第120話 一日目終了
「態徒、大丈夫?」
「お、依桜。おう、この通り、大丈夫だぜ」
試合終了後、一目散にボクは保健室に向かった。
保健室に入ると、態徒はいつも通りの反応を返してくれた。
包帯は巻いているけど。
「えっと、怪我は……?」
「ん、ミオ先生が来てくれてよ、全部治してくれた」
「そっか。よかったぁ……」
師匠、態徒を治してくれたんだ……。
一応、ボクも『ヒール』はかけたけど、師匠ほどじゃないからね。
さすがに、あの大怪我を一度の『ヒール』で治せるわけではない。
と言ってもあの時、師匠もものすごい殺気を放っていたらから、きっと治してくれると思ったし。
どうやら、師匠も怒ってくれていたみたい。
「でもよ、やっぱ魔法って不思議だよなぁ。あんなに怪我しても、一瞬で治っちまうんだから」
「それは師匠がおかしいだけだよ」
苦笑い気味に言う。
あの人は、何でもありだからね……。
蘇生、できるし。
「それで、試合はどうなった? あいにく、オレが起きたのは、ついさっきでな」
「うん。大丈夫。ボクが勝ったから」
「……そうか。なんか、あれだな。女子に敵討ちしてもらったみたいで、かっこわりぃな」
「何言ってるの。ボク、男だよ? 外見上は確かにそうかもしれないけど……心は男。と言うか、最近までは男だったんだから、問題ないでしょ?」
「そうか? う~む……ま、いっか。とにかく……ありがとよ、依桜」
「うん。……それと、ごめんね」
「ん? どうして、依桜が謝るんだよ?」
ボクが態徒に謝ると、きょとんとした表情を浮かべた。
「まさか、あんなことになるとは思ってなかった。瓦割の時とか、変な人に絡まれたね、ってちょっと楽観視しすぎてたよ。そのせいで……態徒が酷い目に……」
今回のこれは、ボクの落ち度でもある。
未果が撃たれた時だって、あれもボクが悪い。
ゆっくりしすぎていたからだ。
もっと早くやっていれば、未果が撃たれることもなかった。
今回のこの件だってそう。
いくら、ブライズが憑りついていたからと言っても、あれはあくまで、きっかけのようなもの。つまり、憑りついていなかった場合でも、いつか同じようなことが起こっていたかもしれないということ。
だからこそ、楽観視していたことが、本当に申し訳ない。
「ハハハ! なんだ、そんなことかよ」
「そ、そんなことって……ぼ、ボクは――」
「いいんだよ。依桜は可愛いからな! やっかみやら嫉妬やらをもらうことなんて、単なる幸せ税みたいなもんだ。だから、依桜が謝る必要なんてないぜ」
「でも……」
「依桜、お前、もうちょっと気楽に生きてもいいんじゃね?」
「気楽……?」
「おうよ。学園祭の時も、未果たちが言ってたけどよ、依桜は一人で抱え込みすぎだからなぁ。オレたち、何度依桜に助けられたことか」
「そ、そうかな……?」
「そりゃあな。今回だって、オレのために動いてくれたんだろ? オレ的には、マジで嬉しいぜ。それによ、あんな奴が、依桜のためだ、とか何とか言ってたものムカついたし、晶もどうこうするって言ってたからよ」
照れくさそうに笑う態徒。
「……やっぱり、優しいよね、態徒は」
「ん? そうか?」
「うん。自分のことよりも、友達のことを優先するんだもん。ボクのこと言えないよ」
「そりゃあなぁ。やっぱり、友達ってのは大事だからな! 悪く言われたら、誰だってキレるぜ?」
まあ、ボクも今回怒った理由はそれだし……。
というか、ボクたちのグループは、みんなそう言う人だからね。
未果も晶も、それに女委も。
みんな、誰かが傷つけられたり、悪口を言われていたら、かなり怒るもん。
「まあ、今回は情けない姿を晒しちまったがなぁ」
「……情けなくないよ。あれだけ痛い思いをしているのに、最後まで闘おうとしてたもん。普通はできないよ。……あそこで折れて、立ち向かえない人たちは、向こうにいっぱいいたからね」
向こうはちょうど、戦争してたから。
戦うのは、その国の騎士の人たちや、冒険者の人たち。
そう言う人たちが、魔族や魔物と戦っていたけど……劣勢になって、追い込まれれば追い込まれるほど、折れる人たちが多かった。
そう言う人たちを、ボクは嫌と言うほど見てきた。
大体の人は、命乞いをするか、逃げるかの二つだった。
でも、今回の態徒みたいに、最後まで戦おうとする人は、あまりいなかった。
だからこそ、今回、態徒がしていたことは、すごいことなんだ。
