第121話 再び……

「あぁ~……疲れたぁ……」


 家に着き、自分の部屋に入るなり、ボクはベッドにダイブしていた。


 今日はすっごく疲れた。


 なにせ、あんなに恥ずかしい格好で応援したり、とんでもない障害物競走で、かなり体力と精神力を持っていかれ、二人三脚では大惨事になり、美天杯では、すっごく怒った。


 そのおかげで、もうへとへとです……。


「それにしても……なんだか、変なのも出てきちゃったし……」


 ブライズ、だっけ?


 師匠曰く、仮説では、担当の神がいなくなった世界からきた何か、って言う話だけど……。


 また、神様ですか。


 やっぱり、この世界にも、神様っているのかな?

 いる、んだろうね。少なくとも。


 どういう神様かは分からないけど、ミレッドランドを管理していたような、軽い神様じゃないといいんだけど……。


「ん、ん~……それにしても、眠い……」


 精神的に疲れたのか、強い睡魔がボクを襲っていた。

 むぅ……ぼーっとする……。


「と、とりあえず、夜ご飯だけでも食べよう……」


 軽く頬を叩いて眠気覚まし。

 あまり効果はなかったけど、気休めにはなった。



 その夜。


 強い睡魔を感じながらも、夜ご飯を食べ、お風呂に入るという、ルーティンをこなし、再び部屋へ。


「う……」


 ベッドに近づくと、足元がおぼつかなくなってきて、そのままベッドに倒れこんでしまった。


 そのままだと風邪をひくと思い、なんとか布団に入る。


 すると、抗えないほどの強烈な睡魔が押し寄せてきて、そのまま深い眠りに落ちて行った。


 落ちる寸前、どこかで感じたような感覚と思ったが、深く考える前に落ちてしまったので、よくわからなかった。



 そして、翌朝。


「ん、ん~……さ、さむぃ……」


 目が覚めると、ものすごく寒かった。それに、スース―した。


 ……同時に、嫌な予感もした。


 う、うーん? なんで、パジャマが散乱してるんだろう?


 それから……妙に声が高くなってるような……って、まさか!


 慌てて起き上がって、姿見の前に立つ。


 そこには……


「ま、また、ちっちゃくなってるよぉ!」


 小さくなったボクが映っていた。


 それを見た瞬間、ボクは、がっくりとうなだれ、床に手をついて四つん這いになっていた。


 ……ちなみに、今は裸です。すっぽんぽんです。


「依桜~、おきなさ――」


 そう言いながら入ってきたのは母さんだ。

 母さんは、扉を開けて、四つん這いになっているボクを見るなり、


「きゃあああああああ! 依桜ってば、またちっちゃくなったのね!」

「むぎゅっ!」


 朝からハイテンションでボクを抱きしめてきた。

 う、く、苦しぃ……。


「可愛い! 本当に可愛いわよ、依桜!」

「んっ、んむー! ぷはっ! か、母さん、く、くるしいよぉ」

「あら、ごめんなさい。ついね」

「もぉ……」


 ついで抱きしめないでほしいものです……。

 この姿になると、身長もさらに低くなって、色々困るんだもん。


「それじゃあ、お母さん、朝ご飯とお弁当作ってるから、すぐに着替えて降りてきなさいよー」

「う、うん」


 にこにこ顔で母さんが部屋を出て行った。


「はぁ……このすがたは一度っきりで、もうないとばかり思ってたのに……」


 亜人族になったのは、ハロウィンの時で、三週間前くらい。

 あれを含めたら、二回しか、小さくなってなかった。

 だから、てっきりあれで最後とばかり思っていたのに……この姿。


「おーい、イオー。準備はできて――は?」


 少し気怠そうな師匠がボクの部屋に入ってきた。

 そして、ボクを見るなり、硬直してしまった。


「あー、お前は……イオ、なんだよな?」

「……そ、そうです」

「……あれか? 以前言ってた、体が小さくなるって言う、呪いの追加効果」

「……そうです」

「そうか……そんな感じか……。可愛いな」

「えっ?」

「小さくなるということは聞いていたが、まさか、こんな姿とはな……。ちょうど、普段のお前をそのまま幼くした感じだな」


 なんだろう。師匠の雰囲気がちょっと柔らかいような……?

