第255話 異世界の人はやっぱりおかしい
四月に入って、一度もログインできてなかったCFOに、久しぶりにログイン。
マイホームを持っている人は、ログインすると、基本的にそこに出現するようになってるので、ボクはそこに。
何も持ってない人は、大体門の前か、噴水の前。
服装は、お店用の服だね。うん。普通。
「とりあえず、師匠とメルを迎えに行こう」
そう言えば、名前について何も言わなかったけど……大丈夫かな。
現実と同じ名前にしてないといいんだけど。
「えーっと……あれ? あそこ、なんだか人だかりが……」
一番近い噴水付近に向かうと、遠目に人だかりが見えた。
一回目のイベント以降、ボクの顔は知れ渡ってしまっているので、あんまり人が多いところに行きたくないんだけど……街の中だとスキルとかは使えないからね……。
……とりあえず、人だかりの中心に誰がいるか、だけど……。
『ああ? あたしは人待ってんだよ』
『そんなこと言わずにさー。おねーさんたち、初心者でしょ? 俺たちいい狩場知ってるから一緒に行こうぜー?』
『わ、儂らはねーさまを待ってるのじゃ! だから、むやみ人について行っちゃダメなのじゃ!』
……あー、師匠とメルだ。
師匠たちに絡んでる人、命知らずもいいところな気が……。
あの人、下手をしたら、レベル1の弱いステータスの状態で、ボクを抜いたこのゲームのトッププレイヤーさんを瞬殺できる気がするんだもん……。
……とりあえず、二人の所に行こう。
「あ、あのー……」
『ふぁ!? め、女神様!?』
『何!?』
『うわ、マジだ。初めて近くで見た……可愛い……』
うっ、やっぱり視線が酷い……。
「えっと、と、通していただけると助かります。あそこにいる二人、ボクの妹と姉なので……」
『あ、あんなに可愛い娘と綺麗な人が、姉妹……?』
『や、やばすぎだろ……』
『ど、どうぞどうぞ』
と、驚愕の表情を浮かべながらも、道を開けてくれたので、師匠たちの所へ。
「ん、おー、イオじゃないか。この馬鹿どもが絡んできてしつこいんだが、どうにかならないか?」
「ちょっ、師匠! ここでその名前は出さないでください! こっちで、ユキって呼んでください!」
「ん、ああ、すまん。そういやなんか言ってたな」
「ねーさま!」
と、今度はメルがボクに抱き着いてくる。
「ごめんね、ボクはちょっと別の場所に出てきちゃうから、ちょっと遅くなっちゃって」
「いいのじゃ! ミオねーさまと一緒だったから大丈夫だったのじゃ!」
「それならよかったよ」
『美少女と美幼女……それに、美女……』
『すげえことになってるな』
あ、そうだ、師匠たちに声をかけていた人は……あ、この人か。
「えっと、そう言うことなので、二人は連れて行きますね」
『あ、は、はい。す、すみません……』
「いえいえ。それじゃあ、行きましょう」
「ああ」
「うむ!」
人だかりの中から二人を回収したボクは、お店に向かって歩き出した。
お店に到着後、二人を中に入れて、席に着く。
ボクは一旦厨房の方に行って、コーヒーと作り置きのケーキを二人の所へ持っていく。
「どうぞ。ボクのお店のケーキです」
「ここでもイオ――じゃなかったな。ユキか。ユキの飯が食えるとはな。こいつは、僥倖」
「これ、食べてもいいのかの?」
「うん。遠慮しないで食べて」
「いただきますなのじゃ!」
「あたしもいただこう」
二人がケーキを食べ始める。
いざ食べ始めると、やっぱり会話がストップするので、一旦食べ終わるのを待つ。
「ふぅ、ごちそうさん。……にしても、ここにはお前の家……というか、店があるのか」
「そうですよ。と言っても、不定期営業ですけどね」
食べ終わると、師匠がそう言ってくるので、肯定する。
同時に、不定期営業であることも、伝える。
「それで、えーっと、二人のキャラクターネームって……」
「あたしは、面倒だったからそのまま『ミオ』にした」
「儂も『メル』にしたのじゃ」
「あー……そうですか……」
二人のキャラクターネームに、ボクは少し苦い顔をする。
その様子を見て、師匠が話しかけてくる。
「なんだ、現実と同じ名前じゃまずかったのか?」
「そうですね。少なくとも、師匠とメルは、リアルモデルですよね?」
「ああ、調整が面倒だった」
「儂は、よくわからなかったのじゃ」
「……少なくとも、それがクリエイトモデルにして、現実と違う容姿にしていれば問題はなかったんですけど……現実と同じ容姿にするクリエイトモデルにして、名前を同じにすると、身バレしちゃうかもしれないんですよ」
「ふーん? まあ、大した問題じゃないだろ。どうせ、あたしはバレても大して問題はない」
さすが師匠……。
何と言うか、本気で思っているからこそ出るセリフだよね……。
「儂は……ね、ねーさまが守ってくれる、のじゃろ?」
