第158話 何でもない、クリスマス
後日。
今日はクリスマスです。
特にこれと言ってやることもなく、家で家事をしています。
クリスマスだから何かある、というわけではないです。
クリスマスは、イエスキリストの降誕祭だからね。別に、恋人同士の人たちが、イチャイチャする、という日ではないわけだけど……まあ、日本だからね。
日本人は、変なところでイベントを捻じ曲げちゃうわけで。
まあ、それはそれとして……
「はぁ……休めるぅ……」
ある程度の家事を終え、ソファーに沈み込む。
ちなみに、体は元に戻っています。
日を跨いだら戻るんじゃなくて、寝たら戻るようです。
と言っても、お昼寝じゃ戻らないんだけどね。
「昨日は疲れたよ……」
外で、八百三十九人分のプレゼントを配っていたわけだしね……。
今日がクリスマスと言っても、ボクからしたら冬休みでしかない。
休める時に休む。これ大事です。
「んーぅ、動きたくないぃ……」
今日は、ボク以外みんな出ています。
母さんと父さんは、普通に仕事。師匠も師匠で、やることがある、と言って外に出て行った。
つまり、今日もボク一人というわけです。
いいね、家に一人。
こういう時くらい、ゆっくり休みたい……。
と、ダラーっとしている時、
ピンポーン♪
家のインターホンが鳴った。
「んー、なんだろう……?」
少し気怠く感じつつも、玄関へ向かう。
玄関にたどり着き、ドアを開けると、
『あ、三長谷急便です。男女依桜さんでしょうか?』
「そうです」
そこには、三長谷急便と名乗る男の人が。
後ろを覗くと、何やら大きなダンボールがいくつか。
『こちら、董乃叡子様からのお荷物です。サインをお願いします』
「あ、わかりました」
渡された紙に、サインを書き、返却。
『ありがとうございました』
軽く会釈をして、男の人は去っていった。
それにしても……学園長先生から?
「とりあえず、リビングに運ぼう」
大きなダンボールを持って、中へ運んだ。
「えーっと、これは何だろう?」
運び終えたダンボールを見て呟く。
少なくとも、クリスマスプレゼントってわけではないはず。昨日すでにもらったし……。
となると、これは何?
とりあえず開けてみよう。
カッターを生成し、ダンボールを開けると、
「あ、『New Era』だ」
そこには、体育祭との時に見た、『New Era』が入っていた。
そう言えば、来週届く、って学園長先生が言ってたっけ。
ボク、直接聞いたのに、なんで忘れてたんだろう?
「うーん、今のうちに色々と設定しておいたほうがいいかな?」
元日には、みんなでゲームをすることになってるし。
さすがに、ギリギリになってやって、時間に遅れちゃったら、みんなに迷惑をかけちゃうしね。
「じゃあ、今のうちにやっちゃおう」
現在使用しているPCを一旦床に置き、PCが置いてあったところに『New Era』を設置。
今まで使っていたPCはどうしよう? まだ全然使えるし……これ、どうしよう。
一応、こまめに手入れはしてるし、システムの方も問題なし。
これと言って不具合もなかったから、捨てるのもさすがにもったいない。
「うーん……とりあえず、ダンボールに入れておこうか」
結局、ダンボールに入れておくことにした。
ボクの部屋はそこまで広くないからね。
と、ダンボールに入れようとしたところで、ふと思いつく。
「これ、『アイテムボックス』内の家に置いておいた方がいいかも?」
あの家には、必要最小限の家具や設備が整ってはいたけど、PCの方はなかったはずだし。
うん。どうせなら、向こうにも置いておこう。
というわけで、『アイテムボックス』内の家に行き、PCを設置。
設定にちょっと戸惑って、時間が少しか買ったけどまあ大丈夫だよね。
念のため、インターネットがつながるかどうか確認したところ、問題なく接続できた。それどころか、普段ボクが使用しているWi-Fiとはまったく違う所だったのが気になったけど……。
まあ、異空間の中に家があったりする時点で、色々とおかしいんだけどね。
「うん、これで設定その他諸々は終わりかな?」
そう言えば、『New Era』と一緒に、ゲームも付いてきてたけど、よかったのかな?
多分、学園長先生が善意でくれたもの、だよね、これ。
ほかのみんなはどうなんだろう?
ボクの所の届いたってことは、みんなの所にもいっているはずだよね。
「クリスマスに合わせるとは思わなかったけど」
これも、プレゼント、みたいな感じに思ってるのかな、学園長先生は。
「……ある意味、ボクたちだけの特別なプレゼントともとれるね」
なにせ、まだ発売前……どころか、発表前だったり。
たしか、発表は十二月の二十八日だったかな?
