第271話 ゴールデンウイーク前日

 五月になりました。

 それと同時に、ゴールデンウイークです。


 今年は、五月一日~五月五日までがそれになります。


 ただ、学園長先生が、


「んー、正直もうちょっと休みがあってもいいよね!」


 とか言いだして、五月六日と七日も休みになりました。


 その代わり、八日と十五日が登校日になったけどね。


 まあでも、結構な長期休みになるということで、学園生はみんな喜びました。


 ゴールデンウイークと言えば、それを利用して旅行に行ったり、アルバイトに励んだりする時期。


 CFOの方も、何かと賑わうそうなんだけど、ボクは……あの件があったからね。しばらくやりたくないんです。


 怖いんだもん、あれ。


 まあ、そんな理由があって、やらないようになりました。


 ほとぼりが冷めるのを待つだけです。



 CFOでの一件から数日後の四月三十日。ゴールデンウイーク前日の夜、美羽さんから連絡がきた。


『あ、もしもし? 依桜ちゃん?』

「そうですよ。えっと、どうしたんですか?」

『CFOで話してた、声優の件の日程が決まってね。五月三日になったから、それを伝えようと思って』

「あ、わかりました。それで、えっと……当日、ボクはどこへ行けば?」

『私と待ち合わせでいいかな?』

「問題ないですよ。場所は……美天駅前とかどうですか?」

『うんうん。そこなら二人とも、美天市に住んでるからね。全然OKだよー』


 普通に考えて、同じ街に住んでいるんだったら、どこかで会ってるかもなぁ。


「ありがとうございます。それで、時間は……」

『うーん。一応東京まで行く予定で、収録が午後二時だから……朝の十時くらいでどうかな? お昼も先に食べちゃった方がよさそうだし』

「わかりました。それじゃあ、三日の朝十時に美天駅前ですね」

『うん。楽しみにしてるねー♪』

「はい。それでは」

『うん、ばいばーい』


 通話終了。

 とりあえず、三日に予定が入った、と。


「緊張はするけど、楽しみだなぁ……」


 なんてことを思いつつ、そのまま過ごしていると、今度は女委から連絡がきた。


「もしもし?」

『あ、もしもし依桜君? 今いいかな?』

「うん。別にいいけど、どうしたの?」

『いやー、あのね。以前わたしが、お店経営してる、って話したの覚えてるかな?』

「そういえば、『白百合亭』っていう名前のメイド喫茶を経営してるんだっけ?」

『そうそう』


 あの時は本当にびっくりしたなぁ。

 だって、いきなりメイド喫茶の経営をしてる、なんて大暴露されるんだもん。

 驚かない方が無理だよ。


「それで、そのお店がどうかしたの?」

『あ、うん。実はちょっと困ったことになっちゃって……わたしのお店の従業員の娘がね、体調を崩しちゃって。それで、代理が欲しいんだよ』

「……もしかして、ボクに?」

『オフコース! それで、どうかな?』


 やっぱり!