「あー、そうか。なんつーか、照れくさいな。そこまで褒められると」
「日頃の行いが良くないからね」
「ちょっ、今それ言うか!?」
「あはは!」
うん。よかった。いつも通りだ。
その後も、他愛のない会話をしていると、
「態徒、大丈夫!?」
「大丈夫か?」
「態徒君、無事!?」
と、未果たちが駆け込んできた。
みんなそろって、心配そうな顔をしていた。
「お、未果たちも来てくれたのか。見ての通りだ。元気だぜ」
力こぶを作る仕草をして、みんなに元気なアピールをする。
それを見て安心したのか、三人とも胸をなでおろした。
「……あんな音を聞いて、生きた心地がしなかったぞ」
「腕、踏み砕かれてたものね。それで、腕のほうは?」
「おう。依桜とミオ先生のおかげで、完治したぞ」
「おー、さすが魔法。すごいねぇ」
「ほんとな。オレ、マジで当分は碌に動けねえと思ってたから、マジで嬉しかったぞ」
「すごいのは、師匠だから」
「何言ってんのよ。依桜も十分すごかったじゃない」
ボクが否定すると、未果が呆れたようにそう言ってきた。
それに追随するように、晶と女委もうんうんと頷いている。
「依桜があそこまで怒るとは思わなかったわ」
「だね。依桜君が、あんなに怒ってたのって、未果ちゃんの時くらいだよね」
「まあ、あれはな。だけど、今回の依桜は洒落にならないくらい怖かったぞ。無表情だし、声に抑揚がなかった。その上、ものすごい殺気を放っていたからな」
「ま、マジで? 依桜、そんなにキレてたの?」
「う、うん」
だって、あんなにボロボロにされてたら、ね?
誰だって怒ると思うんだけど……。
「しかも、依桜ったら、ものすごいドSな笑顔で、『ダ~メ♪』とか言うのよ? 何と言うか、ぞくっとしたわ」
「うんうん。わたしも、下着を変える羽目になっちゃったもん。あ、いい意味でね?」
「いや、下着を変えるのに、いい意味も何もないと思うんだけど」
女委って、本当にぶれない。
「それにしたって、四発でKOだったものね。すごく強かったわよ」
「ま、マジ? 依桜、四発KOしたん?」
「ああ。最初に、手刀を脇腹に一発。次に、側頭部にハイキック。それから、上方に投げ飛ばして、すれ違う瞬間に、また蹴りを一発。最後に、首筋に手刀を入れてKOだったな」
「す、すげぇ……。あいつ、ものすごく強くなってたと思うんだが……。しかも、すげえ速い動きしてきたのに……」
「まあ、依桜、だしな」
「そうね。そもそも、こっちの世界の人と依桜を闘わせること自体間違ってるもの」
「え、じゃあなんで出場させたの!?」
間違ってると思うんだったら、最初から出さないで欲しかったよ!
「なんでって……優勝したいからよ。まあでも、出場してよかったんじゃない?」
「どうして?」
「仮に、出場してなかった場合も、今回のようなことが起こった場合、どうしてたの?」
「え? う~ん……」
もし出ていなかったら……。
やっぱり、
「闇討ちする、かな。生きていることを後悔させるほどの苦痛を与えてたかも」
「……ある意味、今回の方がまだマシだった、ってことね」
「だな。だけどまあ、それくらいのことをしたんだ、それくらいは当然だろ」
「そうだねぇ」
うん、やりすぎなような気はしないでもなかったけど、後悔はしていない。
あれを許す気なんて、最初からなかったもの。
「それで? 佐々木、だったかしら? 件の人はどうなるの? さっき、連れていかれてたけど」
「あー、えっと……か、『カイガイ』送り、かな」
「へぇ? 海外ね。あれだけのことをしておいて、旅行ができるなんて、羨ましい限りね」
「そうだな。むしろ、退学かと思っていたんだが」
「結構甘い罰なんだね」
「まあ、骨が折れた程度だし、停学かと思ったんだがなぁ」
「あ、あははは……」
みんなが言っている罰の方が、まだマシだと思うよ、ボク。
だって、ね……。
ボクが言った『カイガイ』は『海外』じゃなくて、『界外』だからね……。
実はあの後、学園長先生に呼ばれて、ちょっとした話をしていた。
「まさか、あんなことをしでかすとは……ごめんね、依桜君。まさか、あんなことになるとは……」
「い、いえいえ! 悪いのは学園長先生じゃないですよ。それと、仮に謝るとしても、ボクじゃなくて、態徒にですよ」
「それもそうね。でも、私が謝っているのはそこじゃなくて……依桜君が目立っちゃったことよ」
「あ……」
……そうだった。
ボク、そう言えば、あの決勝戦でかなり目立っていたよね……?
