2-2.5章 依桜たちの(非)日常1

第270話 回想4 健康診断

 進級して、始業式と入学式を終えた次の日。


 進級してからすぐに授業が始まらないのがボクの学園。


 始業式の日は、始業式と入学式の後に、軽く自己紹介のようなことをしたり、ちょっとした連絡事項を受けたりとかくらいかな?


 その際に、室内プールの工事が終わった、ということも知らされました。


 この学園のプールは一応、五月からちょくちょく入ります。

 夏場は外のプールだけど。


 まあ、それはいいとして。


 始業式と入学式の次の日は、もうすでに金曜日だけど、その日は色々とやることが多かった。


 やることと言っても、やるのは、健康診断などなんだけどね。


 身長、体重、それからなぜかスリーサイズを測る。


 測る意味ってあるの? って思ったけど、どうやら以前から測ってるそう。


 理由と言えば、もしも制服や体操着、学園指定の水着のサイズが合わなくなってしまった時のために、あらかじめ測っておいて、それを基準に作り直すとか何とか。


 でも、高校生って普通に成長期みたいなものだから、少し大きくなってるような気がするけどね、ボク。


 それ以外だと、心臓検診だとか、視力検査、聴力検査、歯科検診、などがあります。


 これ、一日で全部やるらしい。


 ……その分、お医者さんを多く雇っているとか。


 正直、その雇っているお医者さんって、学園長先生の会社の人な気がしてならない……。

 そんなこともあり、今日は健康診断です。



「そんじゃま、今日は一日健康診断ばっかなんで、授業はない。だからと言って、変に騒ぐなよ。うちのクラスの最初は……あー、なるほど。心臓検診ね。まあ、問題ないだろ。それでだが……おい、小斯波以外の男子。絶対に……覗こうなどと考えるなよ?」


 戸隠先生がそう言うと、クラスにいる男子のみんなが冷や汗を流しながら、苦笑いをしていた。


 何気に、晶は外されているあたり、信頼あるね、晶。


 それはともかく、健康診断か……。


 この姿だと初なんだよね……。


 うーん、いつものパターンだと、女の子のみんなが何かしら仕掛けてくるんだけど……大丈夫かな? ちょっと心配……。


「ともかく、だ。今日は一日体操着で過ごせよ。以上だ。あ、ジャージは着てもいいんで、安心しな。そんじゃ、しっかりなー」


 いつものような気怠そうな言動で、戸隠先生は教室を出ていきました。


「さ、依桜。更衣室に行くわよ」

「あ、うん。女委―」

「はいはい。それじゃ、行こう!」


 ……なんだか、女子更衣室に行くのもちょっとは慣れてるんだけど、どうにも精神的にきついものがある。


 罪悪感が、ね。



 とりあえず、女子更衣室で体操着に着替える。


 この学園では、女の子の体操着はなぜか二種類。

 普通のハーフパンツと、なぜかブルマの二択。


 いや、うん……師匠が言うには、


『ん? こっちの裾がない方が戦闘向きじゃないか?』


 とか何とか言って、ボクにブルマを勧めてくるんだけど、恥ずかしいので却下しました。


 というかボク、女の子になってからずっとハーフパンツだったし。いや、それ以前に男だった時も、ハーフパンツだったから、絶対に穿きたくない。


 ちなみに、未果はハーフパンツだけど、女委は気分によって変わります。


 ハーフパンツの時もあるけど、ブルマの時もある、って感じかな?


 今日はハーフパンツだったけど。



 着替えを終え、教室に戻ると移動の時間になったので、ボクたちは心臓検診を受ける場所へ。


 ……そう言えば心臓検診って……


「はい、みなさんこんにちは。みなさんの心臓検診をさせていただく、心音こころねと言います。よろしくお願いします」


 心臓検診の先生は、若い女の人でした。

 しかも、優しそうな印象の美人さん。


 態徒がいたら、かなり喜びそう。


 まあ、心臓検診は男女別々の部屋でするからね。向こうがどうなってるかはわからないけど。


「それじゃあ、最初は……安藤さん」

『あ、はい』

「それから、石井さん」

『はーい!』

「……ふふふ、女子高生の胸……」


 ……うん? なんか今、心音先生から、邪な感情を感じたような……?

