第159話 依桜ちゃんと冬〇ミ1

 十二月二十九日。


 ボクは、二泊分の荷物を持って、駅前に来ていた。


 女委が指定した集合時間は、午前十時。

 クリスマスの時には、二十九と三十と言っていたけど、当日の疲れのことも考えると、帰るのは三十一日の方がいいということになり、二泊三日になりました。

 帰りの荷物に関しては、女委が色々と手配してくれたらしく、業者を使って自宅に送り届けてくれることとなった。

 その代わり、行きは自分で、となったけどね。


「えっと、そろそろ九時半」


 今日は特に体が縮むこともなく、何とか無事に平常通りの姿でこれた。

 あ、ボクが三十分前以上に来ているのはいつものことです。


「おはよう、依桜。相変わらず、早いわね」

「おはよー、未果。早いに越したことはないでしょ?」


 九時半になるのと同じくらいのタイミングで、未果がスーツケースを転がしながら来た。


「それに、ボクのことを早いって言うけど、未果も十分早いよ。だって、まだ三十分前だよ?」

「ま、それもそうね」

「ところで依桜。荷物が少ないみたいだけど……」


 未果が、ボクの手荷物が少ないことに対して、指摘をしてきた。

 現在、ボクが持っているのは、肩掛けカバンだけです。


「あ、大丈夫だよ。着替えとか持ってるから」

「そう言う風には見えないけど……」


 そう言えば、未果たちには『アイテムボックス』のことを言ってなかった気が……。


「えっとね、新しい魔法があってね。『アイテムボックス』って言うんだけど……そこに大きい荷物とかは入れてるから大丈夫なんだ」

「へぇ~。便利ね」

「うん。ボクとしても、最近はかなり重宝してるよ。と言っても、公衆の面前では使えないけどね。何もないところから、物を出しているわけだから」

「でしょうね。というか、そんなものがあるなら、盗みもし放題になるわね」

「しないよ!?」

「ふふっ、わかってるわよ」

「もぉ……」


 それはボクも考えてたんだから。

 誰もが知っているように、今の時代のお店には、商品の万引きを防ぐために、センサーが鳴るようになっている。

 だから、例えカバンの中に商品を入れたとしても、すぐにバレちゃうわけです。


 でも、ボクの場合、『アイテムボックス』があるため、本当に盗み放題になってしまうというわけですね。


 もちろん、やりませんよ? いいことなんて、何一つないですからね。そもそも、犯罪です。


 ……それに、ボクの場合は、欲しいと思ったら、魔力を使って生成できちゃうので、万引きより質が悪い気がします。


「おはよう。二人とも、早いな」

「晶、おはよー」

「おはよう、晶」


 ボクと未果が話していると、晶が到着。

 晶はスーツケースではなく、旅行カバンだ。


「いつも思うんだが、二人はどれくらいに来ているんだ?」

「私は、三十分前くらいかしらね?」

「ボクは未果よりも前だよ」

「それは早すぎじゃないか? 学園じゃ、俺と未果の方が早いんだがな」

「うーん、あれは日常生活の中のことだからね。今日みたいに、待ち合わせ時間がある場合は、早めに来ないと」


 万が一、電車を間違えた、道に迷った、なんてことがあったら困るからね。

 もっとも、今はほとんど困らないんだけど。

 上から見れば一発だからね。


「昔から、待ち合わせ時間がある時だけは、依桜は早かったからね。まあ、普段も早い方だけど」

「だって、待たせるのも悪いし……」

「うーん、あんまり早すぎても、後から来た人が申し訳なく思うんだよな……」

「そうね。待ち合わせ時間には余裕があるのに、もう来ていた場合『あれ? まだ時間あるよな? え? 間違えた?』って焦るもの」

「うーん、じゃあ今度から、ちょっと遅めに来ようかな?」

「そうね。どんなに早くても、十分~二十分くらいじゃないかしら?」

「まあ、その辺りが妥当だろうな」

「わかった。じゃあ今度からは少しだけ遅らせるね」


 そっか、早すぎてもダメだったんだ。

 早いほうがいいかなと思ってたんだけど、逆に向こうが焦っちゃうようなら仕方ないよね。

 今度から少し遅らせよう。


「おっはー」

「おーっす」


 ここで、女委と態徒が到着。

