第536話 林間・臨海学校の裏側1

 ゴールデンウイークが明けると、球技大会なるものが開催されたんだが……ここで、エイコのバカがやらかした。


 そのせいだろう、イオがなんかやたらキレ、最後の種目ではそれはもう目立ちまくった。


 あれは仕方ないし、自業自得だな。


 あたしも何度か殺して蘇生してを繰り返したくらいだ。


 なのに、あいつ精神が壊れねぇ辺り、逸脱してんだよなぁ。


 まあいい、球技大会はイオがあれした以外は特に何もなかったしな、まぁ、見ていて面白い部分もあったんで良しとする。


 あー、いや、強いて言えばイオが幼少の頃、謎の数日の羅列を口にしていた、と言う話を聞いたっけか。一応全部記憶しているが……あたしにもさっぱりだった。何も意味のない羅列、と言うわけではないだろうが……あれは少しずつ解読していくとしよう。


 球技大会後、イオがメイの頼みでアイドルのライブ会場で警備員をする仕事を引き受け、あたしもそこに同行することになった。


 まぁ、その場でイオはアイドルとして舞台に上がっていたが……ふっ、さすが愛弟子、マジで可愛かったぜ。


 やはり、あいつの可愛さは世界一だな。


 あいつがライブに参加している間、あたしはと言えば犯人を見つけて即座に捕まえた。


 ま、なんてことない奴だったがな。


 帰りはイオと共に焼き肉を食って帰った。


 こちらの世界の食べ物は美味いし、酒も美味い。ふっ、いいことばかりだ。


 アルバイト後、イオたちと共にレジャープールなる場所へ遊びに行った。


 レジャープールなる場所はなかなかに面白く、いい修行場となった。


 途中、例のアイドルと再会し、再びイオがアイドルになる出来事があり、結果再びアイドルとしてかつどうをすることになっていたがな。


 あたしも演出面で手伝ったし。


 あれはあれで面白かったな。


 それからイオは職業体験なるものをしていた。


 そこでは……なんか知らんが、まーた厄介ごとに巻き込まれて、助けちまったらしいが。


 あいつほんと、どうなってんだかね。


 その他にも、例のアイドル――エナがイオたちが通う学園に転校してくるという出来事があったが、早々に馴染んでいた。


 元々、プールの時に顔を合わせていたからな。


 それにより、イオたちのグループに、エナが加わることになり、結果的にあたしが守護する人間が一人増えちまったわけだが、まぁ一人くらいなら増えた内に入らん。


 問題はねぇ。


 エナが転校してから少しすると、夏休みとやらが目前になる。


 なんでも、法の世界では夏季は猛暑が続くため、一ヶ月以上学校が休みになるそうだ。


 他にも、教師が勉強する期間を設けるためでもあるらしいが、まぁ、一ヶ月は宿題さえやっていれば問題が無いと言う、学生にとっちゃ天国のようなものらしい。


 教師は学園に行かなきゃならねーらしいが……あたしは生憎と、体育は実技担当なんでな、関係はない。


 それに、あたしもあたしで調べることがある以上、そっちに時間を割きたくないという理由もあるがな。


 イオの調査を進めなきゃならねぇからなぁ。


 と、まぁその夏休みなんだが、どうやら夏休みの頭に林間・臨海学校なる行事が行われるらしく、これは全校生徒参加の旅行のようなものらしい。


 随分とまぁ、気前がいいこって。


 その林間・臨海学校だが、どうやら野外活動を学ぶことがメインのようだ。


