第179話 考え直し
翌日。
今日もお昼にログイン。
みんなはちょっと予定があるとかで、少し遅れるそうで、来るまではボク一人でプレイすることになった。
んー、どうしようかな……時間もかなりあるし……昨日の女性プレイヤーさんがいれば、すぐに渡せるんだけどなぁ……。
あの装備、かなり強いものになっちゃったけど……大丈夫なのかなぁ。
変に情報が出回らない方がいい気がするし……。
というか、一日に四名限定にしたはしたけど、結構問題な気がしてきた……。
お金は良心的にしたけど……まあ、そもそもの話、布によって能力値が変わってくるんだけどね、あれ。
例えば、【丈夫な布】のみを使って作った場合の装備がこちら。
【丈夫なシャツ】……ただただ丈夫なだけの洋服。全職業が装備可能。VIT+10
こうなります。
ここで気付いたのが、いい布じゃないと、強い装備はできない、ということですね。
ボクがこの装備を作るのに使用したのは、【慈愛の布】というのと【天使の布】という二種類の布です。
これ、なんかよくわからないお店に売っていて、一つ10万しました。それを四つずつ買って、六つ全部使用して作ったのが、お店用の装備。
残ったものを使ったのが、このリボン。
一番レア度の低い布で作っていた場合、何の効果もないものが出来上がってたはずだし。
おそらく、スキル付与の能力自体は、すでにあったんじゃないかな?
だって、装備の効果が、スキルが付けやすくなる、だもん。
たまたま、運よく、あれが出来上がっただけ……のはず。
……もしかして、スキル付与率って、LUCが関わってたりする……?
可能性はないわけじゃないと思うけど、何とも言えない……。
「う、うーん……まあ、とりあえず、洋服屋さんの方は、ちょっと考えた方がいい、かも?」
今後、ああいった布を持ちこんでくる人が増えるかもしれないし……そうなったら、強装備が多く発生しちゃうと思うし……。
そうなったら、鍛冶師の人たちが作る鎧系統の防具とか、完全にいらなくなってしまいかねないし、商売あがったりになるよね……。
「どうするのが正しいのかなぁ……」
……ヤオイに相談した方がいいかも。
ヤオイが一番早く来る、みたいなことを言ってたし。
『やあやあ、お待たせ、ユキ君!』
なんて思ってたら、本当にヤオイがログインしてきた。
これ幸いにと、ボクはヤオイにメッセージを飛ばす。
『あ、ヤオイ、ちょうどよかったよ。今からボクのお店に来てほしいんだけど、大丈夫?』
『いいよー。じゃあすぐ行くねー』
あっさり了承してくれた。
よかった……。
ボク自身、家を買ったからか、ログインするとその場所に出るようになって、現在はお店の中。
多分だけど、死んじゃった場合とかも、宿屋じゃなくて、この家で復活するのかも。
「来たよ、ユキ君!」
そんなことを考えていたら、ヤオイがお店にやってきた。
「あ、いらっしゃい、ヤオイ。とりあえず、どこでもいいから座って」
「はいはーい」
ヤオイが来たので、ボクは厨房へ。
デザート系の料理を作ろうと思って、昨日営業が終わった後、ちょっと試作していたり。
最近、現実の方でお菓子作りをしていたおかげで、あっさり完成。
それを持って、ヤオイの所へ。
「はいこれ、ケーキ」
「いいの?」
「うん、ちょっと相談事があってね、その依頼料、かな?」
「ほうほう、相談とな? では、このケーキはもらっておきましょう」
嬉しそうな表情で、ヤオイがケーキを食べだす。
「んっ! 美味しいよユキ君!」
「ほんと? よかったぁ。最近作ったケーキでね? ちょっと甘さ控えめのケーキなんだよ。これなら、苦手な人がいても食べられるかなーって」
「うんうん、いいと思うよ! わたし、これ好きだなー。甘さもちょうどいいし、果物の酸味も強すぎないから食べやすいし」
「それなら、メニューに追加かな。値段は……500テリルでいいかな」
「んー、600でいいと思うよー。多分、結構売れるだろうからね。ちょっと高めにするくらいがちょうどいいよ」
「なるほど……じゃあ、600にするよ」
やっぱり、ヤオイがいると、いいアドバイスがもらえてありがたいよ。
ボクにはその辺りの知識とかもないからね。ちょっとしたことしかできないもん。
「ふぃー、食べた食べた。それで、相談事ってなぁに?」
