルドホームに戻ってから、みんなを迎えにここまで転移してきたの」

「何でもありというか……すごいな、ユキ」

「ま、まあ、アイテム自体はジルミスさんから貰ったわけだから……ね?」


 なんでもありなのは、むしろそう言うアイテムが実際にあるあの世界だと思います……。

 多分あれ、本当にあるんじゃないかなぁ。


 それに、一番なんでもありなのは、師匠だよ、絶対。


「それで、ユキちゃん。迎えに来たって言ってたけど……」

「あ、はい。えっと、これがあれば、みんなも一緒にギルドホームに帰れますので、どうかなと。歩くのも大変でしょうし……」

((((((天使かっ!!))))))


 うん? なんだか今、みんながまったく同じことを考えたような……気のせいかな?


「それじゃあユキ、お願いできるかしら?」

「あ、うん。もちろん。それじゃあ、ボクに掴まってください」


 そう言うと、みんなそれぞれ、ボクの体に触れた。


 その際、ヤオイとレンの二人が、ボクの胸に触ろうとしてきたけど、それぞれミサとショウに殴られてました。


 うん。ありがとう、二人とも。


 みんなが掴まったことを確認してから、


「転移!」


 ボクたちはギルドホームへ転移していった。



「到着」

「あ、おかえりなのじゃ!」

「ただいま、メル」


 ギルドホームに転移すると、嬉しそうな表情を浮かべながら、メルがボクに抱き着いてきた。

 たった数分程度なんだけど。


「マジかー。マジで、ギルドホームに一瞬で着いちまったよ」

「さすがユキ君だねぇ。いやー。本当びっくり」

「私、ユキちゃんと知り合いになれたことが本当に不思議でしょうがないよ」

「あ、あはは……」


 それはむしろ、ボクの方です。

 よくよく考えてみたら、人気声優さんと同じギルドにいるんだもんなぁ。

 今の生活になる前からは、まったく想像できなかったよ。


「まあ、ともかく。イベントは無事に終わって、俺達は一番乗りでゴール出来たな」

「そうだね。ボクとメルは参加できなかったけど、おめでとう、みんな」

「おめでとうなのじゃ!」

「そうは言うけど、一番頑張ったのはユキじゃないの? 何せ、二十パーティーが到着するまで、ずっとあそこに座って待っていた上に、セリフも言わなきゃいけなかったんだし」

「ま、まあ、たしかに緊張したし大変だったかな……」


 慣れない言葉遣いもしないといけなかったから余計に。


 あそこまで丁寧な口調をしたことなんてないもん、ボク。


 ……もしかして、向こうに行って、クナルラルに滞在するようなことがあって、他国の重鎮の人たちと話すことになったら、あの口調にしないといけないのか……?


 だ、だとしたら、普通に嫌だなぁ……。


 ま、まあ、国営のほとんどをジルミスさんたちがやってくれるって言うし、大丈夫だよね? うん。


「だろうな」

「本来は、普通のプレイヤーだったはずなのにねぇ。ユキ君も、本当災難だよね」

「学園長先生の暴走なんて、今に始まったことじゃないし、別にいいけどね……」


 慣れたというか、もう諦めてます。

 だって、言っても無駄だもん、あの人の行動なんて。

 いつ何をするか予測もできないし、そもそも何をしようとしているのかもわからない。

 それなら、考えても無駄というものです。


「しかしまあ、プレイヤーたちは大騒ぎだろうなぁ」

「ま、まあ、プレイヤーが女王様だったわけだしね……。うぅ、チートとかずるとか言われないか心配だなぁ……」

((((((いや、心配するところはそっちじゃない))))))


