第160話 依桜ちゃんと冬〇ミ2
待って!? ちょっと待って!?
なんで、今になって追加効果が現れてるの!?
解呪に失敗したのって、二ヶ月くらい前だよ!? なのに、なんで、今になってこんなことになっちゃってるの!?
「ほ、本物?」
確認のため、耳と尻尾に触る。
「……あ、あったかい」
と言うか、触るまでもなく、微妙に動いてるし。
なんで、小さい時の状態の耳と尻尾(狼)が付いてるのかが、まったくもってわからない。
「こ、これ、どうすれば……」
あまりにも、突発的な事象のせいで、頭を悩ませる。
今日は、女委のお手伝いがあるのに……。
「ん……騒がしいわね……依桜? どうした……の!?」
「くっ、ふぁあぁぁぁ……未果ちゃんどうしたの~? 何かあった……って、え?」
「お、おお、おはよう、二人とも……」
寝起きの二人が、ボクの現在の姿を見て、ポカーンとした。
そして、数秒とも、数分とも感じられるような、長い沈黙の後、
「「きゃあああああああああああ!」」
「ひぅ!?」
突然、二人が黄色い悲鳴を上げて、びっくりしてボクも変な悲鳴が出てしまった。
「依桜、それどうしたの!?」
「わ、わからないよぉ。朝起きたら、こうなってて……」
「ということは、例の呪いかな?」
「多分そう……」
まさかすぎる事態に、肩を落とすボク。
それを表すかのように、尻尾と耳がしゅんとした。
「……やっぱりそれ、動くのね」
「どうも、体の一部みたいで……」
小さい時もそうだけど、なんで耳と尻尾が生えるんだろう? ボク、一応人間だよね? 種族的に。
一応、呪いで色々とおかしい体質になっているけど、体は人間のままだし……多分。
最近、ちょっと自信なくしちゃって……。
「どれどれ……」
「ふゃぁんっ!」
急に未果が耳を触ってきて、変な声が出てしまった。
「おぅ、この姿の依桜君が喘ぎ声をだすと、ただただエロいね!」
「へ、変なことっ、言わない、でぇ……!」
「うーん、やっぱり依桜の耳と尻尾はあったかくて、もふもふでサイコー……」
「ちょっ、み、未果っ、み、耳を触らない、でぇっ! へ、変になっちゃぅぅ!」
「あ、ごめんなさいね。つい、触りたくなっちゃって」
「も、もぉ……」
決して嫌じゃないんだけど……ちょっと変な感じがして、怖い。
どちらかと言えば、気持ちいいんだけど、できれば触ってほしくないと言うか……。
「ふーむ、でもまさか、依桜君がこんな姿になるとは思わなかったな~」
「そうね。てっきり、あの二種類で終わりなのかと思っていたのだけど……まさか、平常時の姿に、耳と尻尾が生えるとは思わなかったわ」
「……それはボクが一番思ってるよ」
あの時は、一週間に一度、みたいな感じで発現していたから。
あれっきりだと思っていたら、約二ヶ月後の今日になって、新しい追加効果が発生。
正直、小さくならなかっただけましかもしれないけど、さすがにこれは目立つよね……。
「でしょうね」
「ふむ……ちょっと修正が必要かも」
と、ボクの姿を見ながら、女委がそんなことを呟いていた。
「女委、どうしたの?」
「いやー、本当は今日、依桜君にある衣装を着てもらおうと思っていたんだけど、耳はともかく、尻尾まで生えちゃったからねぇ。だから、ちょっと衣装の手直しがね」
「それはごめんね……」
「いいよいいよ! ちょっとした誤算だったけど、嬉しい誤算ってやつだから、心配しないで!」
「ほんと?」
「ほんとほんと! ただでさえ、萌え要素の塊な依桜君に、さらなる萌え要素が加わったからね! これなら、荒稼ぎができるってもんですよ!」
「それならいいけど……」
でも、本当に女委には申し訳ないよ……。
ボクの都合で、当日の朝になって手直しをしないといけなくなっちゃったから。
「まあ、手直しって言っても、尻尾穴を空けるだけだから、そこまで落ち込まなくてもいいよー、依桜君」
「……ありがとう」
「いえいえ! むしろ、お礼を言いたいのはこっちだからね。……さて、わたしはちょっと手直しするねー」
そう言って、パジャマ姿のまま、女委が衣装の手直し作業に入った。