予約はたしか、十二月三十日と、三十一日の二日間、って学園長先生が言ってた。
その上、時間は公表せず、ゲリラ的に行うとか。
と言っても、抽選らしいけどね。
先着順じゃなくて、抽選にした理由を訊いたら、
『ほら、今の世の中、転売ヤーとかいるでしょ? ああいうのは、売れそうだと思ったら大量に買うのよ。だから、真に欲しい人とかに回らない。だから抽選なの。……ま、これ抽選じゃないんだけどね。実を言うと、抽選した人が、転売ヤーか否かがわかるよう、システムを組んであるの。……まあ、ハッキングにちょっと近いかもしれないけど、その辺りの情報を手に入れることにしか使ってないからOKよ』
って返されました。
……企業がそんなことをしていいのかな? と思ってしまったけど、対策なら仕方がないとも思ってしまった。
正攻法で行っても、無駄だと言うのはよくわかる。
転売ヤーの人たちって、アカウントを複数持ってそうだもん。
学園長先生が言うには、抽選をした際、逆にウイルスに近いものを送り込み、何らかの形で同じものを大量購入していないか、ということを調べ、フリマアプリやネットオークションなどに出品した形跡がないかを調べるとのこと。
それでもし、全く同じ商品を、ほとんど同じ日、時期に買っていて、尚且つフリマアプリ、ネットオークションに相場よりも高額で売買していた場合は、転売ヤーと判断し、落選させるそうです。
もし、万が一複数端末を使っていた場合は、その周辺機器を調べ、情報を手に入れることで落としたりするそうです。
ちなみに、送り込んだウイルスもどきは、情報(転売に関するもののみ)を回収したら、企業側に戻るとのこと。
……いや、企業がウイルス系統のもの使っちゃだめだよね?
たしかに、それなら対策できるかもしれないけど……犯罪紛いのことで精査するのはいいのだろうか……。
……でも、こう言うのって、インターネット上で流れた場合、大多数の人は賛成的な意見をしてくるんだよね……。
向こうの世界でも、義賊の人たちなんかは、盗みを働いても、ほとんどは見逃されたり、応援されてたり、好意的な反応をされている場合が多かったし……。
この辺りは、本当に難しい考えだと思うよ。
結局、人はどんなに悪いことをしていたとしても、その中身が誰かのためだった場合、それを悪いことと見なくなっちゃうからね。
「ある意味では、正しいけど、常識的に見るのであれば犯罪な気がするけど」
まあでも、転売の方も購入価格よりも高額で売買していた場合は、普通に逮捕されることを考えたら、犯罪を犯罪で返しているような気がしないでもない……。
ある意味では、正攻法とも言えるかもしれないね、学園長先生の対策の仕方は。
情報を手に入れるにしても、転売関連の物ばかりで、個人情報にかかわる部分は取らないみたいだし。
「あ、そう言えば、学園ではすでに情報が流れていたけど、インターネット上に拡散されたのかな?」
現在、『New Era』の存在を知っているのは、体育祭二日目に学園に来ていた人だけで、それ以外の人は知らない。
まあ、放送で大々的に宣伝していたから、近隣の人たちに聞こえていたかもしれないけどね。
ともあれ、インターネット上でどうなっているのか調べてみる。
とりあえず、名前を入力し、検索。
「……ない、ね」
調べてみてもまったく引っかからない。
ためしに、VRMMOと変えて検索してみるも、引っかかるものはない。
どうやら、誰も情報を流していないみたい。
まあ、最先端ってことを考えると、流さないのが当たり前、か。
流してしまったら、手に入れられる確率が高くなるわけだし……。
「うーん、ある意味卑怯な気が……」
何の苦労もなく……いや、苦労はしたかも。
そもそも、ボクと晶の場合、ミス・ミスターコンテストの景品なわけだし。
