第260話 ケモロリ依桜、再び

 次の日。


 ここのところは、基本的にやることもないと言うことで、しばらくはみんなでゲームをしようと言うことに。


 楽しいからね。


 それに、メルが気に入ったみたいだからね、そう言うのもあり。


 ……まあ、今日はちょっとあれなんだけどね、ボクの体が。


 朝起きたボクの体は、


「あ、あぁ……クリスマスぶりぃ……」


 クリスマス以降、しばらくなっていなかった、耳と尻尾が生えた幼い姿に。


「ふぁあぁ……むにゃ……んにゅぅ……? ねーしゃま?」

「あ、お、おはよう、メル」

「……ねーさま!?」


 ボクが久しぶりにこの姿になったことに、ちょっと気分を落としていると、メルが起きてきた。

 そして、ボクの姿を見てびっくりしていた。


「ね、ねーさまは、亜人族じゃったのか!?」

「あ、え、えっと……これは、のろいのふくさようでね……」

「副作用……? もしかして、あのおっきくなる時と同じものかの?」

「そうだよ。このすがただと、けっこうしんちょうがひくくなっちゃってね……」


 そう言ってボクはベッドから降りて立ち上がる。

 それに合わせて、メルもボクの前に立つ。


「おー、儂の方がおっきいのじゃ」

「そうだね。きょうは、メルのほうがおねえさんかもね」

「儂が、ねーさまのねーさま?」

「や、ややこしいね、それは」


 妹が姉って言う奇妙な状況なわけだし……。


「でも、ねーさまが儂の妹、と言うことになるのかの?」

「いや、じつねんれいじたいはおなじだから、ボクのほうがあねにはなるけど……」

「んむぅ、でも、ねーさまは今ちっちゃいぞ?」

「そ、そうだけど……」


 小さいのは本当に気にしてるんだよね……。

 メルだからいいけど、これがもし態徒だったら、多分、パンチしてると思うよ。うん。


「依桜、メルちゃん、起きてる……って、ハッ! ケモロリ依桜になってるわ!」

「し、しまっ――んむぅ!?」

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ……! この暖かさにもふもふ感! そして、抱き心地! 素晴らしい! 素晴らしすぎるわぁ! ほんっとあなたは最高の娘よぉ!」

「んむむぅ……! んむっ、むぅ~~~!」


 母さんに抱きしめられて、ジタバタともがく。


 本気を出せば抜け出せるかもしれないけど、その場合怪我をさせてしまいそうになるので、どうしようもない。


 こうして、ジタバタ暴れて、知らせることしかできないんです……。


「かーさま、ねーさまが暴れておるぞ」

「あらいけない」

「ぷはっ! はぁっ……はぁっ……」


 メルのおかげで、なんとか離してもらえた。


 ボクが小さくなるたびに、母さんはこうして強く抱きしめてくるから、かなり苦しくなる……。

 ボクが女の子になる前は、こんなことしなかったんだけどなぁ……。


「とりあえず、ご飯できてるから、着替えて降りてきてね~」

「はーいなのじゃ!」

「……うん」


 この先、ずっとこれが続くと思うと、ちょっと憂鬱になるよ……。



 いつも通りに朝ご飯を食べて、メルと一緒に登校。

 いつもは、ボクの方が身長が高くて、傍から見てもボクがお姉さんに見えるけど、


「ねーさまの方が小さいのは新鮮じゃー」

「そ、そうだね……」


 今日はどう見ても、メルの方がお姉さんに見える。


 最近になって、変化することが増えちゃったからなぁ……。


 そう言えば、並行世界に行ってる間、変化した次の日は戻らないで、別の姿になったっけ……。


『幼女と……ん? ケモっ娘幼女……だとっ?』

『な、なんだあの尊すぎる組み合わせは!』

『か、可愛すぎる……』

『……すでに可愛いと言うのに、さらに耳と尻尾があるとか、反則だろ……』

『片方は私服なのに、ケモっ娘幼女はなんで制服を着てるんだろう……?』

『背伸びしてるのかな? 可愛いから全然OKだけど』


 うぅ、視線がすごい……。

 やっぱり、小さいのに制服を着てるのが変なのかなぁ……。

 ……まあ、普通に考えたら、そうだよね。


「はぁ……」


 元の姿に戻りたい……。



 とまあ、こんな感じに朝は登校。


 その後は、何と言うか……多分予想通りだと思いますが、クラスの女の子たちにもみくちゃにされました……。


 耳と尻尾を執拗に触られたり、抱きしめられたり、なぜかお菓子を食べさせられたり……。


 未果たちには苦笑いをされました。


 その眼には、『頑張れ』と書いてあるような気がしてならなかったけどね……。


 そんな風に、ボクがもみくちゃにされることで学園が終わり、家に帰宅。


 その後、夜ご飯を食べてからCFOにログインしました。



「……あー、こっちでもやっぱりこのすがたぁ……」


 ログインして、自分の姿を見ると、やっぱり耳と尻尾が生えた幼い少女の姿でした……。


 この姿は酷く目立つので、ギルドホームに出現するのはありがたかった。


 ちなみに、メルもここ。


 師匠は、やることがあると言って、今日はログインしていません。


 仕方ないんだけど、ちょっと残念。


「おー、夢の中でもちっちゃいのじゃ」


 と、メルが目を丸くしながらそう言う。


 いや、うん……このゲーム、なぜか現実の姿に変化があった場合、それが適用されちゃう。


 そもそも、どうやって認識しているんだろう?

