第178話 白銀亭繁盛中(?)
さっきのお客様から数分後。
カランカラン……
「いらっしゃいませ! ようこそ、白銀亭へ!」
『ま、マジだ、マジで女神様が料理屋を……』
「えと、女神様、ですか?」
『あ、い、いえ、似ている人だなぁと思っただけで……え、ええっと、料理を食べに来たんだが、大丈夫?』
「もちろんです。営業時間中なら、誰も拒みませんよ。まあ、マナーが悪かったりしたら、即追い出しますが」
例えば、傍若無人な人とか。
他のプレイヤーの人たちもいるのに、変なことを言いだされたり、行動されでもしたら困るもん。
万が一、お客様に危害を加えるような人が現れたら……ボクのすべての力を持ってお仕置きしないといけないけどね。
「えーっと、テーブル席とカウンター席、どっちがいいですか?」
『じゃあ……カウンター席』
「それでは、お好きなところにお座りください」
さすがに二人目ともなると慣れたものです。
カウンター席に座った二人目のお客様の前に、メニューと注文用紙を差し出す。
「こちらの用紙に食べたい料理を書けば、自動的にお金と紙がこちらに来ますので、呼ばなくて大丈夫ですよ」
『わ、わかった』
カランカラン……
あ、また誰か来た。
「いらっしゃいませ! 白銀亭へようこそ!」
『あ、あの、外に洋服屋って書いてあったので、ちょっと気になって……』
三人目のお客様は、侍の装備を身に着けた、女性プレイヤーさんだった。
しかも、洋服屋さんの方に用事と来た。
「あ、洋服屋さんの方ですね? えっと、布をお持ちいただければ、ボクの方で装備を作成いたしますので、どうでしょうか?」
『作成費は……?』
「一律、1000テリルです。えっと、一応洋服屋さんの方の説明表をお渡ししますね」
『あ、ありがとうございます。えっと……あ、じゃあ、洋服を作ってもらってもいいですか?』
「わかりました。それでは、こちらに使用する布を書いてください。書けましたら、自動的にお金と布がボクのところに送られます。受け取りは明日になりますが、大丈夫ですか?」
『だ、大丈夫です』
「それでしたら、夜七時は大丈夫ですか?」
『はい、用事などもないので、大丈夫です』
「では、その時間にお越しください。あ、受け取り際、注文用紙を忘れないでくださいね? 確認に必要ですから」
『わ、わかりました』
女性プレイヤーさんは、紙に向かうと、色々と書き始めた。
それにしても、布を持ってるなんてすごいなぁ。
布ってそこそこ高価で、最低でも1万くらいしたんだけど……もしかして、ドロップとか? だとしたら、ダンジョンとか言ったことがある人なのかも。
『書けました』
「はい、えーっと……うん、布が増えてる。それでは、作成しておきますので、明日の夜七時にお越しください」
『ありがとうございます。そ、それでは』
「ありがとうございました!」
ふふふー、洋服屋さんの方にもお客様が入った。
おっと、料理の方も注文が入ってるね。
注文用紙を持って、今度は厨房に。
今回の注文は、肉じゃが、サルケの幽庵焼きとご飯セット。
「結構頼むんだなぁ」
まあ、ゲームの中だし、お腹は膨れないから、実質いくらでも食べられるんだよね。味に飽きなければ、だけど。
さて、待たせるのは悪いし、ちゃちゃっと作っちゃおう。
「~~~♪ ~~~~♪」
ゲームの中でも料理ができるっていいなぁ。
ボク自身、料理は好きだし、裁縫も好きだから、お店を持てて結構嬉しい……。
この辺りは、本当に感謝です、学園長先生。
「うん、完成」
システムサポートもあって、割と早く完成。
ゲームの中なら、火加減は気にしても、時間はほとんど気にしなくていいわけだしね。だって、焼けたら目の前に表示されるからね。
……まあ、現実でも似たような物だけど。
「お待たせしました。肉じゃがとサルケの幽庵焼き、それからご飯セットです。それでは、ごゆっくり」
『め、女神様の手料理……よ、よし、食うぞ』
なぜか、神妙な面持ちで料理を食べ始める男性プレイヤーさん。
あれ、もしかして、美味しくなさそうに見える、とか?