……そう考えたら、未果と女委、態徒はかなりラッキーということだよね? だってあれ、ボクが体育祭で酷い目に遭ったが故のものなわけだし……。
まあいいけどね。みんなでゲームができるから。
「そろそろ、下に戻ろうかな。ちょっと疲れちゃった」
なんだかんだで、部屋でずっと考え事をしていたような気分だよ。
リビングに戻り、再びソファーに沈み込むように座る。
ぼんやりとテレビを見ていると、
ピンポーン♪
再びインターホンが鳴った。
「今度は何だろう……?」
再び立ち上がって、玄関へ。
玄関を開けると……
「「「「メリークリスマス! 依桜!」」」」
「あ、あれ? みんな?」
何やら、荷物を持った未果たちだった。
「どうしたの、突然?」
とりあえず中に入ってもらい、どうして家に来たのか尋ねる。
「いやなに、今日はクリスマスだからな。どうせなら、軽くパーティーもどきでも、ってな」
「と言っても、私たちの場合は、依桜の誕生日会をやったばかりだから、本当に軽くだけどね」
「ってーわけで、依桜の家に押しかけたってわけよ!」
「迷惑だった?」
「ううん、そんなことはないよ。たまには休みたいなぁ、と思ってソファーでぐでーっとしてただけだから」
「たまには休みたい、って言葉、働きづめの社会人みたいね」
「依桜の場合、ほとんどそんなもんだろう」
「あはは……」
おっしゃる通りで。
ボクの場合、まだ高校生だと言うのに、かなり動き回っている気がするよ……。
そもそも、学園長先生の人使いが荒いよ。
「あ、依桜、テレビのチャンネル変えてもいいかしら?」
「いいよ。ぼーっと眺めてただけだし」
「ありがと」
一言お礼を言ってから、未果がチャンネルを回し始める。
さすがにクリスマスなだけあって、どこのチャンネルもそれに準じた番組が多い。
ポチポチと未果がチャンネルを回していると……
「あら、これって……」
未果がとある番組で回すのを止めた。
どうやら、クリスマスイブとクリスマスに遭った出来事を見ていく番組の様だけど……。
『続いては、こちら! 昨夜夜九時以降に突如として出没した、小さなサンタクロースです』
…………うん?
テレビから聞こえてきた見出しに、思わず固まる。
『これはですね、昨夜のとある投稿から始まりました。内容を要約しますと、無人だったはずの自室に、プレゼントが置かれていた、という投稿です』
『いやいや、さすがに親なんじゃないの?』
『それが、机の上に堂々と置かれていて、投稿者は家族と話していたそうです。つまり、本当に無人だった時に置かれた、とのことのようです』
『ほんとですか? 正直、噓くさいな』
『これだけではありません。この投稿の後、急激に似たような投稿がなされ、さらには、サンタクロースの格好の耳と尻尾が付いた小さな女の子が、様々な地域で目撃されていたようです』
『そんなまさか。他人の空似とかでは?』
『ではここで、その写真を出します』
と、司会のお姉さんがモニターに映し出した写真は……ボクでした。
バッ、とみんながボクを見てきた。
『こちらの少女に対して、『可愛い!』『天使みたい!』『本物のサンタクロース!』『会ってみたい!』などのコメントが付いたらしく、さらには写真を見たほかの人が、拡散し、気が付けばSNS上でバズっていたようです』
『ええ? これ、九時以降なんですよね? そんな時間にバズるとか、すごいなぁ』
『実は、この少女に接触した警察官がおりまして、その人が話しかけると、少女は困った表情を浮かべながら、慌てて消えたとのことです』
『消えた。随分不思議な少女なんですね』
『そうなんです。この少女、SNS上では『ケモロリサンタ』と呼ばれ、崇められているようです』
「…………」
ボク、呆然。
え、ちょっと待って? もしかして、昨日動き回っていた姿……写真に撮られていたの? ほんとに?
……ど、どうしよう!
