第176話 白銀亭完成!
「えーっと、さっきメッセージが来たから……うん、もう少しで完成かな?」
二時間くらいたったころ、ミサからメッセージが届いた。
内容は、
『あと三十分くらいで、そっちに戻る』
というものだった。
二時間くらいあれば、どれくらいレベルが上がるのかはわからないけど、よくあるRPGとかだと、割と結構上がるよね。最低でも、5くらいは上がるはず。
大半のプレイヤーが今しているのは、大体がレベル上げとお金稼ぎみたいだし。
たしか、市場もあるんだっけ?
ドロップアイテムや、ダンジョンで見つけたアイテムなどを競りにかける、っていう場所らしい。
もし、いいものが手に入った場合、結構なお金になるそうだけど……今の段階で、お金を稼ぐのはちょっと難しそうだけどね。
なにせ、みんなお金ないもん。ボクが例外なだけで。
「……家を買ったのに、まだ300万もあるんだよね……」
どうやら、キングフォレストボアーを倒した際に手に入った、ものがレアドロップアイテムだったらしく、20万で買い取ってもらえたのだ。
……レアドロップアイテムって、実際簡単に出るものなのだろうか?
もしかして、あんまりでなかったりする?
LUCの項目って、その辺りのことなのかなぁ。
「……まあいいよね。お金はあっても困らない……はずだし。それより、早く作っちゃわないと」
現在、ボクが作っているのは、料理です。
どうやら、現実で作れるものが作れたり、向こうの世界の料理が作れたりするとか。
とはいえ、いくらスキルがあると言っても、いきなり向こうの世界の料理を作るのは、なんだか気乗りしなくて、普段から作っているものにした。
とりあえず、和食・洋食・中華の三種類を作りました。
さすがに、今回がゲーム内での初めての料理だから、ちょっと心配だけど……だ、大丈夫だよね?
それにしても……
「よ、汚れないね、この装備」
さっきから、たまーに跳ねたりして、装備に付くんだけど、まったく汚れない。むしろ、付いたそばから、すぐに消える。便利。
カランカラン……。
ふと、玄関からベルの音がした。
ちなみにあれ、さっき紙と革を買いに行く際に、ついでに買ったものです。あった方が、お店っぽいかなって。
「ただいまー」
「戻ったぜー」
「ん? いい匂いね」
「言われてみれば……。ユキ、完成したのか?」
「みんなおかえり。うん。問題なくできてるよー」
と、そう言いながら、ボクはキッチンから出てくる。
「あれ、ユキ、その服どうした?」
「あ、これ? 作ったの」
「……え、服って作れんの?」
「一応ね。ほら、ボク【裁縫】のスキル持ってるから」
「……そういえば、書いてあったな。それにしても……似合うな、それ」
「そうね。シンプルなワンピースに、白のエプロン、ね……?」
「お嫁さんみたいで可愛いよ、ユキ君!」
「ち、ちちち違うよ!? た、たしかにこの装備の名前に、りょ、良妻ってあるけど……」
「「「「あー、納得……」」」」
「否定して!?」
なぜか、みんな納得した。
ボク的には、全然違うから! 少なくとも、お嫁さんでも何でもないから!
「で、その装備の効果は?」
「えっと、ワンピースの方は、作った料理に、バフがかかるようになるよ。ちなみに、食べた人にランダムで何かが付きます。エプロンの方は、料理の完成度が上がります」
「……なんだそのぶっ壊れ装備」
ボクもそう思います。
だって、この装備を付けて料理をすれば、次外出た時にバフがかかるからね。
何がかかるかわからないけど。
「それと、ワンピースとエプロンに、もう一つ効果があってね? これを装備した状態で、【裁縫】を使って洋服類を作ると、スキル付与に補正がかかるのと、ステータス補正が付いたものができるんだよ」
「いよいよもって、チートになりつつあるな、ユキ」
「……ち、チートじゃない、よ?」
「疑問形じゃない」
だ、だって、ボクだってこんな装備ができるとは思わなかったんだもん……。
もっとこう、普通の洋服ができると思ってたし……。
「そ、それで、みんなのレベルはどうなったかな?」
「全員、レベルは7になったな」
「あ、すごいね! たしか、昨日は3まで上げただけだもんね」
二時間で4も上げたんだ。
でもやっぱり、家庭用ゲームとは違って、自分の足で移動したりするから、それと比べると、ちょっと遅めなのかな?
「……たった一体倒しただけで、レベル9になった人が言ってもな」
「……ごめんね」
そう言えばそうだった……。
うぅ、みんなに申し訳ないよぉ……。
「ああ、気にしないで、ユキ。あなたが強いのはもともとだもの」
「そうそう。ユキ君に追いつかないといけないからね、わたしたち」
「そうだけど……ほ、ほら、ボクの場合って、レベルが1上がっただけで、実質2上がったようなものだし……」
「称号はまあ、仕方ないわよ。だって、あの人の弟子だものね。それを考えたら……2倍って少ないくらいよ」
「さ、さすがにそれは言い過ぎだと思うけど……」
師匠の弟子をやっていたからって、効率が二倍になるって、おかしいと思うもん。
「……謙虚なのは、いつものことね」
「け、謙虚? 普通だと思うけど……」
「「「「これだもんなぁ」」」」
……最近、みんなが、ボクに対して呆れてくるんですが、どうすればいいでしょうか?