 気のせい、かな。



 少し不安を感じたものの、すぐにボクの番が巡って来た。

 ボク、頭文字『お』だからね。今年の出席番号は、8番だったけど。


「はーい、それじゃあ、体操着と下着は取っちゃってねー」

「は、はい」


 ……やっぱりぃ。


 心臓検診って、上半身裸にならないといけないんだよね……。

 だから、上を脱がないといけないわけで。


 さ、さすがに恥ずかしい……。


 で、でも、脱がないとできないもんね……し、仕方ない。


「よい、しょ……」

「おおぉぉ……」


 うん? 今、心音先生が感嘆の声を漏らしていたような……?

 まあ、気のせいだよね。


「んしょっ、と……」

「……ごくり」


 あれ、今、生唾飲み込まなかった?

 なんだろう、この人からすごーく邪な感情を感じるような……?

 き、気のせいだよね。


「それじゃあ、そこの台に仰向けになって寝てね」

「わ、わかりました」


 うーん、ブラを着けてないからか、いつもより重いなぁ……。


 多少窮屈でも、楽なんだね、あれ。まあ、寝るときは着けてない方が楽なんだけど……。


 なんて思いつつ、台に寝転ぶ。


 寝転ぶと、心音先生がボクの両手首と両足首にクリップのような物を付けていき、胸に電極のような物を貼っていく。


「男女さん、でしたよね?」

「あ、はい」

「随分と胸が大きいのね」

「ま、まあ、なぜか……」


 ボク自身、本当になんで大きくなったのかわかってないです。もともと男だったのに。

 未果たちが言っていたように、隔世遺伝が原因なのかな?


「あぁ……素晴らしぃ……」

「……ふぇ?」

「なんて素晴らしいの……私の好みドンピシャ……まさか、こんなに綺麗な娘が、この学園にいたなんて……ふふっ、食べちゃいたい……」


 ……な、なんか、様子がおかしいような……? というか、変なこと言ってない? 食べちゃいたい、って何?

 え、この人は一体何を言っているの?


「お、おっと……変なことを口走りました。気にしないでくださいね。それじゃあ、えっと早速始めちゃいますね」

「は、はい」


 なんだろう、すごく心配になって来たけど……。

 まあいい、よね? うん。


 それから少し、この状態が続き、


「はい、終わりましたよ。クリップとか取っちゃいますね」

「あ、はい。お願いします」

「言葉遣いも柔らかい……ああぁぁぁ~~~……やっぱり、いいわぁ、この娘」


 どうして、心音先生は、妙に顔が赤いんだろう?


「はい、いいですよ」

「あ、ありがとうございました」


 お礼を言って立ち上がると、ボクはブラを着け、体操着を着ようとしたんだけど……


「はぁっ……はぁっ……び、美少女の、生着替え……っ! イイッ!」


 ……ぞくっとした。


 それはもう、背筋が凍るどころか、氷に覆われそうなくらいに。


 恐る恐る後ろを振り向くと、心音先生が息を荒げながら、なぜか鼻血を流していた。


 ………………う、うーん?


 ちょっと待って、これはもしかして……いや、もしかしなくても、へ、変態、というのでは?


 う、うん。見なかったことにしよう。

 ボクはそそくさと着替えると、そのままみんなの所へ戻っていった。



「あら、依桜。どうしたの? なんか、形容しがたい表情してるけど……」

「……き、気にしないで。ちょっと、変なものを見ちゃっただけだから」


 心音先生の裏側は、見なかったことにしよう。

 ボクの心の中にしまい込もう。



 心臓検診が終わった後は、身体測定。


 身長・体重・スリーサイズの三項目を測る。


 ちなみに、身体測定時は、下着姿です。ちょっと恥ずかしい……。


 し、身長が伸びていますように……! あと、最近ちょっとブラがきついけど……胸が大きくなっていませんように……!


 切実に願いながら、ボクの番に。


「はいは~い、それじゃあ、ぴったり背中をくっつけてくださいね~」


 身体測定は、希先生が担当していた。

 まあ、だよね。


 とりあえず、身長だ……。できれば、最終的には元の慎重になってほしいところ。

 一番いいのは、大人モードって言われてるあの状態くらいのサイズ。


 胸以外は。


「えーっと……152センチね~」


 や、やった! 伸びてた!


 二センチ伸びた!


 あ、あと三センチ……三センチ伸ばさないとっ……!