 やっぱり、記憶を見てるのかな。


 ヘッドセットをする時、耳が大変だったよ……。


 一応、狼の耳は、ボク本来の耳が移動して変化したものらしく、顔の横には耳がない。

 なので、音は本当に狼の耳で聴きとっている。


 ちょっと違和感はあるけど、普段の姿とかよりも、かなり耳がよくなってる気がするので、一概に悪いとは言えない。


 むしろ、こっちの方が便利な時もあるし……。


「ねーさま可愛いのじゃ」

「ふぇ!?」


 ちょっと考え事をしていると、一緒にログインしてきたメルに可愛いと言われ、思わず真っ赤になってしまう。

 あぅ、メルまで可愛いって言うなんて……。


「そ、そういうメルこそ、かわいいよ」


 と、仕返しのつもりで言ったら、


「ありがとなのじゃ、ねーさま!」

「わぷっ!」


 抱き着かれました。


 しかも、いつもは腰元とか、胸に抱き着いてくるんだけど、今回はメルがボクを抱きしめる形になり、ボクの顔がメルの胸元に当たる。


 あ、いい匂い……それに、ふにっとしてる。


 メルって柔らかくてあったかいんだなぁ……って!


「め、めめめめメル!?」

「なんじゃ、ねーさま?」

「あ、あの、は、はずかしいから、その……で、できれば、は、はなれてくれると、うれしい……かな……」

「じゃあ、ねーさまは、儂に抱き着かれるのが嫌なのかの……?」

「そんなわけないよ」

「じゃあ、何も問題ないのじゃ!」

「んぎゅっ」


 あ、しまった!

 メルがちょっと悲しそうな顔になった上に、可愛すぎるからつい即答しちゃった……。


「「「……「(にまにま)」」」」


 はっ、視線を感じる!


「って、みんな!?」


 何やら、変な視線を感じて視線が来る方を見ると、ミサたちがニヤニヤしながら、ボクたちを見ていた。


「む? おー、ミサたちじゃ! こんばんは、なのじゃ!」

「ええ、こんばんは、メルちゃん。私たちは気にせず、そのままユキとイチャイチャしててもいいわよ」

「本当!?」

「ええ、ほんとよー。ねえ、みんな?」

「「「うんうん」」」


 ミサが悪い笑みをしながら尋ねると、他の三人も生温かい笑顔を浮かべながら、頷いていた。


「う、うらぎりものー!」


 ボクの叫びはみんなに届かず、この後メルとイチャイチャ(?)していました。

 まあ、その……抱き着いたり、手を繋いだりです……。

 いつもは止めてくれるショウが止めてくれなかったのはちょっとショックでした……。



「ああ、そう言えば、運営から連絡があって、次のイベントが今週の土曜日と日曜日に開催されるみたいよ」


 ひとしきりメルと戯れた後、庭園の方でお茶をしていると、ミサが次のイベントについて話しだした。

 ボクは、内心ちょっと苦笑い。


「へぇ。んで? 内容は?」

「ええ、何でも、護衛イベントらしいわ」

「護衛? と言うと、NPCを守りながらどこかへ向かう、と言うことか?」

「らしいわ」

「ちなみに、そこってどこかわかってるの?」

「えーっと……クナルラル、って言う国みたいね」


 あー、名前が同じぃ……。

 観測装置すごいなぁ。本当に、観測できちゃってるんだね……。


 今までちょっと半信半疑なところはあったけど、今ので確信したよ。

 だってボク、学園長先生にボクが女王をやっている国の名前言ってないもん。


「む? クナルラル?」

「どうしたんだ? メルちゃん」


 ミサの言った国名に、メルが反応する。

 その様子を見ていたショウが、メルにどうしたのかと尋ねる。


「うむ、そこは儂の故郷じゃ」

「メルちゃんの故郷? と言うことは……もしかして、魔族の国?」

「うむ!」

「ほうほう。メルちゃんの故郷と言うことは、魔族の国。で、そこはたしかユキ君が女王様をやってるんじゃなかったっけ~?」

「……」


 や、やっぱり覚えてるよねぇ……。


 まあ、この件に関して、そこまで口止めされてるわけじゃないし……というか、今回のイベントに関しては、ボクほとんど参加できないし、体よく押し付けられたんだから、これくらいしても許されるよね?