 それぞれ、旅行用のスーツケースにカバンを持っている。


「みんな早いねぇ。まだ、集合時間まで、十分くらいあるのに」

「早くても問題はないでしょ。というか、態徒が珍しく十分前に来ていることにびっくりよ。大体、五分前か、ギリギリに来るのに」

「いやぁ、オレだって、たまには早く来ようかなーってよ」

「ふーん? で、実際は?」

「女委に電話でたたき起こされた」

「まあ、今回は女委の頼みだから、さすがに遅れるわけにはいかないものね。まして、これから行く場所が、東京だから」

「まあねん」


 そう。これから、ボクたちが向かうのは東京。


 女委曰く、場所は東京ビッグサイト。つまり、江東区の有明にある場所に向かうそうなんだけど、今日行くのはそっちじゃなくて、秋葉原だそう。

 あと、ホテルの場所も秋葉原だって。


 ホテルの部屋割りは、ボクと未果、女委の女の子三人と、晶と態徒の男子二人となってます。

 個人的には、元男ということもあって、二人と同じ部屋が良かったんだけど……


「「絶対ダメ!」」


 と、全力却下をもらい、未果と女委の部屋になってしまった。


 ボクが、晶と態徒の部屋がいい、と言ったのには、もう一つ理由があって……例の、ボクの家と、未果たちとで旅行に行った時のことです。※37件目参照


 あの時は、チョコレートの媚薬効果と、アルコールのせいで、ボクが酷い目に遭った。

 さすがにもうないとは思うけど、絶対にないとは言い切れない。

 だからこそ、ボクは二人の部屋がよかったんだけどね……。

 そう言えば、媚薬、って言うけど、結局どういった用途で使われるんだろう?

 そもそも、催淫と言うのもよくわからないし……。

 ただ、意味だけ調べた、って感じだったから、細かいことはよくわからなかったり。


 少なくとも、毒耐性を得られたきっかけとなったことを考えると、あまり体によくなかったりするのかな?


「ちょっと早いけど、出発しよっか!」

「「「「おー」」」」


 少し早い時間帯ではある物の、その分観光できるとあって、みんなに異存はなかった。

 ボクとしても、東京に行くのは久しぶりだから、ちょっと楽しみ。

 秋葉原だと……ボクの場合、ゲームセンターに行くくらいかな?

 可愛いぬいぐるみとかあると嬉しい。



 そんなわけで、電車に揺られること、二時間弱。

 秋葉原に到着。


 今日は平日ということもあり、そこまで混んでいなかった。

 幸いにも、ボクたちが住んでいる美天市は、都会というわけではなかったため、電車は空いていた。

 そのおかげで、五人とも座って移動できました。


 と言ってもボクの場合、電車に乗っていたら、途中の駅で年寄りのおばあさんが乗ってきたので、席を譲って、立ってたけどね。


 秋葉原まで残り一時間以上はあったけど、そこは異世界で死に目に遭いつつ(実際に何度も死んでます)も鍛えられたボク。


 一時間立ったままなんて、師匠が課した、全く動かずユドラム火山の火口で二十四時間立ちっぱなしに比べれば、可愛いものです。

 その時、おばあさんが笑顔で、ありがとう、と言われた時はちょっと嬉しかった。

 年寄りには優しくしないといけないからね。

 ……今の世の中、優先席と書かれているのに、譲らない人も多いから。


 そう言えば、電車内でやけに視線を感じたんだけど、あれは何だったんだろう? 最近、電車に乗っていると、よく感じるんだよね。いや、電車以外でもしょっちゅう感じるけど。


 と、そんなことがありつつも、秋葉原に到着したボクたちは、女委が予約を入れたホテルへ。

 そこに行ったボクたち(女委以外)は、


((((え、高そうなんだけど、大丈夫?))))


 だった。


 本当に高そうだったんです、ホテル。

 何と言うか、高級感があると言うか……正直、ボクたち場違いなんじゃないか、とも思いました。


 まあ、ボクは向こうの世界でお城に一時期住んでいたから、そこまで緊張はしていないけど、ほかのみんなはそうじゃない。

 未果、晶、態徒なんかは、慣れていないはずだし。


 最初、あまり好意的な視線は感じなかったものの、ボクが荷物を渡すと、なぜかホテルマンの人がびっくりした表情をした。なんで?

