第374話 依桜ちゃんたちとレジャープール6

 そんなこんなで、イベント開始前。


 エナちゃんが、


『普通に出ても面白くないし、何かしながら出て来ることってできる?』


 って訊かれました。


 それに対する返答はと言えば、できなくはない、というちょっと微妙な感じのものだった。


 ボクの身体能力とか能力やスキル、魔法を駆使すれば普通じゃない登場の仕方はできるけど……アイドルって、そう言うのも求められてるのかな?


 まあ、別にいいんだけどね。


 ただ、ボクだけじゃちょっと地味になりそうなんだよね。


 そう考えた時、ちょっと怖いけど、確実な方法が頭の中に浮かんだ。


 師匠です。


 せっかくメルたちも見ているわけだし、それならカッコいいところを見せてあげたいよね。お姉ちゃん的に。


 なので、師匠にお願いしてみたところ。


『ん? なんだ、普通じゃない登場のさせ方をすればいいのか? それくらいなら、呼吸程度の労力で済むな』


 つまり、大した労力じゃないということですね。


 演出をするのに、呼吸するほどの労力しかないというのは、本当にすごい気がするし、師匠の規格外さがよくわかるよ……。


 本当に、なんでボクなんかを弟子に取ったんだろう?

 ある意味では、人生最大の謎かも。


 まあ、そんなことが裏でありつつも、イベント開始の時間。


 もともとエナちゃんのイベントなので、先にエナちゃんが出て、一曲歌ってから、その次のトークショーでボクが出てくる手筈になっています。


 なので、今はエナちゃんの歌を聴きながら、出番が来るのを待っている状態。


 あ、もちろん、依桜、ではなく、いのりとしての姿になってますよ。


 水色の髪に蒼の眼に変化させています。


 あと、水着の色も変えて、緑色だったのをボク(いのり)のイメージカラーに合わせて、水色に変化させています。


 一応、エナちゃんもそれを意識しているのか、赤色の水着を身に付けているしね。

 うーん、なんだか本当に姉妹アイドルみたいな感じになっているような……。

 まあいいよね。


 とりあえず、ボクは自分の出方の事を考えよう。


『~~~♪ ~~♪』


 表のステージから、エナちゃんの歌声が聴こえてくる。


 前回は一緒に歌っていたから、少しだけエナちゃんの歌がわかりにくく買ったんだけど、、こうして一人で歌っているところを聴いているところを初めて見て、とても上手いことがわかる。


 なんと言うか、パワフル、って言えばいいのかな? ボクと同じ年齢って言うから、高校生らしさが出ているような気がするよ。


 あと、普通に可愛いしね、エナちゃん。


『おーし、依桜。こっちは準備できた。あとは、お前からの合図があればいつでもできるぞ』


 ありがとうございます、師匠。


『いいってことよ。おまえがあたしに頼んでくるってことは、よほど困っている時か、もしくはメルたちが絡んでいるかのどちらかだからな』


 あはは……さすが師匠……全部お見通し。


『で? あとどれくらいかかる?』


 そうですね……この曲が終わったらですね。なので、あと、一分くらいです。


『ん、了解した』


 そう言うと、師匠からの連絡?はなくなった。


 ……師匠が準備してくれたのはいいんだけど、内容がちょっとね……。

 いいと言えばいいんだけど、相当目立つような気がしてならない。というより、多分目立つ。

 うーん、大丈夫なのかな……。ちょっと心配。



 そんなこんなで、気が付くと一曲目が終わっていた。


『それじゃあ、一曲目が終わったことだし、トークショーに――』

「ちょっと待ってください!」


 エナちゃんの声を遮る。

 正直、こういう登場の仕方は恥ずかしいんだけど、なぜかこうなっちゃったので仕方なく。


 ボクの遮る声に、ステージ前にいるお客さんたちが騒然となる。


 師匠、お願いします。


『任せな』


 師匠が不敵にそう言いうと、不意に、


 ザバァ――――!


