第180話 初ダンジョン攻略

 考え直しが終わった後、ほどなくしてみんなログインしてきて、ボクのお店に集まった。


「おーっす、来たぜー」

「遅れた」

「こっちも、ちょっと遅れたわ。ごめんなさいね」

「あ、みんな。全然問題ないよ」

「そうだよー。こっちも、ちょっとやることがあったしねー」


 と、軽く言葉を交わす。


「それで、今日はどうするの?」

「そうだな……全員で、ダンジョンにでも行くか?」

「お、いいなそれ!」

「いいねぇ! わたしも賛成!」

「私もいいと思うわ。ユキはどう?」

「うん。お店自体は、夜の7時からだし、問題はないよ」


 それに、ボクとしてもみんなと遊びたいしね。

 こっちは、お店の方を優先しちゃってたし。


「じゃあ決まりだな。たしか、草原の近くに、【初級の洞窟】っていうダンジョンがあるらしいからな。そこへ行こう」

「随分安易な名前ね?」

「意外と適当なのかね、運営はよ」


 ……いや、その……そのダンジョンの名前、本当にそう言う名前なんだよね……。

 ボクも、向こうにいた時は、本当にびっくりしたよ……。

 だって、洞窟の名前が、いかにもゲームの最初に行くような名前だったんだもん。目を疑ったよ。


「じゃあ、行き先も決まったことだし、早速行きましょうか」


 と言うわけで、みんなでダンジョン攻略に行くことになった。



 装備を暗殺者衣装に着替えてから、ユキたちはダンジョンの方へ向かった。


 ちなみに、現在のこの五人のレベルだが、ユキが9、他の四人は8となっている。

 昨日の狩りで、なんとかレベルを8まで上げたようだ。

 ステータス的には、まだまだ、ユキには追いつけていないが。


 そんな五人だが、ダンジョンへと向かう道中は、やけに注目を浴びていた。

 それもそのはず。ユキたちが装備しているものは、なかなかに強そうに見えるからだ。


 特に、ユキ、ミサ、ヤオイの三人はかなり目立つことだろう。何せ、全身黒ずくめの暗殺者装備の少女(?)に、雪の結晶が描かれた白の和服を着た侍の美少女、それからなぜか白衣を着たオレンジ髪の美少女が歩いているのだから、それは目立つ。


 ショウはもともとイケメンなので、女性プレイヤーからの視線が多い。


 比較的注目を浴びていないのは、レンくらいだろう。

 筋肉質の、長身の男だからだ。

 見た目的には、平凡よりなので、そこまで目立っていないのだろう。

 ……本職の暗殺者より目立っていないとは、これいかに。


 こんな感じに、注目を浴びながら歩いて行くユキたち。

 十分ほど移動したところに、目的のダンジョンがあった。


「ここだな」

「中は……どうやら、松明が壁に設置されているみたいね」


 今回、ユキたちが挑むダンジョン【初級の洞窟】は、その名の通り、向こうの世界では、駆け出しの騎士や冒険者が最初に挑むことになる場所だ。

 このゲームにおいても、そこは変わらず、道中の敵の平均レベルは3ほどだ。

 この辺りは、向こうの世界の基準とほとんど変わらず、AIの方も、そこをそのまま流用したのだろう。

 AIも楽がしたいと言うことなのだろうか?


「よし、行こうぜ」


 レンのその言葉で、五人はダンジョンに入っていった。



 この五人は、パーティー構成的に、レンが先頭に立ち、盾の役割を持ち、ショウとミサが前衛のアタッカー。ヤオイが魔法などで後方支援。そして、ユキが暗殺者のスキルなどによる、遊撃だ。

 バランス的には悪くない。

 後方支援を受け持っているヤオイは、魔法での攻撃になり、一人だけであるため、やや苦戦すると思われがちかもしれないが、ユキが普通に前衛も後衛もこなせる、オールラウンダーな人物なので、そうそう困ることはないだろう。


