第177話 白銀亭開店!

 六時半。


 息抜きがてら、少しだけ草原でみんなとモンスター狩りをしてから、お店の最終確認に入った。


「テーブル……大丈夫。椅子も……大丈夫。食材と道具も大丈夫。えっと、注文用の用紙も大丈夫、と」


 一つ一つ確認し、すべて問題なしだと確認できた。


 注文用の用紙と言うのは、料理屋さんと洋服屋さん、それぞれ用に作ったものです。


 どうやら、プレイヤーを相手にした商売目的の家は、そう言ったものが作れるようになるらしく、さっき作成しておきました。


 これをプレイヤーに渡して、紙に食べたいものを書くと、自動的にボクの手元に来る、という仕組み。


 洋服屋さんの方は、ちょっと違って、材料に使用する布を紙に書くと、布と一緒にボクの手元に来る。


 一応、盗み防止のために、送られた布などは、借用という形になり、一定期間を超えると自動的に元の持ち主の所に戻ってくるみたいです。


 ちなみに、これらは契約書のような物でもあるらしく、自動的にお金が回収され、ボクのお財布に入る、という仕組みもあって、本当に便利。あ、もちろん、出すまでは借用、みたいな形ですよ?


「さて、と。とりあえず、不定期の営業……頑張らないと」


 ボクは一人、キッチンで気合を入れていた。


 ちなみに、ボク以外のみんなは、再び狩りに行っています。

 ボクに追いつきたい、とのことらしいので、ボクは引き留めず、むしろ笑顔で送り出した。

 なんだか嬉しくてね。ボクなんかのために、同じになろうとしてるから。


 一応、出かける前に、みんなには料理を振舞っておきました。一度草原に出ちゃってるからね。バフがあった方が、みんなもやりやすいだろうし。


 あ、お金は受け取ってないですよ? 友達限定、というやつですね。

 みんな、お金を払おうとしてたけど、やんわりと断りました。


「さて、もうそろそろ7時だね。えっと、開店は……あ、この部分か」


 家の情報などが記載されたスクリーンを表示。そこに書いてある、開店、という文字をタッチすると、


【白銀亭が開店しました! これにより、マップ上に表示されます】


 という文章が表示された。


 どうやら、開店状態にすると、マップ上に表示されるようになるみたい。


 ためしに、マップを確認すると、たしかに【白銀亭】と表記されていた。さっきまでは、何もない状態だったけど。


「……まあ、さすがにいきなり来ることはないよね」


 だって、何の告知もしないでひっそりと始めたわけだしね。

 逆に、開店と同時に来たら、普通に怖いよ。何で知ってるの? ってなっちゃうよ。


「んー、ちょっと暇だよね……あ、そうだ。リボンでも作ろうかな? 時間なくて、そっちは作れなかったし」


 一応、ゲームの中だから、そこまで気にしなくてもいいかもしれないけど、髪はまとめておきたいよね。


 一応、作っておこう。


 そう思って、アイテムボックスの中から、服を作るときに使った布を取り出し、【裁縫】を発動させる。


 頭の中に設計図が浮かび上がり、ボクの手は自分でもびっくりするくらい、精密に、それでいて高速で動き続ける。


 そして、十分ほどその状態が続き、ボクの手元には、一本の赤いリボンが出来上がっていた。


「ふぅ、完成、と。なるほど、小物系だと、10分でできるんだね」


 そう考えると、エプロンのようなアクセサリーから上は、全部30分なのかも。


 あ、二階でなく、一階で作れるのは、単純にボクが持つ布を使って、自分用に作っているからです。商売目的じゃないからね。システム的にもOKだったみたい。


 とりあえず、出来上がったリボンを確認。


【良妻ノリボン】……とても優しく、家事万能なお嫁さんが身に着ける赤いリボン。女性アバターが装備可能。DEX+30。装備部位:アクセサリー。《アクセサリースキル:家事強化》【料理】【裁縫】の両スキルに効果を追加する。料理を失敗することがなくなり、一日にランダムで一度だけ、次のレベルに必要な経験値の5%が入る(そのレベルに上がった直後から次に上がるまで)。一日にランダムで一度だけ作成した洋服・アクセサリー類に、《取得経験値向上》を付ける(布のレア度によって倍率は異なる)


 ……あ、うん。知ってた。


 またしても、おかしなものが完成してしまった。


 なんか、ボクが作ってる装備、全部バランスを崩壊させるような物ばかりのような……?