 という水音がステージ近くのプールから聞こえてくる。


 同時に、水が龍のような形をとって動き始める。


『何あれ!?』

『すっげ! 写真写真!』

『どうなってんだあれ!?』


 とまあ、突然現れた水の龍に、お客さんたちが驚きつつも歓声を上げる。


『ん? なんか、人が乗ってないか?』

『うわ、マジだ』

『というかあの娘って……』


 そうです。ボクが乗ってます。


 師匠とエナちゃん二人による話し合いの結果、こんな登場の仕方になりました。


 一体、何を考えているんだろうね、二人は。


 ボクは水龍の頭の上辺りに乗っている。


 さすがに、何もしないのはあれなので、笑顔で手を振る。


 それに気づいた人たちは、こちらに手を振り返してくれた。


 メルたちなんて、一瞬でボクに気づいたしね。さすが、ボクの世界一可愛い妹たち。あとでイルカの浮き輪とか、アイスを買ってあげよう。


 中心辺りを通過したところで、ボクは水龍から飛び降りる。


 その際、軽く悲鳴に近い声が上がったけど、そこはボク。


 高さ十メートルくらいの高さなんて、ものともしませんとも。


 すたっと着地したの同時に、水龍が一気に弾けて雨のように降り注ぐ。


 ただし、師匠の力によって、水はゆっくりと落下して行っており、それが太陽の光を反射してキラキラと輝く。しかも、それのせいなのか、ボクの頭上には虹がかかっていた。


 ……まさかとは思うけど、これも師匠が?


 や、やりそう。


 あ、違った違った。


 早く挨拶しないと。


「みなさん、こんにちはー!」

『『『うおおおおおおおおおおおおお!』』』


 ボクが笑顔で挨拶をしたら、歓声が上がった。

 多分、今の登場の仕方が原因だよね。


「えーっと、初めまして、の方は初めましてですね! 先週のエナちゃんのライブに来ていた人たちがいれば、一週間振りです! 水麗アイドルいのりです!」


 は、恥ずかしい! 最後の部分が一番恥ずかしいよぉ!

 水麗ってなに!? どういう意味なの!?

 って、思ったけど、今はお仕事……羞恥心は一旦どこかへ投げておかないと!


『いのりちゃーん!』

『よっしゃあ! 生で見れた!』

『これは友に自慢せねば!』


 あれ、なんかさらに騒がしくなっているような……。

 なんで?


「派手な登場ありがとう! いのりちゃん!」

「あはは、ごめんね、エナちゃん。なんだか変に目立っちゃって」


 と、表面上で言うけど、実際はエナちゃんと師匠の案だからね。

 このセリフは演技です。

 なぜか、すっごく笑顔だけど。


「ともあれ! エナ友のみんなー! 今日は、いのりちゃんが再び、サプライズとしてイベントに来てくれたよー!」

『『『YEAHHHHHHHHHHHHHHHHHッッ!』』』

「突然の参加、すみません! エナちゃんがいると聞いて、居ても立っても居られなくなって、来ちゃいました! 飛び入りみたいですけど、今日はよろしくお願いします!」


 そう言って、お辞儀。


『可愛いよー!』

『もっと出て欲しい!』

『飛び入り大丈夫だよ!』

「みなさん、温かい言葉、ありがとうございます! 今日は精一杯、エナちゃんとイベントを盛り上げますので、楽しんでくださいね!」

『『『おおおおおお!』』』

「それじゃそれじゃ! さっそくトークショーに行こう!」


 そうして、今日のイベントが始まった。



『えー、では、忘れられてそうな司会こと、乃ノ星が進行させていただきます』


 ようやく、ここで司会の人が言葉を発する。

 す、すみません。変に目立っちゃって。


『それでは、ここにはお二人、特にいのりちゃんの方を知らない方の方が大多数だと思いますので、お二人とも自己紹介をお願いします』

「はーい! じゃあ、まずはうちから! えーっと、エナです! 好きなものはアイドル活動と、ファンのみんなと、あと可愛いもの! 夢はおっきく、うちを見て色々な人たちが元気になることかな! アイドルはやっぱり、誰かを励ましたりするための物だとうちは思っているので!」

『なるほど。ファンを第一に考える、エナちゃんらしい夢ですね。ちなみに、趣味などは?』

「そうだなー……最近だと、ゲームにはまってるよ! みんなも知ってるかな? 『CFO』って言うんだけど」


 エナちゃん、CFO持ってるんだ。

 ということは、あの抽選に当たったっていうことだよね?

