第338話 師匠はやっぱり異常者
一回戦目はボクたちの勝利だったんだけど、なぜか倒れる人が続出。
どうしたんだろう? と心配になったけど、よくわかりませんでした。
ボク、何かしたかな……?
と、そんな感じに試合も終了したので、次の試合が始まるまでは自由時間。
今ならメルとクーナの所に行っても問題ないかな?
じゃあ、ちょっと行ってみようかなぁ、と思って動こうとしたら、
「あ、依桜君発見~」
「んみゅっ!?」
いきなり誰かに抱きしめら、持ち上げられる。
軽くじたばたして顔を上げると……
「あ、あれ? 希美先生?」
そこには、いつものように微笑みを浮かべた希美先生がいた。
なんで、抱きしめられて持ち上げられているのかはわからないけど……。
「ちょうどよかったです~。じゃあ、行きましょうか~」
「の、希美先生? あの、いきなり行くって言われても、どこへ……?」
「えーっと、高等部の救護テントです~」
「高等部の……? でも、ボクは初等部のたんとうでこっちはちがうはずですけど……」
「それが、ちょ~っと人手が足りなくなってしまって~……それで、一番戦力になりそうな依桜君を探してたんですよ~。ほら、依桜君は大怪我ですら治せちゃいますし~」
「ま、まあ、なおせますけど……」
でも、あれは魔法だし……。
むやみやたらに使うのは、正直なところ危険なんだよね、こっちだと。
向こうでならまあ……多少騒ぎにはなるけど、不思議なことじゃない。
でも、こっちの世界において、魔力はあっても魔法を使える人は基本的にいない。
師匠辺りは何か知ってそうな気がするけど、まあそこまで気にしなくてもいいようなことなので、別にいいんだけどね。
ともあれ、こっちの世界に魔法という存在がない以上、こっちで使うと悪目立ちしてしまうおそれがある。というより、かなり高いんじゃないかな。
病気も一応治せなくはないしね、ボク。
多分……癌とかならまあ治せるかな?
さすがにそれ以上のものとなると、ボクには無理。
師匠はできと思うけどね。あの人、おかしいもん。
初等部の子たちなら、まあ誤魔化しが効くけど、さすがに高等部の人たちは効かないんじゃないかなぁ……。
子供は言い方は悪いけど、単純に物事を考えるから誤魔化しやすい。
でも、高等部の人となると、自分で考え、それがいったい何なのか、ということをしっかり考えられるような年齢。
そうなってくると、ボクが魔法で治せば騒ぎになるのは一目瞭然。
できれば避けたいんだけど……
「お願いします~。無理を言っているのはわかっているんですが、人がいないのはまずくて~……。それに、怪我人も多いんですよ~」
むぅ、怪我人が多いですか……。
それは何と言うか……放っておけないよね……。
「わ、わかりました。てつだいます」
「ありがとう~。じゃあ、GOGO!」
そう言って、希美先生は高等部の救護テントに向かって歩き出しました。
……ボクを抱っこしたまま。
「あ、あの、希美先生? なんで、だっこなんですか……?」
「抱き心地が最高だからですよ~」
「……お、おろしていただると……」
「嫌で~す~」
「そ、そですか……」
結局、救護テントまで抱っこされたままで連れて行かれました。
……ただ、後頭部にふわふわした何かが当たってたんだけど……恥ずかしくなりました。すごく。
「は~い、助っ人を連れてきましたよ~」
『あ、希美先生! 助っ人は……って、え! て、天使ちゃんですか!?』
「そうですよ~。さっき拾いました~」
「す、すて犬みたいに言わないでくださいよぉ!」
「ふふふ~」
なんだか、この姿だとよくからかわれるような気がしてなりません……。
ボクって、からかいやすいのかな……?
「え、えっと、男女依桜です。よろしくおねがいします」
希美先生に下ろしてもらい、とりあえず自己紹介をしてお辞儀。
『え、えっと、依桜ちゃん、でいいのかな?』
「はい、だいじょうぶです」
『じゃあ、えっと、怪我人が来た時の手当てをお願いできるかな?』
「わかりました。まかせてください!」
にっこり笑ってそう言うと、みなさんがなぜか顔をにやけさせた。
何かいいことでもあったのかな?
というわけで、そのまま仕事をしよとしたところで……
「あ、依桜君はナース服ですよ~」
有無を言わせない笑顔を浮かべた希美先生によって、強制的にナース服を着させられました……ぐすん。
そんなこんなで、お仕事。
相変わらずナース服。
……もう慣れてしまっている自分が嫌です……。
というより、なんでボク、いつもイベントごとでコスプレなんてしてるんだろうね……。見てよ。ボクの周り。誰もナース服なんて着てないよ? ボクだけだよ?