 あんまりこう言ったゲームをやるわけじゃないけど、ボクが作っているものがおかしいと言うことはなんとなく理解できる。


 というかこれ、【裁縫】でこんなことができちゃうなら、鍛冶屋の人が防具を作る必要、ないんじゃ……?


 だってボク、【武器生成(小)】の魔法覚えてるし、買ったり作ったりする必要がほとんどないし……しかも、武器だって魔王を倒せるレベルの物を持ってるし……。


 鍛冶師の人、涙目だよ。


「はぁ……なんで、こうなってるんだろう?」


 普通にゲームを楽しみたいのに、なぜかボクが取得している称号やらスキルやらがおかしすぎて、まともに楽しめないような気がするよ……。

 ……まあ、体を動かすのは楽しいからまだマシと言えるけど。


「……とりあえず、装備しておこうかな」


 せっかく作ったわけだし、装備しないのはもったいないよね。

 出来上がったリボンを使って、髪を後ろの方で結ぶ。

 ちなみに、腰元で結びました。これ、なんて言うんだろう?

 まあいいけど。


「えっと、装備は……うん、できてるね」


 どうやら、アクセサリー系は、メニュー欄から装備するのではなく、自分でつけるのが正しいみたいだね。

 こっちからでもできるとは思うけど。


「んー、それにしても暇だなぁ」


 お客さんが来ないのは、ちょっと寂しい。

 一人でも来てくれればありがたいんだけどね。

 ……さすがに、完成したばかりだし、高望みしちゃだめだよね。


「気長に待とう。九時までまだ時間はあるし」


 今日は最初と言うことで、九時までにしている。


 ちなみに、この世界では基本お昼のままです。

 どうやら、場所によっては時間が変わる場所もあるみたいだけど。


 二日目ともなると、色々な場所に行ったプレイヤーの人たちがちらほらと出てきてるらしく、中にはダンジョンに入った人もいるとか。


 ボク的には、観光名所、みたいなところに行ってみたいかな。


 この世界は向こうをモデルにしてるとはいえ、オリジナル要素もちゃんと加えてる、って学園長先生が言ってたしね。

 全部が全部、異世界モデルじゃないのはかなりありがたい。


 それにしても、人来ないなぁ。


 うーん、やっぱり二日目だし、来ないのかなぁ……そもそも、ボクみたいなあんまり有名になってないプレイヤーのお店には来ないよね……。


 なんて、ちょっと否定的になっていたら、


 カランカラン……


 という、扉のベルの音が聞こえてきた。

 どうやら、お客さんが来たみたい!


「いらっしゃいませ! ようこそ、白銀亭へ!」


 初めてのお客様に嬉しくなって、心からの笑顔で出迎える。


『えっ、か、可愛い……』

「えと、お客様?」

『ハッ! あ、りょ、料理屋、って書いてあったから、ちょっと寄ってみたんだけど、だ、大丈夫ですか?』

「もちろんです! カウンター席とテーブル席、どちらがいいですか?」

『じゃ、じゃあ、カウンター席を』

「それでは、お好きなところにお座りください」

『は、はい』


 初めて来たお客様は、男性のプレイヤーさんだった。

 名前の横にあるレベルを見ると、5となっていた。

 なるほど、初めてちょっと経った、って感じかな?

 そう言えば、どうして顔が赤いんだろう?