 運営と繋がってると思われている場合、一回目のイベントの時のボクの強さは、運営によるものなんじゃ? なんて思われそうだよね……。


 一応あれ、ボクの現実での経験と、単純に個人技能によるものだから、問題ないと言えば問題ないんだけど。


 はぁ……大丈夫かなぁ。



 そんな心配をしつつ、軽く打ち上げがしたいとのことになり、


「まあ、ここだよね」


 場所はボクのお店になりました。


 ギルドホームを手に入れてからというもの、ここに来るのも経営するときだけになってきてしまっている。

 あっちでも、洋服は作れるからね。

 むしろ、あっちのほうが何かと作れたり……。


「当然ね。なんだかんだで、ここもいい場所だから」

「まあ、お店用で購入した家だしね」

「そんなことよりよ、乾杯しようぜ」

「あ、うん。そうだね。えーっと、みんな飲み物は……うん。持ってるね。それで、音頭は誰が?」

「む? ねーさまではないのかの?」

「え、ボク? こう言うのって、イベントに参加した人の方がいい気が……ミサとか」

「私はパス。というか、ユキのが一番の功労者みたいなものなんだし、ユキでいいでしょ」


 うんうん、とみんなして頷く。


 いやあの……ボク、途中までメルと一緒に歩いて、転移して、そこからずっと座って慣れない言葉遣いで話してただけなんだけど……。


 みんな、普通に道中戦闘しながら、ここに向かっていたことを考えると、さすがにね……?


「いいから、さっさと音頭をとれ、弟子。あたしは、早く飯を食って、酒が飲みたい」

「ま、マイペースですね」

「いいんだよ。ほら、早くしろ」

「わ、わかりましたよ……。えーっと、じゃあ……護衛イベント、一着おめでとう! そして、イベントお疲れさまでした! 乾杯!」

「「「「「「「乾杯(なのじゃ)!」」」」」」」


 乾杯を終えると、みんな思い思いに料理を食べたり、飲み物を飲み始めた。


 作ったの、ボクだけどね。


 一応、食事は露天などで買えるんだけど、ちょっと味がね……そこまでよくなくて、さすがに打ち上げをするのなら、美味しいものがいいと思ったので、ボクが腕によりをかけて作りました。


 お店で出しているメニューの他に、ローストビーフとか、カルパッチョとか、ミネストローネとかも作ってみたり。


 ゲームの中ではお腹も膨れないからね。いくら食べても問題なしです。


 それに、甘い物も充実してます。


 この辺りは、ボクが食べたかったから、というのもあるけど。


 ちなみに、メルは今、甘いものをもきゅもきゅと食べています。

 可愛すぎるよぉ……。


「それにしても、これからユキちゃんは大変だね」

「……むぐむぐ……ごくん。えっと、何がですか?」


 唐突に、ミウさんがボクの今後が大変そうだと言ってきた。

 何かあったかな?


「今回のイベントで、ユキが新エリアの女王だということがバレたわけだけど……それに伴い、今ままで牽制しあうかのようにしていたプレイヤーたちが、こぞってこのギルドに加入したい! とか言いだすと思うわ」

「え、なんで?」

「なんでって……あのね、国の女王なんて言ったら、相当な財産やら資材を持っているのよ? まあ、このゲームでの女王がどんなものかは知らないけど。そうだとしても、ユキはこれで最も有名なプレイヤーになったわ。だから、ユキのそれ目当てで来るプレイヤーも出てくるかもしれない、ってことよ」

「な、なるほど……」


 たしかにそうかも……。


 今回のイベントで、ボクの懐にはかなりのお金が入ってきている。


 それに、このゲームにおける国営がどんなものなのか見たら、どうやらシミュレーションゲームのようなことができるみたい。


 宿屋や、飲食店、民家、訓練施設、農場などを建設したり、お店に投資して、利益を得たりなどができるみたい。


 うまくやれば、相当な額が入るみたいだけど……別に、お金に困っているわけじゃないのでそこまでしなくてもいいかな。


 あとは、クナルラル内で購入されたものは、売り物一つに付き、売値の10%が国に徴収される。まあ、消費税に近いね。


 そうして集まったお金を国営に使えるわけなんだけど……国にあるお金の内、30%はボクが自由に使える部分。お金自体は国預かりだけど、実質的な所有権と使用権はボクが持っているというわけです。