 それに、声音も少し、軽い? 寝起きなのに。


「まあいい。話は後だな。とりあえず、さっさと服を着ろ」

「……そういえば」


 うなだれていただけで、全然着替えてなかった。


 ……でも、見ているのが師匠だからか、全然恥ずかしくない。

 あれかな。

 修業時代中に、お風呂に入っている時とか、『感覚共鳴』で散々覗かれてたからね……。


「そんじゃ、あたしは先に行ってるからなー」

「あ、はい」


 とりあえず、ボクは着替えた。

 ちなみに、ミニサイズの制服はぴったりでした。



「で? その状態だと、どんな不便がある? あと、身体能力の違いは?」


 朝ご飯を食べた後、ボクは師匠と一緒に登校していた。

 歩いていると、師匠がそんなことを尋ねてきた。


「えっと、このすがただと、三分の一くらいにまでおちます」

「なるほど。外見だけじゃなくて、身体能力も低下する、と。ふむ。なかなかに難儀な体質になったな」

「……師匠のせい、ですけどね」

「ハハハ! まあ、仕方ない!」

「……はぁ」


 こんなもんですよ。

 師匠に言ったところで、何かが変わるわけじゃないですしね。

 分かってましたよ。わかってました。


「まあいい。それ以外は特に問題はないんだろ?」

「しんちょうが低い以外はとくに」

「そうか。それならいいだろ。確かお前、今日も競技に出るんだよな?」

「はい、二つほど。つなひきと、アスレチック鬼ごっこですね」

「ふむ。綱引きはともかく、アスレチック鬼ごっこに関しては、お前……絶対負けるんじゃねえぞ?」

「うっ、は、はい……」


 ものすごく圧をかけられた。


 ……師匠の言いたいことはわかるけど。


 だって、ボクは世界最強の暗殺者の師匠に鍛えられたから、障害物がある競技で負けることは許さない、みたいなことだよね、これ。


 それに関しては、ボクも負けるわけにはいかないです。


 多少なりとも、プライドはありますし。


「しかしまあ、女のお前を見ていると、最初から女だったんじゃないか、なんて思っちまうな」

「や、やめてくださいよぉ。ボクは男です」

「だが、今は女だ。違うか?」

「ち、ちがいません、けど……」

「つーか、まだうじうじ考えてたのか? お前、女になってからどれくらい経つ? それと、もう二度と戻ることはできないんだから、受け入れろ」

「……そうなったのは師匠のせい、ですけど」

「いや、あれはクソ野郎が悪い」

「……」


 この人、絶対に自分のせいだって認めない気だよね?

 ……まあ、向こうで一緒に暮らしている時からそうだったけど。


「ほれ、あたしは今日も色々と仕事があんだ。走るぞ」

「え、ボクにかんけいないような……」

「うるせえ! いいから行くぞ!」

「は、はいぃ!」


 ……師匠には逆らえません。



「お、おはよー……」


 いつも通り……とは言いにくいけど、まあ、いつも通りの時間に到着し、教室へ入る。

 みんな、今のボクの姿を見るなり、ポカーンとしていた。


 と思った、その直後。


『きゃあああああああああああああああああ!』

「ひゃぁ!」


 女の子たちが黄色い悲鳴を上げたことにより、ボクも小さい悲鳴を上げた。


 こ、このパターン、前にもあったような……?


『依桜ちゃん、きょうは天使モードなのね!』

「え、て、てんしモード?」


 何そのモード。


『今みたいな依桜ちゃんの姿の時のことを言うのよ! ちなみに、普段の依桜ちゃんが、女神モードで、耳と尻尾が生えた状態を、けもっ娘モードて呼んでるわ』

「は、はつみみなんだけど!?」


 い、一体誰が考えたのそんな名称!