「どうぞ、メニューと注文用紙です。ここに、食べたいメニューの料理を書けば、紙と一緒にお金が引かれますので、呼ばなくて大丈夫ですからね」

『わ、わかりました』


 メニューと注文用紙を渡してから、ボクはお冷を出す。

 それから、すぐに料理ができるようにと、厨房の方へ移動。

 ほどなくして、注文用紙がボクのもとに届いた。


「えっと、ハンバーグとシーザーサラダに、ご飯のセット」


 注文を確認してから、ボクは調理を開始。


 現実でも【料理】のスキルは持ってるけど、こっちだとちょっとシステム的な部分もあるからちょっと楽。


 こっちでは、衛生面も気にする必要がないし、システム的なサポートなのか、一定回数をこなすだけで、下準備が終わり、焼く際も、指定された時間でこなせば終了。


 完成した料理をお盆にのせて、男性プレイヤーさんの所へ。


「お待たせしました。ハンバーグとシーザーサラダ、それからご飯セットです。それでは、ごゆっくり」

『い、いただきます』


 ごゆっくりと言いつつ、ちょっと隠れて様子をうかがう。

 やっぱり、初めてのお客様の反応は見てみたいしね。


『っ! う、美味い!』

「やた!」


 美味しいと言ってもらえて、ボクは小さくガッツポーズをした。

 作り手としては、やっぱり美味しいと言ってもらえた瞬間が、一番嬉しいし、報われたと思えるよね。

 隠れてさらに様子をうかがっていると、男性プレイヤーさんは無我夢中と言った様子で、料理を平らげる。


『ごちそうさまでした』

「お粗末様です」


 食べ終わる頃を見計らって、食器を回収しに行く。


『すっごい美味かったです!』

「ありがとうございます! えと、ボクの料理には、バフが付きますので、ぜひ、冒険前に立ち寄ってくださいね」

『バフ……? うわ、ほんとだ! STR+15が付いてる! しかも……経験値が増えてる?』

「あ、当たりですね。実は、一日に一度だけ、料理に経験値が5%入る効果があるんです。よかったですね!」


 まさか、一番最初に来たお客様が、経験値取得を引き当てるなんて。

 運がいいのかもね、この男性プレイヤーさん。


『ま、マジか……バフが付くだけじゃなくて、経験値も……?』

「それから、一日先着四名様限定ですけど、洋服屋さんもやっていますので、もし、布を持っていたり、手に入ったなら、洋服やアクセサリーも作成できますから、気が向いた時にお立ち寄りいただければ嬉しいです」

『へぇ、洋服かぁ……それも、何かあるんですか?』

「えっと、スキル付きの洋服やアクセサリーができることがありますね。あとは、布のレア度によって倍率が変わる、《取得経験値向上》が一日に一度だけ、ランダムで付きますよ。あ、あと、スキルに関しては、30%の確率で洋服にスキルが付きます」

『ほ、ほんとに!? す、スキル付きの装備……?』

「はい。えと、何かおかしかった、ですか?」

『い、いえ! なんでもないです』


 うーん、どうしたんだろう?

 スキル付きの装備って、結構あると思うんだけど……うーん?


『そ、それじゃあ、また来ます!』

「ほんとですか? それは、嬉しいです! ついさっき開店したばかりで、実質的には、あなたがお客様第一号だったりするんですよ」


 まあ、一番最初に料理を振舞ったのはミサたちだけど、お金を取る方のお客様はこの人が一番最初だしね。


『ほんと!? な、なんてラッキー……俺、フレンドにもこのお店のこと宣伝しておくよ!』

「あ、ありがとうございます! あ、あと、このお店は、ちょっと不定期で、ボクがログインしてから1~2時間ほどしかやらないので、気を付けてくださいね」

『わかりました』

「今日は一応、九時までやっていますので、ぜひお友達の人たちに教えてあげてください」

『もちろん! それじゃあ、ごちそうさま! 美味しかったよ!』

「はい! またのお越しをお待ちしております!」


 嬉々とした表情で、男性プレイヤーさんは、お店を出ていった。

 それを見送ってから、ボクはカウンター席の方へ。


「あぁ、やっぱり、料理を食べてくれた後の笑顔はいいなぁ……」


 なんだか、頑張りが報われる気分だよね。

 誰かのために何かをするのは、楽しい。

 この調子で、もっともっと頑張らないとね!