 なので、プレイヤーの人たちが、あの国で買い物をすればするほど、ボクの懐が潤っていくわけで……。


 まあ、そんな理由で、ボクにはかなりの財産があることになります。


 だから、ミサが危惧しているのはそれになる。


「まあ、ユキの財産を狙う馬鹿なんて、いないとは思うがなー」

「それもそうだな。どうも、俺達を襲おうとしたプレイヤー狩りたちは、謎の集団に襲われて酷い目に逢ったらしい。しかも、俺達以外のパーティーは襲われてなかったところを見ると、ユキと俺達が知り合いだから、ということになる。だからまあ……よほどの馬鹿じゃない限りは、狙うやつはいないと思うぞ」

「そ、そうなの? でも、どうしてそんなことを? みんなを守ってくれるのは嬉しいんだけど、何もメリットはないと思うんだけど……」

「……まあ、ユキ君はそうだよねぇ」

「むしろ、これが普通よね」

「我が弟子ながら、どうしてここまで鈍感なのかねぇ?」


 おかしい。

 なんでボクは呆れられてるんだろう?

 何か呆れる要素ってあった?

 ないと思うんだけど……。

 むぅ。


「でもまあ、気を付けた方がいいわね、ユキ」

「う、うん。まあ、最悪はフィールドに出て、瀕死にまで追い込むから大丈夫だよ」

「ははは! よく言ったぞ、ユキ! そうだ。変なことをする輩は、それくらいしとかないとな」


 それはボクもよく理解してます。

 向こうの世界でも、変な人に声をかけられては、ちょっとだけお仕置きしてたしね。なんと言うか……寒気がしたので。

 それに、この世界ならいくら倒しても、何ら問題はないからね。


 だからもし、みんなに危害を加えるような人たちが出たら、その時は……ふふふ。



 と、そんな感じで打ち上げも終わり、解散となりました。

 ちょっと大変だったけど、いい思い出にはなったかな。



 そして、ミサに忠告を受けた次の日、ボクはその真の恐ろしさを知ることになりました。


『待ってください! 是非! 是非俺を、あなたのギルドに!』

『何言ってんだ! ここは自分をお願いします!』

『くっ、汚らしい男どもなんかにはさせません!』

「なんで追いかけてくるんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」


 ボクは、街中を逃げ回っていました。



 今日も、いつも通りに学園が終わり、いつも通りにゲームをしようとログインしたら、この日はお店に出現しました。


 メルは今日は眠いと言ってすぐに寝ちゃったので、ボク一人。

 そんな状態で、いつものお店の衣装を着て外に出たら……


『『『お願いします! ギルドに加入させてください!』』』


 と、ボクのお店の前に大勢のプレイヤーさんたちがいて、一斉に頭を下げながらそんなことをお願いしてきました。


 一瞬訳がわからなくなって、


「ご、ごめんなさいっ!」


 と謝ってから、ボクはその場から逃げ出しました。


 それで、さっきの部分に戻ります。



 全力疾走で街中を駆け、撒こうとするんだけど、至る所にプレイヤーさんたちがいて、なかなか逃げ切れない。


 ギルドホームの方に逃げようと思って、やっぱり先回りしている人たちがいる。


 逃げようにも、逃げ場が無くなっていく状況。


 お店に戻っても張り込まれてるし、なんだったら、先回りされているかのように、ボクの逃げる先に人が現れる。


 なんだか怖くなって、最終的にボクが採った策は……


「さ、さよなら!」


 ログアウトすることでした。



「はぁっ……はぁっ……こ、怖かったぁ~~……」


 現実に戻るなり、ボクの口から弱弱しい声音で、そう呟いていました。

 そして、ボクは思いました。


「……しばらく、CFOはやめよう」


 と。


 そんなこんなで、久しぶりに遊んでいたCFOは、大量のプレイヤーさんたちに追いかけまわされることで、一時離れることになりました。


 ……はぁ。どこへ行っても、騒ぎばかりだよ……。

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