 それからは、なぜか好意的……というか、歓迎的な視線を向けられるようになった。


 荷物を預けてから、ボクたちは秋葉原を歩き回ることにした。


「いやぁ、みんな秋葉に来れるなんて、サイコーだよ!」

「だな! オレも、このメンバーで行ってみたかったんだよなー」

「俺は、少なくともこのメンバーでどこか行ければいいな」

「同じく」

「ボクもかな」


 この通り、中学生組と、幼馴染組みで、見事に反応が分かれた。

 うん。どういうタイプで固まっているのか、よくわかるね。


「極論を言うとそうだけどさー、一端のオタク的には、友達と行きたいものなんですよ」

「それは同感だ!」

「ボクたちは、遊べるならどこでもいい、みたいなところがあるからね。今回みたいに、あらかじめ行きたいところが決まってる場合って、割と珍しいしね」

「でしょでしょ? だから、嬉しいんだー、わたし」


 本当に嬉しそうな表情を浮かべながら、女委がそう言う。

 気持ちはわからないでもない。

 ボクだって、みんなとこうしてどこか遠出して、遊ぶのは嬉しいし楽しい。


「てなわけで、まずはどこ行く?」

「とりあえず、行きたいところ出していくか」

「私は特にないわ」

「俺もだな」

「ボクも。強いて言うなら、ゲームセンターくらいかな?」

「オレはやっぱ、トレードーだな! あそこ、ゲームが安いんだ」

「わたしは、アニマイト」

「見事にバラバラね。まあ、とりあえずは、ゲームセンターから行きましょうか。依桜の希望だし」

「いや、ボクは最後でもいいよ? どうしても行きたい、ってわけじゃないし……」


 というか、ここに来たのは、女委の希望なわけだし、こういうのは、女委が優先だと思うんだけど。


「いいよいいよ! まずはゲームセンター行こ!」

「いいの?」

「もちろん! どの道、依桜君にはかなり無理を強いちゃうかもしれないからね!」

「無理?」

「あ、ううん、なんでもないよ! さ、行こ行こ!」

「う、うん」


 うーん? どういうことなんだろう?


 無理を強いるって言ってたけど……何かあるのかな?

 ただ、女委のお手伝いをするだけだと思うんだけど……。


 なんとなく、他の三人を見たら、苦々し気な表情をしていた。

 あれ、何かあったのかな?