 普段、ボクがどれだけ学園長先生に仕事を押し付けられていることか……。


「ねえ、ユキ。このイベントってもしかして……」

「……いちおう、みんなにはいうけど、ぜったいにこうがいしないでね?」


 とはいえ、こういったまだ伏せられている部分を漏らすのはダメなので、みんなには言わないようお願いする。


 当然のように、頷いてくれたので、ボクは昨日学園長先生に頼まれたことを所々かいつまんで説明。


「っていうことです」

「……ユキが真相を話す前までは、生徒思いで、楽しいこと好きな人、って言う印象だったけど、真相を聞いた後は、ただただドブラックな会社の上司にしか思えないわ……」

「……まあ、ユキが一応信用しているわけだから、悪い人ではない……んだよな? ユキ」

「まあ、うん……。ふつうにせいとおもいなんだけど、じじょうをしってるボクにはかなりしごとをたのんできます」

「高校生なのに、仕事を頼むと言わせる学園長マジやべぇ」

「だねぇ」


 あの真相を話した後、嫌いとまではいかないけど、みんなの中での学園長先生の株は大暴落していました。


 理由は、


『依桜を危険な目に遭わせたから』


 だそうです。


 あの……涙が溢れて止まりませんでした……。


 ボクにはもったいないくらいの人たちだよ、みんなは。


 ……もし、みんなに危険なことが訪れたら、ボクは自分の世間体や、正体を晒してでも助けようと誓いました。


 これでもしも、その危険が神様によるものだったら、神様だって倒しますよ。


「んでもさー、実際学園長先生って天才だよねぇ」

「そうね。異世界転移装置なんてものを創るわ、フルダイブ型VRゲームを創るわ、さらには、観測装置なんてものも作ってるし……」

「たしか、会社の経営もしてるって話だったな」

「そう考えると、学園長の頭ってどうなってんだ? 同じ日本人とは思えねぇ」

「あ、あはは……」


 面白そう、と言う理由で異世界研究をするレベルの人だしね……。

 ある意味、常人には理解できない人。

 いい人ではあるんだけどね……。


「んじゃまー、今回のイベントでは、ユキは参加しないってことになんのか?」

「うーん、いちおうにちようびにかんしてはとちゅうまでいっしょにいくよていだよ。さっき、がくえんちょうせんせいからメッセージ来たし」

「なんて書いてあったの?」

「えっとね」


 学園長先生からのメッセージにはこう書かれていた。


『当日の件について連絡します。まず、土曜日は普通にみんなと王城に行ってもOK。その際、ユキちゃんはイベントのキーパーソン的存在なので、NPCとの特殊な会話が発生するけど、気にしないでね。で、この時、メルちゃんは称号の効果でアイテムなしで王城に入れるので、人数制限を気にしないで大丈夫よ~。さて、本番である日曜日は、途中でまでみんなと行動して、半分くらい進んだところでユキちゃんとメルちゃんは離れて魔族の国に転移。その後、専用の服を身に着けて、王女役をしてね。あ、一応イベントには、女王とは明記しないで、魔族の国の王と対面でクエストクリア、って書いてあるから。プレイヤー側へのサプライズです。日曜日のイベントに関しては、夜の九時から時間加速をかけます。ユキちゃんにはほとんど関係ない話かもしれないけど、そう言うことです。それじゃあ、当日はよろしくね!』


 さすがに、ちょっと長かったので、みんなにはかいつまんで説明する。


「ということなんだけど……」

「ねーさま。儂は、ねーさまと一緒なのかの?」

「うん。イベントにさんかしたかったとおもうけど……ごめんね」

「大丈夫じゃ! 儂は、ねーさまと一緒にいられるなら問題ないのじゃ!」

「……ありがとう、メル」


 優しいなぁ、メル。

 これはきっと、将来いい娘に育つね。絶対。ボクが保証します。


「となると、私たちはユキの持つあの招待状で全員入れるってわけね。メルちゃんは称号で入れるみたいだし」

「そうだな。だが、途中からはユキとメルちゃんは別行動になるな」

「戦力大幅ダウンだねぇ」

「ご、ごめんね」

「いやいや、ユキが謝ることはないだろ。まあ、いいんじゃね? ゲームマスターになるとか、普通じゃ経験できないしな!」

「それ、がくえんちょうせんせいもいってたよ」


 考え方が似てるのかな、レンって。


「当日、ミオさんは来れるのかしら?」

「うーん、いちおうどにちはやすみ、みたいなことはいってたから、だいじょうぶだとはおもうけど」

「なら、あまり心配いらないんじゃね?」


 ボクの言葉に、レンが楽観的なことを言うんだけど……


「ししょうのことだから、『これも修行だ! あたしは手を出さん』みたいなことをいってきそうだけどね……」

「「「「容易に想像できた」」」」


 ボクの言ったことに、みんなが揃って苦い顔をして揃って同じことを言った。

 メルだけは、よくわからなそうに、首をかしげていたけど。

 ……可愛い。

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