「それで、体重は……42キロね~」

『『『軽っ!?』』』


 え、か、軽いの? これ……。


 ボク的には、以前より体重増えたんだけど。


 以前のボクには、この胸はなかったからね……一応、今よりは少しだけ手足が太かったけど、本当に誤差レベル。


 だからみんなから、華奢、とか言われてたんだけど……。


「はいはい。それじゃあ、次はスリーサイズね~。ちょっとくすぐったいけど、我慢してね~」


 シュル、とメジャーが胸に巻き付けられる。


「うーんと……あら~、90で、アンダーは……63ね~。ブラのサイズは、Hがいいかもしれないわね~」

『『『でかいっ!』』』


 ……うぅ、大きくなってたよぉ……。というか、とうとう、Hに……。


「じゃあ、次はウエストね~。んーと……56」

『『『あの胸のサイズで、56……? ほ、細い!』』』

「ヒップは~……83、と。本当に、依桜君はスタイルがいいわね~」

「そ、そうですか……あぅぅ」


 ボクは、すごく辛い……。

 あのおみくじ、当たってるんだもん……。


 し、身長。せめて、もう少し身長をくださいよぉ、神様ぁ……!

 しょぼーんとした状態で未果たちの所へ戻る。


「まあ、何と言うか……ドンマイ」

「依桜君。多分、もう大きくなることはないと思うし、ね? 元気出して?」

「ありがとう、二人とも……」


 二人の優しさが沁みましたぁ……。



 ちなみに、未果は164センチで、体重は……言えません。でも、未果も十分スタイルいいと思います。

 女委は身長158センチくらい。体重は、46キロくらいです。



 気分が落ち込んでしまった身体測定の次は、視力検査。

 まあ、これに関しては……


「右……下、右斜め上、左、下、左下……」

『か、完璧……』


 向こうで鍛えられた身体能力によって、視力は相当高いです。


 さ、さすがにマサイ族みたいな、異常な視力はないけど……身体強化をかければ、それ以上の視力は一応得られます。


 まあ、師匠は素でそれくらいの視力は持ってるんだけど……怖い。



 次、聴力検査。


 聴力検査って、ヘッドホンをして、音が鳴ったらボタンを押す、っていう測り方だけど、ボクの場合。


 ピー、という音のPの部分ですでにボタンを押しています。


 いやまあ……聴力って、暗殺者として相当必要な部分だったから、師匠に徹底的に鍛えられました。おかげで、絶対音感のような物も身に付くし、音の方向に、距離、その他色々とわかるようになっちゃったけどね……。



 そして、最後は歯科検診。


 お医者さんが言うには、


「か、完璧すぎる……」


 とかなんとか。


 どうやら、ボクの歯は、汚れもなく、虫歯もなし、さらには歯並びも綺麗、なのだとか。

 いや、うん。大事だしね、歯。



 そんなこんなで、今日一日で健康診断がすべて終了。

 クラス内では、


『身長が180に達したぜ!』

『くっ、俺全然伸びなかったぜ』

『あぁ……体重ふえてたぁ……』

『ふふふー、私減ったよー』


 と、ほとんどの人は、身体測定の結果を話し合っていた。

 まあ、視力検査とかはそこまでって言うほど話題になりにくいもんね。

 それはそれとして。


「なんか依桜、落ち込んでないか?」

「なんか嫌なもんでも見たんじゃね?」

「あー、あれね……まあ、胸のサイズが大きくなってたから」

「「……あー。そういうことか」」


 晶と態徒が同情的な目を向けてきた。

 こういう時、なんだかんだで態徒は悪ノリしないので、全然いいと思います……。


「んでもよー、これ以上大きくなったら、すげぇことになりそうだよなー。まあ、それはそれで、男的には見てみたいところぶげはっ!?」

「ふざけたこといわないで!」


 一瞬でもいいと思ったボクが間違いでした。

 ボクは態徒を投げ飛ばしました。

 いや、うん……投げるのはやりすぎだと反省……。


「まあ、こんなもんだよな」


 呆れたように呟いた晶の言葉に、未果と女委は苦笑いするだけでした。

 二年生の生活も、楽しくなりそうです。



 この数日後。

 ボクは並行世界に行くことになるんだけど……そんなこと、この時は微塵も予想していませんでした。

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