見ちゃダメ、とのことなので、ボクと未果は私服に着替えて、晶たちの部屋へ。
「お邪魔します」
「入るわよー」
一言断ってから、ボクと未果は中に入る。
「おはよう、依桜、未果。こんな朝早くにどうした……って、は?」
「おう、なんだなんだ、朝っぱらから、女子二人がこんなむさい男の部屋に来るな、ん、て……よ?」
入ってきたボクと未果を見て、さっきの未果と女委のように、二人がポカーンとした。
だ、だよね。
「うおおおおおおおお! ケモっ娘キターーーーーー!」
そして、沈黙を破ったのは、態徒の叫び。
……テンション高くない。
「マジかマジか! 依桜、お前、普通の状態で、その姿になれるようになったのかよ!」
「なぜか、ね……」
「すっげえ似合うと言うか、マジで可愛いな、依桜!」
「あ、ありがとう?」
個人的に、複雑な心境なので、素直に受け取れない。
むぅ、困ったよぉ……。
「……あー、えっとこれは……そういうこと、なのか?」
ここで、沈黙状態だった晶が、眉間をつまみながら、そう訊いてくる。
「……そういうことです」
もちろん、そうとしか言えない。
他に何か言えることはあると思います? ないですね。
「しかし、まさかこうなるとは思わなかったな……タイミングがいいと言えばいいのか、悪いと言えばいいのか……」
「あー、そうね。今日この後とのことを考えると、ある意味ではタイミングがいいかもね」
「いやいや、グッドタイミングだろ! だって、ケモっ娘メイドだぞ!? 最高じゃないか!」
「三人とも、何言ってるの? 普通に考えて、タイミングが悪いと思うんだけど……」
だって、これから東京ビッグサイトの方に行くというのに、このタイミングで追加効果が発生したわけだから、どう考えても最悪のタイミングだと思うんだけど……。
「……って、あれ? メイド?」
ふと、態徒が言っていた、ケモっ娘メイドと言うのが気になった。
「えっと、メイド、ってどういうこと?」
「……あ」
ちょっと待って、今の、『あ』、はなに?
「気にしないで、依桜。この馬鹿の妄言だから」
「ああ。こいつがただ単に、依桜のメイド姿が見たいがために言った言葉だ。気にしなくても大丈夫だぞ」
「え、でも、明らかに確定しているようなことを言っているような口ぶりだったんだけど……」
「妄言よ」
「でも……」
「いい、依桜。態徒は、どうしようもないくらいの変態なの。正直、変態と罵っても、むしろ喜んでしまうような、とんでもない変態なの。だから、さっきのは妄言。OK?」
「え、でも……」
「OK?」
「あの……」
「OK?」
「……お、おーけーです」
最近思うのは、ボクの周りにいる女の子たちは、なぜか逆らえないような強い意志を感じます。ボク、立場弱い……?
「んでもよー、すげえな、その耳と尻尾。めっちゃもふもふしてそうだぞ」
「実際、すっごいもふもふよ」
「マジ!? 触ってもいいか?」
「し、尻尾なら、まあ……」
変な感じになるのは耳だけなので、尻尾だけだったら問題ない……かな? 多分。
「よっしゃ! じゃあ、早速……お、おー……こ、これは、病みつきになるぜ……」
嬉々として、態徒がボクに近づき、尻尾を触り始めた。
ちょっとくすぐったいけど、特に問題はない。
……それにしても、尻尾を触られるのって、ちょっといいかも……。
なんだか、落ち着くと言うか、何と言うか……安心する? のかな。
「はふぅ~~~」
と、ちょっと気が緩んでしまい、そんな声が口から漏れ出ていた。
「あ」
(((なに今の、可愛い)))
「え、ええええとえとえと! ち、違うの! 今のは、その、あの……べ、別に、気持ちよかったから、ってわけじゃ、ないんだから……ね?」
(((ツンデレかよ……)))
うぅ、恥ずかしぃぃ……。
まさか、あんな声が出るなんてぇ……。
「おー、ぶんぶん尻尾が揺れてるなー。これ、嬉しいってことか?」
「はぅぅっ!」
あまりにも恥ずかしすぎて、思わず両手で顔を覆ってしまった。
だって、今のボク、すっごく顔真っ赤だもん! というか、ちょっと頬が緩んじゃってるもん!