『あー、でも、今日は天使状態な依桜ちゃんの応援が見れるのね……』

『うん。あの格好を、この姿でしてもらえるとなると、テンション上がる!』

『うんうん! テンションだけじゃなくて、モチベーションも上がるよね!』


 そ、そこまでいいものでもないと思うんだけど……。


 それにしても、そっか……。


 あの衣装を、この姿で着ないといけない、んだよね、これ。

 ……まさか、本当に小さいサイズが必要になるとは思わなかった……。


「おはよう……」

「おはよう、依桜。今日は、小さいのね」

「うん。朝起きたらこうなっちゃって……」

「あれっきりと思っていたんだが……やっぱり、呪いを解かないとダメのか?」

「……たぶん、ね。まあ、もう二度とかいじゅはできないから、むり、だけどね……」

「そうか。てことは、一生それと付き合って生きていくわけか」

「……うん」

「難儀な体質ね」


 難儀、で片付けられるほど、単純じゃない気がするけどね、ボク。


「おーっす」

「おっはよー! って、おお? 依桜君が、天使になってる!」


 二人が教室に入るなり、女委が今日のボクを見て、すごくテンション高くなった。

 なんで?


「なんだ、今日は、ロリなのか……」

「……なんで、そんなにざんねんそうなの?」

「んなもん、応援中の、依桜の乳揺れが見れなくなるかぶらぁ!?」


 言い終わらないうちに、飛び上がってビンタを一発入れた。


 綺麗に、錐揉みしながら飛んでいきました。


 昨日、師匠に『付与魔法』も教えてもらったから、『ヒール』を纏わせてますとも。


 うん。遠慮しなくて済むようになった。ある程度。

 ……まあ、それでもちゃんと手加減はするけどね。


 と言っても、一番いいのは、態徒が変なことを言わないことだけど!


「昨日、結構かっこいいと思ったんだがな……ほんと、全てを台無しにするな、態徒は」

「そうね。自分で上げて、自分で下げるんだもの。まあ、そこが態徒らしいと言えばらしいけどね」

「ちょっ、オレはいつだってかっこいいだろ?」

「……ふっ」

「……女委、なんで鼻で笑った?」

「なんでだろ~ね~」

「くっ……」


 うん、なんか安心した。

 これでもし、変に落ち込んでいたりとかしたら、ちょっと困ったしね。


「それで、依桜は競技とか問題ないのか?」

「んーと、つなひきと鬼ごっこだけだから……うん。多分?」


 絶対に大丈夫とは言えない。


 だって、この姿になると、力のコントロールが難しくなっちゃうし……。

 ……体力測定の日とかがいい例だよね。握力測定をする器械とか、握りつぶしちゃったし……。


 でも、二回目だからか多少は慣れてるけどね、この体にも。


「でも、綱引きってこのクラスは卑怯だよね~」

「そうね。そもそも、依桜の力が異常に強いものね。まあ、今回のはハンデ……になるのかしら?」

「う~ん、たぶん? 一応、本気でパンチしてこわせるのは……岩、とか?」

「あー、うん。全然ハンデになってないわね、それ」

「……まあでも、普通に競技をしても、普通に勝てそうだけどな」

「あら、どうして?」

「考えても見ろ。依桜が小さくなったってことは、必然的に先頭になるだろう? そうなると、相手のチームからはよく見えるわけだ」

「あ、なるほど! つまり、可愛すぎる依桜君を見て、本気が出せなくなる、ってわけだね! なるほど!」

「「ああ、なるほど」」


 あれ、なんで未果と態徒も納得してるの?

 そんなしょうもない理由で勝てるとは思えないんだけど……。


「それに、アスレチック鬼ごっこに関しては、もしかすると、この姿の方が動きやすいかもしれないしな」

「それはあるかも」


 小さいほうが、小回りが利くし、晶の言うように動きやすくなるかも。

 普段だと、その……胸が引っかかったりしそうだし……。


「なら、あまり支障はなさそうね」

「そうかも」

「ならよかったな! でもなぁ、依桜の乳揺れが見れないのが残念だぜ……」

「……態徒、つぎ言ったら……落とすよ」

「ひぃ! す、すんません!」

「まったくもぉ……。それじゃあ、そろそろきがえて行こ」

「ええ、そうね」


 ちょうどいい時間になっていたので、ボクたちは更衣室に向かった。

 はぁ、でも、ちょっと大変になりそうかも……。


 始まる前から、少し気が滅入っているボクだった。

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