第375話 依桜ちゃんたちとレジャープール7
『それでは、次の話題は『プールの思い出』です』
「プールの思い出かぁ……」
『お二方、何かありますか?』
「うちは……小学四年生まで全然泳げなかったなぁ」
『おや、意外ですね。エナちゃんはかなり運動神経がいいように思えるのですが』
たしかに。
エナちゃんって、歌って踊れるアイドルっていう感じだから、昔泳げなかったのはちょっと意外かも。
「ほら、うちって努力のアイドルでしょ? だから、頑張って泳げるようにしたんだー」
『では、頑張るきっかけとなった出来事ってありますか?』
「きっかけかー……うーん、そうだなぁ。うちが小学三年生の頃に、とあるプールに行ったんだけど、そこで必死になって泳げるようになろうしてる子がいたの」
なるほど、なんだかよくある話に思えてくる。
ボクだって、小学生の頃は、泳げなくて苦労したもん。
今でこそ、異常なまでに泳げるようになっているけど。
『なるほど。それで、その子が?』
「うん。なんかね、男の子の友達と女の子の友達に支えてもらいながら練習していたの。だけど、全然泳げるようにならなくて、沈んじゃったり、おぼれそうになってたりしてて、こう言ってはなんだけど、下手だったんだよ」
わかるなぁ。ボクも未果と晶と一緒にプールに行って遊びに行って、練習に付き合ってもらったこともあったし。
あの時ね、プールの授業で泳げない人がほとんどいなくて、泳げないのが恥ずかしい、とか思って、未果と晶に手伝ってもらったよ。
あの時は大変だったね。
足が攣ったり、脂肪が全然付かなかったから、すぐ沈んじゃうしで、二人には迷惑を書けたっけ。
今思えば、何で泳げなかったんだろう? って思えてくるくらいに、泳げなかったよ。
「でもね、そうやって必死に頑張っている人って、うちカッコいいと思うんだ! だって、たとえ笑われても、周りなんて気にしないで泳げるようになろうしているんだよ? うち、そういう人は尊敬するからね!」
人が頑張っている姿って、なんかいいよね。
ボクも好きです。人間らしく感じるから。
人って、やっぱり何かに頑張っているところが一番いいよね。
『そうですね。知らず知らずのうちに努力している方もいらっしゃいますし、そう言った方は尊敬されますよね』
「そうだね! でも……」
そこでお話は終わりかな? と思った時に、不意にエナちゃんがちょっと上を見ながら不思議そうに言う。
「あの時の子、綺麗な銀髪で女の子みたいだったのに、なんで男の子用の水着を着てたんだろう?」
「…………………………」
……待って。まさかとは思うんだけど、その頑張ってた子って……。
ま、まだです。まだ慌てるような時間じゃないです。
こ、ここは、聞いてみないと。
「あ、あの、エナちゃん?」
「なーに、いのりちゃん」
「え、えーっと、そのプールってあの……も、もしかして、水原市にあったり、する?」
「うんそうだよ! よくわかったね?」
「ちょ、ちょっとね……」
……ボクは確信した。それ、ボク……。
十中八九、小学三年生の時に泳げなくて未果と晶に手伝ってもらってきた時の状況だよね?
え? もしかして、あそこにエナちゃんいたの!?
「え、エナちゃん。えっと、あの……そ、その子はきっと、男、だったと思うよ」
「あれ? もしかして、いのりちゃんその子と知り合いだったり?」
「う、うん。多分……」
知り合いというか、ボク本人です。
少なくとも、その時のボクを女の子と勘違いするのはやめて欲しいというか……勘弁してほしい所です。その時はまだ女の子じゃないわけだし……。
「そっかそっか。世の中狭いんだね!」
「あはは……」
そうだね。少なくとも、その人がボクなんだから、本当に狭いよね。
実は、一方的にではあるけど、エナちゃんがボクの事を知っていたなんて……予想もできないよそんなこと。
「まあ、そんなところかな、うちは! そこで努力することの楽しさを覚えて、自分が頑張ってる姿を見せることで、他の人にも頑張ろうって言う気持ちを与えるために、アイドルを目指した、っていう裏話もあるけどね!」
「え、じゃあ、その子を見たから、アイドルを?」
「うん! まあ、きっかけってだけなんだけどね! でも、その子が一番のきっかけになったのはたしかだよ! うち、心打たれちゃって!」
……アイドルになったきっかけも、ボクなんだ……。
もしかしてボクって、知らないうちに何らかの行動を起こしていて、それが誰かに影響を及ぼしていたりしない、よね? 大丈夫だよね?