反対に、メルはちょっと心配そうに、ボクにそう訊いてくる。
「それはもちろん」
断る理由なんてないです。というか、断るなんて選択肢はないです。
大事なメルだもん。
「安心したのじゃ」
ボクの返答に、安心したような笑顔を浮かべる。
うん。可愛いなぁ。
「それで、えっと、師匠とメルのステータスってどうなってますか? ……って、ああ、そっか。フレンド登録しないといけないんだっけ。えっと、ちょっと待ってくださいね。……二人にフレンド申請を送ったので、それを受けてください」
「了解だ」
「はーいなのじゃ!」
すぐに二人は申請を受理してくれて、ボクとフレンドになった。
「じゃあ、改めて。えっと、ステータスを開いて見せてくれるとありがたいです」
そう言うと、二人はステータスを見せる。
すると、
【ミオ Lv1 HP510/510 MP765/765
《職業:暗殺者》
《STR:280(+197)》《VIT:300(+211)》
《DEX:320(+225)》《AGI:600(+721)》
《INT:650(+455)》《LUC:140》
《装備》【頭:なし】【体:ぼろの外套】【右手:ぼろのナイフ】【左手:なし】【腕:ぼろの手袋】【足:ぼろの半ズボン】【靴:ぼろの靴】【アクセサリー:なし】【アクセサリー:なし】【アクセサリー:なし】
《称号》【神殺し】【不老なる者】【神を超えし者】【世界最強】
《スキル》【気配感知Lv10】【気配遮断Lv10】【消音Lv10】【擬態Lv10】【身体強化Lv10】【立体機動Lv10】【空間移動Lv10】【瞬刹Lv10】【投擲Lv10】【一撃必殺Lv10】【手刀Lv10】【音波感知Lv10】【感覚共鳴Lv10】【弱体化Lv10】【神化LV10】【鑑定(極)Lv10】【無詠唱Lv10】【猛毒耐性Lv10】【睡眠耐性Lv10】【催眠耐性Lv10】【物理耐性Lv10】【刺突耐性Lv10】【魔法耐性Lv10】
《魔法》【炎属性魔法(上級)Lv10】【嵐属性魔法(上級)Lv10】【氷属性魔法(上級)Lv10】【地属性魔法(上級)Lv10】【聖属性魔法(上級)Lv10】【闇属性魔法(上級)Lv10】【武器生成(小)LV10】【武器生成(大)Lv10】【回復魔法(上級)Lv10】【再生魔法Lv10】【付与魔法Lv10】
《保有FP:0》《保有SP:0》】
【メル Lv1 HP150/150 MP375/375
《職業:魔法使い》
《STR:150(+76)》《VIT:200(+101)》
《DEX:100(+1)》《AGI:120(+121)》
《INT:300》《LUC:80》
《装備》【頭:なし】【体:ぼろの外套】【右手:ぼろの杖】【左手:なし】【腕:ぼろの手袋】【足:ぼろの半ズボン】【靴:ぼろの靴】【アクセサリー:なし】【アクセサリー:なし】【アクセサリー:なし】
《称号》【魔王】【天真爛漫な少女】【勇者の妹】【女神の癒し】
《スキル》【偽装Lv7】【魔王化Lv1】【身体強化Lv10】【立体機動Lv10】【瞬刹Lv2】【一撃必殺Lv1】【無詠唱Lv10】【毒耐性Lv10】【睡眠耐性Lv2】【魔法耐性Lv10】
《魔法》【火属性魔法(初級)Lv1】【水属性魔法(初級)Lv1】【風属性魔法(初級)Lv1】【土属性魔法(初級)Lv1】【闇属性魔法(初級)Lv4】【回復魔法(初級)Lv2】【付与魔法Lv2】
《保有FP:0》《保有SP:0》】
…………あ、うん。これは……え、えーっと……反応に困ると言うか……ボクもかなりあれな方だったけど、この二人の方が、色々とおかしくない……?
メルなんて、ボクの初期のステータスよりも高いんだけど……。
あと、称号が色々とおかしいような……。
【魔王】ってあるのに【勇者の妹】はおかしくない?
ここで言う『勇者』って、多分ボクのこと、だよね……?
あと、この『女神』も多分、ボク、だよね……。
向こうの基準で作られているからあれだけど、向こうでも女神って言われてるの? ボク……。
勇者で暗殺者で女神って……普通に考えたら、痛すぎるぅ……。
……まあ、メルはまだ許容。
全然許容……。
でもね……
「師匠のこれはおかしくないですか!?」
「ん? そうなのか?」
さすがに、師匠のステータスだけはおかしい! ツッコミを入れずにはいられないよ!
「メルはまだしも、師匠のは異常すぎます! そもそもこれ、レベル1のステータスじゃないですよ!」
「そうは言われてもな……。というか、これでも現実より弱いぞ? 全部の能力、スキルが反映されてないみたいだし」
「……え、まだ、能力とかスキルを持ってるんですか……?」
「ああ。当然だろう?」
……師匠の当然は、ボクたちからしたら完全に非常識なんだけど……。
AGIとINTのステータスがすでに1000越えなんだけど……どうなってるの?