ちょっと悲しい。
「そう言えば、今のプレイヤーで一番レベルが高い人のレベルは、18って聞いたわね」
「18!? ボクの二倍だよ……」
「二倍と言いつつ、実際ユキもレベル18みたいなもんでしょ。……ま、初期ステータスはレベル1じゃなくて、10以上だったと思うけど」
「……そうだね」
最初に見た人の平均だと考えたら、ボクと同じステータスにするのに、29はいるもんね。
「あ、そうだ料理! みんな、とりあえず、どこか適当なところに座って! 今出しちゃうから!」
話しててすっかり料理のことを忘れていた。
みんなに適当なところに座るよう言ってから、ボクはキッチンへ引っ込んだ。
「で、どう思うよ?」
「何がよ」
「ユキが着てるあの装備。結構ぶっ壊れてるよな」
「そうね。だって、食べればバフがかかるんでしょ? どういうものがかかるかはわからないけど」
「これ、ユキ君の噂が広まったら、大繁盛しそうだよねー」
「どっちかと言えば、大半はユキの容姿目当てで来そうだがな」
「「「たしかに」」」
「おまたせー」
出来上がった料理をお盆にのせて、みんなの前に並べる。
今回作ったのは、肉じゃが、サルケ(鮭のような魚)の幽庵焼き、エビチリ、麻婆豆腐、ハンバーグ、シーザーサラダの計六品。
「おー、ゲームの中でも美味そうだなぁ」
「これ、現実よりも見た目綺麗じゃない?」
「ゲームの中だと、システムのサポートがあるからね。あとは、素材もいいものが多いし」
商店街で買っているのも、いいものが多いんだけどね。
こっちの場合は、実際採れたて、みたいなものが多い。
「それじゃあ、食べてみて」
「「「「いただきます」」」」
「召し上がれ」
各々、好きなものを取って一口。
「……う、うめぇ」
「ほんと、なにこれ美味しい!」
「味のバランスがいいな……美味い」
「美味しい! すっごく美味しい!」
「ほんと? よかった……」
みんな、美味しいと言ってくれて、ちょっとほっとした。
これでもし、現実よりも美味しくなかったらと考えると、ちょっと辛い。
それに、みんなに美味しくないものを食べさせるわけにはいかないもんね。
うん。よかった。
その後、あっという間に六品を平らげ、食後のコーヒー、もしくは紅茶を出していた。
「いやぁ、こっちでも、ユキの手料理が食えるとはなぁ。マジ感謝だわ、学園長」
「そうね。現実だと、食費がかかるから、あんまり作れないものね」
「その点、こっちの世界なら、ちょっとモンスターを倒せば食べられるもんね」
「まあ、今のユキは、そこまでモンスターを狩る必要はないんだがな」
「まだ、300万あるからね……」
これ、使いきれるのかな?
今のところは、貯金、という感じで収めているけど、そのうち使った方がいいかもなぁ。
「あ、それで、どうかな? 一応、バフがかかってると思うんだけど……」
装備の効果が表れているはずなので、みんなに何か変化がないか尋ねる。
「あ、私、物理耐性(小)が付いてる」
「俺は、AGI+20だな」
「お、わたし調合成効率+40%」
「俺は、VI+25が付いた」
「あ、本当にランダムなんだ」
しかも、ステータスだけじゃなくて、ミサとヤオイみたいに、ステータスというより、スキル的な部分のバフもかかることがあるんだ。
そう考えると、特定のスキルや魔法に対しても、バフがかかりそう。
「それから、効果時間と書かれてるかな? その辺り、詳細には書いてなくて……」
追加効果は書かれてるんだけど、それがいつまで続くがわからない。
「えっと、私の方は、街の外へ出て、戻ってくるか、別のセーフティエリアに入ると消えるみたいよ」
「俺もミサと同じだ」
「オレも」
「わたしは、五回調合したら消えるね」
「なるほど。じゃあ、戦闘に関係してくるものは、一度外に出て、戻ってくるとなくなって、生産系のスキルについては、回数制限があるってことかな」
「多分な」
うーん、そう考えると、結構強いのかなぁ……。
だって、一度外に出たら、次のセーフティエリアに入るまで続くってことでしょ? だったら、回復アイテムを大量に買い込んで、ボクが作った料理を食べれば、セーフティエリアに入らない限り、ずっと続くってことだし……。
大丈夫なの? これ。
「でもこれ、一度食べたら、効果が消えるまでずっと続くみたいね」
「えっと、そうなると、くじ引きみたいにはできない、ってことかな?」
「そうね。ログアウトしても、消えるみたいだけど」
「じゃあ、いくら料理を頼んでも、書けられるバフは一個なんだね」
それなら、まだマシかも。
一度だけしかかからず、しかもくじ引きみたいにできないわけだし……。
「そうすると、いくらくらいがいいのかなぁ」