 女委の言動や、みんなの表情が気になったものの、ゲームセンターに到着。

 最初は、クレーンゲームをすることに。

 態徒と女委は、アニメ系に挑戦。


「くそっ! 今めっちゃいいとこだったのに!」


 こんな風に、いいところまで行ったんだけど、獲れない位置に転がっていく、という状況になってしまい、態徒が悔しがる。

 うん。クレーンゲームってそうなると、結構悔しいよね。


「あ、獲れた! ラッキー♪」


 女委は、見事フィギュアを獲っていた。

 何気に、女委ってクレーンゲームが上手いんだよね。


「じゃあ、ボクもやろうかな」


 と、ボクも挑戦。


 ゲームセンターに来て、ボクがやるのは、大体がクレーンゲーム、もしくは音楽ゲーム。

 でも、中学生くらいになると、カードダス系のゲームってあまりやらないイメージ強いように思える。

 ボクも、昔はよくやったものです。

 それはさておき、ボクが狙うのは、ウサギのぬいぐるみ。


「依桜が挑戦するのね。……ウサギのぬいぐるみとは、これまた似合いすぎる景品ね」

「だ、だって可愛いし……」


 可愛いものが好きなのは昔からだし、今さらだもん。


「頑張れよ」

「うん」


 まずは百円を投入。

 今回ボクがやるのは三本アームの筐体。

 こういうタイプって、台によってはアームが回転しちゃって、上手く獲れないんだよね。

 でも、比較的簡単に獲れる方だし、フィギュアに比べれば、まだ楽な方だよ。


「うーんと、この辺りかな?」


 ちょうどぬいぐるみの首元を掴める位置に移動させ、ボタンを押す。

 三本アーム型の特徴である、そこそこの速さでのアームの落下。

 落下したアームは、狙い通りにウサギのぬいぐるみの首を掴み持ち上げる。

 上に当たった時の衝撃で、大体は落下しちゃうんだけど、今回は落下しなかった。


「いい感じいい感じ……」


 ドキドキしながら、クレーンの行方を見守っていると……


「あ、落ちちゃった……」


 ぬいぐるみがクレーンから落下。

 ぬいぐるみは、奇跡的に落とし口の近くにあった、別のぬいぐるみの上に落下し、ちょっとぐらぐらさせつつも、とどまっている。

 さすがに一回じゃ無理だよね、と思いながら、再度百円を投入。


「これは獲れるんじゃね?」

「まあ、こんな重なり方をしてるわけだしな」


 落とし口の近くに落ちたのはラッキーだった。

 こういう時は、一本のアームを落とし口に行くようにして、二本のアームで掴むようにすれば、結構獲れたり。

 なので、今回もそれを使って獲ろうとしたら、まさかの二個掴み。

 そのままクレーンが持ち上がり、なんと、二つ同時ゲット。


「うわ、マジか。たった二回で、二つ手に入れるとか……どんだけ運いいんだよ、依桜」

「ボクもちょっとびっくり。……でも、すっごく嬉しいな。可愛いぬいぐるみを二つも獲れたわけだし♪」


 ボクは、嬉々として取り出し口から、ぬいぐるみを二つ取り出し、抱きかかえる。

 うん。可愛い!


「美少女がぬいぐるを抱きしめながらの笑顔……いいねぇ」

「び、美少女じゃないよぉ」

「……まだ否定してたのね」


 ボクが否定をしたら、未果が呆れていた。他のみんなも、同じようにしていました。

 なんで?



 あの後も、みんなでクレーンゲームを楽しんだ。


 今回は、運が良かったのか、かなりの景品を獲ってしまった。

 おかげで、ボクの手には、大量のぬいぐるみが。


 ちなみに、二千円で、二十五個獲れてしまいました。

 百円で一個どころか、たまに、二個獲ったりしちゃって、なんかもう……申し訳ない気分になりました。


 でも、ありがたく、もらって行きます。


「ふんふんふ~ん♪」


 可愛いぬいぐるみが増えるということで、嬉しくなって、つい鼻歌を歌ってしまう。


「依桜君、ご機嫌だねぇ」

「うん、ボクの部屋に可愛いぬいぐるみが増えるから、嬉しくてね」

「……オレ、最近、依桜が元々男だった、って思えなくなってきたわ」

「え、ど、どうして?」

「「「「え、自覚なし?」」」」

「???」


 ボク、元々男だったよね? そうだよね?

 それに、元男って言う部分、割とあると思うんだけど……。


「まあ、結局は依桜よね」


 なぜか、そんな結論が出されました。



 他のゲームセンターに行ったり、アニマイトに行ったり、トレードーに行ったりして、秋葉原を楽しんだ私たち。気が付けば、日も落ち切っていた。

 ちょうど近くにセイゼリヤがあったので、そこで夜ご飯となった。


「あ、ボクちょっとトイレ行ってくるね」

「いってらー」


 と、ここで依桜がトイレに行くため、席を立つ。


「……さて、依桜がいなくなったことだし……女委、あなた、依桜に何させようとしてるの?」


 依桜がいなくなったことを見計らって、私は明日のことを女委に尋ねる。


「やだなー、別に酷いことをさせようとはしてないよー?」


 私の問いに対し、すっとぼけたような反応をしてきた。


「……俺、コ〇ケとか、ほとんど知らなかったから調べたりしたんだが……明日は三日目らしいな?」

「うん、そーだねー」

「三日目は確か、男性創作向け、だったはずだ。それってつまりなんだが……」

「もち! エロパロですよ!」

「「やっぱりかっ……」」


 女委の言ったことに、私と晶の二人は頭を抱えた。

 態徒は、特に気にした様子はない。あとで〆る。


「あれ? 何かおかしかったかなー?」

「おかしいと言うか……十八禁だよな? 大丈夫なのか?」

「だいじょぶだいじょぶ! わたし、常連だから!」

「「全っ然! 大丈夫じゃないっ!」」

「そうかな? だって、わたしが書くのって、そういうのだしー?」

「よくないよくない! と言うか、依桜があんなにピュアなのに、よくやらせようと思ったわね」


 あんな、純度100%のピュア娘を十八禁の本が数多くあるエリアに行かせるとか、頭がおかしすぎる!