一応、前のイベントとかバレンタイン以降からレベルも上がって、30にはなったよ? でもね……それでも、いくつかのステータス、負けてるんだけど……。
この人、やっぱり規格外すぎるよ……。
……個人的には、師匠が持つ【神化】っていうスキルと、メルが持つ【魔王化】っていうスキルが気になるけど。
「ねーさま、儂は? 儂はどうなんじゃ?」
「あー、うん。メルも強いよ。というか、下手なプレイヤーより全然……」
初期ステータスがボクと一緒と考えると、何とも言えない気分になる。
……まあでも、可愛いからいいよね。
「にしても、この装備はダメだな……やはり、あたしが愛用してる装備くらいじゃないとダメか」
そんなことをしたら、師匠、このゲーム内でとんでもないことになるんだけど……。
少なくとも、強すぎて誰も手が出せないよ?
「むぅ、儂もこの服は嫌なのじゃ……」
と、メルは自分が着ている服について、不満気な様子。
まあ、メルも生まれたばかりとはいえ、女の子だもんね。
可愛い洋服の方が好きだよね。
「メルの服は、ボクが作ってあげるから、もうちょっと我慢してくれる?」
「ねーさまが?」
「うん。こう見えてもね、ボクはこの世界で、料理屋さんと洋服屋さんをやってるの。要望があれば、メルに合った洋服を作ってあげるよ?」
「ほんと!?」
「もちろん」
「じゃあ……可愛いの!」
「あ、あはは……随分、抽象的……。でも、うん。わかった。可愛いのを作ってあげるね」
「やったのじゃ!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶメル。
無邪気で可愛い。
やっぱり、メルは癒しだよ……。
「師匠も、洋服いりますか?」
「あー、そうだな……あたしとしても、あった方がいいか」
「わかりました。それで、何か要望はありますか?」
「そうだな……やはり、動きやすい服装だろう。下はもちろんホットパンツだな。あれは楽だ。上は……まあ、シャツか何かでいい。とりあえずはそれで大丈夫だ」
「わかりました。それじゃあ、作っておきますね」
幸い、布はある程度ストックはあるしね。
二人分を作るくらいなら問題なし。
そう言えば、【裁縫】って靴とか作れないんだよね。
その辺りは……まあ、ボクが買ってあげればいいかな、
あ、師匠ってどれくらいお金持ってるんだろう?
「師匠って、お金持ってますか?」
「金? ちょっと待て。んー……ああ、4億テリル持ってるな」
「そ、そうですか」
……師匠の現実の所持金って、そんなにあったんだ……。
道理で、働かなくても食べて飲んで寝ての生活ができたわけだよ……。
「メルはどう?」
「儂は……んーと、1000万じゃ!」
「結構持ってるね」
まあ、生まれたばかりとはいえ魔王だからね。
それくらい持ってても不思議じゃないか。
それでも、ボクの方がお金を持ってるみたいだね。
……まあ、ボクの場合お店もやってるからね。
イベントで優勝して以降、ボクのお店にはよくお客様が来るようになったしね。
すごく忙しいんだけど。
カランカラン……
と、ここで入り口からベルの音が聞こえてきた。
「おーっす! 来たぜー」
「やっほー、ユキ君!」
「来たわよ」
「来たぞ」
「あ、みんないらっしゃい!」
みんながボクのお店に入って来た。
「ん、ガキども。元気か」
「あ、未果たちじゃ!」
「って、え、ミオさんにメルちゃん!? どうしてこのゲームに……?」
「えっと、学園長先生が最近の並行世界の件で二人分の『New Era』を送ってくれてね。それで、二人を誘ったら、一緒にプレイすることになったの」
軽く、みんなに師匠とメルのことを伝える。
「へぇ。てことは、今後はミオさんとメルちゃんも加わる感じか?」
「うむ!」
「あたしは、現実では教師で、他にもやることがあるからな。時間が合わない場合が多いから、そう頻繁には来れないな」
あ、そっか。
師匠ってなんだかんだで動き回ってるんだよね。
ブライズの件かな?
師匠から、解決した、なんて聞いたことないし。
それに、向こうから来てる人もいるから、そっちも。
「まあ、ミオさん忙しいからねぇ」
「そうだぞ? あたしとしては、酒を飲んで美味い飯を食う生活だけでもいいんだが……こっちで色々と動くってのはなかなかどうして楽しくてな」
「師匠が楽しいって言うなんて……」
「……お前、あたしのこと馬鹿にしてるのか?」
「い、いえ! そんなことはないです!」
じろりと師匠が視線でボクを射抜く。
こ、怖いよぉ……。
「……まあいい。ああ、そうだユキ。確かこの世界は、あたしらの世界を模してるんだったな?」
「あ、はい、そうですよ」
「てことはあれか? あたしの家もあるのか?」
「ありますね。このゲームを始めてプレイした時に、ボクが持っていた装備やアイテム類は全部回収しましたし」
「なるほど。一応こっちにあるってわけか。……なら、あたしも後で回収しに行くとしよう。場所は変わらないんだろう?」
「はい」
「そうか。ありがとな」
「いえいえ」
……探すのはちょっと苦労すると思うけど、頑張ってください、師匠。
心の中で応援した。
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