第336話 二日目の朝、救護テントにて
「おはよー」
『『『ああ、今日はロリか』』』
ボクがいつも通りに登校して、教室に行くと、クラスのみんなから一斉にそう言われた。
慣れたね、みんなも。
「おはよう、依桜」
「あ、おはよー、未果。それと、晶」
「ああ、おはよう。……しかし、久しぶりじゃないか? その姿は」
「うん。最後に小さくなったのは、CFOの時だけど、あの時はしっぽと耳があったからね。このすがただと、四月、かな」
「ん? 四月は、その姿になっていた記憶がないんだが……」
「あ、そっか。あの時は並行世界にいたし、わからないよね。むこうでちっちゃくなっててね。たぶん、最後はその時」
「へぇ~。私たちが知らない間に、小さくなってたわけね」
「うん」
平行世界では、もう一人のボクもその姿になるらしいけど、そう言えば見なかったなぁ。
あの時は、小さい姿と大人の姿だったからね。
今のボクは通常時の姿を含めて、五パターンあるけど……その内の一つ、通常時に耳と尻尾が付いた状態の姿は、冬〇ミ以降、一度もなっていない気が……。
ま、まあ、変化しないのはいいことなんだけどね。ボクからしたら。
「おーっす」
「おっはー」
「あ、二人とも、おはよー」
「んお! 依桜がロリになってる!」
「おー! 久しぶりのロリ依桜君だ! やった! 今日はこれで勝つる!」
「か、勝つるって……えっと、女委は今日出るしゅもくはなかったはずだけど……」
「細かいことは気にしないのー。それにそれに、依桜君がロリになれば、ただでさえ高かった勝率が100%レベルにまで引き上げられるからね!」
『『『うんうん』』』
「あの、なんでほかのみんなもうなずいてるの……?」
この世に100%なんてないと思うんだけど……。
もしかしたら、ボクが誰かが投げたボールに当たる可能性だってあるんだよ? 全力で避けるつもりだけど。
……まあ、当たろうものなら、師匠からのお仕置きが飛んできそうだけどね……。
「ドッジボールは外だっけか?」
「あ、うん。そうみたいだよ。ソフトボールは野球用のグラウンドを使うみたい」
「……俺たちは慣れているからあれだが、普通に考えて野球用のグラウンドが別で作られていたり、テニスコートやプールが屋外と室内に一ヵ所ずつとか、相当おかしいよな、この学園」
「今更でしょ。少なくとも、フルダイブ型MMORPGを創るような人物が学園長をしている学園よ?」
「……それもそうか」
「わたしたち、知らない間に毒されてるよねぇ。だって、学園がこんなにおかしな場所なんだもん」
「だなー。特に依桜なんてすっげえ巻き込まれてね?」
「あ、あははは……」
……ほんとにね。
この学園が変だと思いだしたのは、異世界から帰ってきた後だったなぁ……。
それまでは変だとあまり思わなかったよ。
「んでもよー、変とは言え、この学園は楽しいよな。イベント多いしよ」
「まあ、そうね。学園長が何と言うか……快楽主義的な部分があるわけだしね」
快楽主義……あながち否定できないというのもなんだかなぁ……。
あの人は何と言うか……自分が楽しそう、楽しいと思ったことに対しては愚直なまでに行動するし、そこに謎の気持ちよさを見出してそうだもんね……。
「そう言えば、依桜は、最初は保健委員の仕事?」
「うん。そうだね。初等部の方でおしごと」
「あれだね。ロリロリしい姿で行ったら、初等部の子供たちがこぞって話しかけそうだよねぇ。どう見ても、小学四年生くらいだし~」
「そうだな……。依桜、頑張れよ」
「も、もちろん。あと、別に話しかけてこないと思うよ? ボクだもん」
「「「「……」」」」
あの、なんで何も言わないんでしょうか……。
最近、みんながボクに冷たいような気がします……。
それから少しして、球技大会二日目開始時間となったので、更衣室に行き着替えた後は、グラウンドの方へ。
と言っても、ボクはすぐに仕事があるので、そのままみんなと別れて初等部の救護テントの方へ。
……ちなみに、例によってナース服です。小さい時用の。
「おはよございます」
「おはよ――って、え? だ、誰?」
ボクが救護テントに挨拶をしながら入ると、にこやかに挨拶を返そうとしていた小倉先生の表情が一瞬固まり、誰、と言ってきた。
うん……そうだよね。
「え、えーっと、しんじがたいかもしれないですけど、ボク、依桜です。男女依桜」
「……え? お、男女さん? ほんとに?」
「じ、実はたまに体の大きさが変わるたいしつでして……そのぉ、ちょっと、ちっちゃくなってまして……」
「ふ、不思議な体質……ま、まあでもわかりました。でも、小さくなったら手当とかしにくいんじゃ?」
「だいじょうぶです。小さいじょうたいはなれてますから」
「さすがですね、男女さん。でも、手当てが慣れてる女子高生というのも、ちょっとおかしな話ですね」
くすりと笑いながらそう言う小倉先生。
ボクの場合は、昔から救護道具を持っていたのと、単純に向こうの世界で何度も手当てをしていたからだしね。
慣れて当たり前というか……。
「でも、それくらいの姿だと、逆にやりやすいかもしれませんね。ここは初等部のテントですから」
「そうですね。初等部の子たちと同じくらいのせたけですからね。やりやすいかも」
「まあとりあえず、今日もよろしくお願いします、男女さん」
「はい!」
というわけで、今日のお仕事が始まりました。
……なんて、そんな感じに気楽(?)に思ったものの……
『ね、ねえねえ、君って何組!?』
「え、えーっと、あの……」
『ずるい! 俺にも教えて!』
『今度一緒に遊ばない!? 秘密基地があるんだ!』
こんな風に、救護テントに来た子供たちに囲まれていた。
あ、あのぉ~……なんで、こんなことに?