「あ、うん。えっと、実は昨日、洋服屋さんの方に一人お客様が来てね」
「へぇ~、よかったねユキ君!」
「うん。それはよかったんだけど……ちょっと、完成した装備を見てほしいんだけど……」
そう言って、ボクはヤオイに完成した装備を見せる。
「えーっと、何々? 【炎嵐ノ衣】? 効果は……え、な、何この化け物装備」
にこにこ顔だったヤオイの顔が一変、驚愕の表情になった。
「ば、化け物?」
「化け物だよ、これ! こ、これ、ユキ君が作ったの?」
「う、うん」
「そ、そっかぁ……ユキ君が作っちゃったのかぁ……」
「や、やっぱりまずかった、かな……?」
ヤオイが頭の痛そうな反応をしているので、恐る恐るヤオイそう尋ねる。
「まずかったなんてものじゃないかなぁ。だって、衣服系の装備って、ステータス補正はかからないし、そもそもスキルなんて付かないし……」
「え、スキルって付かないの……?」
「うん。たしか、スキル付きの装備は、ユキ君がくれた装備とかみたいに、かなりのレアリティがないと付いてないことが多いらしくてねー。そもそも、スキル付きの装備なんて持ってるの、わたしたちくらいだよ」
「そ、そうだったの!?」
「あり? ユキ君、もしかして知らなかった?」
「し、知らなかった」
「そっか……」
あ、なんか呆れられてる……?
そ、そうだよね、こんな情報を知らないこと自体、呆れるようなことだよね……。
やっぱり、情報収集は大事かぁ……。
「うーん……それにしても、困ったねぇ」
「えと、どうかしたの?」
「いや、本来、ステータス補正がかかるのは、鍛冶師の人たちが作るような物だけで、例外として、侍の装備があるみたいだけどね。で、ユキ君はその常識……と言っても、サービス開始から三日目だから常識も何もないけど、通常はないみたいなんだよね」
そ、そんなことが……。
ボク、もしかして、相当とんでもないことをしていたりする……?
「それに、現時点で最強って言われているレギオ、っていうプレイヤーも、まだそう言う装備は持ってないみたいだし……」
「そうなの!?」
「そうなんだよ。だから困るんだよねぇ……。だって、本来生産職ですらないユキ君が鍛冶師顔負けどころか、鍛冶師以上の装備を作っちゃってるからね……しかも、布だけで」
「うっ」
「そう考えると、製作費1000テリルはちょっと安すぎるね」
「じゃ、じゃあ、どれくらいが適当……?」
「本来は、100万取っても問題ないくらいのぶっ壊れ装備なんだよねぇ……」
「ひゃ、100万!?」
そんなに取れるの!?
なんだか、かなり高いように思えてしまうんだけど……。
「だけど、ユキ君的には、あんまり高くしたくないんだよね?」
「う、うん。だって、お金が欲しくてやってるわけじゃないし……それに、他の人の手助けになれば、と思ってやってるわけだし……」
お金は別に困っていないから、別にいいんだけど、ボクの経営理念的には、人のために、と言う部分が強い。
このゲームは始まったばかりだし、未知な部分も数多くあるから、困る人が多くなるはず。しかも、仮想とはいえ、人と人が直接会って会話したり、協力したりするわけだから、ストレスが溜まる面も出てくるはず。
本来楽しいはずのゲームなのに、ちょっと弱いからダメとか、レベルが低いから、なんて理由で楽しく遊べない人がいたら嫌だから、という理由でやってるわけだしね……。
だからこそ、なるべく安めの値段でやっているわけだけど……。
「だよねぇ。ユキ君、異常なくらい他人に優しいからね。まあ、否定はしないよ。でも、一日四名限定だと、ちょっと多すぎかな」
「うーん、じゃあどうすれば……?」
「そうだねぇ。一番いいのは、単純に値段を引き上げることなんだけど、ユキ君はそれを嫌がっているから、違う方法。そうなると、週に一人にするとか、月に一人だけにするとか。あとは、制限を設けるか」
「制限?」
「例えば、レベル1~レベル5までの人は1000テリルで請け負うけど、6~10は1万テリル。レベル11からは5万テリル。トップレベルの人は、100万テリル、みたいな感じに」
「な、なるほど……」
そうなると、お金がかかるという理由で、鍛冶師の人たちの所に行く、って感じかな。
「まあでも、これはお勧めしないかなぁ」
「それはどうして?」