 代理が欲しいと言った時点で、予想してたけど……。


「でも、どうしてボク? 未果でもいいと思うんだけど……」

『いやぁ、未果ちゃんには断られちゃってねぇ。さすがに無理! だって。それで、一縷の望みとして、依桜君に頼んでるわけです』


 未果には断られちゃったんだね……。


 まあ、未果はそういうのにあまり積極的じゃないからね。なんとなく、わかる気がするよ。断るのも。


 普段のように、口調や声音は軽いけど、なんだか本当に困っている雰囲気を感じる。


 まあ、女委は普段こそあれだけど、大事な友達だし、困ってる姿を知りながら放っておくなんてできないし……。


「そ、それで、仕事内容はどんな感じなの?」

『もしかして、手伝ってくれるの?』

「とりあえず、仕事内容を訊いてからかな」

『わかったよ! えっとね、今回体調を崩しちゃった娘は接客をしてたから、依桜君には接客をお願いしたいの。あとは、随時こっちで指示出しをする、って感じになるよ』

「なるほど……」


 接客なら、一応CFOでも少しだけやったし、学園祭時も似たようなことしたしね。

 まあ、あの時は調理担当だったんだけど。


『それで、どうかな? 頼めないかな?』

「……うん。まあ、それくらいならいいよ」

『ほんと!? ありがとぉ、依桜君! とりあえず、明日だけでだから、お願いね!』

「うん。それで、何時から入ればいいのかな?」

『お店自体は十時開店だからね。まあ、教えることも含めたら、九時にはお店に来てほしいな』

「わかったよ。それじゃあ、道順を送っておいて。そしたら、明日九時に行くから」

『やった! ありがとね、依桜君! あ、もちろん、お給料も払うからね! それじゃ!』

「うん。明日ね」


 再び、通話終了。


 予定がまた一つ埋まった。


 少なくとも、これでゴールデンウイークは二つ予定が入ったね。

 いやまあ、今のところアルバイトとアルバイト(のようなもの)なんだけどね。


 すると今度は、学園長先生から連絡がきた。


「もしもし」

『あ、依桜君? 今時間いいかしら?』

「大丈夫ですよ。何かあったんですか?」


 正直なところを言うと、学園長先生からの連絡だと、あまりいい予感がしない。


『ええ、実はね、ついに完成したのよ』

「完成って……もしかして、異世界を自由に行き来する、っていうあれですか?」

『その通り!』

「ほんとですか!?」

『ええ! 以前創った、向こうに行くための装置を改良して、ついに使用者の意思で行ったり来たり出来るようになったの! それで、依桜君に試してもらいたいなと』

「なるほど。わかりました。そう言うことなら、お手伝いしますよ」

『ありがとう! ただ、これは初の試みになるから、何が起こるかわからないの。それで、メルちゃんなんだけど……』

「たしかにそうですね。ボクとしても、さすがに心配ですし、お留守番するよう伝えます」

『そうしてもらえると、私としても助かるわ』


 まあ、それだとボクは危険にさらしてもいい、みたいな言い方になりかねないけど。

 別に、慣れてるからいいけどね。

 それに、学園長先生の技術力はちゃんと信頼してるし。

 そうでなければ、以前の申し出は受けなかったよ。


 ……まあ、あの時は脅しを使ってきたけどね、あの人。


 よくよく考えてみれば、元凶はあの人なんだから、脅すのって相当あれだったんじゃ……。

 まあ、今更だよね。うん。


『それで、行くのは……五月五日でどうかしら?』

「その日なら、予定がないので大丈夫ですよ」

『ありがとう。一応、事前知識として軽く教えるわね。一応、自由に行き来できるけど、2、3時間のインターバルが必要なの。まあ、この辺りは、少しずつ改良を重ねていくわ。それから、装置自体は、依桜君にあげるので、好きな時に、異世界に行っていいからね』

「本当ですか? ありがとうございます」

『まあ、メルちゃんのためでもあるしね。故郷に自由に行けるようにして上げたいし』

「まだ0歳児ですからね、メルは」

『そう。だから、私も今回頑張ったのよ。おかげで、他の事がおろそかになっちゃったわ』


 他のことって何だろう?


『あ、そうそう。異世界だけじゃなくて、並行世界に連絡を取れるようにする装置もついでに創ったから、五日に渡すね』

「わかりました……って、え!?」


 今、サラリととんでもないこと言ってなかった?

 並行世界と連絡が取れるようにする装置とか何とか……。


『それじゃあ、五日はよろしくね』

「あ、はい。……って、ちょっと待ってください!」


 ツー……ツー……。


「き、切れちゃった……」


 本当、色々と謎が多い人だよ、学園長先生って……。

 うーん、色々と考え物だなぁ。


「まあ、それはそれとして……一気に、三つも予定が決まったなぁ」


 と言っても、声優の件に関しては、ちょっと前から入っていた予定だけど。


 でも、他の二つは急遽入った予定。


 何もない長期休みよりかは、全然いいかも。


 ……もっとも。ボクの場合は、色々なことに巻き込まれているから、ゆっくりできる期間があってもいいと思うけどね……。


「とりあえず、明日は女委のお店のお手伝い、と」


 メイド喫茶だけど、大丈夫かな……。


 正直な話、結構恥ずかしいことをするんだろうなと思いつつも、困ってる女委の為と思って恥ずかしい気持ちを抑える。


 声優の方も三日にあるし、そっちも頑張らないと。


 それから、異世界の方も。


 ついに完成、とか学園長先生は言ってたけど、実際頼んだのって、三月中旬くらいなんだけど。

 一ヶ月ちょっとで完成させてることを考えたら、あの人、相当おかしいような……。


 どうも、以前ボクが使った装置の改良版みたいな物みたいだけど、だとしてもおかしい……。


 それ以前に、異世界に行く装置を創ったり、フルダイブ型VRゲームを創ってる時点で、今更ではあるけどね。


 とりあえず、一週間の滞在になるし、色々やりたいなー。


 観光とか。


 あ、魔族の国にも一応行きたいけど、どうしよう?