個人的に、去年の十月くらいに行った異世界で、二日間の記憶がすっぽりぬけ落ちてる部分があるけど、あれ、大丈夫だよね? ボク、何もしてないよね? ものすごく心配になって来たんだけど……!
「じゃあ、うちは終わりかな。じゃあ次、いのりちゃんよろしくね!」
「あ、う、うん。プール……プールかぁ……。プールには……中学生の頃、よくナンパにあってたかな……」
「…………あ、あー、いのりちゃん、可愛いもんね! 仕方ないよ!」
「あはは……そうだよね……仕方ないよね……」
……今思い出したら、気分がものすごく沈んできた……。
思い返してみれば、中学生の頃、ボクを含めた今の五人で毎年のようにプールに行っていたけど、毎回のようにナンパされてたっけ……。
しかも、未果と女委がいるにもかかわらずだよ?
なんで? っていつも思ったよ。
その度に、目も死んでたし……。
晶たちからはすごく慰められたし、生温かい目で見られたよ。
あ、あは、あははははは……。
なんでボク、ナンパされたんだろう。
あと、今エナちゃんの言葉が入る前に若干間があったのは、事前にボクが元男だって知ってるからだよね?
さすがに、エナちゃんも可哀そうとか思うんだね……。
でもね。今のボクに可愛いって言うのは……止めを刺しに来ているようなものだよ。
『え、えーっと! こほん! い、いのりちゃんには思い出したくもない過去があるようですので! 一度この話題は切りたいと思います!』
乃ノ星さん、いい人……。
『では、そうですね……。一度、SNSで募集した質問をする、質問コーナーに移りたいと思います』
そんなことしてたんだ。
『いのりちゃんがサプライズで登場した瞬間、かなりの勢いで質問が増えましたので、こちらの端末に入れられている、くじ引きアプリを使って選びたいと思います。なお、質問内容はどちらかに来るのではなく、両方とも答えていく感じになりますので、よろしくお願いします』
「はーい!」
「わかりました」
質問かぁ……学園のお悩み相談のコーナーでは、なぜか明らかに悩みじゃないよね? って言うものが何通も来てたっけ……。
今回はさすがにアイドル相手だし、大丈夫だよね。
『では、まず最初の質問です。えーっと、こちらN・Yさんからですね。『普段穿くパンツで、一番お気に入りなのって、なにかな!』だそうです。えー、大変変態的な質問が来ております。恥ずかしかった答えなくても一向に構いませんので、回答をどうぞ』
全然普通じゃなかった!?
あと、絶対この質問したの、ボクの知ってる人だよね! N・Yって、これ、絶対女委だよね!?
多分、『謎穴やおい』っていう、女委のペンネームから来てるよね!?
何してるの!
「んー……うちは、縞々なのが好きだよ!」
え、答えちゃうの!?
『『『おおおおお……』』』
そして、男性のお客さんたち、みんな嬉しそう。
へ、変態しかいない……!
「いのりちゃんは?」
「ふぇ!? え、えとえと、あの……し、白?」
「純白だね! いいと思うよ! うちも好きだしね!」
『清楚系……』
『いのりちゃんは外見通りの清楚系……』
『清楚系アイドル、やっぱいいな……』
あ、あれ? なんで、みなさんちょっと顔を赤くさせてるの?
なんで?