……そ、それだったらどうしよう……。
『……う、美味すぎる……』
と思ったら、なぜか涙を流しながら、そんなことを呟いていた。
え、な、泣くほど?
一瞬だけ手が止まったものの、すぐに動き始める。
一番最初に来た人と同様、無我夢中で食べ進めていき、そう時間がかからずに平らげていた。
『ご馳走様。ま、マジで美味かった……』
「お粗末さまです」
『女神様の料理、マジで美味かった!』
「ありがとうございます。それと、女神様って?」
なんだか、すごく聞きなじみのある呼ばれ方なんだけど……。
『あ、い、いえ、気にしないでくれ。それで、だな、もしよかったら、お、俺とフレンドに――』
カランカラン!
『おい待て貴様!』
『抜け駆けは許さんでござる!』
『そうじゃ! 何をしれっと……油断も隙もない奴よ!』
『チィッ! お前らが遅いのがいけないんだよ!』
『何おう!?』
「え、ええ?」
いきなりすぎる展開に、ボクは困惑した。
え、っと、これはどういうこと?
なんか、飛び込んでるかのような勢いで、いきなり大勢のお客様が来たんだけど……。
軽く見積もっても……じゅ、十人以上?
『くっ、まあいい、俺は狩りに行き、貴様らよりも強くなってくるぜ!』
と言いながら、男性のプレイヤーさんはお店を飛び出していった。
『わしらも遅れは取れん! め、女神様、わしにも料理を!』
『俺にも!』
『拙者にも!』
「あ、ああ、はい! え、えっと、こちらの注文用紙に料理名を書いてお待ちください! 書き終えたらお金と一緒にボクの手元に来るので、呼び出しは結構ですから! それでは、お好きな席へどうぞ!」
大勢のお客様に詰め寄られて、慌てて注文用紙を渡す。
紙を渡し終えたら、すぐに厨房へ行き、料理の準備を始める。
そして、すぐさま注文が入り、大急ぎで料理を作る。
「うぅ、まさか、十人以上も一度に来るなんて……嬉しいけど、予想外だよぉ」
なんて言いながら、料理を片っ端から作っていき、注文分の料理が完成。
それをお盆にのせて、お客様たちのところへ。
「お、お待たせしました!」
早く、そして丁寧に料理をお客様たちの前に置いて行く。
『こ、これが、女神様の料理……』
『何ともまぁ、美味しそうなもんじゃのぉ』
『では早速……』
一斉にパクリ。
『『『……』』』
無言だった。
……あ、あれ? もしかして、美味しくなかった?
と思ったら、さっきのお客様みたいに、涙を流し始めた。
『……俺、生きててよかった』
『わしも、残り少ない生涯で、このような美味しい食事が食べらえるとは……』
『拙者、もう死んでもいいでござる』
お客様はみんなこんな反応をしていた。
お、大げさすぎない?
さっきの人と言い、この人たちと言い、ボクの料理ってそこまでいいものじゃないと思うんだけど……バフが付く以外は。
それから、無言状態で食べていた。
しょ、食事って、もっと楽しいものな気がするんだけど……ボクの思い込み? ここまで無言で、涙を流しながらずっと食べている人が複数人いる光景って、結構シュールだと思うし、見方によってはすごく怖いんだけど……。
これ、他の人に見られたら、人が寄り付くなくなりそうなんだけど……大丈夫、かな? 大丈夫だよね?
『『『ごちそうさまでした』』』
「あ、お粗末さまです」
まあでも、美味しいと思ってくれてた……ってことでいいんだよね? だって、泣き笑いだもん。なんで泣いているのかはわからないけど。
『女神様、また来るぞ!』
『わしは、何度だって来るぞい!』
『拙者、営業日は必ず来るでござる!』
「あ、え、えっと、あ、ありがとうございます」
ずずいっと詰め寄ってきて、ちょっとたじろぐものの、お客様はお客様。
それに、ちょっとした謎の恐怖を感じるけど、また来てくれる、って言ってるわけだしね。やっぱり、笑顔で見送りしないと……!
『え、笑顔がまぶしすぎるッ……!』
『こ、これが、女神の微笑み……』
『もうこれ、お金とか、全部貢ぎたくなるでござる……』
……だ、大丈夫、なんだよね?