《CFO公式掲示板 匿名プレイヤーたちのお話広場》

【スレッド名 白銀亭】

1:これで、スレッドって立てられてる?


2:問題ないぞー


3:お、スレッド新参者でござるな?


4:新入りは大歓迎よ!


5:それで、新入り殿は、一体何が? スレッド名を見たところ、何かの店のようでござるが


6:あ、そうだった! ここにいる人たちに宣伝しに来たんですよ


7:ほうほう。言ってみるンゴ


8:実はさっき、白銀亭って言う名前の料理屋に入って、めっちゃ美味い料理食べてきたんですよ!


9:ほうほう。美味い飯屋か……


10:白銀亭ね。どこかで聞いたような……


11:……ん? 白銀亭? ……ちょっと待て。それはもしや……銀髪碧眼の美少女アバターがいたか?


12:はい、そうですが


13:なぬ!? め、女神様の料理屋が開店していたじゃと!?


14:め、女神様? ってえっと、そこお店の店主さんのことですか?


15:そうだ! き、気様、まさか、お客第一号じゃないだろうな……?


16:えっと、その人が言うにはそうです


17:なんだとおおおおおおおおお!?


18:貴様! 我々が欲しがっていた、お客第一号の称号を奪いやがったなッ!?


19:ええええええ!? お、俺、何かしました!?


20:くっ、まさか、こんな小僧に先を越されるとは……一生の不覚じゃ!


21:いや、あの……ええ?


22:……まあいい。それで、店の情報をはいてもらおうか


23:あ、はい。えっと、とりあえず、その女神、様? が言うには、お店の料理を食べると、ランダムでバフが付くらしい、です


24:は? バフ? マジ? 料理食っただけで?


25:は、はい。あと、一日に一度だけ、経験値が5%入るとかなんとか……


26:……た、食べただけで経験値?


27:ち、ちなみに、バフは何がかかったんじゃ?


28:STR+15ですね


29:つ、強くね?


30:あ、バフがかかった状態でセーフティエリア外に出ると、街へ戻るか別のセーフティエリアに入るまでずっと続くみたいです


31:な、なんっ、だとっ……?


32:それ、バランス崩壊じゃね?


33:二日目にして、いきなりバランス崩壊が出てきたか……


34:あ、他にも


35:まだ何かあるでござるか……?


36:洋服屋もやっているらしくて、どうやら、布を持ちよれば装備品を作ってくれるらしいです


37:へぇ、それはすごいンゴ


38:……ただ、スキル付きの装備らしいです


39:ファッ!?


40:いやいやいやいや! 嘘だろ!?


41:いや、何でも、ランダムで一日に一度だけ付く《取得経験値向上》って言うのと、別のスキルが30%の確率で付くとかなんとか……


42:……何それ、やばくね?


43:てか、スキル付きの装備なんて、存在してたのか? 今だって、プレイヤーの中で一番高いレベルに到達していて、最強と言われている、レギオって奴ですら、そう言うのを持ってるとは聞いてないぜ?


44:それ以前に、スキル付き装備を序盤で作れてる時点で、鍛冶師の立つ瀬がないでござるな……


45:それな。あと、調合士もな


46:それで、他には何か情報は?


47:あとは、洋服屋は一日先着四名と言うことと、お店自体は、不定期営業で、ログインしてる日は、1~2時間だけの営業、のようですが


48:短い……しかも、不定期となると、ちょっと難しいか……


49:……ん? そういや、今って営業してるのか?


50:あ、はい。九時までやってる、って言ってましたよ?


51:なんだと!? こうしちゃいられねえ! 今すぐ向かわねば!


52:狩りなんてしてられっか! 俺は女神さまの店に行く!


53:フレンドの約束なぞ、どうでもいい! 俺は女神さまの手料理を食べに行く!


54:わしも急がねば!


 と、ユキの料理屋・洋服屋が開店していると聞いたスレッド民たちは、新入りプレイヤーの情報を受けて、大慌てでユキの店に向かった。


 この後、ユキの家にはかなりの人数のプレイヤーが向かうことになるが……この時、お店でぼーっとしているユキは、知る由もない。

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