すっごく浮いちゃってるのに……みんな酷くないですか?
なんて思いつつも、仕事はしないとね。
酷いのはいつものこと……うん。いつものこと……。
「次の人どうぞ~」
せっせと手当。
こうやって、人のために何かをするのってなんだかんだで好き。
昔からそうだった気がするなぁ。
特に親しい人とだと余計に。
なんでだろう?
『って、え、て、天使ちゃん、だと……!?』
「てんし?」
『あ、いえ、いえ! なんでもねっす!』
「そうですか? えーっと……あ、顔をけがしちゃったんですね。じゃあ……ちょっとしょうどくしますね」
『う、うっす……』
んーと、多分ボールが当たったんだろうね、ドッジボールの。
人によっては、顔に当たると痛いし、微妙に傷になったりするもんね。
とりあえず、いつものように消毒。
うー、絆創膏が貼りにくい……し、仕方ない。ちょっと顔を近づけよう。
「ぺたっと……はい、これでだいじょうぶですよ」
『っあ、ありがとう』
「どういたしまして。けがには気をつけてくださいね?」
微笑みながらそう言うと、男子生徒の人はなぜか顔を赤くした。
うん? 風邪?
『じゃ、じゃあ、俺行くぜ!』
「あ、はい。がんばってくださいね!」
走り去る男子生徒の人の背にそう声を掛けながら、軽く手を振った。
うんうん。元気で何よりだね。
やっぱり、こういうイベントは元気でやるのが一番だもん。
……まあ、ボクはなぜか、こっちで仕事をしているわけだけどね……ナース服で。
別に、仕事をするのはいいんです。でもね……ナース服はちょっと……。
なんでだろうね……。
さて、そんなこんなでちょっとした問題が発生しました。
というのも……
『う、うぅっ……』
頭から流血している人が救護テントに運ばれてきたからです。
え、い、一体何が!? って、大抵の人は思います。
どうやら、ソフトボールの方でちょっとしたアクシデントがあったみたい。
キャッチャーの人が少しふらついて前に行ってしまった際に、タイミング悪くバッターの人がフルスイングしたバットがキャッチャーの人の頭に直撃。
それで、大騒ぎになって救護テントに運ばれてきた、というわけです。
ちょっと、これは問題。
ボクはこっそい『鑑定』を使用。
……あ、これ、本当にまずい。
急いで治療しないと危険かも。
救護テント内は騒然としていて、今は希美先生が手当てにあたっています。
その際、ちらりとボクを見たのを、ボクは見逃さなかった。
つまり、魔法で手当てを、っていうことだよね。
……本来なら、魔法を使うのは色々とまずいけど、今回ばかりはそうも言ってられないし、後で師匠に言ってどうにかしてもらおうかな。
ともかく、今は治療。後のことは後。
急いで治療しないと、危険すぎる。
「とりあえず、みなさんは一度離れてくださいね~。あとはこちらでどうにかしますから~」
『で、でも……』
「安心してください~。これでも先生、医師免許持ってますから~」
……初めて知った。
希美先生って、医師免許持ってるんだ。
「とりあえず、依桜君は私と一緒に来てくださいね~」
「あ、わ、わかりました」
「はい~。じゃあ、みなさんは一度解散です~」
そう言うと、渋々ながらも、救護テントにいた人たちは散っていきました。
「……さて、依桜君、ちょっと移動しましょうか~。色々とあれですし~」
「そうですね。とりあえず、師匠をよんでいいですか?」
「もちろんですよ~」
ということなので、試しに心の中で師匠に呼びかけると……
『ん? どうしたイオ?』
本当に、繋がった。
師匠ってもしかして……常時、『感覚共鳴』をボクに使用しているんじゃあ……?
『失敬な。これでも一応、使っている場合と、使ってない場合があるぞ?』
あ、そうなんですね。……って!
やっぱり使ってるじゃないですか!
『気にすんな。で? 一体何の用だ?』
……逸らされた気がするけど……とりあえず、今は緊急。
師匠、ちょっと高等部の救護テントに来てほしいんですけど、大丈夫ですか?
『了解だ。二秒後にそっちに行く』
え? 二秒後って?
「おまたせ」
「って! 今どこから来ました!?」
「ん? 屋上からフリーフォールだが?」
「……そ、そですか」
なんで屋上にいたのかはさておき。
「それで、一体何……って、ああ、なるほどな。理解した」
師匠救護テント内の様子を見て、すぐに察した。
さすが師匠。
「概ね、お前が治療するから、あたしにはその記憶削除をお願いしたい、ってところか?」
……本当に、さすがすぎませんか?