「んー、なんて言ったらいいのかな……。ネットゲームにいる、マナーが悪い人って言うのは、何と言うか……『俺は強いんだ! だから、もっと安くしろ!』みたいな頭のおかしい人がたまーにいてね。今までは画面の中だけだったからよかったんだけど……ほら、これってゲームの中じゃん? だから、強そうな外見にして、自分が本当に強いと錯覚して、脅す人が出るかもしれないんだよ」
「そんな人が……」
ネットゲームはほとんどやらないから知らないけど、そう言う人がいるんだ……。
一応、このゲームもネットゲームに分類されそうだし、そう言う人がいてもおかしくないって言うことか……。
「だから、お勧めはしないよ。わたし的には、人数制限をもっと厳しくする方かなー」
「そっか……一応、強い装備になる原理は分かったんだけど……」
「あ、そうなの? じゃあ、とりあえず教えてくれると嬉しいかなー。それを聞いて判断した方がいいかもだしねー」
「あ、うん。えっとね――」
ヤオイが来る前に気付いたことを話す。
「ふむふむ。なるほど……つまり、レアリティが高い布じゃないと、強い装備は作れなくて、よくある布で作っても、鍛冶師の人たちが作った最低ラインの方が強いと」
「多分。鍛冶師の人たちがどれくらいの物を作れるのか知らないけど、多分それより弱いんじゃないかなって」
「VIT+10だもんね。うーむ。そうなると……持ち寄ったレアリティによって値段を引き上げる、の方がいいかもね」
「えっと、例えば?」
「そうだねー……このゲームで確認されてるレアリティで一番高いのは、6くらいらしいんだよ。ちなみに、最高は10だそうです」
「え、そうなの?」
ヤオイの説明で、ちょっとボクが着ている装備のレアリティが気になって確認。
【隠者ノコート】【魔殺しノ短剣】【天使ノ短剣】【悪路ブーツ】【創造者ノグローブ】が10。
【良妻ノワンピース】【良妻ノエプロン】【良妻ノリボン】が9。
【炎嵐ノ衣】が7。
【丈夫なシャツ】が2だった。
あれ、何かボク……とんでもないもの持ってない?
「ち、ちなみに、その6の物って、どういうの……?」
「なんでも、さっき言ったレギオ、って言う人がダンジョンで見つけた直剣らしいよ」
「へ、へぇー、そ、そうなんだー……」
「あれ、どしたのユキ君?」
「いや、あの……ぼ、ボクが作った装備より、ひ、低いんだなーって……」
「……もしかしてユキ君、7以上」
「……そのぉ、ボクが作った装備は全部、そうです……」
「そっかぁ……いやー、なんかもう驚かなくなってきたよー」
「あ、あはははは……」
ボクも、乾いた笑しか出てこなくなってきたよ……。
そ、そっかぁ……6まで物しか見つかってないんだね……。
「んー、そうなると、1~3の物は1000。4~5は1万。6が5万。7は10万。8で50万。9で75万。10で100万といったとこが妥当になるかなぁ」
「そ、そっか、そんなに高くなっちゃうんだね……」
「まあ、こればっかりはねぇ……じゃあ、制限にする?」
「……そう、だね。そっちの方が、まだ現実的、かなぁ……」
なるべく、お金を取らない方向で行くには、ね。
「じゃあ、どういう制限にする?」
「うーん……あんまり目立ちたくないことを考えると……月に一人、とか?」
「そうだね。それが一番安心かも。それで、どうやって決めるの? 多分だけど、作ってほしい人は多く現れると思うよー?」
「……じゃんけん、かな」
ちょっとだけ考えて、出た案が、じゃんけんだった。
「おー、公平なゲーム。まあ、一番妥当だよね。じゃあ、月に一人で、じゃんけんで決める、ってことでいいのかなー?」
「うん」
「それで、決める日は?」
「その月で一番遅い土曜日かな? それなら、集まれる人も多いと思うし」
「うんうん、いいと思うよ! じゃあ、そう言うことにしよっか」
「うん。ありがとう、ヤオイ。おかげで助かったよ」
「いいってことよー。それじゃあ、色々と変えないとね」
「あ、そうだね。すぐにやっちゃうから、ちょっとだけ待っててね」
「あいあーい」
何とか無事、変更点を決めることができた。
ヤオイって、普段はあれだけど、今みたいに頼もしい時があるから、本当にすごいと思うよ。……普段のあれがなければ、もっといいと思うんだけどね……。
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