 本当は、メルも連れて行きたいけど、これでもし、誤作動で変な世界に行ったり、あるかはわからないけど、次元の狭間のような場所に行っちゃったりしたら、どうしようもないしね。


 ……まあ、ボクにも言える心配事なんだけど。


 でも、誰かがそうなるんだったら、ボクがそうなった方がマシ、というのがボクの考えです。


 あ、でもちょっと心配事があったなぁ。


 ボクって、女の子になったことが向こうの世界――リーゲル王国内で知られちゃってるから、色々と騒ぎになりそうなんだよね……。


 それを考えたら、変装技術が必要。


 一応変装する技術は持ってるんだけど、前と違って胸もあるし、髪の毛もかなり伸びたから、変装が難しくなっちゃったんだよね……。


「師匠に相談してみよう」


 こういう時は、頼れる師匠に相談するのが一番だよね。



 というわけで、師匠の部屋に行き、事情を説明。


「なるほどな。たしかに、お前の場合その髪は相当目立つ。変装するにも、お前の髪を切るのも、染めるのももったいない」

「そ、そうですか?」

「ああ。もったいない。そこで、だ。お前には、能力とスキルを一つずつ、伝授してやろうじゃないか」

「……え」


 な、なんだろう? すごく、嫌な予感がしてきた……。

 伝授、というより、教えようとしてるんだよね、この人。

 師匠の伝授の仕方と言えば……


「当然、『感覚共鳴』だ」

「お、おやすみなさい!」

「逃がさんッ! 結界!」


 ボクが部屋を出ようとしたら、師匠の張った結界によって出ることが不可能になってしまった。


「なぁに。いつも通り、ちょっとした激痛と、快楽がお前を襲うだけだ。問題あるまい」

「い、いやいやいやいや! 問題だらけです! あ、あの感覚だけは、嫌なんですよぉ!」

「大丈夫だ。お前の体も、あれに慣れたはず。それに、これからお前に伝授する能力とスキルは、一生役立つものになるだろう。だから……やるぞ」

「し、師匠、なんでそんなに笑ってるんですか……?」

「ははははは! 何を言っている。あたしは常に笑顔だろう?」

「い、いえ! 師匠がいい笑顔をする時は、決まってボクにとっていいことをする時じゃないです!」

「ええい、往生際が悪い! やるぞ!」

「あ、ちょっ、ま――いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」


 結局、やられました。



 ……激痛とあのふわふわするような感覚を受けるのを代償に得たのは、『変装』の能力と、『変色』のスキル。


 まあ、名前の通りのものです、二つとも。


 『変装』は、自身の外見を変えるものです。


 と言っても、大幅に変えることはできないけどね。


 一応、体系も変えることができ、胸を小さくすることもできるらしいんだけど……


「正直、体系を大きく変えるのは、相当な魔力消費なんで、お勧めしない」


 とのことです。


 うぅ、小さくできると思ったのに……。


 じゃあ何ができるのかと言われれば、髪型を変えたり、軽く体系を変える程度。


 大きく変えるのは不可能だけど、多少小さくしたり、少し背を伸ばしたり、髪を長くしたり短くしたりなどができるそう。


 一度かければ、解除するまで永続的に続くようです。


 それだったら、胸を小さくするのもできると思ったんだけど、そもそも、ボクの胸をかなり小さくさせること自体、相当な消費になるらしく、やった直後、魔力欠乏症で危険な状態になるかやめとけ、と言われました。


 ある意味、燃費が悪い……。


 それから『変色』について。これは、読んで字のごとく、色を変えるだけのスキルです。

 髪色と肌の色に、目の色、それから、身に着けている衣服やアクセサリーなどです。

 これも、一度かければ永続的に続くそうです。


 この二つを使って、髪型と髪色、目の色を変えて、眼鏡を掛ければ、ボクだとバレないんじゃないかなと。


 今度から、これを使って目立たないようにしようかな。


 なんて思いました。



 ということが前日にあり、今日は五月一日。

 女委のお仕事のお手伝いをしに行くところです。

 頑張ろう。


 ……できれば、変なことがなければいいけど。

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