たしか……最初は……
『す、すみません、怪我しちゃったんですけど……』
「わかりました。じゃあ、そっちにいる娘――男女さんに手当てしてもらってね」
『は、はい』
最初に来たのは、五年生くらいの男の子。
えーっと、今日は基本的に全部の種目が同時に行われているはず。
でも、転んだような跡があって、砂が付いているところを見ると、ドッジボールかソフトボールだね。
「えっと、どうしたのかな?」
『え!? か、可愛い……』
「? あの、どうかしました?」
『あ、う、ううん! え、えっと、ちょっと転んじゃって……』
「わかりました。じゃあ、そこに座ってください」
『う、うん』
なぜか顔が赤い男の子をベンチに座らせる。
救急箱からガーゼと消毒液、あとは傷口の大きさに合った絆創膏を取り出す。
最初は水で軽く流して汚れを取る。その後に消毒して、絆創膏を貼る。
「はい、もうだいじょうぶですよ」
『あ、う、うん。えっと、あ、ありがとう』
「どういたしまして」
にこっと笑ってそう言うと、
『――っ!』
男の子はさらに顔を真っ赤にさせた。
「あ、あれ? どうしたの? もしかして、具合でも悪いのかな?」
ちょっと失礼と思いつつも、男の子に額に手を当てる。
「うーんと……うん。ねつはないみたい……って、え!? だ、だいじょうぶ!? すっごく赤いよ!?」
『な、なななんでもないでひゅっ!』
男の子はそう言うと、慌てたように救護テントを出て行ってしまった。
「も、もしかしてボク、何かきにさわることでもしたのかな……?」
ちょっと心配になった。
「……すごい。無意識で男の子を堕としてる……男女さん、恐ろしい娘っ……!」
なんとなく、小倉先生が戦慄していたような気がした。
それで、その後も怪我の手当てをして行った。
打撲した人にはそれに適した方法を。擦り傷にも同じく。
たまに、ちょっとドクターストップがかかりそうなほどの結構な大怪我の子もいたんだけど、そう言う子たちにはこっそり『回復魔法』を使用。さすがに、初めてのイベントごとで、怪我して参加できない! なんていうのは、小学生の子たちには酷だもんね。
思い出づくり。大事。
その時、基本的に笑顔で丁寧に素早く手当てをしていました。
なぜか、手当てした子(特に男の子多め)たちが顔を赤くしていたのが気になったけど。
そんな風にしていたら……
今の状況になったわけで……。
あれ? これって、ボクが悪いの?
でも、ただ手当てをしていただけなんだけど……うん。ボク、悪くない。
だけど、この状況をどうにかしないとだめだよね。
「え、えっと、いきなりそう言われてもこまるというか……ここは、きゅうごテントです。けがをした人を手当てするところなので、あの……あ、あそびにさそったりするのは、こ、こまります……」
(((か、可愛い……)))
うん? なんか今、同じことを思っていたような気が。
こてんと小首を傾げる。
「あざとい……あざといですね、男女さん……」
あれ? 小倉先生も何か今言っていたような……。
なんだろう?
って、そうじゃなくて。
「え、えっと、それで、とりあえずは自分たちのクラスの人のおうえんに行くとか、おともだちのおうえんに行った方がいいと思います、よ?」
『わ、わかった! 俺、友達のとこ行ってくる!』
『お、おれも!』
『俺も俺も!』
と、そう言って、男の子たちは去っていった。
何だったんだろう?
……とりあえず、これで困りごとはなくなったね。
なんだか、追い出すみたいな感じになっちゃって、すごく申し訳ない気持ちになったけど、ここは救護テント。遊ぶ場所じゃないのです。
「大変でしたね、男女さん」
「小倉先生……見てたのなら、止めてくれても……」
「いえいえ。小さな少年たちが若すぎる青春をしている姿を見たら、止めるのが忍びなくて」
「どういういみですかそれ」
「んー、少年たちの淡い恋心、的な?」
「恋心もなにも。あいてはボクですよ? さすがにないですよ」
「……あれ。もしかして、男女さんって相当な鈍感……?」
小さい声で何かを言っていた気がするんだけど……なんて言ってたんだろう?
「ね、ねえ男女さん。あなたって、周囲の人に鈍感とか言われたことない?」
「え? まあ……ありますよ? なぜか。ボク、けっこうするどいと思うんですけどね。てきいやさついのこもったしせんとか、たまにくるむねへのしせんとか気づくんですけど……」
「……あ、はい、そうですか」
小倉先生、なんでちょっと微妙な表情してるんだろう?
ボク、変なこと言ったかな……?
あ、もしかして、殺意とか敵意のことかな? まあ、こっちの世界の人は普通に暮らしていたら、ほとんど遭遇しないようなタイプのものだもんね。微妙にもなるよね。
(絶対、違う意味で納得してる、男女さん。そっか……超鈍感で、ド天然なんだ、男女さんって。しかも、異性を無視気に堕としてるし……何かのキラーでも持ってそう。……ある意味、天然記念物)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます