第386話 不審者騒動(?)

※ 前話にて、冒頭部分がすっぽり抜け落ちてました。単純に、貼り付ける際に、範囲指定し忘れていたために起こったことです。本当に、申し訳ありませんでした……。

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 六時間目は授業ではなく、クラブ活動でした。


 クラブ活動と言えば、中学校や高校で言うところの部活動のような物。


 毎週木曜日(場所によって違うかも)の六時間目に、四月くらいで決めたクラブで活動して、自主性や協調性を学んだりするものだと思ってます。ボクは。


 どういう理由で行われているかは知らないけど。


 ボクは家庭科クラブに行って、エプロンを作っているようだったので、ちょっとだけボクも作ったり。


 ミシンを使うよりも、手縫いでやった方が早かったので、手縫いで作ったけどね。

 そしたら、家庭科クラブの顧問の先生にすごく驚かれた上に、ぽかーんとしていたよ。


 まあ……手縫いで作って、十分くらいで完成させてたしね……。


 本当に『裁縫』のスキルってすごいよね。


 そんな感じのことがありつつも、四日目の授業も全部終了しました。


 そして、帰りの会も済ませ、朝柊先生に言われた通り、ボクは職員会議に参加。


 と言っても、ボクはただ聞いてるだけになりそうだけどね。


『――というわけですので、しっかり子供たちに注意の方をお願いします』


 ただ、こうして聞いてるだけでもなかなか面白い。


 小学生の頃、先生たちが会議をしてる、って聞いた時は何をしてるんだろう? って気になってたけど、こんなことをしていたんだなって、知ることができるから、面白い。


 高校でも同じことをしてるのかな、なんて思う。


『それから、夏休み中に体育館の改修工事が入る予定なので、そちらも覚えておくようにお願いします。他に、何かある先生方はいますか?』

『例の不審者の件で少々』

『ああ、どうぞ』

『昼休み頃に、保護者の方から連絡があったのですが、不審者はどうも車で市内をうろうろしているようで……もしかすると、誰かを誘拐しようとしている可能性があります』

『となると、教職員や保護者の人たちで下校時は見張った方がいいかもしれないですな』


 うーん、不審者か……。


 朝、柊先生に澄咲さんが不審者に声を掛けられたって言ってたよね……。


 そう言えば、あの娘はあまり人付き合いが得意そうには見えなかった。


 友達は普通にいるみたいだったからいいんだけど、前にちらっと見た時、帰宅時は一人だったような……。


 ……まさかね。


 まあでも、これで問題があったら嫌だから、ちょっと『気配感知』を拡大。


 えーっと………………あ、いたいた。

 学校からちょっと離れたところで、場所は……公園、かな? それも、人気がないね……。


 ……うん? 誰か、近くにいる? それも、かなり黒い感情が見て取れる……って!


 まずい!


 ガタッ! と、音を立ててボクは立ち上がる。


「おや、男女先生、どうしたんですかな?」

「すみません、ちょっと急用ができました!」

「そうですか。それは仕方な――って、お、男女先生! そっちは窓――!」

「すみません、失礼します!」


 ガラッと勢いよく窓を開けると、ボクは渡里先生の制止を振り切って、そのまま飛び降りた。


 職員室はなぜか三階。


 ボクからすれば大した高さじゃないので問題はないんだけど、上からは悲鳴が聞こえてくる。


 でも、それを聞いている余裕はボクにはない。


 空中で上履きから靴に履き替えると、そのまま着地し、間髪入れずにそのまま駆け出す。


 カバン類はことが終わったら、取りに戻ろう。


 なるべく音を出さずに駆け抜ける。


 急がないと……急がないと!


 一体なぜ、ボクが急いでいるかと言えば、例の不審者が澄咲さんを誘拐したから。


 ボクの『気配感知』に引っ掛かっていたのは、間違いなくその人だと思う。

 何せ、邪な感情が駄々洩れだったもん。


 澄咲さんはかなりゆっくり動いていたところを見ると、おそらく怖くて足がすくんでしまったんじゃないかな。


 その結果、澄咲さんはその不審者に捕まり、多分車に乗せられたしまったのかも。


 澄咲さんがいた場所の周囲には、あまり人がいなかったようなので、誰も気づかなかったかもしれない。


 それに、今も澄咲さんから発されている気配は明らかに、恐怖だとわかる。


 もっと言えば、かなりの速度で移動しているね、これ。


 だから、車。


 急がないと、ボクの『気配感知』の範囲からいなくなってしまう。


 ……最近、なぜか範囲が広がっている気がするけど。


「くっ、下を走っていたら間に合わない……!」


 こうなったら、仕方ない。


 本当はいけないんだけど……上を行こう!


 とにかく『気配遮断』と『消音』は使用しないとまずい。


 バレたら色々と問題だからね。ここで問題を起こしたら、学園に迷惑がかかっちゃうし、ボクが変に目立つことになっちゃう。


 それだけは避けたい。


 でも、それ以上に一人の女の子が誘拐されたという状況を放置する方がもっと避けたい。


 目立ちたくないなんて言ってられる状況じゃないので、まあ……許してください。



 それから、屋根の上を飛び跳ね、ボクは澄咲さんが乗せられている車を追跡していた。


 幸い、車はそこまでの速さで走っているわけではなく、なぜか法定速度を守って走行していたので、下手なスピードを出さずに済んでいる。


 下手に速く走ると、警察に止められちゃうもんね。


 正直なところ、屋根の上だけを通って追いかけるのは、なかなかに大変だったので、今は電柱の上とかも通ってたり。


 向こうの世界と違って、こっちの世界はいろんな高さの物があるから、何かと動きにくい。


 住宅街辺りなら移動しやすそうだけど、色々と問題がありそう。


 もちろん、今ボクがしていることも犯罪行為だし、褒められたことじゃないんだけどね……うぅ、こっちでも犯罪者……。


 たまに、今出している力じゃ届かない場所があったので、そういう時は、暗殺者時代に使用していたアイテムを生成して、それで移動の補助をしています。


 簡単に言うと、鉤縄みたいなものです。


 もっと言えば、異世界版の鉤縄に近いかも?


 先端には何もついていないんだけど、実は先端が壁や天井に当たるとくっ付いて、固定してくれる。それを引っ張って向こう側へ、みたいな感じ。


 意外と使い勝手がよくて、よく使用してたよ。


 まあ、今となってはほとんど必要じゃないんだけど。


 とはいえ、それが今回役に立ったのは事実だしね。それで誘拐された女の子を助けられるなら、全然おっけーです。


「この辺りだと思うんだけど……って、いた!」


 走ること数分、ようやく追いついた。

 本気を出せば余裕で追いつけるんだけど、家を壊しちゃうからね。なるべく力を抑えましたよ。


「とりあえず、どうやって止めようか……」


 追いついたはいいものの、下手に運転している不審者を驚かせて、事故になったら澄咲さんが危ないし、不審者の人も危ない。


 片方を切り捨てる、なんてボクにはできないので。


 どうやってやろうか……うーん、今思いつくのが、正面から車を止めるくらいなんだよね……。


 でも、それをやると中の人にもダメージが行くかもしれないし、何より澄咲さんが怪我をしてしまうかも。


 うーん……『アイテムボックス』って、使えないかな。


 ボクが使用する『アイテムボックス』で広げられる入り口の大きさは、縦長、もしくは横長にした場合約二メートル近く。通常なら、直径一メートルくらいの大きさにしかならない。


 だけど、今回は車の動きを止めるということをすれば大丈夫。


 ……うん、これなら行けそう。


「そうと決まれば、早くやろう!」


 止める方法を決め、ボクは急いで車の上に飛び乗る。


 こっそり中を覗くと、ガムテープで縛られている澄咲さんを発見。


 やっぱり、誘拐されていたみたい。


 ……なんてことをするんだろうか、この不審者は。


 一週間限定とはいえ、今はボクの生徒でもあるので、見逃すわけにはいかない。


 さっさと片付けよう。


 ボクは『アイテムボックス』を横長にして、後輪のタイヤの下に開いた。すると、ガクンッ! と、車が後ろに傾き、前方に進まなくなった。


「うん、これでよし」


 あとは、安全な場所に運ぶだけ。

 ちょっと力押しになっちゃうけど……!