 あれって、かなり倍率が高かった気がするんだけど、やっぱり強運を持ってるのかな。


「あれすごいね! 中でも、『ほのぼの日和』っていう小規模なギルドの、ギルドマスターの人がすっごいらしくてね! いつか会ってみたいなって思ってるんだ!」


 ガタッ。


 思わずこけてしまった。


「いのりちゃん、どうしたの?」

「あ、い、いえ、なんだか、その……し、知り合いのお話が出たなーと思って……」

「え! いのりちゃん、『ほのぼの日和』のギルドマスターの人と知り合いなの!?」

「し、知り合いって言うか、知っている人というか、身近な人というか……うん、知り合い、かな」


 ボクだけど。


「ほんとに!? ねね、もしかして、いのりちゃんも持ってるの?」

「うん、サービス初日からやってたよ」

「おー! 古参プレイヤーだ! いのりちゃん、今度一緒にやろ!」

「うん、いいよ」

「やった! 約束だよ!」

「うん」


 ……その時に、ボクがそのギルドのマスターだって露呈しそうだけどね。


 まあ、エナちゃんだからいいよね。うん。


 今更アイドルのプレイヤーさんが増えたところで、何も問題は無いはず。


 だって、世界最強の暗殺者と人気声優さんと、世界一可愛い妹たちがいるんだもん。


 今更です。


『えー、エナちゃん自己紹介は大丈夫でしょうか?』

「あ、うん! おっけーおっけーだよ! いのりちゃんにパスするね!」

『はい。では、いのりちゃん、お願いします』

「はい。みなさん、こんにちは。改めまして、いのりです。趣味は、料理やお菓子作りで、最近は衣服を作る事にもちょっとはまってます。夢は……今はまだない、ですね。考え中です。好きなものは……平穏です」

「平穏? いのりちゃん、平穏って?」

「うーんと、ボクって、結構騒がしい日々を送っていてね、それで、できれば何事もない平穏な毎日がいいなーって」


 疲れるもん、騒がしい日々が続くと。

 心休まる暇がないというか……できれば、平穏が一番。


「そうなんだ! でもでも、アイドルって平穏とは程遠い気がするよ?」

「そうだけど……なんて言えばいいのかな。こう言うのは別かなーって。エナちゃんと一緒にアイドルするのは楽しいから、嫌ではないというか……」

「つまり、好き?」

「うん、そうかも?」


 意外と楽しいしね、アイドル。


「そう言ってもらえると嬉しいな! じゃじゃあ、得意な料理とか、お菓子って?」

「うーんと……料理は、基本的にできるけど、その中だとハンバーグかな。お菓子は……最近はケーキが一番得意だよ」

「わ! ケーキ! いいね! 食べてみたいなぁ!」

「じゃあ、今度作ってきてあげるね」

「いいの!? わーい!」


 作ってくると言うと、エナちゃんは両手を挙げて嬉しそうにはしゃぐ。

 アイドルなんだけど、同時に身近な女の子っていう感じがして、すごく接しやすい。

 あれかな、エナちゃんの良さなのかな?


『えー、いのりちゃん、こちらからも質問いいでしょうか?』

「あ、はい。どうぞ」

『今しがた、趣味に衣服を作ることとあったのですが、作れるんですか? 衣服』

「作れますよ」


 一応、先週のライブの時に来ていた衣装、直前になってボクが作ったものだしね。


「どんなのを作るの?」

「ボク、妹がいてね。その娘たちに合わせて、可愛らしい衣装を作ってあげてるの」

「へ~、いのりちゃん、妹さんがいるんだ! それも複数!」

「うん、六人だね」

「多いね!?」

「ちょっと、海外の親戚に色々あったらしくて……それで、ボクのところに養子として来たの」

「おー、むしろ六人も受け入れられるなんてすごいね、いのりちゃんのお家!」


 うん、まあ、養っているのは主にボクだけどね。

 正確に言えば、ボクのお金を母さんたちに渡しているだけだけどね。

 でも、どのみち養っていることに変わりはない、よね?


「うん、じゃあ、自己紹介はこれくらいにして、次行こう!」

「あ、うん。えと、乃ノ星さん、よろしくお願いします」

『お任せください。では、次に参りたいと思います!』


 なかなかにテンポよくイベントは進んでいきます。

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