第337話 無意識悪魔な依桜ちゃん
初等部での仕事をこなしていると、ボクが出場するドッジボールの時間になった。
一応、仕事の方は交代したので問題なしです。
「来たよー」
『あ、依桜ちゃん待ってたよ!』
ボクがドッジボールが行われる場所に行くと、クラスメートの人がボクを見て笑顔を浮かべる。
「えーっと、最初のしあいってきまってるの?」
『んーん? これからだよ。でも、依桜ちゃんは忙しそうだよね。初等部の方でお仕事って聞いたから』
『そうそう。弟に聞いたんだけど、初等部の方はテンションが振り切ったあまり、怪我する子たちが続出したらしいね。で、それを手当てする銀髪の女の子が大人気とか』
……い、いやいや、銀髪の女の子くらい、ボク以外にも……って、いないよね。
普通に考えたら、ロシア系とか北欧系の人たちじゃない限り、銀髪なんてありえないよね……。
ボクは単純に隔世遺伝だから、日本人なのに銀髪碧眼なわけですし。
……あれ? でも、隔世遺伝って言うことは、少なからずその人の血が流れている……というか、その人の血が色濃く受け継がれちゃってるってことだよね? そうなると、ボクって純日本人とは言えないような……。
うん。まあ、今更。
銀髪碧眼は生まれつき。それだけです。
それがたとえ、海外の人だろうと、人外の人だろうと、関係はないのです。ボクがボクであること。それが大事だと思います。
でも、なんだかんだで、ボクの先祖……ボクが銀髪碧眼になった元の人を知りたいと思っている自分がいる。
あれかな。学園長先生に頼めば調べてくれたりするのかな?
……簡単にやってのけそう。その内頼もう。
その前に、父さんや母さんに聞くのもありかもね。
あ、思考が逸れた。
戻そう戻そう。
……うーん、まさかボクが初等部の方でも変に有名になってるなんて……。
なんと言えばいいのか……。
でも、ボク有名になるようなことしたかな? ただちょっと、いつも通りに優しく丁寧に素早く手当てをしただけだよ?
擦り傷の手当てなんて、十秒もあれば十分だし、仮に骨折していたり、ひびが入っていても、『回復魔法』による治療によって、一瞬で治療が可能。
でも、『回復魔法』の方は別としても、手当ては速いだけで普通。
そこまで有名にならない気がするんだけど……。
可愛い、と言っても、ちょっと小さくなっただけだもん。今のボク。
『依桜ちゃんって、多才?』
「た、たさいって言われても、ボクはふつうだよ?」
『『『え? 男女(依桜ちゃん)が普通……? ないない』』』
……みんな、酷くないですか?
なぜか酷いこと(?)を言われた後、すぐに順番決めのくじ引きが行われた。
ちなみに、代表はボク。なんで? と思ったけど、まあいいかなと。
他の種目と同じく、一枠だけシードがあるみたいです。
今回、そこを狙いたいけど……果たして、ボクの幸運値がそれを引き当ててくれるかどうか。
幸運値というのは、何度も説明している通り、単純に引き当てにくい、もしくは起こり難い事象や可能性を引き当てるもの。
それがもし、複数個あった場合は、本当にランダムになる。
わかりやすいのだと、ボクが以前引いた福引。
玉百個に対して、当たりが一個だったら確実に引くんだろうけど、これがもし、一等が二つ、二等も二つで、三等と四等も二つだった場合、どれもが等しく同じ確立になるわけで……。
そうなってくると、全部が一番引き難いものということになります。
この四つの中から引くのは確実なんだけど、そのどれかまでは不明。だから、一番確率が低いものが、全く同じ確立だった場合、そこからは本当の意味での運になる、というわけです。
それが、今の状況と何の関係が? と訊かれれば、答えは単純。
こういうくじ引きの場合、考え得る確率は三つかな。
一つは、シードを引き当てること。
二つ目は、この中で一番強いクラスと当たること。
そして三つ目、これは二つ目と同じような形で、一番弱いクラスと当たること。
こうなります。
ここで言う一番強いクラス、というのは、ボクのクラスを除きます。だって、ボクの力って異常だもん……。というより、自分のクラスを含めるわけないもんね。
だからこそ、ボクがシードを引き当てるには、実質三分の一というわけで……。
実際、幸運値はかなり正確。
100とか200だったら、ほとんど変わらないんだけど、これがボクのように四桁で、尚且つ7777という、なんだかおかしな数字ともなってくると、低い確率を引くのが当たり前、みたいなところがある。
ちなみに、師匠でも多分、ボクとほとんど同じ結果が得られるんじゃないかなぁ……。
なので、今回はこの三つのどれに転ぶのかわからない……。
あと、今の二つ目と三つ目に該当しないクラスはどうなのか、と聞かれると、ここは幸運値のシステム(?)の面白いところで、一番上と一番下以外は、一つの括りとしてまとめられてしまう節があります。
幸運値が100とか200くらいの人たちは、これを引き当てる場合が多い、というわけです。
……うーん、あれ? そう言えばこういう知識って、どこの本で身に付けたんだっけ?