「そうね……洋服屋も同時に経営するんでしょ?」
「うん。そうすると、どういう風に経営すればいいかなーって」
一階が料理屋さんで、二階が洋服屋さんに分かれているから、どういう風にすれば、上手く経営できるかわからない。
「ならば、このわたしがアドバイスをしてあげよう!」
ボクの悩みに答えると言ってくれたのは、ヤオイだ。
「いいの?」
「もち! わたしは、メイド喫茶を経営してるからね! だから、多少なら教えられるよー」
「ありがとう、ヤオイ!」
「いいってことさー。それで、二つ経営するってことだけど、まずは――」
と、ヤオイのお店経営のレクチャーが始まった。
まず、料理の値段は、材料費などから換算することになった。
でも、実際そこまでお金はかかってないし、お金に余裕はある。
なので、安めでいいかなと思ってることを言うと、
「んー、それなら、少なくとも300~500くらいの利益が出ればいいね」
と言うことになった。
その結果、さっき出した六品にはそれぞれ、肉じゃがが600テリル、サルケ(鮭のような魚)の幽庵焼きが750テリル、エビチリが800テリル、麻婆豆腐が550テリル、ハンバーグが900テリル、シーザーサラダが450テリルとなった。
まだこの六品しかないけど、今後増やしていくつもりです。
ちなみに、ご飯かパンかで選べるようにしました。
そっちは、別途100テリルにしました。おかわりは無料です。
次に、営業時間。基本的な営業は、ログインした時。その際、ログインしてから、1~二時間くらいが営業時間になりそう。
その間、料理ではなく洋服の方にお客さんが来た場合は、注文を受け付けて、後日引き取り、という感じになった。
ちなみに、材料に関しては、向こうから持ってきてもらう形になります。
なので、ボクが布などの用意をする必要はなく、お客さんが布を購入、それからボクに渡して、ボクが衣装作成、という感じになる。
値段は……一律、1000テリル。ボクが布を手に入れたわけじゃないしね。
それに、もしも貴重な布だった場合で、それを購入して手に入れていた場合は、さらに出費がかさむことになっちゃうからね。それは避けたい。
ちなみに、【裁縫】で作れるのは、割とランダム。
布の数に応じて完成するものが違うようです。
うーん、結構高めの布を買ったから、あんな変なスキルが付いちゃったのかな? それとも、【裁縫】のレベルが10だったから?
どっちだろう?
布の一つなら、小物系のアクセサリー。
布三つ以上なら、エプロンのような大き目のアクセサリー
そして、布五つ以上で洋服、と言った具合です。
布が多ければ多いほど、いいものが作れるようです。
ちなみに、一階と二階、どういう分け方になっているのか確認したら、料理は一回でしか作れず、洋服などは二階でしか作れない、というシステムでした。ちょっと面倒くさいような……?
それから、洋服屋さんに関しては、営業日に先着四名という制限を設けた。さすがに、難しいからね……いくつも注文を受けるのは。一個作るのに、30分かかるし。
それに、ボクが遊んだりする時間を考えたら、ね?
「――こんな感じかなー?」
「そうだね。ありがとう、ヤオイ。助かったよ」
「もし、他にも教えてほしいことがあれば言ってねー」
「うん。そうさせてもらうね」
この件に関しては、本当に助かったよ。
だって、その辺りの知識はボクにはないもん。
……その前に、かなり早い段階からお店の経営をしていたヤオイがおかしいんだけどね。
「じゃあとは、メニューに料理を書き込んで、外に出す用の看板を用意するだけかな?」
「そうだねー」
「すごいな、二日目でもう形になるのか」
「これが、異世界チートか……」
「う、うーん、お金はそうだけど、【料理】と【裁縫】に関しては、普段からの生活が原因のような……?」
普段から家事をしてるから。小学生の時から。
「なるほど。家事万能だから、ゲームでも家事万能ってわけか……」
「ば、万能かはわからないけど、多分」
少なくとも、現実でできることは、こっちでもできるみたいだしね、ボク。
「それじゃ、私たちも手伝うから、完成させちゃいましょうか」
「え、いいの?」
「もちろん。そうよね?」
「当然!」
「あたぼうよ!」
「ユキの頼みなら断ることはないよ」
「あ、ありがとう~。それじゃあ、もう少しだから頑張ろう!」
「「「「おー!」」」」
それから一時間ほどで、お店は完成した。
開業は、今日の夜7時からにすることにした。
お客さん、入るかなぁ。
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