 話を聞く限りじゃ、軽いサバイバルなんかをするらしい。


 寝床は旅館らしいが、昼飯は自力調達らしい。


 なかなか面白い授業をするじゃねーか。


 あたしとしちゃ、ただ運動をするだけってのも悪くはねぇが、刺激が足りなくて退屈していたところだ。


 つってもまぁ、頑張るのは主に学生側だがな。


 そんな林間・臨海学校だが、当然あたしも行くことになっている。


 というより、教師も基本全員参加らしいからな。


 なので、あたしも行くことになる。


 実質旅行みたいなもんだから楽しみってもんだな。



 そうしてしばらくすると林間・臨海学校当日になる。


 あたしは今回はイオたちが乗るバスには乗らず、別のバス……つーか、まぁ、車? だ。


 道中は特に問題らしい問題が起こることはなく、最初のイベントであるカレー作りが行われる。


 ガキどもは楽しくカレー作りを行い、その出来に一喜一憂していた。


 教師側も実は自分たちで作ることになっていたんだが……


「なに? あたし以外に料理ができる奴がいない?」

「すみません……」

「悪いな、ミオ……」


 あたしは今回、あたしとトウコ、それからクルミと共に作ることになっていたんだが、どうやらあたし以外は料理が出来ないことが発覚。


 予想外過ぎて、目を丸くさせちまったよ。


「というか、ミオ先生はできるんですか?」

「まあな。一通りできるぞ」


 イオには負けるがな。


「み、ミオ先生が料理ができるなんて……!」

「おい、どういう意味だ、トウコ」

「……悪い、私も同意見だ。ミオが料理できるとか想像できないと言うか、な?」

「まぁ、言わんとしていることはわかるが……何気に酷くないか?」


 あたしは料理が出来ないように見えているのか……。


 しかし、なぜだ。


「だって、ミオ先生って男女さんのお弁当を持参してますよね?」

「ん? あぁ、まあな。あいつ、何も言わずに作ってくれるからな、マジで助かってる」

「そこ、そこですよ! 普通、周囲にお弁当を作ってもらえる人がいるなら、絶対にできないって思っちゃいますよぉ!」

「しかも、相手が男女だからな……冬子先生の言いたいことはわかる」

「いやしかし、弟子ができるからと言って、その師匠が出来ないってのは偏見だろ。現にあたしはできるしな」

「くっ、や、やはり、料理! 料理が出来なければ彼氏はできないんですか……!」


 あー、またトウコが彼氏欲しい状態になっちまったよ。


 しかし、料理か……。


「たしかに、あたしが住んでいた世界――もとい、国なんかじゃ、料理ができる奴ってのは大抵家庭か恋人を持ってるもんだったな」

「「ぐふっ」」


 あたしが話す事実に、二人はまる血反吐を吐くかのような反応を見せた。


 あぁ、自分たちが出来ないから彼氏ができない、とか思ったんかね?


 しかし。


「いや、あくまでもそういう奴が持ってるってだけの話で、そうじゃない奴らだって結婚まで行ったやつだってかなりいたぞ?」

「ほ、本当ですか!?」

「あぁ。というより、料理なんかは二の次で、性格、ってのが一番だったからな」


 あたしの言葉を聞いて、二人は安堵したような表情を浮かべる。


 ……まぁ、あたしが知る限りじゃ、そういう奴らは大抵やたら強い冒険者だったり、何らかの特殊な力を持った奴らだったり、あとは家庭的な男を捕まえるなりをしていたわけだが……こっちと向こうじゃ全然話が違うからな。