うぅ、態徒のくせ生意気なぁ……!
「態徒、とりあえず、そこでやめておきなさい。依桜の羞恥心がマッハで、外に出れなくなるわ」
「おっと、それは困る。ありがとな、依桜」
「……ど、どういたしましてぇ」
なんだか、ちょっと違う気がするけど、そう言うしかなかったような気がしました。
しばらく四人で話すこと、三十分ほど。
「やぁやぁ、お待たせ諸君! さあ、着替えて出発しようじゃないか!」
ここで、テンションMAXの女委が入ってきて、そう言ってきた。
どうやら、手直しは無事に終わったみたい。
あと、結構朝早いのに、随分元気だね。
ちなみに、ただ今の時刻、朝の六時です。
ボクが起きたのは、大体五時十五分くらいかな? それから、女委と未果が起きてきて、六時半頃に、女委が手直しを始めた、って感じです。
こんなに朝早くに行くのには理由があるそうで、どうも、ボクと未果、女委の三人の着替えの手間があるから、だそう。
聞くところによると、更衣室は二ヶ所あり、一方は十時開場に対し、もう一方は朝の八時から開場しているとのことです。
女委は、参加する団体の代表なので、なるべく早めがいい、とのこと。
ボクたちが着替えている間は、晶と態徒が見張りをしてくれることになっています。
「それじゃ、元気よく行こうじゃないですか!」
「おー!」
「「「おー」」」
と、態徒とボク、未果、晶のテンションの差は酷かった。
軽く支度を済ませて、ボクたちはホテルを出た。
東京ビッグサイトの最寄り駅は、国際展示場駅。
そこに向かうために、何度か乗り継ぎをし、向かっていたんだけど……すっごく混んでました。
車内は満員どころか、すし詰め状態。
いろんな人に押しつぶされそうになる。
車内にいる時、なぜか四人がボクを囲むようにして立っていたのは気になったけど。
かなり苦しい思いをしつつも、なんとか駅に到着。
すると、すし詰め状態だった車内が、駅に着いた途端、雪崩が起きたかのように人がどんどん出ていく。
ボクたちもそれに合わせて外へ。
「うっひゃー、やっぱこの時期はやべえなぁ」
「だねー。何度も来てはいるけど、やっぱりすし詰め状態の電車は慣れないものだよー」
「……私、毎年二回とも行ってる女委を尊敬するわ」
「……俺も」
と、態徒と女委は苦笑いだけど、特に疲れた様子はない。
反対に、未果と晶はすでに疲れてしまっているみたいで、グロッキー状態。
ボクは……まあ、向こうでの馬車移動に比べたら、ね。
すし詰め状態の電車はまだマシなものです。
「さてさて、わたしたちも早く行かねばね!」
駅の外で立ち止まっていたボクたちだけど、女委のその一言で移動を開始した。
そして、東京ビッグサイトに到着すると……そこには、朝早くだと言うのにもかかわらず、大行列が出来上がっていた。
「初めてきたけど、これはすごいわね……これに並んで待つと考えるだけで、気が遠くなるわ」
「……そうだな。さすがに、これはしんどい」
と、大行列を見て、二人が辟易していると、
「あ、大丈夫だよ。わたしたちは一般じゃなくて、サークルの方だから」
「それは、どういうことかしら?」
「えっとね、こっちの行列にいる人たちは、一般参加者って言って、同人誌や販売物の購入を目的とした人たちのことだよ。わたしたちの場合は、
「そうなのね。……よかったわ、こっちの行列じゃなくて」
「にゃはは~。その気持ちはよくわかるよー、未果ちゃん。わたしの場合、それが嫌でサークル側で参加しているわけだしね~」
と、女委たちがこの行列、イベントについて話しているけど、ボクにはさっぱり。
そう言えば、今日のお手伝いって何をするか聞かされてないし、そもそも、このイベントが何なのかについても、一切聞いてなかった気が……。
「さて、ここで立ち止まっていると邪魔だし、さっさと行こっか!」