 もっとも、本来の暗殺者は、そういうことをしないような気がするが。


「お、ゴブリンだ」

「数は……四体ね。どうする?」

「ボクはとりあえず、もしもの時のサポートに回るよ」

「おっけー! それじゃあ、一人一体、ということで」


 ダンジョン最初のモンスターは、異世界系、ゲーム系での定番モンスター、ゴブリンだ。緑色の体色をした、小さい人型モンスター。


 ユキを除いた四人は、それぞれゴブリンと戦う。


 と言っても、レベル差は5もある上に、装備の問題で一撃で倒してしまうわけだが。


 例えば、レンなんかは、大剣を振り下ろしただけで、両断。

 ミサも同様、抜刀術のように刀を抜き放ちそのまま切断。横に真っ二つだ。

 ショウは、《伸縮》を用いて、中距離で戦い、やっぱり両断。

 比較的普通(この中では)だったのは、ヤオイだ。ヤオイは、いつも通りに《ファイアーボール》を放つ。装備の影響や、ステータスが向上していることもあって、威力は伸びている。その結果、着弾と同時に炎上、灰になった。


「うん、大丈夫だね、みんな」

「ま、オレたちもレベルが上がってるってことだな!」

「まだまだ、ユキ君には敵わないけどねぇ」

「いやいや、そもそも、ユキレベルになるには、ユキのステータスの二倍以上が必要じゃない。普通に考えて無理よ」

「ボクの場合は、向こうの基準でステータスが作成されちゃってるしね……」


 暗い笑みを浮かべるユキ。

 ユキ的には、他の四人と同じではなく、かけ離れたステータスであることに、申し訳ない気持ちと、寂しさ抱いていた。


 ただでさえ、常人とはかけ離れた存在であるのに、ゲームでもちょっと特殊な状況にいるので、みんなとは違う、などと思ってしまう。


 もちろん、四人はそんなことを気にするような人間ではない。

 むしろ、ユキがそう思っていることを知ったら、絶対に呆れるだろう。


「にしても、やっぱほかのプレイヤーもいるのな」

「それはそうよ。ここは最初に来るダンジョンって言われてるもの。むしろ、いきなりレベル1で、なおかつ初期装備で平均レベル10のダンジョンに行く、なんてことする人がいると思う?」

「……ユキならできるんじゃないか?」

「……たしかにそうだったわ」

「いや、やらないよ!? 普通に負けると思うよ!」

「「「「ないない」」」」


 ユキの抗議に、四人はそろって手を振りながらそう言った。


 対するユキはぐうの音も出ない。


 まあ、初期ステータスの時点で、大量のスキルにそこそこの魔法を持っている存在だった。正直、+1の補正しかない初期装備でも、ユキは何の問題もなく攻略できるだろう。


 というか、暗殺者の職業自体、防御力なんて期待せず、自分自身のスピードと回避力がものを言う職業だ。なので、向こうの世界では駆け出し冒険者の少々上くらいの人がいい勝負する程度のモンスターなぞに、異世界で地獄の修業を潜り抜けたユキにとって、たやすいことだ。


 だがまあ、今はレベルが上がって、ステータスも向上しているので、苦戦することもなければ、ダメージを負うこともそうそうないだろう。


 実際、ゲームを始めて、三日目になっているが、ユキがダメージを負ったのは、初日のキングフォレストボアーの攻撃を受け止めた際に受けた、5のダメージくらいだ。


 そんなことはさておき、順調に進んでいく五人。


 道中、何度もゴブリンが出現したが、装備品がすでに強い部類に入っている五人が苦戦することはなく、サクサク進む。


 そして、ボス部屋。


「なんか、えらくあっさり到達しちまったな……」

「一番最初のダンジョンに、そこまで期待してもね。普通はこんなものなんじゃないの?」

「とりあえず、ボスに挑むか」

「だねー」

「ユキはどうする?」

「ボクは……うーん、スキルを使用すれば、多分、一撃で倒せちゃうと思うし……」

((((ボス一撃って……))))