 そこは言わない。


「まあいい、とりあえずはあたしがカレーを作るんで、二人は……そうだな。適当に待っててくれ。どうせ、すぐに終わる」


 そう言って、あたしはすぐにカレー作りに取り掛かる。


 魔法を使うなんてことをするわけはないが、まぁ、身体能力や能力やスキルでどうにかなるってもんだ。



 そうして、カレー作りをすること五十分。


「ほれ、できたぞ」

「「……お、美味しそう」」


 カレーが完成し、タイミングよく米も炊けたんで、さっさと皿によそっておくと、どうやらガキどもの方も完成したらしい。


 それと同時に昼飯となる。


「お、美味しいです!?」

「うわ、ほんとに美味い……」

「ん、そうか? あたしとしちゃぁ、材料がもうちょいあれば、もっと美味くなるんだがな」

「え、これでもっと美味しくなるんですか!?」

「まあな」

「……ミオ、お前本当に料理ができるんだな」

「言っただろ?」

「あと、この野菜……こんな材料、ありましたっけ?」

「それは山菜だな。カレーに合いそうなものを見つけてぶち込んだ」

「見分け、つけられるんですか?」

「簡単だぞ?」


 そんなもん、『鑑定(覇)』を使うまでもなく見分けがつく。


 似たようなものは魔の世界にもあったからな、その辺りは問題なしだ。


 魔力の有無じゃ、案外植生に影響はないみたいだからな。


 もちろん、魔力があれば特殊な薬草やら、植物系の魔物なんかも現れはするが、それを除いたとしても、美味い山菜ってのは向こうの世界にもあった。


 よく採取したもんだよ。


「「おかわり!」」

「あいよ。そこそこ作っといて正解だったな」


 あたしは苦笑いを浮かべながら二人分のカレーをよそう。


 あたしたちから離れた席では、どうやらイオたちの班がかなり注目されているらしい。


 まぁ、あいつのカレーはそれはもう美味いからな、羨ましがるのも理解できるってもんだ。つーか、あたしも食べたいし。


 帰ったら、作ってもらうかね。


 ちなみにだが、あたしたちもイオたちと同じように、他の教師陣、主に男の教師からではあるが、やたらと注目されていたが……ありゃ、一体何だったんだ?



 カレー作りを終えると、自由時間だ。


 自由時間つってもまぁ、旅館周りを散策したり、部屋で休んだりってのがメインではあるんだがな。


 あたしはと言えば、一度ガキどもや教師たちから離れる。


「……ふむ、この辺り、何かある気がするんだが……気のせいか?」


 旅館近くの森に入ると、奇妙な気配があった。


 なんて言えばいいのか、この世界の物なのか、そうじゃないのか、そういう疑問だ。


 以前、この辺りにはスキー教室で来てはいたが、その時は感じなかった、不思議な何かを感じ取れる。


 この気配が気になって、あたしは森の中を歩く。


 川のせせらぎと木々の葉が揺れる音、それから辺りにさす木漏れ日がなんとも落ち着く。


 元々、森の中に住んでいたからな、こういった自然が多くある場所ってのはかなり落ち着くってもんだ。


 美天市も十分いい街ではあるが、やはり自然はいい。


 マイナスイオン、だったか? 心が洗われるようだよ。


「しかし……その気配に交じって、妙な物があるのも事実。


 たしかに、ここは自然豊かでいい場所なのかもしれないが、それはそれとして、と言った感じだな。


「……こっち、か?」


 しばらく歩いていると、不思議な何かが強く感じる方向を見つける。


 あたしはそっちに向かって歩みを進めていくと……。


「これは……神社、か?」


 そこには、寂れてはいるものの、どことなく神聖な気配を振りまく神社がひっそりと建っていた。


「普通の神社……にしては、何か違う気がする」


 この世界に来てからというもの、あたしは日本では簡単な神社巡りをしていた。


 それは、イオがミリエリアの子孫であることが発覚したからだ。


 あいつは創造神だからな、もしかするとこちらの世界で何からの神になって転生していても不思議ではないと思ったからだ。


 だからあたしは、有名どころや地元民でしか知らないような神社、誰も来なくなって廃墟同然になってしまった神社を巡っていたのだ。


 いざ神社に行ってみると、たしかに神気を感じることもあったんだが、どれもあたしが知るような物ではなかった。


 神が転生すると、どうなるかは知らないが、大概が同じ存在になる。


 人は人に、魔物は魔物に、神は神に、そう言ったことらしい。


 例の本に書かれていた。


 だから、こちらの世界で死亡したであろうミリエリアが、どこかの神社にて、神として転生していても不思議じゃないからこそ、探ったんだが……結果は外れだった。


 どこにもミリエリアらしき神気は感じなかった。


 一応、この世界の神社は片っ端から回ったはずだったんだが……


「まさか、まだ残っていたとはな……」


 あたしが知らない神社がまだあったようだ。


 この神社は当たりなのか、外れなのか……それを探るべく、あたしはその神社に踏み入ろうとして……『ブー! ブー!』という、スマホのアラームが鳴って足を止めた。


 どうやら、自由時間が終了となる時間になったらしい。


「チッ、そろそろ戻らなきゃか……まぁ、結構進んできたし、仕方ねぇか……ま、まだ時間はあるんだ。その時にでも調査するとしよう」


 残念だが、まだ調査の機会はあると考え直し、神社に足を踏み入れることをやめて、あたしは踵を返し、旅館の方へ戻って行った。

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