向こうで調べて、どこかの本に書いてあったような、なかったような……ま、まあ、いいよね。きっと、調べすぎて忘れているだけだよね!
『じゃあ、次の人、引いてください』
あ、ボクの番だ。
よ、よし。引こう。
狙うのはもちろん、シード……極力目立つ機会は減らしたい。
「これっ」
ごそごそと箱の中で手を動かし、なんとなくで引き抜いた棒には……
『八番ですね』
八番と書かれた棒でした。
ちなみに、シードは空白です……。
……や、やってしまった……。
その後、対戦表が張り出され、そこを見ると、ボクのクラスは三年六組。
サッカーの時と同じく、またもや三年生。
それがわかった際、クラスのみんながちょっと苦い顔をしていた。
「えっと、どうしたの?」
『いやさー、三年六組って言えば、ドッジボール部に入ってる奴が多いらしくてな。しかも、無駄に強いんだぜ? うちの学園のドッジボール部。無駄に全国とか言ってるらしいし』
『実際、優勝候補って言われるよねー』
あ、なるほど……だから、ちょっと苦い顔をしてたんだ。
あと、無駄には余計だと思います。
ドッジボール部と言えども、ちゃんとした部活。よく小学生とか、授業でやるようなドッジボールとはわけが違うはずです。
それにしても……一番強いクラスを引き当てちゃったんだね、ボク……。
……これが弱いところならまだ大丈夫だったのかもしれないけど、一番強いクラスともなると、勝ったら相当目立ちそうだよね……。
……でも、ボクの気持ち云々は置いておくとして、普通に考えたらみんな勝ちたいよね……。
ボクの気持ちを優先させてまで目立ちたくないか、と言われればそうじゃない。
できる事なら、みんなの方を優先させたい。
……どのみち、頑張るしかないね。これ。
結局やるしかないと思っていると、ボクたちのクラスの試合になりました。
最初に外野を決めるんだけど……さすがに、ボクが外野になると色々と問題が発生するので、遠慮しておきました。
だって、ボクにボールが回ってきたら、一度も取られることなく当て続けられるよ?
そうなったら、ボク以外の人たちが何も面白くないので、できる限りサポートに回るつもりです。ボク。
そんな事を思っていると、気が付けば目の前でジャンプボールが行われていました。
うわぁ……三年生の人、背が高い……百八十以上あるよね? う、羨ましいなぁ……。
ボクなんて、男の時は157だったのに……許すまじ。
たった一年の差なのに……実質的にはボクの方が年上だけど、なんで、ボクよりも身長が……。
うぅ……神様って酷い……。
ボクなんて、あの三年間で身長はまったく伸びなかったよ。筋肉は結構付いたけど。
でも、それでも華奢って言われたなぁ……腹筋は割れてたんだけど。
……そう言えば、成長期などに筋肉を付けすぎると身長が伸びにくいっていう話を聞いたことがあるけど……あれ。もしかして、あの三年間で身長が伸びなかった理由って……急激に筋肉を付けたからとかじゃあ……?