「まあまあ、幸いにも、わたしが今回書いたのって、男女の恋愛ものと、女の子同士のGLだからセーフセーフ!」

「セーフの意味、わかってるのか?」

「もちろんさ! まあ大丈夫だよ。今回、依桜君未果ちゃん、それからわたしはコスプレすることになってるから!」

「いや、それ大丈夫じゃない。というか、なんで私も巻き込まれてるの!?」

「え? 体育祭の時に言ったと思うんだけど……手伝ってもらう、って」

「言ってたけど!」


 だからと言って、なんでコスプレなんか……。


「第一、どんな服を用意したのよ。あんまりおかしなものとかだったら、許さないわよ」

「そう言うと思って、普通の巫女服だよ! ほら、学園祭の時に着た」

「……あー、あれね?」


 たしか、普通の巫女服。

 そこまでって言うほど変ではないし、別にいいけど……。


「まあ、今回はちょっと違う巫女服だけど、大丈夫だよ! 未果ちゃんのは、そこまで、露出は多くないから!」

「……まあ、それなら……って、ちょっと待って? 未果ちゃんの『は』?」


 『は』ってどういうことよ?

 まさかとは思うけど……。


「……女委、依桜の衣装は何だ?」


 私と同じ考えに至った晶が、女委に問い質すように尋ねた。


「メイド服だよ?」

「……ほんとに?」

「ほんとほんと! と言っても、とあるゲームに出てくる、銀髪巨乳キャラが着ていたメイド服だけど」

「……うわー、びっくりするくらい依桜に似たキャラね」

「ちなみに、結構初心なキャラで、恥ずかしがり屋。さらには、かなりの美少女なのに、可愛いと認めないキャラでもあります」

「依桜にそっくりすぎない?」

「そうそう。だから、そのキャラを見た時、『これだ!』って、びびっと来てね。だから、依桜君にはそれを着てもらおうかなーって」

「……まあ、メイド服なら問題ない、わね」

「そうだな。さすがに、そこまで露出が多いものじゃないだろう。下手をしたら、会場にいる男性参加者が死にかねないからな」

「ふふふー」


 まあ、とりあえず、変なものじゃない、ってことね。

 それならいいわ。


「ただいまー。あれ? みんな、何を話してたの?」

「気にしないでー。明日のことだよ」

「そうなんだ。それじゃあ、そろそろ行こっか」


 依桜が戻ってきたので、会計を済ませて、ホテルに戻った。



 ホテルに到着し、それぞれの部屋に入る。


「はぁ~~……疲れたわ……」


 部屋に戻ると、未果がため息を吐きながら、ベッドに倒れこんでいた。


「あはは、結構歩き回ったからね」

「そう言う依桜君は、全然疲れてなさそうだねー」

「ボクの場合は、体力が有り余ってるから」


 あれくらいの歩行距離じゃ、疲れなんてないですとも。

 と、そう思っていたら、ぐらりと、視界が揺れ、ボクもベッドに倒れこんでしまった。


「何よ、依桜も疲れてるんじゃないの」

「あ、あれ? そんなに疲れてないはず、なの、に……」


 ダメだ。眠い。すごく眠い。

 抗おうとしても、まったく抗えない睡魔が、ボクを襲っていた。


「依桜……じょ………い……」

「……くん…………ま…ま……ど……」


 二人が何か言っているような気がするけど、何を言っているのかさっぱりわからない。

 こ、この睡魔、は……変化、の、兆し……?


 また、小さく……。


 そう考えていたものの、視界がどんどんぼやけていき、気が付けば、ボクの意識は暗転してしまった。



 そして、翌日。


 眠りの世界から、現実へと意識が浮上。

 昨夜は確か、変化に現れる睡魔が原因で、眠ってしまったはず……。

 だというのに、服はちゃんと着ている感覚がある。

 脱げてしまっていることはないみたい。


 だから、ただ疲れて眠くなってしまった、という可能性もあるんだけど……頭とお尻辺りに感じる感覚で、その可能性はほぼ……というか、完全に0だと思う。


 ……あれ? もしかして、小さい姿に、耳と尻尾が付いた状態……?


 で、でも、服は脱げてないし……ま、まさか!


 急速に意識が浮上し、ボクは布団から飛び起き、備え付けられた姿見の前に立った。

 そこにいたボクは、いつもの姿と言えば、いつもの姿と言えるけど、それだけではなく……


「な、なななな…………なにこれ――――っっっ!?」


 これで、四度目の声を出していた。


 朝起きるとボクは、耳と尻尾が付いた、通常時の姿になっていた。

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