 やはり、ユキの存在はとんでもないようだ。


「だから、危なくなったら介入して、大体は囮になるかな」

「わかったわ」

「それじゃ、開けるぞ」


 ショウの問いかけに、全員がこくりと頷く。

 高さ5メートルほどの扉は、ゆっくり開いて行く。

 ゆっくりと開いた扉の先には、何やら3メートルはありそうな大きいゴブリンが待ち構えていた。


 さきほど、別のパーティーがここに入っていったのだが、どうやら負けてしまったらしい。

 ちなみにだが、ユキたちよりも先に入ったパーティーの最高レベルは、10。最低レベルでも7と、高めのパーティーだ。

 そんなパーティーがなぜ負けたかと言えば……


【ゴブリンロード Lv14】


 こうだからだ。

 まあ、要するにレベルが高かったのだ。

 一応言うが、このボスは不具合などではない。これが正しい。


 今回、ユキたちが挑んでいるダンジョン【初級の洞窟】は、名前こそ最初に行くべきダンジョンのような名前をしているが、実施際においては、駆け出しの騎士や冒険者が通る最低ラインなのだ。

 つまり、ゴブリンロードを倒すのは、必須、と言うのが向こうの世界での常識。


 それをAIが取り入れてしまったため、こうなった、というわけだ。

 このダンジョンの適正攻略レベルは、最低でも9は必要だ。


 ユキのように、FPとSPが二倍になるような称号を持っているのであれば話は別だが、今回はそうもいかないだろう。


「……無理じゃね?」

「レベル的には差は大きいわね……でも、できないわけじゃない、と思うわよ」

「やってみるだけやってみるか?」

「その方がいいと思うな、わたしは」


 予想よりも高かったレベルに驚き、一瞬戸惑いも見せるものの、まずはやるだけやってみる、と言うことになった。

 それに、ユキがいることを考えたら、下手なことにはならないはず、というのもある。


「えっと、挑む、ってことでいいの?」

「ああ。だから、囮頼む」

「うん、任せて」


 そう言うと、ユキはゴブリンロードに向けて駆け出していた。

 やはり速い。

 そんな速いスピードで走っているユキは、ゴブリンロードが持つ棍棒のような武器に攻撃を仕掛けたりして気を引いている。

 振り回される棍棒をひらりひらりと回避したり、短剣で受け流したりしつつ、囮をこなしていく。


「よし、俺たちも行くぞ」

「んじゃ、オレから行くぜ!」


 まず最初に飛び出したのはレン。

 レンは、重戦士にしてはやや早めのAGIを持っているため、ちょっと早い。ユキと比べたら、月とすっぽんだが。

 そして、ゴブリンロードに迫ると、


「【山割り】!」


 【山割り】という大剣のスキルを用いて、ゴブリンロードに攻撃する。


『グゥウウゥッ!』


 今のレンの一撃によって、ゴブリンロードの体力が目に見えて減った。

 しかし、一割も削れていない。


『グガアァァァ!』

「おわっ!?」


 攻撃されたことに怒ったゴブリンロードが、思い切り棍棒を振り下ろしてくる。

 しかし、


「ふっ」


 振り下ろされた棍棒は、レンに当たることはなく、横の地面に激突していた。


「大丈夫? レン」

「お、おお、助かったぜ、ユキ」


 助けたのは、もちろんユキだ。

 本来、盾役としての重戦士が、防御力が低めの暗殺者に助けられている時点で、色々とダメな気がするが。


「ミサ、ショウ! 今のうちに攻撃!」

「ああ!」

「わかった!」


 攻撃を止めたチャンスとばかりに、ユキが二人に指示を出す。


「【初断ち】!」

「《伸縮》! 【パワースラッシュ】!」


 ミサは刀による抜刀系スキルによって、ゴブリンロードに肉薄し素早く切りつける。それとほぼ同時に、ショウが武器スキルを発動し、同時に直剣と大剣のスキル【パワースラッシュ】で、ゴブリンロードの腹部を切りつける。