ほとんど人外の動きをしていたし、投げ飛ばすには難しいほどの巨体と言っても過言ではない佐々木君の体を投げ飛ばしたりね……。
冷静に考えてみると、本当にとんでもないことをしてしまった。
え? エキストラでもう有名になってるって? いや、あの……あれは、あそこまで目立つとは思ってなかったし、モデルも、ね? 偶然だったし……。
「まあ、あれに関しては仕方ないわよ。私としても、あれは許容できないわ」
見れば、学園長先生も、かなり怒っているみたい。
自分の学園の生徒がやったから、かな。
「それで、佐々木君はどうするんですか?」
「……わたしね、実験台が欲しいなぁ、って思ってたの」
佐々木君の処遇に尋ねたら、ふっと笑んで、そんなことを言ってきた。
……実験台。
「あの、もしかして……ですけど、そう言うこと、ですか?」
「ええ、そうよ。六泊七日の異世界旅行♪」
や、やっぱり……。
しかも、六泊七日ってことは、あの機械で行く、ってことだよね?
「だ、大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと緊急装置は付いてるから!」
「き、緊急装置?」
「本当に命の危機に瀕したら、強制的に別の場所に転移するようにしてあるの。だからまあ、死ぬことはないはずよ」
「そ、そうですか」
あれ、そんな機能が付いてたんだ。
……あれ? でもそれ、ボクの時言われてなかったような……?
うん。考えないでおこう。
「それで? 依桜君は反対?」
「いえ、全然。むしろ、それくらいしないとだめだと思ってます」
「あら、意外。てっきり、反対するかと思ったのに」
「そこまで甘くないですよ、ボク。それに、異世界に行けば、多少は性根を鍛えられますから。あとは、弱い意志も何もかも。あとはまあ、態徒に大怪我を負わせた代償、ってことで」
「あら。意外と厳しいのね?」
「当然ですよ、これくらいは。師匠に言われてますから。もし、酷い目に遭ったら、それをやった相手に、倍以上のことで返せ、って」
「ミオも言うわねぇ。まあ、それで正解かな。ああいう人は、それくらいしないと、今後も同じことするもの。もっとも、あれだけボコボコにされれば、しないとは思うけどね?」
「あ、あはは……」
言い返せない。
ちょっとやりすぎたかな、とは思ったけど、それくらいのことをしてくれたし……うん。大丈夫。やりすぎじゃない。
「でも、一日いなくなるんですよね? 家族の人とか大丈夫なんですか?」
「ええ、問題ないわ。お子さんを鍛えます、って言ったら一発OKよ」
「……それくらい、家族の人も困ってたんですね」
「そうみたいよ。乱暴者で、裏でカツアゲしたり、暴力をふるったりね。ま、いい機会だし、異世界で鍛えようかなって」
うわぁ、悪魔の笑顔だ。
悪い顔してるけど……うん、それを聞いたら、同情はしないよ。
大事な友達をやられたからね。ぜひ、異世界で改心してもらいたいです。
なんて、そんな会話があった。
だから、未果たちが言うような罰は、本当にマシなものです。
月とすっぽんどころか、海王星くらいの差があるよ。
「さて、そろそろ一日目の中間発表ね。行かないと」
「お、そんな時間なのか? じゃ、オレも行かねえとな!」
「態徒君、無理しなくても……」
「問題ないって! さ、行こうぜ!」
「なら、俺が肩を貸そう」
「サンキュー、晶。さっすがイケメン!」
「それは関係ないだろ。あと、イケメンじゃないぞ」
そんな軽口をたたきながら、グラウンドに向かった。
一日目、得点。
東軍――1411点
西軍――1666点
と言う結果になった。
ちなみに、美天杯は佐々木君が失格になり、態徒が準優勝になり、不戦杯になった見吉君が三位になった。
現在は、ボクたち西軍が勝っているけど、明日は団体戦。
得点が高い競技ばかりなので、油断せずに望まないとね!
……まあ、ボクが出るのは、鬼ごっこだけだけど。
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