「あー、依桜? これは、依桜なのか?」
「そ、それは、その……」
眉をしかめながら、晶がボクに尋ねてくる。
正直、どう答えていいかわからないボクは、何とも言えない反応に。
「依桜、もしかしてだけど……私以外の家にも行ってたりする?」
「うっ」
「私以外……? ねえ、未果ちゃん。もしかして、夜中に依桜君に会ってるの?」
「ええ。もしかして、女委も?」
「うん。眠ってたら、美少女の気配がして、跳び起きたら、サンタコスの依桜君がいたよ」
「ってことは、あれか? 依桜は昨日、サンタ的な行為をしていたのか?」
「そ、そうです……」
言い逃れができそうにないので、認めるしかなくなってしまった。
うぅ……。
「そういやオレ、朝起きたら、机の上にプレゼントと一緒に、綺麗な字で、『部屋が汚いです。ちょっとは掃除してね。サンタクロースより』って書いてあったんだけどよ、あれって依桜か?」
「「「ぶっ!」」」
三人が噴き出した。
「ちょっ、笑うなよ!?」
「い、いえ、だ、だってっ……ぷっ」
「ぷ、プレゼントと一緒に、そんなことが書かれていればっ……」
「あっははははは! 態徒君、お部屋が汚いってっ……さ、サンタさんに言われるなんてっ……ぷふっ」
「い、依桜、なんであんなこと書いたんだよ!?」
「だ、だって、本当に散らかってたんだもん」
さすがにゴミは落ちていなかったけど、教科書とかノート、あとはマンガやライトノベルなど、様々なものが散乱していて、ちょっと困ったもん。
足場がない、なんてことはさすがになかったけど。
「態徒、年内には掃除したほうがいいわよ」
「わ、わかってるわい! くっそぉ、こんなことなら、掃除しとくんだったぜ……」
「こまめに掃除しておけば後々困らないよ? これを機に、こまめにしようね」
「お、おう……」
「……しかしまあ、まさか依桜がサンタクロースとはな」
「ま、まあその、色々ありまして……」
「ふーん? じゃあ、何があったの訊いてもいいかしら?」
「え、えっと、実は……」
ボクは、昨日のサンタさんの一件を話した。
「って言うことなんだけど……」
「なるほどなぁ。学園長、とんでもねえな」
「まあ、VRゲームを作るくらいだからね。当然と言えば、当然かしらね? もっとも、生徒全員分のプレゼントを用意するとは思わなかったけど」
「それはボクもだよ」
だって、八百四十人分のプレゼントだよ? 正気の沙汰じゃないよ。
そう言えば、ボクが貰った圧力鍋、数万円するんだけど……。
もしかして、ボクのが一番高かったんじゃないだろうか?
「んでもよ、まーた依桜が有名になったなぁ。つっても、今回は依桜だとバレてないわけだが」
そう言いながら、態徒がテレビに視線を向ける。
『いやぁ、俺もこんな可愛いサンタにプレゼントを送ってもらいたいわ』
『ちなみにですが、この正体不明のケモロリサンタは、不特定多数の人にプレゼントを配っていたようで、貰った人すべてが、欲しいものだったとのことで、かなり感謝されているようです』
『へぇ、そりゃすごい。本当にサンタっているんだなぁ。俺のとこにも、ケモロリサンタさん来ないかねぇ』
「だ、そうですよ? ケモロリサンタさん?」
「や、やめてよぉ、すっごく恥ずかしいんだからぁ……」
まさか、こんな変なあだ名がまたつくなんて思ってなかったもん……。
「まあ、それはいいとしてよー、実際何貰ったんだ?」
「私は、前々から欲しかったマンガの全巻セットね」
「俺は、ヘッドホンだな。しかも、一万以上するいいやつだ」
「わたしは、大好きなBL作家さんのサイン入り色紙!」
「オレは、エロゲだったなぁ」
と、みんな娯楽に関係するものが多いみたい。
……というか、エロゲ?
「えっと、エロゲ? って、どういうゲームなの?」
名前は聞いたことがあるような気はするんだけど、中身は全く知らない。どういったものなのかな?
と、ボクが何気なく尋ねたら、
「「「「えっ!?」」」」
なぜか、みんなが慌てだした。
ど、どうしたんだろう? ボク、変なことを訊いたのかな……?
「あ、ああああれだよ! え、っとだな……れ、恋愛ゲームだ!」
「そうなんだ。恋愛ゲームかぁ……ちょっと気になるし、面白そう。態徒、今度貸してほしいな」
「いやいやいや!? や、止めておいたほうがいいぞ!?」
「え、でも、恋愛ゲームって……」
「れ、恋愛ゲームは恋愛ゲームでも、ホラー要素もあるんだ!」
「そ、そうなの?」
「おう! 怖いぞー! 紙の長い女が出てきて、主人公たちに襲い掛かるんだ!」
「え!? そ、それは……怖い……」
「だ、だろ? だからやめといたほうがいいぞ?」
「うん、怖いゲームならやめておくよ……」
ちょっと残念だけど、ホラーゲームなら仕方ない……ボク、怖いの無理だし……。
「「「「ほっ……」」」」
あれ、なんかみんながほっとしてる? なんで?