 二人は、STRが高めと言うこともあって、2割と少しを削ることに成功。


 そこからさらに、追撃とばかりに、


「《ファイアーボール》!」


 ヤオイからのファイアーボールが飛んでくる。


 それは見事にゴブリンロードの顔面に直撃し、一割の体力を削る。さらには、視界を奪うことに成功。


 その隙を突いて、四人が各々の武器で攻撃。この瞬間だけは、ヤオイも武器を杖から短剣に持ち替えて攻撃をする。


 ユキからもらった短剣に付与されている《影操》を用いて、影を操作、槍を形成しそれでチクチクとゴブリンロードに攻撃を当てていく。


 少しずつ、少しずつではあるが、みるみるうちにゴブリンロードの体力が削れて行く。


 そして、3割を切った瞬間、


『グガアァァァァァァァァッッッ!』

「ぐおっ!?」

「がぁっ!」

「きゃあ!」

「おうふ!」


 視界を奪われて、ほとんど動かなかったゴブリンロードが突然棍棒を薙ぎ払い、全員攻撃が当たり、吹き飛ばされてしまう。


『ガアァァァ!』

「しまッ――」


 ドスンドスンと足音立てながら走ってくる。

 そして、攻撃によって思うように動けずにいるショウに、棍棒が振り下ろされ……


「【投擲】!」

『グギャアァァァァァ……』


 る前にユキの投擲によって、ゴブリンロードは倒された。


「「「「マジかぁ……」」」」


 あまりにもあれすぎるユキの行動に、全員遠い目をしながら、同じことを呟いていた。


「み、みんな、大丈夫!?」


 路傍の石ころをどかしたみたいな反応でしかないユキ。慌てて四人に駆け寄ってきた。

 そして、四人は同時に思った。


((((やっぱり、異世界系はチートだな))))


 と。


 異世界に行って強くなった元少年は、どこへ行っても、チートっぷりを発揮するようだ。



 そして、ボスであるゴブリンロードを倒した直後、奥の部屋が出現。

 そこには宝箱が。


「とりあえず、ボクが開けた方がいいのかな?」

「そうね。ゲーム内でのLUCも現実でのラックも、ユキが一番高いしね。いいと思うわよ。みんなもそれでいいわよね?」

「異議なーし」

「俺も」

「倒したのユキだしな! オレも構わないぜ」

「だ、そうよ」

「うん。じゃあ、開けるね」


 そう言って、ユキは宝箱を開けた。

 その中には……


「あ、あれ? 布?」


 布が入っていた。

 見たところ、何やら白銀の色をしており、わずかながらに発光しているように見える。


 とりあえずユキが何なのか調べてみる。


【女神の布】……かつて、この世界を愛し、管理していた女神の力が宿っているとされる布。レアリティ:10。これを用いた装備には、その女神と思しき力が発現すると考えられている


 ………………え、えぇぇ?


 ちょっと待って? なんでこんな最初のダンジョンの宝箱に、こんなにとんでもない素材アイテムが入っているの?


 う、うーん? というか、確率ってどうなってるの?


「ユキ、どうしたの?」

「それは……布か? 高そうな布だな」

「ユキ君、それもしかすると装備の作成に使えるんじゃない?」

「……た、多分、ね」

「ん? どうした? 歯切れが悪いぜ?」

「いや、その……こ、これ、レアリティが10……なんだけど……」

「「「「はあああああああああ!?」」」」


 ユキの口から飛び出した事実に、全員が素っ頓狂な声を上げていた。

 いや、無理もないだろう。なにせ、確率1000万分の1の確率でしか出てこない、最上位のアイテムなのだから。


 しかも、条件があり、5人以下のパーティーでクリアすること。とある称号を持っていること。さらには、【裁縫】のスキルを最大まで上げていることの三つ。それを満たした上で、攻略することで、1000万分の1、という確率で出現するようになる。


 ちなみにこれ、全部のダンジョンで出現する設定だ。もちろん、どれも同じ条件での入手だが。


「……オレ、ユキに関する大概のことは驚かねえと思ったけどよ……やっぱ無理だわ」

「……そうね。始めてのダンジョン攻略で、一番上のレアリティのアイテム出すとか……やっぱ運が化け物だわ」

「……それ以前に、平気で出してくるのも、色々とあれだがな……」

「……わたし、ここに来る前にも、ちょっと驚いたけど……これはないわー」


 ユキのとんでもない行動に、奇行、言動には慣れたつもりでいた四人だったが、やはり、まだまだ慣れていないようだった。

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