「ま、あたしだからな」
「心を読まないでください」
「ははは。まあ、いいだろ。ほれ、さっさと治療しないと、色々とまずいぞ」
「あ、そ、そうでした!」
慌てて怪我した人の頭に手をかざし、『ヒール』を使用。
魔力量で効果が上昇するって、本当に便利だよね……。
そう言う仕組みでよかった。
ヒールをかけると、みるみるうちに怪我した箇所が修復されていく。最初は苦しそうだったけど、怪我が治るのと同時に、穏やかな表情に変わる。
「本当、魔法って反則よね~。先生、ちょっと自信なくしちゃいます~」
「い、いえ、むしろ向こうの世界ではこっちの世界のちりょうぎじゅつがはんそくって言うと思いますよ?」
なにせ、魔法が使えなくても病気が治せたりするわけだし……。
それに、病気とか怪我が治せる魔法は存在してるし、現にボクも使えなくはないけど、実際それができる人って言うのは少ないみたいだしね。
師匠曰く『回復魔法』を使える魔法使いはなかなかいない、っていう話だし。
難しいそうです。『回復魔法』。
「まあ、イオの言う通りだな。あたし的には、魔法が使えずとも、技術さえ身に付ければ治療ができるってんだから、こっちの方がすごいだろ。異世界側の人間として、マジで尊敬するぞ、あたしは」
「そ、そうですか~? ミオさんに言われると、なんだか照れますね~」
「あたしらは魔法が使えるとはいえ、魔法とて万能ではない。結局そいつ自身が使えなければ、全く意味がない。そう言う点で言えば、こっちの世界で広まっている科学って言うのは、誰でも扱える代物だ。ある意味、反則だよ」
たしかに、そう言う見方もできるよね。
でも、結局のところは、どちらにもいいところはあるわけで。
「さて? 治療も済んだみたいだが……これ、完全に治してよかったのか?」
「え?」
どういう意味だろう?
あそこまで危険な状態ともなると、完璧に直した方がいい気がするんだけど……。
「……だからお前はまだまだなんだぞ、愛弟子」
「え、えっと、どういういみでしょうか?」
「考えても見ろ。あそこまで大怪我した人間の怪我が、なぜか綺麗さっぱりなくなってるんだぞ? 明らかに不自然だろうが」
「……あ」
い、言われてみれば……!
「……まったく。しっかりしてるようで、抜けている弟子だ。だがまあ、仕方ない。面倒だがあたしがどうにかしてやろう」
「え、ほ、ほんとですか!?」
「ああ。可愛い弟子の尻拭いくらい、師匠であるあたしがどうにかするってのが、当然ってものだ」
「ありがとうございますっ、師匠! 大好きですっ!」
ばふっと思いっきり師匠に抱き着く。
あ、ちょっと安心するかも……。
「んなっ、お、お前、いきなり大好きとか言うなよ!」
「で、でも、ボク師匠のことは大好きですよ……?」
それが何か変なのかな?
うーん?
(……ああ、なるほど。今気づいたが、こいつ、幼女化したことで、精神面も同時に逆行してるな。そりゃ、普段は大好きなんて面と面向かって言えないイオが、あたしに堂々と大好きだなんて言えるわけだ……。そして同時に、こいつは気づいてない。ふむ……だが、可愛いからOKだな)
「それで、師匠。いったいどうするんですか?」
「ん? 簡単だ。学園にいる全生徒の記憶を改竄する」
「……え」
何でもないようにさらりと答える師匠に、ボクは思わず固まった。
「そうだな……まあ、こいつは大怪我をしなかった、って変更して、実際はちょっとした擦り傷程度でいいだろ。それでよしだ」
「あの、師匠? 今、学園にいる生徒ぜんいんって……」
「? 何か問題あるか?」
「……………………いえ、ないです」
「よし、じゃあ手っ取り早く行こう。そこまで大きな改竄じゃないんで……この規模なら十秒程度で行けるな」
……すみません。ボクの師匠、三千人以上の規模の人たちの記憶を十秒ほどで改竄できるらしいんですけど……弟子のボクは、どう反応すればいいんでしょうか?
そんな風に思うボクをよそに、師匠は本当に十秒で記憶改竄を済ませていました。
こ、怖い……。
その後、治療が終了した男子生徒の人は、目を覚ますと不思議そうにしていたけど、軽い怪我をしたからだと思い出す(師匠の記憶改竄)と、軽くお礼を言ってから、救護テントを出ていきました。
ボクはこの日、師匠が十秒という短い時間で記憶改竄ができることを知り、すごく怖くなりました。
……師匠って、本当にどうなってるんだろう?
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