……あぁぁ……自分で自分の首絞めてたよぉ……あぅ。
で、でも、一応今は身長が伸びてるし、だ、大丈夫なはず……。
せめて、男だった時の身長くらいになってほしい。切実に。
『お、男女危ない!』
うーん……でも、これ以上伸びるのかなぁ……。
『って、え!? ちょ、今なんかノールックで避けなかったか!?』
実際、二十二歳まで人は成長するというのを、以前学園長先生に言われたけど、どうなんだろう?
『というか、なんか考え事してるよね!? 依桜ちゃん、うんうん考えてるよね!? なのに、なんで最小限の動きで避けられてるの!? ちっちゃいのに!』
目標としては、百六十かなぁ……。
やっぱり、元男として、それくらいは欲しいところ……。
……だけど、元日に引いたおみくじには、少ししか伸びないって書いてあったし……絶望的な気が……。
『クソッ! こ、こうなったら……俺の全力投球をくらえぇぇぇぇぇぇぇ!』
パシッ! ビュンッ!
『ごはぁっ!?』
『……依桜ちゃん、今、ノールックでキャッチしてそのままボールを投げてたよね? あれ? 私の目がおかしいのかなぁ?』
『安心しろ。俺もそう見えた。というか、考え事しながら平気でドッジボールしてね?』
『あと、どう見ても目の前のことを見ていない気がするんだけども』
うーん……うーん……って、あれ?
「あ、あの、みんななんでそんなにボクを見てるの……?」
『『『え? もしかして、無意識……?』』』
え? え?
どういうこと? って、
「あ、あれ? なんで、向こうの人が一人たおれてるの……?」
『『『……男女(依桜ちゃん)マジパネェっす』』』
「???」
よくわからない、みんなの反応に、ボクはただただ小首を傾げるだけだった。
話を聞くと、どうやらボクが知らない間に……というより、考え事をしている間にかなりボクを狙ってボールが投げられていたらしいんだけど、それを最小限の動きだけで避けていた上に、正面切って投げられた全力投球を片手でキャッチした後、そのまま反動を活かして投げ放って、投げた相手をアウトにしたとか。
……あの、すごく申し訳ないんだけど……。
「ご、ごめんなさい。ちょっとかんがえごとしてて気づきませんでした……」
『『『ぐはっ』』』
(((つまり、『お前を歯牙にかけることもなく、無意識でも余裕なんだよ! この野郎!』って、ことか……)))
「そ、それに、あの、えと……なげていたことも気づかなかったので、本当に、すみません……」
自動反撃は師匠に仕込まれた技術なので……。
『『『ごふっ……!』』』
(((と、止め刺した!? すでにLPが1だった相手に、オーバーキルした!? か、可愛い顔してえげつない! 天使のような外見なのに!)))
「あ、あれ? え、えと……ど、どうしてひざをついてるんですか……? あの、ボク、もしかしてみなさんにしつれないことを……?」
『『『だ、大丈夫っす!』』』
「よ、よかったです……。でも……すみません、かんがえごとをしてて……。ちゃんとなげてくれていたのに……」
『い、いえ! て、天使ちゃんなら全然OKっす!』
『そうそう! 可愛いは正義です!』
『その通り!』
「え、えと、言っているいみはよくわかりませんが……だいじょうぶなようで、安心しました」
と、ボクが微笑むと、
『『『て、天使……ごふっ……』』』
という声を発した後に、なぜか相手のチームの人たちが倒れた。
な、なんでいい顔してるの……?
『は、鼻血を噴き出して気絶している……ともかく、試合続行不可ということで、二年三組の勝ちとします!』
なぜか、勝ちました。
(((男女(依桜ちゃん)って、言葉と笑顔だけで勝てるのでは……?)))
一瞬、クラスメートのみんながまったく同じ事を思っていた気がしたけど、気のせいだよね。うん。
……でも、なんで倒れたんだろう?
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