「ところで、依桜君は何をもらったの?」
「ボク? ボクは、最新の圧力鍋だよ?」
「「「「依桜さん、マジパネェっす」」」」
「ど、どうしたの? 普通だと思うんだけど……」
「普通の女子高生は、クリスマスプレゼントに、圧力鍋なんて欲しがらねぇよ」
「そうね。普通は、ゲームとかマンガとか、ライトノベルとか、そういう物な気がするんだけど」
「そうなの? でも、PCは貰ったし、特に欲しいマンガとかもなかったし……。それに、最近圧力鍋がダメになっちゃって、欲しかったんだよね。あれがあれば、もっと美味しいものが作れるから!」
((((女子力の塊すぎる))))
そう言えば、いい圧力鍋が手に入ったし、今日の夜ご飯はビーフシチューにしようかな? 今日は寒いし、この後雪が降る、みたいなこと言ってたし。
「みんなは今日の夜ご飯はどうするの? もしよかったら、ご馳走するけど」
「マジで? なら頼むわ!」
「私もご相伴にあずかろうかしら? 依桜の料理は美味しいし」
「俺も、迷惑でなければご馳走になるよ」
「わたしもわたしも! 美少女の料理は大歓迎!」
「うん。じゃあ、今日はみんなの分も作るね」
結局パーティーみたいになってしまったような気がしてます。
まあいいけどね。みんなといるのは楽しいから。
そして、必要なものを買い出しに行き、料理を作っている途中で、母さんと父さんが帰って来た。
そしてその流れでクリスマスパーティーとなった。
と言っても、急遽そうなったから、ボクの誕生日会の時ほど派手じゃなく、ささやかなものとなったけど。
それでも、楽しい時間になったよ。
食事も終わり、流れでみんながボクの家に泊まることになった。
母さんが、
「もう遅いし、泊まっていきなさい」
って言ったから。
最初は遠慮していたけど、雪が降り出し、それも少し吹雪いてきたこともあって、お泊り会のようになりました。
ちなみに、せっかくなので、みんな同じ部屋で寝ることになった。
場所は、客間です。
「まさか、泊まることになるとは思わなかったぜ」
「私も。でも、こう言うのいいわね。私、好きよ」
「そうだな。……だが、男女同じ部屋で寝るが、いいのか? 依桜たちは」
「わたしは問題なし! 態徒君はヘタレだし、晶君は真面目だからね!」
「私も問題ないわよ。気心知れた仲だしね」
「ボクも。と言っても、ボクは元々男だから、そこまで気にしないよ。……まあ、晶と態徒限定かもしれないけど」
正直、この二人以外と一緒の部屋で寝れるか、と訊かれれば、ちょっと反応に困る。
多分、無理かな。
「それもそうか」
この後は、他愛のない話をした。
そして、少し話したころ。
「あ、みんなにお願いがあるんだけど、いいかな?」
女委が唐突に、お願いがあると切り出した。
「どうしたの?」
「うん、依桜君には前に言ったけど、正式に日にちが決まってね。十二月三十日にお手伝いを頼みたいなーって」
「あ、そう言えば言ってたね。うん、その日は何もないからいいよ」
と、ボクが何気なく了承している横で、未果、晶、態徒の三人は微妙な表情をしていた。
「……なあ、女委。俺は訊きたいんだが、それってまさか……ふゆ――」
「お手伝いです」
「女委、あなたが言っているのって、ふ――」
「お手伝いです」
「いや、あれだろ? ふゆ――」
「お手伝いです!」
「「「ア、ハイ」」」
うん? どうしたんだろう? 三人の様子がおかしい。
それに、女委も何かを隠そうとしているような……?
「じゃあ、みんなOKってことでいいかなー?」
「ボクは大丈夫だよ」
「……私も、依桜が心配だから行くわ」
「……右に同じく」
「まあ、オレは、行ってみたかったし、OKだ」
「ありがとう! じゃあ、三十日だけじゃなくて、前日の二十九日も空けといてね! 泊りになるから!」
さも当然のようにそう言ってきた。
「え、泊まりなの?」
「うん。あ、安心して、ホテル代はわたしが出すから!」
「いいの?」
「うん! どの道、三十日には稼がせてもらいますからね!」
「稼ぐ?」
なんだが、すごく気になる単語だけど……何か売りに行くのかな?
まあでも、女委の頼みだしね。快く引き受けよう。
……そう言えば、何をするんだろう?
「ねえ、女委。ボクは何をすればいいの?」
「それは、前日に教えるよ!」
「そうなの? わかったよ」
お楽しみ、ってことなのかな? それなら、無理に訊かない方がいいよね。
「……オレ、依桜が騙されているようにしか見えねぇ」
「……奇遇ね。私もよ」
「……俺は、依桜の将来が心配だ」
というような短い会話が三人で行われていたけど、ボクは気付かなかった。
そして、女委の言うお手伝いの意味も、この時のボクは気付かなかった。
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