なんか、お金を全部貢ぐ、みたいなこと言っている人もいるし……。
『俺たちも、さっきの奴を追うぞ!』
『『『おう!』』』
と、さっきの人と同様に、慌ただしくお客様たちは店を飛び出していった。
「初日からこれだと、ちょっと先が思いやられるような……」
お客様が入るのはいいんだけど、さっきみたいに騒がしくなるのは、その……別にいいんだけど、あんまり好まないというか……。
そう言えば、なんであんなに騒がしくなってたんだろう?
「うーん、よくわからない……」
まあでも、お客様が入ったし、いいよね。
ちょっと騒がしいのはこの際仕方ないとして……。
「さて、と。あと一時間くらいかな。頑張ろう」
そう意気込んでから残り一時間、ちらほらとお客様が入ってくれて、初日はちょうどいいペースとなった。
その日の売上額は4万5000テリルになりました。
初日でこれなら、まずまずなんじゃないかな?
個人経営だしね。いい方だと考えておこう。
「さて、次の仕事っと」
今度は、洋服屋さんの方に来た、一人の女性プレイヤーの注文。
渡されたのは、【丈夫な布】が一つ、【身軽の布】が二つ、【
最初に二つはNPCショップに売っていたものだけど、後半二つは全く知らない布。
ちょっと気になって鑑定を使用。
【緑嵐の布】……古代の遺跡から発掘される、何らかの力が宿った布。嵐属性の力が宿っていると考えられている。
【業炎の布】……灼熱地獄のような場所で見つかる布。溶岩に入れても燃えることはない。炎属性の力が宿っていると考えられている。
あ、これ、かなりレア度の高い布だね。
多分、ダンジョン探索で見つかったものじゃないかな?
そう言えばあの人、レベルが6だったし。
もしかすると、あの草原付近にダンジョンがあったのかも。
「よし、じゃあ早速作っていこう」
布を取り出し、【裁縫】を発動させる。
すると、目の前にスクリーンが表示され、使用する布を選択する項目があるので、そこに渡された布を選択する。
選択したら、作成の文字をタッチし、装備作成が始まる。
なんでかはわからないけど、道具はほとんど使わず、縫い針と糸だけ、と言う仕組み。これ、どうなってるんだろう?
普通は、ミシンとかが必要になってくるんだけど……ま、まあいいよね、うん。
高速で手を動かすこと、三十分。装備が完成した。
【
…………え、なにこれ。ちょっと待って。なんか、えげつないものが出来上がってない? これ。
たしか、《侍》って、魔法が使用不可能な職じゃなかったっけ?
と言うか、炎属性と嵐属性って何?
そんな属性あったっけ?
……ちょっと鑑定。
【炎属性】……火属性の上位互換。火属性魔法をひたすら鍛えていると、稀に発現する属性。炎属性の耐性を持っている場合は、火属性の攻撃を半減できる。
【嵐属性】……風属性の上位互換。風属性魔法をひたすら鍛えていると、稀に発現する属性。嵐属性の耐性を持っている場合は、風属性の攻撃を半減できる。
……あー、うん。だめだね、これ。
「……もしかしてボク、鍛冶師の人たちの仕事、妨害したりしてない?」
そもそも、暗殺者であるはずのボクが、なんで装備が作れちゃってるの?
もしかして、家事をずっとやっていると、こう言ったことができるようになるの? す、すごいなぁ……。
もしかしてボク、家事をしているだけで、最強になれちゃうんじゃないかな、なんて。
「なんて。さすがに、鍛冶師の人たちには敵わないよね!」
だって、職業特性が違うもん。
それにきっと、ボクが作ったような装備だって、バンバン出てくるだろうしね、今後。
……まあ、サービス開始二日目で、いきなり職業の不利を覆しちゃっているような気がするけど。
「完成、でいいのかな」
ちょっとおかしなものが出来上がっちゃったけど、ボク悪くないもん。
だって、出来上がる装備自体は、使用する布によって強さが変わるから、今回のこれは、あの人の運が良かった、ってことだもんね。
「うん。ボクのスキルはあくまでもその運を形にしただけ……大丈夫。絶対大丈夫」
……自分に言い聞かせるものの、なんだか一抹の不安を感じえないボクだった。
そう言えば、どう見ても和服なのに、洋服とはこれいかに……。
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