別の入り口に行き、女委が五枚のチケットをスタッフさんに見せてから、中に入った。
中はすごいもので、至る所に長机が置かれていて、そこには大きいダンボールが置かれていた。
「えーっと、わたしたちはここだねー」
女委の後をついて行き、辿り着いたのは、壁際の場所だった。
女委が言うには、偽壁? って言うらしいけど、よくわからない。
態徒は驚いていたけど。
『あ、やおいさん! 今日の新作、期待してますからね!』
「どーもどーも! 是非、お金を落としていってね!」
『やおいさん、今日も『アレ』あるんですか?』
「もち! 期待してていいよ!」
『やおいさん!』
『やおいさん!』
こんな感じに、準備している途中、スタッフさんらしき人や、同じサークル参加者の人たちが女委に話しかけていた。
どうやら、女委はかなり有名人みたい。
『やおいさん、そちらの四人は……?』
「わたしの学校の友達だよー。今日はお手伝いを頼んでるの」
『へぇ~。なかなかに美男美女ぞろいじゃないか。特に、あの銀髪で、狼の耳と尻尾が付いた娘なんて……って、え、き、君!』
と、女委と話していた男の人が、準備しているボクに、なぜか声をかけてきた。
「え、えっと、なんでしょうか……?」
『か、可愛い……と言うか、ちょっと待ってくれ。君、少し前にテレビとか、雑誌で出ていたりしたかい?』
「え? た、たしかにそうですけど……」
『ま、まさか……白銀の女が――もがっ』
「おっと、ぺろーぬさん。ここで騒いだら、桜ちゃんに迷惑になっちゃうから、控えてねー?」
『おっと、これは失敬。とんでもない人物とエンカウントしちゃったもんだから、ついね。君も、悪かったね』
「い、いえ」
『それじゃ、後で寄らしてもらうよ』
「はいはーい! 待ってるねー!」
にこやかに手を振りながら、男の人は去っていった。
「いやぁ、危なかったよー。危うく、騒ぎになるところだったぜー」
「あ、ありがとう、女委。でも、さっきの桜って……?」
「ああ、あれ? さすがに、本名呼ぶのはちょっとと思ってね。依桜君の場合、有名人だもん。個人情報はあまり漏らさないようにしないと。だから、今日一日は、桜ちゃんって呼ぶからね!」
「うん、わかった。えっと、そうすると、他のみんなも偽名とかのほうがいいのかな?」
ボクだけ偽名と言うのもちょっとあれだし。
どうせなら、みんなも同じように偽名がいい。
「そうだね。そっちの方がいいかもね。じゃあ、晶君は……翔君で同よ?」
「それ、俺の名前の読みを変えただけじゃないか? まあ、別に構わないが」
「いいのいいのー。じゃあ、態徒君ね。そうだなぁ……クマ吉君でどうよ」
「ちょっと待て。それはあれか? オレが変態紳士とでも言いたいのか?」
「ソンナマサカ―」
「棒読みじゃねえか!?」
「でも、これほどぴったりな名前もないでしょー?」
「うぐっ、ひ、否定できないのが辛いッ……!」
悔しそうに、歯噛みする態徒。
クマ吉君、の意味はよくわからないけど、なんとなく、ぴったりな気がするのはなんでだろう?
「未果ちゃんは……うーむ。とりあえず、椎名ちゃんでどう?」
「いいわね。十中八九、名字から取ったんでしょうけど、問題ないわ」
「じゃあ決まりだね! あ、わたしのことは、やおいって呼んでね!」
なんとなく、女委の偽名……と言うか、ペンネームはあまり呼びたくないな、と思った。
みんなの偽名を決め終え、設営も無事終了。
「それじゃ、更衣室に行こう!」
「わかったわ。行きましょ、依桜……じゃなかった。桜」
「うん。それじゃあ、行ってくるね。翔、クマ吉君」
「お留守番は任せたよー」
「ああ」
「おう、任せとけ!」
少し申し訳なく思いながらも、ボクたちは更衣室に向かった。
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