『はい、変態な質問に答えていただき、ありがとうございます。では、次の質問です。……えー、M・Mさんからですね。『恋人にするなら、男の人と女の人、どっち?』だそうです。二つ目でいきなり来ましたね、色恋に関する質問。それでは、お二方、どうでしょうか?』
「普通に考えるなら、やっぱり男の人だね」
うん。まあ、それが普通だよね。
ボクの周りって、なぜか同性愛者の人たちとバイな人が多いから、普通のことなのかな? とか思ってたけど、やっぱりこっちが普通なんだよね!
うん、よかっ――
「でも、女の子との恋愛もいいかも、とは思ってるかな!」
全然よくなかった。
え? もしかして、同性愛も割と普通なの? あれ? あれ?
別に否定するわけもないけど、割と少数派だったような気がするんだけど……ボクの周り、濃すぎない?
うーん?
『それはどうしてですか?』
「うーん、だって、いのりちゃんのような可愛い女の子を見たら、好きになっちゃうでしょ?」
「……ふぇ!?」
「それに、いのりちゃんってすっごく優しいし、可愛いし、謙虚だし、家庭的みたいだから、そういう娘とだったら、恋人になってみたいなあって!」
「な、なななな、何を言ってっ……?」
「あれあれ~? どうして、顔を赤くしてるのかな、いのりちゃん?」
ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべながら、からかい交じりの声でそう言って来る。
「そ、そそ、そんにゃことはにゃいよ!?」
「あはは! にゃだって! 可愛いね、いのりちゃん!」
「わわっ!」
ばふっと、いきなり抱き着いてきた。
う、うぅ、今思えば、エナちゃんもボクも水着姿だから、肌の露出が多くて、直に触れてるから……は、恥ずかしいよぉ!
ボクもエナちゃんもビキニタイプの水着なんだもん!
エナちゃんは、フリルが多めのものだけど。
でも、それでも、エナちゃんの体の柔らかさとか、エナちゃんの匂いが……!
「え、ええ、エナちゃん!」
「あ、ごめんねいのりちゃん!」
ボクが焦ったように名前を呼ぶと、エナちゃんは謝りながら離れてくれた。
う、うぅ、恥ずかしかったぁ……。
「わ、いのりちゃん顔が真っ赤だけど大丈夫? なんか、湯気が見えそうなレベルだよ?」
「はぅぅ……い、いきなり水着姿で抱き着かれたら、その……は、恥ずかしくて……」
(((なんだ、あの可愛い生き物)))
「いのりちゃん、本当に可愛いね!」
「や、やめてぇ……!」
これ以上言わないでぇ! なんだか、オーバーヒートしそうだよぉ!
『え、えー、では気を取り直しまして、いのりちゃんの方はどうですか? 恋愛対象について』
「あ、え、えと……ボク、男の人にはあまりそう言った感情を抱いたことが無くて……その、女の子にはよくドキッとさせられるんですけど……」
「ということはいのりちゃんって、百合趣味なのかな?」
「ど、どうなんだろう……?」
元男だったことを考えると、そうとは言えないような……。
「そっかそっか! じゃあ、うちたちで付き合うのって相性いいのかな?」
「ふぇ?」
「だって、うちはそっちに興味はあるし、いのりちゃんは女の子の方が好きみたいだしね! それなら、相性いいのかなって」
「え、えええとえとえとえと……あの、それって、そのぉ……ど、どういう意味、ですか?」
「どういう意味も何も、うち、普通にいのりちゃんのことが好きだよ?」
「……ふぇ!?」
「いのりちゃん、すっごくいい娘だもん! ね、みんな!」
『『『おおおおおお!』』』
「ほらね?」
「ほ、ほらねって……エナちゃんは、その、恥ずかしいと思ったりしない、の?」
「うち? うちは……どうなんだろ? でも、好きって言うのは悪いことじゃないからね。ちょっとはあるけど、ほとんどないかな!」
「そ、そうなんだ……あぅぅ」
すごく、恥ずかしいよぉ……。
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