「よいしょっ、と」


 ボクは車を持ち上げると、そのまま走り出す。


『な、なんだ!? 一体なんなんだ!?』


 中からは焦りが色濃く滲んでいる男の人の声が聞こえる。

 変に興奮して、澄咲さんに手を出さないとも限らないし、急ごう。



 しばらく走り、誘拐された公園に来た。


 もちろん『気配感知』で人が周囲にいないことは確認済み。


「よいしょ」


 車を地面に下ろし、タイヤをパンクさせる。


 逃げられたら困るもん。


 じゃあ、さっさと助けないとね。

 早速、後部座席のドアを開けて中へ。


『だ、誰だ!?』

「あ、初めまして、この娘の担任です」

『なっ、た、担任だと!? な、なにしに来た!』

「何って……澄咲さんを助けに来たんですよ。とりあえず、うるさいので眠っててください」

『は? ――かはっ』


 ピュッ! と針を首に投擲して、気絶させた。


 とりあえず、これでよしと。


 一旦澄咲さんを抱えて、車から出る。


 口に貼られたガムテープを剥がし、拘束していたガムテープも切断。


「大丈夫? 澄咲さん」

「い、依桜、せんせー……?」

「うん、そうだよ。助けに来たよ」

「い、依桜せんせー……!」


 なるべく笑顔で助けに来た事を伝えると、澄咲さんは涙を滲ませて、ボクに抱き着いてきた。


「うっ、うぅっ……ぐすっ……こ、怖かった、よぉ……!」

「もう大丈夫だよ。先生がいるからね」


 ボクの胸に顔をうずめて泣く澄咲さんの背中をポンポンと優しく叩く。

 すると、ぎゅぅっとさらにしがみついてくる。


 知らない人に誘拐されたら、こうなってもおかしくないよね。

 今は、好きなようにさせてあげよう。


 どのみち、最低でも一時間は起きないしね。



 澄咲さんが泣き止んだところを見計らって、警察に電話。


 正直、もっと早くするべきだったんだろうけど、時間もなかったからね。


 警察が来る直前で、不審者の首に針を刺して気絶から回復させる。


『はっ、お、俺は何を……』

「お目覚めですか?」

『お、お前は……!』

「ボクの生徒を誘拐してくれたそうですね? さて……覚悟はできてるんでしょうね?(にっこり)」

『ひっ……!』

「こんな小さいな女の子を誘拐するなんて……何を馬鹿なことをしてるんですか。見てください。こんなに震えちゃってるんですよ? これ、確実にトラウマになっちゃうと思うんですけど、どうしてくれるんですか? それに、これがきっかけでこの娘が男性恐怖症になったら、どうするんですか? あなたはそれを治せるんですか? 無理ですよね?」


 笑顔を浮かべ、威圧しながら不審者に迫ると、どんどん顔を青くさせていく。


「何の罪もない女の子を攫って、楽しいですか? 楽しいんですよね? だって、攫っちゃうほどなんですよね? 人としてどうかと思いますよ? 年齢は……三十四歳で、職業は無職。それに、ロリコン、ですか」

『なっ、なんでっ、お、俺のことを……!?』

「いえいえ、ボク目がいいんですよね。なので、ちょっと見ただけでわかっちゃうんです」

『ひっ……!』

「ボクが一番嫌いな人って、わかりますか?」

『し、知らない……』

「ボクは、子供を大切にしない人たちが大っ嫌いなんですよ。雑に扱ったり、誘拐したり、虐げたり……大人とは違って、子供は未来への分岐が多いんです。でも、大人の子供への接し方次第で、その分岐は減り、いい大人にならないことだってあります。結局、子供をいい大人にするかどうかは、周囲の環境と言うのもありますが、結局は子供たちを育てる大人です。それを知ってか知らずか、あなたはここにいる未来ある子供を誘拐しようとしました。それによって、この娘の未来の分岐が限りなく狭まったらどうするんですか? 幸せな未来だってあったかもしれないんですよ? なのに、それを邪魔するなんて……覚悟はできてるんでしょうね?」


 にっこりとさらに笑みを深めて、ボクは目の前の不審者に問いかける。


『ゆ、許して……!』

「許す? 何を言ってるんですか。一度危害を加えた以上、ボクに手加減はないですよ。じゃあ、まずは――」


 と、ボクがお仕置きをしようと――するふり――したところで、パトカーのサイレンが聞こえてきた。


「残念。警察が来てしまいましたね。よかったですね、命拾いして」


 そう言うと、不審者は白目を剥いて倒れてしまいました。


「依桜せんせー……?」

「あ、ごめんね。お巡りさんも来てくれたし、今後誘拐されることもないからね」

「……う、うん!」


 なんとか、無事に救えてよかったよ。



 その後は、一度澄咲さんと一緒に警察署へ。


 と言っても、軽く事情を聴かれただけだけどね。


 ボクが職業体験で来た高校生であることを警察の人に伝えたら、酷く驚かれました。


 すると、事の経緯を知った警察の人から表彰したい、って言われたんだけど……目立つのが嫌だったので、やんわりと断りました。


 ボクにとっては、当たり前のことだし、何よりそこまですごいことでもなかったからね。


 澄咲さんのお母さんが迎えに来てくれて、すごく感謝されました。


 優しそうなお母さんでした。


 事情を説明した後は、小学校へ戻る。


 荷物置きっぱなしだったしね。


 そしたら、澄咲さんの件の情報がもう伝わっていて、ボクは校長先生や柊先生から、すごい勢いで感謝されました。それこそ、崇拝しそうな勢いで。


 ちょっと戸惑ったよ。


 まあ、何はともあれ、無事に済んでよかったです。


 ……澄咲さんがやや熱っぽい視線を送っていたのがちょっと気になったけど。

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